ピアノを弾こう!あの曲が弾きたい!と思ったらまず用意するのが楽譜ですよね。しかし楽器屋さんの楽譜売り場に行ってみると、同じ曲なのに白い表紙や青い表紙と複数の楽譜があって迷ってしまうことがあります。

そんな時はどうやって選んだらいいのでしょうか?今回はそのあたりを解説してみようと思います。

基本的には習っている先生に相談する!


あれ、そんなこと?と思われるかもしれませんね。ごめんなさい。

先生によっては生徒さんの使う楽譜や五線紙などをまとめて購入してくださるケースもあるでしょう。

また、今はネット販売が発達してきたこともあり、楽器屋さんの楽譜売り場で扱われる楽譜の数が減っているという現状もあります。せっかく買いに行っても、探している楽譜が無いことはよくあります。

そんな時に、通販サイトで最初にヒットしたものを注文してしまって失敗することがあります。それはなぜか・・・。

アレンジの違い


同じタイトルの曲でも、アレンジによりかなり難易度が変わります。音の数が少なかったり、曲の長さが違ったり、本当に同じ曲かと思うほどだったりします。

メロディーは変わらないので、「弾いている感じ」は味わえるのですが、きちんと学習したい方の場合は正規の(というと語弊があるかもしれませんが)譜面を選ぶ必要があります。

逆に、自分で弾いて楽しむだけという方や、ホンモノが弾けるようになるにはちょっと道筋が遠すぎて心が折れそうという方の場合は、やさしいアレンジがされたものを選ぶという手もあるでしょう。

たとえばピアノ好きの皆さんが憧れるリストの「ラ・カンパネッラ」。
Amazonのサイトで「ラ・カンパネラ 楽譜」と検索するだけでもいろいろ出てきます。

たとえばこんな版。こども向けで、ハ調のやさしいアレンジと書いてありますね。
調が変わるともはや同じ曲ではないと私は思うのですが、もう、どうしてもそれっぽいものを弾いてみたい方にはよいのかもしれません。


以前私が書いたバッハの記事(https://shirokuroneko.com/archives/11010.html)の中にも音の数の違いについて触れています。参考にしてみてください。

解釈の違い


次に解釈について説明します。

同じ曲で、同じ音が並んでいても、音を切るのかつなぐのかでイメージは変わってきます。

ただ単に「ドレミファソ」と弾くとしても、「ドーレーミーファーソーーー」と伸ばしてひくのはなめらかに聞こえ、「ドッ レッ ミッ ファッ ソッ」と切ると元気な感じがしませんか?

また、「ド ミ ソ」といっぺんに弾く和音。ペダルを踏んでジャーンと弾くのと、ジャンッと切るのとで全く印象が違いますよね。

1つのフレーズの長さも、長くつないで演奏したり、短く切ったりすれば、これも曲の印象は違ってきます。

例えば詩を朗読する時に、しょっちゅう途切れていると意味がわかりにくくなりますし、機械でブレスなしに読まれても、これまたわかりにくくなりますよね。

これと同じで、1つのメロディーの歌い方にもちょうどよい長さというのがあります。そういうことを考えることを、曲の解釈といいます。

楽譜を出版する時は譜面の校訂をする人の解釈が加えられることが多いのですが、校訂者は出版社によって違います。同じ出版社でも、異なる校訂者の譜面が発売されていることもあります。

ピアノの楽譜の場合にもう1つ大切なものに指使いがあります。どの指を使って弾くのが弾きやすいのか、美しく聞こえるのかという問題は大変大きく影響します。

演奏者の手の大きさも違いますので、全て楽譜に書いてあるとおりの指使いで弾く必要もないのですが、まずは書いてある指使い(指番号)を参考にすることが多いので、その辺りの解説もとても重要です。

もちろん時代が変われば解釈や流行も変化しますし、作曲家の自筆譜が新しく発見されたというような大きな変化もあるかもしれません。よって、前は●●さんの校訂で出版していたけれども、今年からは▲▲さんの校訂のものを出版します、ということも起こります。

楽譜が違えば演奏全体の雰囲気も違いが出てくる可能性がありますし、教えてくださる先生のお考えと違うことが書かれていると、先生も教えにくいでしょう。よって、先生に伺っておくというのが安心です。

また、そういった解釈が加えられていないのが原典版です。純粋に音が並べられているので、自分の解釈で演奏したい場合などに主に使います。初心者の方には少し難しいかもしれませんが、難しく考えずに演奏できる曲の場合はむしろ原典版を使った方がよい場合もあります。

では実際に選んでみましょう。


ここでは、有名で人気の作曲家、ショパン作曲のワルツの楽譜選びについて、具体的に述べてみます。

ピアノの詩人と呼ばれるショパン。ショパンは人気があるのでいろいろな出版社から楽譜が出ていますし、今でも研究している人はたくさんいます。

ずばり、最も有名なのは、イグナツィ・ヤン・パデレフスキさんという方がまとめたパデレフスキ版です。



このパデレフスキさん、ポーランドのピアニスト・作曲家・外交官というすごい経歴の方で、「一日練習を怠ると自分に分かり、二日怠ると批評家(師匠という解釈もあります)に分かる。三日怠ると聴衆に分かってしまう。」という恐ろしい名言を遺しています。

このパデレフスキ版は、ショパンのスタンダードと言われており、世界中のピアニストの間で大変人気、多く使われています。表紙が肌色のような色でいかにも洋版、持っていてもかっこいいと思います。

輸入譜ですのでお値段がその時のレートにより多少変化しますし、お高いです。そして外国語で書かれています。

2020年5月現在、ヤマハが解説や注釈を日本語に訳し、楽譜の部分はまったく手をいれていないものを販売しています。表紙の色やデザインもほとんど同じで入手しやすいので、こちらもよいかもしれません。



そして最近人気なのがエキエル版。こちらも輸入になります。


これは、ワルシャワ音楽院の教授でショパン音楽アカデミー名誉博士であったエキエルさんという方が校訂したものです。

この編纂はポーランドの国家事業として行われ、ショパン国際ピアノコンクールの使用推奨楽譜ともなっています。コンクールの課題曲から優先して校訂されたそうです。

エキエル先生は2014年に100歳で亡くなっていますが、生前に出版されたものと没後のものとでAシリーズ・Bシリーズと区別されています。ワルツ集はBシリーズです。


お次はヘンレ版。


この表紙を見るだけでも落ち着くと言う人も(私や私の友人に)いるほど人気です。なんとなくこの表紙の色がいいんですよね。演奏するぞというモチベーションが上がるものを選ぶのも1つかもしれません。

冗談はさておき、ヘンレさんも外交官で政治家でした。内容も、作曲家の意図を汲んだものにしようと努力したそうですが、装丁にも大変こだわったそうです。なるほどファンになるはずです。(参考:https://www.henle.de/jp/the-publishing-house/guenter-henle/

コルトー版。


こちらは、専門的にピアノを学習しようという方が、2冊目、3冊目に購入するのにお勧めの版です。少し特徴があります。何通りかの指使いが書かれていたり、事細やかに奏法を検討するのに必要な情報があるといった印象です。

そして日本のものとして全音出版社があります。


日本の出版社なので、やはり日本の作曲家の曲集を得意としている印象があります。比較的入手しやすいかもしれません。

まとめ


いかがでしたでしょうか。

今回はショパンのワルツを取り上げてみましたが、基本的には作曲家の活躍した国の出版社の楽譜を使うことが推奨されます。

弾きたい曲ができた時は、まず作曲家や作曲された時代背景などを勉強することも、曲の理解をする上で大変参考になります。

そうすると、おのずとどの出版社を選べばよいか想像できるようになってくると思います。

どうしても迷ってしまった場合やより深く勉強したい場合には、複数の楽譜を見比べてみるのもいいですね。どんなところが違うのか、演奏がどう変わってくるのか、ぜひ試してみてください。

楽しい演奏ライフを!


 ピアノ曲の記事一覧