私が高校生の頃の話。同じ吹奏楽部に所属する大のブラームス好きの友人が、ここ何日も続けてブラームス(1833~1897)の第4番交響曲のスコアを見ながら一人で何やらブツブツつぶやいています・・・・

「おかしい、おかしい・・・あれはどこにある?」



見かねた私が(しかたなく)ツッコミを入れます。

「いや、このツッパリヤンキー共が闊歩する気合の入った男子校のなかで、交響曲のスコアを見ながらブツブツ言ってるお主がおかしな存在だろう…あのヤバイ不良組も怪しがって道を開けるほどナ・・・ところでどうしたのかね?」

当時、クラシック音楽をこよなく愛する打楽器パートのその友人と、まだあまりクラシックには詳しくないトランペットパートの私。

「これブラームスのヨンバンだけども、四楽章はパッサカリアといいながらシュダイがないのだ。」

「ンン?…何?ヨーダ、パルパティ?ジェダイ?」


当時ブラームスは交響曲第1番しか聞いたことのない私は何を言っているのか全くわかりません。呪文かな?スターウォーズかな?


そこで早速ブラームスの最後の交響曲でもある(ブラームスの交響曲は4曲あるということすら知らなかった…)第4交響曲のCDをゲットして聴いてみると…

な、なにこれ!

第1番交響曲も理解しにくい曲だったけども、さらに訳がわからん!

第一楽章の出だしは何やら良い旋律ダナー!でもすぐに理解不能の音楽に…相変わらずの「ブラームスワールド」…旋律を最後までハッキリ歌わんかい!ウーム、オッ、一楽章の締めはカッコいいが何かどこかで聞いたことがあるような…

二楽章、なんだこのヘンテコな旋律…
三楽章、オオー派手な曲!トライアングルとトランペットカッコいいじゃん!
四楽章、嗚呼もうダメ、訳分からん!理解する糸口すら見えない。

当時私は強く感じました。きっとこの曲はこの先一生聴き続けても理解できないだろう、どんなことも人生経験を重ねていけば理解できる日が来るというけれども、きっと私とブラームスは仲良くなれないのだろう…トランペットの出番も少ないし。そもそも吹奏楽部でブラームスの交響曲なんてやらないしナ・・・



これならスターウォーズの音楽を聴いていた方が面白いゾ!というわけで!ただ今スターウォーズ2019年公開の最新作「スカイウォーカーの夜明け」絶賛公開中!




その後何年、十数年、何十年かけて、聴いて聴きまくって、そして実際にオーケストラで演奏して、私は少しずつこの曲の言わんとしていることが理解できるようになっていくのでした。

友人が言っていたスターウォーズみたいな言葉も、一楽章の、どこかで聞いたことがあるような感じや二楽章のヘンテコな旋律も…そして、ブラームスの交響曲とは何なのかという事も。

そんな理解するのに時間がかかる、正にクラシック音楽の中でも抜群の内容の深さと質量を持つブラームスの最後の交響曲、第4番交響曲(1885年)を、今回もオーケストラのトランペット席からご紹介しましょう!

サクランボはお好き?

「Meine Tage in dem Leide
Endet Gott dennoch zur Freude」
(私の日々の苦しみを
神様は喜びに変えてくださる)


この最後の交響曲が完成するより前の1882年1月、ベルリンにて。ブラームスはあまり人に聞かれることはないであろう過去の作曲家のある曲をピアノで弾いています。聴いているのは当時を代表する偉大な指揮者ハンス・フォン・ビューロー。

「この曲はどうだろう?」

とブラームスがビューローに意見を乞います。

「このコラールはこれ以上手の加えようがないでしょう。作曲者はもっと大きなクライマックスを築きたかったでしょうが、声楽でも難しいでしょう。合唱曲にでも編曲するおつもりですか?」

「では、私はこれを交響曲に使ってみようかと思います」


その曲とは偉大な作曲家、J・S・バッハが最初に書いたとされるカンタータ第150番「主よ、私はあなたを仰ぎ望む」の最後の合唱。低音が同じ主題を繰り返しながら、シンプルな旋律と和音で奏されるそのコラールは「シャコンヌ」と呼ばれる形式で書かれています。

特に有名な曲というわけでもなく、一見旋律的にも何か大きな盛り上がりがあるようには聞こえないこの淡白な曲にブラームスは何かを感じたようです。

第4番交響曲に着手するよりも以前からこの曲の楽譜を手にしており(バッハの楽譜旧全集が出版されたのが1884年)、これを発展させさらなる大曲を作り出そうとしていたのでした。

ブラームスが見出し、さらに強化したとも言えるその曲の原曲がこちらです。

カンタータ第150番「主よ、私はあなたを仰ぎ望む」BWV150の最後のコラール(12:33~)
(12:33から再生されます)

うっかりすると聞き逃してしまいそうですが、低音部のチェロが同じ旋律を繰り返している点に注目です。その低音の旋律の上で高音楽器が変奏展開してゆく、これは「シャコンヌ」と呼ばれる形式です。この旋律が第四楽章で使われることになります。


さて、この曲はその約3年後の1885年に南オーストリアの風光明美なシュタイアーマルクという場所での滞在中に完成しました。しかし完璧主義のブラームスは今作にも自信が持てなかったようです。

ブラームスにとって「魂の友」とも言える女性ピアニストのエリザベート・フォン・ヘルツォーゲンベルクに早速この曲の意見を手紙で求めています。ブラームスは新作ができるたびにこの女性に意見を求めていました。

かつて交響曲第1番の意見を求める際、「この曲は長くて愛せない」と自ら言い当てたブラームス。今回の手紙の内容も正にこの曲の本質を言い表した名文だと私は思います。



「この曲についてご意見をいただけますでしょうか。この曲自体そのものが私自身よりも優れているので、私には直しようがありません。ただ、この辺りで採れるサクランボは酸っぱくて食べられたものではありません」


ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms/1833-1897年)
ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms/1833-1897年)

交響曲第4番ホ短調作品98

フランクフルト放送交響楽団による演奏。このような精緻に構築された曲ほど、メロディーラインより各楽器の動きをハッキリ聴きたいもの。その点では完璧な演奏です。熱気も素晴らしい!!

以前「交響曲第1番」でもご紹介しましたが、ブラームスは19世紀に活躍した作曲家でありながら金管楽器のスタイルは古典的なものとなっています。同時代のワーグナーなどとは違い旋律をガンガン吹く、というものではありません。特にこの第4番交響曲、トランペットパートは第三楽章以外ほとんど目立ちません。

しかしながら所々にごまかしの効かない目立つ箇所なんかもあったりします。第四楽章なんかはしっかり吹かないと物足りない演奏となってしまうので注意が必要です。

この曲は分析しながら聴くことに魅力がありますが、演奏となると話は全く別!一見出番が少ないと油断していると、目立たないトランペットのせいでオーケストラ全体の演奏そのものが残念なものとなってしまうかも。

第1番交響曲と同様にシッカリと音を出す必要があります。


第一楽章(0:25~)

前奏なしでいきなり旋律が始まります。一度聴いたら忘れられないような、物悲しい魅力的な旋律。しかし、わかりやすい旋律とは裏腹に木管などの伴奏部は複雑に絡み合っています。

曲の出だしからいきなり旋律が開始されるので、指揮者にとってもオーケストラ奏者にとっても、いかにすばやく、そして自然に、聴衆を惹きつけるかが腕の見せどこではないでしょうか。



わかりやすい第一主題とはガラリと変わって、第二主題は軽快でやや奇妙に聞こえる旋律です(1:53~)。軽やかな?いや不思議なファンファーレらしいリズムが奏されます。「騎士の主題」とされていますが、私には重騎士という感じがします。その後すぐにチェロの伸びやかな旋律に(1:59~)






ここから、私にとって理解しにくい「ブラームスワールド」が展開されます。しかしブラームスの音楽は見方を変えて聴くと一気にその奥深さが理解できるようになります。

ファンファーレの旋律の一部分やその他の部分を分解し、パズルのように構築していく手法は、メロディー重視で曲を捉えて聴くと理解が難しくなります。

「表面にある旋律に耳を傾けるだけではなく、様々なパーツが立体的に組み合わさって展開されてゆくさまを感じ取ってみる」これが「ブラームスワールド」の理解への鍵であると思います。その手法はベートーヴェンのようでもありますが、もっともっとストイックな感じがします。

この第一楽章のもう一つの聴き所として再現部の面白さがあります(7:13~)。最初のあの印象的な第一主題が今度は長い和音で、木管楽器によって再現されます。弦楽器がざわめくような伴奏。ベートーヴェンの交響曲も再現部は劇的に現れますが、ブラームスの再現部も凝ったものとなっています。

一楽章のラストは様々なパーツが複雑に組み合わさって力強く盛り上がっていきます(11:13~)。最後はティンパニの四つの音の強打で圧倒的に締めくくります。

私は長年ずーっとこの最後の終わり方が何かの曲にそっくりだと思っていましたが、最近になってようやくこの部分がモーツアルトの「レクイエム」から「キリエ」の終わり方にそっくりだと気付いたのでした・・・(12:22~)辺りからのティンパニが、テンポのスピードにグッとブレーキをかけるように連打します。そこに注目してみてください。

第二楽章(13:05~)

この楽章も非常に印象深い旋律から始まります。あまり聴いたことがないような、なんとも不思議な旋律です。枯葉が舞い散る夕日の道を歩くような、老境に差し掛かったような心情、とブラームスの音楽の特徴として言われることがありますが、まさにそれを思わせる旋律。


初めて聴いたときは奇妙な感じを受けるこの旋律、実は普通の音階で書かれた旋律ではなく、フリギア旋法という古い教会音楽の音階で作られた旋律なのです。初めて聴くと奇妙な感じを受けるのはこのためでもあるのです。

フリギア旋法の音階。普段耳にするドレミファソラシドとはかなり違った印象を受ける。




ホルンが対旋律を伴ってこの旋律を奏する時(14:16~)、光が差し込んで来るような哀愁感があります。そして弦楽器の感動的な旋律へ(15:51~)

(16:50~)からはチェロによって非常に美しい旋律が奏されます。チェロ奏者にとって最も演奏しがいがある所なのではないでしょうか。



緩徐楽章に、現代から見て特殊な旋法の曲が配置されていることが、この交響曲がよりガッチリ構築された建造物のような音楽という印象を我々に与えます。まるでバッハの音楽のように。

第三楽章(24:40~)

ブラームスの四つある交響曲の中で唯一ティンパニ以外の打楽器が使われている楽章です。ブラームス以外の作曲家の交響曲でも滅多に使われない「トライアングル」が使われています。そう、あのチリチリリーンとなる楽器です。

面白いエピソードとしてこの交響曲が初演された際、まだ19歳だったかのリヒャルト・シュトラウスがこのトライアングルを演奏したそうです。


休止が多く、出番があっても大して目立たなかったトランペットはここでは活躍します。気合を入れて行こう!


第四楽章「パッサカリア」(31:02~)

この曲の中核とも言える曲で、ブラームスの実力が遺憾なく発揮されている楽章です。この曲を単独で演奏してもいいくらいに内容の濃い音楽となっています。

この楽章でブラームスは先のバッハのカンタータ第150番の最終曲のシャコンヌ、「私の日々の苦しみを」の旋律をオーケストラの機能を最大限に発揮させ、さらに進化発展させたパッサカリア兼変奏曲として配置します。

ちなみにパッサカリアとシャコンヌは同じ形式の音楽でどちらも通奏低音とその変奏曲の繰り返しからなります。違いは低音の主題が転調するものはパッサカリア、しないものはシャコンヌとされています。ブラームス自身はこの第四楽章をシャコンヌと呼んでいましたが、転調されているのでパッサカリアとしました。

かつてブラームスは「ハイドンの主題による変奏曲」で同様のオーケストラの変奏曲を書いていますが、さしずめこの曲は「バッハの主題による変奏曲」といったところでしょうか、30の変奏曲からなる曲となっています。


この楽章も前奏なしですぐにパッサカリアの主題が始まります。

本来のパッサカリアなら最低音部が旋律になるはず…


ここで通常のパッサカリアと違うのは、主題の主旋律が本来なら低音が担当しますが、ブラームスはいきなり高音楽器に担当させています。確かに楽譜だけで見ると「おかしい、主題はどこだ?」となるわけです。しかしブラームスの革新的な手法はこれで終わりではありません。


私のあの友人はさらに困惑します。「次の変奏(31:18~)になったら曲そのものがパッサカリアじゃなくなった!」と。これはこの変奏で弦楽器のピチカート一発でリズムだけ変奏するという極めてシンプルなものとなるため、一瞬迷うわけです。まあ、当時の私はそれすら何がなんだか理解できませんでしたが・・・

ホルンがオルゲルクンプトのように1つの低音を伸ばし、弦楽器とトロンボーンが主題そのものを変奏する。次の変奏への繋ぎ的な役目もある。


しかし、この第四楽章の凄さはこんなものではありません!この先さらに複雑な変奏と展開が繰り広げられます。

一瞬テーマがどこにあるのか迷ってしまうほど様々にリズムも和音も複雑に変奏されていきます。しかしただの変奏曲ではなく、ソナタ形式としてもまとめられています。わかりやすい所では、たとえばフルートソロ(33:57~)からの部分はソナタ形式の第二主題に当たります。

この楽章を聴いてみると、先程のバッハの曲とはだいぶ違う印象があると思います。「パッサカリア」とはいっても最初から低音の主題が高音楽器で奏されたり、主題そのものが変奏されたり、更にはどれが主題なのかも見つけにくくなっています。

(36:33~)からは展開部、悲劇的なクライマックス!と叫ぶと思ったらやっぱり違う、そんなハッキリしない転調をします。ここがブラームスらしいところ。ハッキリ歌わんかい!しかしモヤモヤした変奏を経て、トロンボーンの堂々としたアンサンブルで3つの変奏曲が展開されます。(37:12~37:45)ここがトロンボーンの、ブラームスの全ての曲の中でも数少ない聴かせどころです!

トロンボーンアンサンブルが3つの変奏曲でクライマックスに達すると木管楽器がこれまでにない下降音形の動きをします(37:47~)。後ほど説明します。

(38:11~)再現部。派手なクライマックスですが、ここでは冒頭のように金管楽器が一つの音を伸ばし、主題は変奏され、しかも裏拍から入るという変化球を使います。そしてここからが本番!さらに凄まじい変奏が展開されていきます。


(37:47~)でもチラッと出てきますが、(38:50~)木管楽器が第一楽章の、あの物悲しい魅力的な旋律(3度下降音形)を使いながらも、各小節の頭の音がパッサカリアの主題になっています。


転調されています。


さらに(39:15~)で弦楽器のピチカートによる同じ変奏。こちらがよりわかりやすい(?)


ブラームス恐るべし!



怒涛のコーダ(39:46~)!速度は速くなり、荒れ狂います。そして短くとも内容のギッシリ詰まった変奏曲は慌ただしく、堂々と終結するのです。

名盤ランキング

初演以来135年間、名曲として数多くの名演奏が生まれたであろうこの大作。理解するのに少し難しい曲でもありますが、それだけに曲自体が完成されたものとなっています。

私は個人的に思うのは、ブラームスの曲は大オーケストラで派手に、分厚い音で演奏されるよりも室内楽的に、各声部がハッキリと聞こえて来る演奏こそ真の魅力がわかるのではないかな、と思うのです。

大編成オーケストラで大勢の人に聴いてもらうのではなく、室内楽的に個人一人一人に語りかけるように。正にブラームスその人の性格が表れているように思うのです。

もちろん、ひと昔前のカラヤンなどのような分厚い演奏もいいですが、どちらかというと室内楽的な最近の演奏スタイルの盤を多く紹介させていただく傾向があるかも知れません。

マルティン・ジークハルト/アーネム・フィルハーモニー管弦楽団



あまり知られていないオランダのオーケストラです。何度聴いても飽きのこない演奏ですが、やっぱり一つ一つの音がハッキリ聴こえてくる演奏こそこの曲の魅力を伝えるものだと思います。録音も素晴らしい!

クリストフ・フォン・ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団

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ワーナーミュージックジャパン


あまり語られることのない隠れた名盤だと思います。クリーブランド管弦楽団の音はシャープで良い意味で硬い音色です。これがこの第4番交響曲にピッタリです。もっと熱い演奏が好みの方には物足りないかもしれませんが、もっと聴かれてもいいオススメの盤です。

クリストフ・エッシェンバッハ/ヒューストン交響楽団

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ピアニストとしても有名なエッシェンバッハの指揮と、宇宙センターでお馴染みのヒューストンにあるオーケストラによる演奏です。スターウォーズは関係ありません。

ローカルなオケと侮るなかれ、素晴らしい音色のオーケストラです。特にホルンのハッキリした音形、演奏は素晴らしいものがあります。

サー・ネヴィル・マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ



室内楽の名手といえばネヴィル・マリナー&ASMF。意外かもしれませんがマリナーはブラームスも得意とする指揮者です。

こちらもあまり聴かれない演奏かもしれませんが、是非一度聴いていて欲しい演奏です。トランペットが特に素晴らしい演奏。出番は少ないですが。

劇的な演奏

ひと昔前のブラームスの演奏スタイルは大オーケストラ風に、ワーグナーやブルックナーのような分厚い音で演奏されることが多かったといえます。そういった演奏もいいものです。どちらかというと歴史的名盤と呼ばれるものが多いですが、その中でも特に際立って素晴らしい盤をご紹介しましょう。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

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ワーナーミュージックジャパン


今回もモノラル録音はご紹介しないと思っていたのですが、演奏そのものがあまりにも素晴らしいのでご紹介します。もう言わずと知れた名盤です。

とにかく荒れ狂った演奏です。先に紹介した盤とは全く正反対の演奏です。リズムも音も、これでもか!というくらい目一杯演奏しています。

これはただ勢いに任せて演奏しているのではなく、オーケストラで演奏したことがある人なら分かると思いますが、こういった荒れ狂った演奏をするには、本当にシッカリ音を合わせられないとほぼ100%本番でめちゃくちゃになってしまいます。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団



こちらも激しい演奏ですが、音に透明感がある演奏です。他にはないブラームスの音を聴くことができる珍しい盤だと思います。特に二楽章のホルンが素晴らしい!

クルト・ザンデルリンク/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団

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荒れ狂った演奏とは対照的な、安定した演奏です。残響が多く包み込むような音が魅力的です。ただ、金管楽器がほとんど聞こえてこないのが残念な所。

カール・シューリヒト/バイエルン放送交響楽団

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コロムビアミュージックエンタテインメント


この時代の演奏の中ではオーソドックスな演奏かもしれません。ムラヴンスキーの演奏のような透明感もありますが所々でブラームスらしい情熱的な演奏が垣間見えます。カップリングの「悲劇的序曲」も素晴らしい。



私自身、ありとあらゆる交響曲の中でこのブラームスの交響曲第4番が最も理解するのに時間がかかりました。それだけにここに紹介した以外にも多くの名盤を聴きあさったものです。

有名なブルーノ・ワルターやカラヤン、ジュリーニ、ヴァント、チェリビダッケ、バーンスタイン、小澤、ショルティ、クライバー、ラトル…どれも素晴らしい演奏で、本当ならば全部紹介したいくらいです。

私はこの曲が理解できないだけに実に多くのCDを聴きましたが、どの演奏もマーラーやブルックナーのように良し悪しが極端に出るわけではないようです。つまり、曲自体がいかに完璧に作られているか、という事でもあるように思うのです。

交響曲第5番?!新たな出会いとブラームスの後半戦


この第4番交響曲に着手する少し前の1883年のある日、ブラームスは合唱団の練習をしていましたが突然指揮棒を下ろし指揮をやめてしまいました。

「巨匠が死んだ。今日はもう何も歌うものはない」

この年、ブラームスの最大ライバルとも言えるワーグナーが亡くなったのです。当時の音楽界は先進的なワーグナー派と保守的なブラームス派に分かれて激しく対立していました。

ブラームスは個人的にはワーグナーの音楽に敬意を払っていたのです。ワーグナー亡き後、ある意味ブラームスはそれからのドイツの音楽の代表的な存在となるのでした。

ワーグナーの後継としてブルックナーが上がりましたが、あくまでもブルックナーは当時のウィーンでの一部で人気があったのみ。ブラームスの名声と実績には到底及ぶものではありません。


ブラームスはこの年から圧倒的な集中力で交響曲第3番とこの第4番を立て続けに完成させます。そして、この第4番交響曲を完成させた後、続く第5番交響曲に着手します。

ブラームスの交響曲第5番!とてもワクワクする話ですが、残念ながら構想がまとまらず、ブラームスは新作の交響曲を諦めてしまいます。その代わりに完成したのが「弦楽五重奏曲第2番作品111」でした。


新作交響曲となるかもしれなかったこの曲は、これまでの交響曲の曲想とは全く違う、明るく平和的な音楽となっています。ブラームスはもうこの曲を最後に作曲家として引退しようと考えていたようです。

「交響曲などの大作に取り組んでも思うように進まず、もうやめることにした。私は歳をとってしまった。今までの人生も勤勉に真面目にやってきたし、目的も十分に達成された。今は平和に過ごすことができる…」


しかし、その数年後ブラームスはある1人のクラリネット奏者と出会います。その出会いがブラームスの引退を思いとどまらせます。

リヒャルト・ミュールフェルト(1856~1907)当時を代表する卓越したクラリネット奏者。


そしてその出会いはブラームスのさらなる深い芸術を世に広げることとなります。ブラームスの音楽への、最後の挑戦はここから再び始まるのでした。


The picture of the tapisserie cavaliers By Tatoute / CC-BY-SA 3.0 [CC BY-SA 3.0 de], via Wikimedia Commons.
The picture of the Phrygian mode C By The original uploader was Hyacinth at English Wikipedia. [CC BY-SA].

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