こんにちは!藤原歌劇団所属、ソプラノ歌手の泉萌子です♪

さて、今回はラフマニノフのヴォカリーズについて、書いていきたいと思います!

クラシック音楽に興味がない、という方でも、どこかで耳にしたことのある曲ではないでしょうか?

ゆったりとした哀愁を漂わせ、その深みと、ほんの少し影がある感じが、どこか「人生の黄昏」を思わせてくれます。
落ち着いた曲調なので。夜寝る前のヒーリングミュージックにもぴったりですよね。


この作品が書かれたのは、100年以上前。
もともとは、歌とピアノのために書かれた曲でした。
それ以来、ヴァイオリンやチェロなどの器楽での演奏や、様々な編曲を経て、現在まで愛され続けてきました。

確か私が初めてこの曲を聴いたのは、ピアノソロのバージョンだったように思います。
初めは、もとが歌の曲だと知らなかったのですから、それがわかったときにはちょっとびっくりしたのを覚えております。笑

ではでは、現代の歌い手であるワタクシが、声楽的観点からみた、この曲の魅力に迫りたいと思います!!

■ 目次

言葉がないからこそ、受け入れられやすい!


そもそもヴォカリーズというのは、正式に言うと曲のタイトルではありません。
ヴォカリーズとは、「演奏様式」のことだと捉えていただけるとありがたいと思います。

なんじゃそりゃ、いきなりどういうことだ?
と言いたくなるかもしれませんが、なんてことはありません。

ヴォカリーズ、またはヴォカリーゼ(vocalise)というのは、「あ~」「う~」などというように、母音だけで歌う「歌い方」のことを指しています。
そう考えると、簡単ですね!
発声練習はヴォカリーズで始める、という方も多いことでしょう。

ということで、この曲には歌詞というものが存在しません。
ラフマニノフは他のロシア語の歌曲とともにこの曲を作曲したわけですが、この作品をあえてヴォカリーズとして作曲したことで、より多くの人の心に響くものとなったとも考えられます。

歌詞がないということは、聴き手はその内容について自由に想像できるということでもあるのですからね。
クラシックだからって、気負って聴く必要などありません♪

それにしても、ア~って言ってるだけでいいんだったら、歌うのも簡単じゃん!
…と思われたあなた!
これがなかなかそう、うまくはいかないものなのです。。。

ヴォカリーズで、ブレやムラのない美しい声のまま歌い上げるというのは、とても難しいことです。
ここだけの話、私もなるべくなら避けて通りたい道なのであります。笑
この綺麗なメロディ、もちろんレガート(なめらかに)で歌いたい!
しかしこの「美しいレガート」というのは、私たち歌い手が一生かけて追求する目標の一つといっても、過言ではありません。

私がある先生から言われたのは、
「音符と音符の間を埋めるように歌いなさい。
しっかりと音と音の間をケアすること。それがレガートにつながる」
ということでした。

音というのは便宜上、楽譜上では一つ一つの音符として記されています。
しかし、旋律は帯のように流れていくもの。
作曲家が作った音楽というものも、音の一連の流れなのです。

ですからその流れを途切れさせず、一音一音をつなげてなめらかに歌うこと…
これを意識すると途端に難しいということが、おわかりいただけることと思います。

ブツブツと途切れるヴォカリーズでは、集中力も削がれますし、興醒めしてしましますよね。

少し専門的な話になりますが…
低い声から高い声まで出したとき、声楽的に「パッサージョ」という音域がいくつか出てきます。
これは、言ってみれば声のギアチェンジが必要な個所なのです。
つまり、低い声と、中くらいの音、高い音、そのまたさらに高い音では、それぞれ声の出し方が違うのです。

そこをうまくコントロールして、低い音から高い音まで違和感なく聴かせられる…
そんなテクニックをもった歌手のヴォカリーズなら、いつまでも聴いていたいなぁ、と思ってしまいます!!

良き相棒である伴奏とのアンサンブルが絶妙


この曲は、歌と伴奏の掛け合いがたまりません!

初めは歌が伴奏をリードして進んでいきますが、だんだんと伴奏が旋律に呼応し、盛り上がりをみせます。
ときにはピアノが歌を煽り、ときには先導していく…
まるで、二人の登場人物によって、一篇の物語が紡がれていくようです。

アカペラでももちろん綺麗ですが、やはりこの曲は伴奏がついているほうが私は好きです。

ここで、「歌とピアノのアンサンブル」というのが、重要になってきます。
まず歌があって、ピアノはその引き立て役…というのでは、この曲の良さは半減してしまいます。

歌い手が一人で突っ走るのではなく、ピアニストとしっかりコミュニケーションをとり、お互いの音を聴き合うこと。
なかなかそれができず、学生時代にはしょっちゅう注意を受けていたことを思い出します。笑
でもこれがうまくいくと、アンサンブルを楽しむ余裕ができ、音楽もより良いものになっていくんですよね~。

また私の方から、ピアニストさんに「ここはもっと主張して大丈夫」とお願いすることもあります。
私と違って、控えめな方もいらっしゃいますので…笑


息の合った歌とピアノが紡ぐ響きが、なんとも心地よい気分にさせてくれる、そんな作品だと思います。

ハイCよりも高い!最高音で泣かせてくれる


世界三大テノールの一人、故・ルチアーノ・パヴァロッティは「キング・オブ・ハイC」と呼ばれていました。
ハイCと言えば、五線より上の高いドの音のことで、難易度の高い高音域ということで知られています。

しかしこの「ヴォカリーズ」のなかで一番高い音は、それよりも半音高いC#(原調版)。
半音高くなるだけで、ハイCの倍くらいのコントロール力が求められるような気がします…これはあくまでも感覚として、ですが。笑

また、やはり歌を聴くときは余裕のある声を聴きたいもの。
ギリギリその音が出る…というレベルの音では、実践では使えません。

曲のクライマックス、盛り上がりが最高潮に達する地点でもあるため、この音はしっかりキメておきたい!!
歌い手も聴き手も気持ちが最も昂る、聴きどころです。

柔軟にコントロールされた、余裕のあるハイC#で、人々をカタルシス(浄化)へと促す…そんな華々しい場面が、作品の中で際立っています。
その後はだんだんと静かに旋律が収まっていき、音楽は余韻の中で終焉を迎えます。
聴き終えると、非常に穏やか~な気持ちになることでしょう。

まとめ



ラフマニノフ「ヴォカリーズ」の魅力的なポイント3つ

①言葉がない母音で歌われる、美しいなめらかな旋律
②歌と伴奏の見事な掛け合い・アンサンブル
③クライマックスの高音でみせる、最高の盛り上がり

いやはや、本当に素敵で、味のある歌ですよね。

本当に母音だけのメロディなので、人によって歌いまわしもさまざま!
歌い手の個性が表れやすい曲であるとも言えます。

しかし上記の通り、声楽的に難易度の高い作品でもあるというのも、これまた事実です。
ヴォカリーズだからこそ、ごまかしが効かないのです。。。(いつもごまかそうとしている、というわけではありませんよ!笑)

もっともっと修業を積んで、いつか私もこの曲を披露できれば…と思います!
頑張りま~す!!

では♪



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