シューベルトの主要なピアノ作品は「楽興の時」、「即興曲」、「幻想曲さすらいの人」、「ピアノ・ソナタ」だと思いますが、よく弾かれているのは「幻想曲さすらいの人」、「ピアノ・ソナタ」よりも「楽興の時」、「即興曲」の方だと思います。
「楽興の時」や「即興曲」は中級レベル~上級レベルくらいの人たちが学んだり、発表会などで弾いたりすることが多いと思います。
しかしこれらの曲はピアノ学習者だけが弾くのではなく、ピアニストも演奏会で弾くことがあります。
ピアニストが「楽興の時」や「即興曲」をメインの曲として選ぶことありませんが、サブの曲として取り入れたり、「楽興の時」は演奏時間が短いので1曲だけをアンコールに使ったりすることがあるのです。
シューベルトの中で最も評価されている作品はやはり歌曲です。ピアノ作品はというと歌曲に比べると評価は低いです。
他の作曲家と比べてもシューベルトのピアノ作品の評価はそれほど高いとは言えません。
しかしシューベルトのピアノ作品がすごく好きな人はいるんですよね。みんながみんな好きにはならないけど、ハマる人にはハマるという感じの作曲家だと私は思っています。
前回はシューベルトについてと主要なピアノ作品のおおまかな難易度について書きましたので、今回はシューベルトの主要なピアノ作品の1つである「楽興の時」についてと、難易度順、弾き方のコツについて書いていきたいと思います。
■ 目次
シューベルトの作品番号について
シューベルトの作品は全て合わせると1000曲ほどありますが、未完成の作品も多く、紛失しているものもあります。
他の作曲家の作品は作品番号がつけてあったり、出版された時期がはっきりしていたりするのですが、シューベルトの作品はいつ頃作曲されたのかがよくわからないものが多く、作品番号(Op.)がつけられているものはあまりありません。
シューベルトの作品には作品番号(Op.)の代わりにD(ドイチュ)番号というものがついています。
D番号とはオーストリア出身の音楽学者、オットー・エイリヒ・ドイチュ(1883~1967)がシューベルトについて研究し、全作品を整理し番号を割りふったものです。1951年ごろに割りふりが完成したようです。
シューベルトが亡くなったのが1828年なので、彼の死後100年以上経ってやっと作品が整理されたということになります。
出版時に作品番号(Op.)をつけているものが少しあるので、作品番号があるものに関してはD番号と作品番号が両方表記されていることがあります。
例えば「楽興の時」は作品番号もあるのでD番号ではD780、作品番号ではOp.94という番号がついています。
現在の楽譜では「即興曲」と「楽興の時」がセットになって出版されていますが、初めは別々に出版されていました。
「即興曲」は全部で8曲ありますがすべてが1度に出版されたのではなく、4曲ずつのセットで出版されました。「即興曲」にも出版時に作品番号がつけられました。
「即興曲」Op.90(D899)の4曲はシューベルトが亡くなる前に出版されていますが、残りの4曲は亡くなった後に出版されたようです。
残りの4曲の方の楽譜をよく見ると作品番号が「即興曲」Op.posth.142(D935)となっており、Op.の横にposth.と書いてあるのです。これは遺作という意味なので亡くなった後の出版ということがわかります。
現在の楽譜もこの作品番号順に並べられているため、曲順は「即興曲」Op.90(4曲)、「楽興の時」Op.94(6曲)、「即興曲」Op.posth.142(4曲)のようになっています。
シューベルトの作品数は膨大で紛失した楽譜もあるので全作品を整理したドイチュさんはとても大変だったと思います。
D番号はかなり浸透しており、現在では作品番号(Op.)がついているものもD番号で書かれたり、呼ばれたりすることの方が多いです。
シューベルトの初期の作品は音域が狭い?
前回の記事でシューベルトは友人に支えられて作曲活動をしていたと書きましたね。
彼は友人の家を転々としており、自分が所有するピアノは生涯でたったの1台だったことも書きましたよね。所有していたピアノというのは実は父テオドールから贈られたピアノでした。
テオドールは「息子に教師として働いて欲しい」、シューベルトは「とにかく作曲がしたい」、という気持ちの違いから2人は衝突したと書きましたよね。そんな関係にあったのに父からピアノを贈られた??と不思議に思われているかもしれません。
テオドールがピアノを贈った時期というのは教師の職についたころでした。教師の職に就いた後も作曲を続けていたシューベルトは1814年に「ミサ曲第1番」を作曲し、初演しました。
その初演の成功を喜んだテオドールがシューベルトにピアノを贈ったようです。
つまりピアノが贈られた時期というのは、衝突し家を追い出される前だったということになります。
このエピソードからわかるように父テオドールはシューベルトの作曲活動に反対していたわけではありませんでした。
テオドールから贈られたピアノというのは当時主流だったウィーン式と呼ばれるアクションのもので音域が5オクターブのピアノでした。
この頃のピアノの音域は6オクターブ以上に広がっていたはずなのですが、シューベルトに贈られたピアノは5オクターブしかないものでした。古いタイプのピアノで中古品だったのかもしれません。
身近にあったピアノが5オクターブしかないピアノだったためなのか、シューベルトの初期の作品は5オクターブで弾けるものが多いようです。
その後は友人の家を転々としていたのでそこに置いてあったピアノの音域などによって作品の音域も変わっていったのかもしれません。
「楽興の時」とはどのような作品なのか
「楽興の時」の原題は「Moments musicaux」です。6曲がセットになっており、演奏時間が長いもので6分、短いもので2分という短い曲が集まった作品になっています。
ラフマニノフにも同じタイトルの作品がありますが、シューベルトを真似たのか彼の作品も短い曲が6曲セットになっています。
シューベルトの「楽興の時」は1823年~1828年に作曲されました。年齢で言うと26歳~31歳の時の作品ということになります。彼は31歳という若さで亡くなっているので晩年に書かれた作品ですね。
シューベルトは後期古典派とロマン派の先駆けという2つの面を持っていると前回書きましたが、この「楽興の時」はロマン派の先駆けとなった作品の1つです。
「楽興の時」はロマン派時代に多く作曲された「性格的小品」の1つで、古典派時代に多く書かれたソナタとは違い、作曲者の自由な発想で書かれています。
そのような意味で音楽史的にもこの曲は重要な作品とされています。
次に「楽興の時」の全体的な特徴をあげてみますね。
① だいたい簡単な3部形式で書かれている
② 6曲の中で短い曲は繰り返しの指示があり、その繰り返しの指示がとても多い
③ メロディーやリズムなど、素材はあまり変えず和音を変えることで変化をつけている
この3つではないかと私は思います。
先ほどピアノの音域の話をしましたが「楽興の時」は全体的に音域が狭く、「楽興の時」全6曲の最も低い音と最も高い音を確認してみても音域は5オクターブほどしか使われていませんでした。
シューベルトがこの曲を作曲していた時に弾いていたピアノの音域が関係するのか、音域をあまり広く使わずにシンプルな曲を作りたかったのか、理由についてはよくわかりません。
「楽興の時」全6曲の難易度順と弾き方
最後に「楽興の時」の難易度順と弾き方のコツについて書いていきたいと思います。★ 第3番 f moll
「楽興の時」の中で最も有名な曲です。
左手の伴奏のリズムが全く変わることなく進んでいきます。左手の伴奏型と装飾音符の弾き方で印象がかなり変わります。
右手の16分音符で動く3度は少し弾きにくいかもしれません。前の2つと後ろの3つにわけてまず練習してからくっつけるとスムーズに弾けるようになると思います。
★★ 第5番 f moll
行進曲のようなどんどん突き進むような激しい曲です。テンポが速い曲ですが、和音をしっかりとつかむ練習をすれば弾ける曲だと思います。
急激な強弱の変化をしっかりつけられるとメリハリのある演奏になります。
例えば5小節めにはpの指示がありますね。
急激に弱くする場合、通常ほんの少し間をあけて弾いたりするのですが、この曲の場合はリズムやメロディーラインがほとんど変化しないので間をあけない方が良いと思います。
和音(もしくは重音)をずっと弾くことになるので、勢いがかなりつきます。このような流れから急に小さくするのは難しいのですが、○の部分だけ何度も弾いて力をコントロールできるように練習しましょう。
★★★ 第1番 C dur
最初の部分は同じ音型なのに和音の響きがかなり変化しているので、それを上手く表現しなくてはいけません。
右手がメロディーを弾いた後、左手にメロディーがくる部分があります。同じメロディーで掛け合いをする場合は先に弾いたものと同じように弾かなくてはいけません。
音型的に2分音符に重みがくる形になっていますので、左手で弾いた重みと同じ重みを右手でもかけるようにしましょう。
掛け合いをしっかり表現できるようにしましょう。
(動画1:06~)
★★★ 第2番 As dur
歌う部分の多い曲です。fis mollになる部分はとてもシンプルなメロディーと伴奏です。譜面上はとても簡単ですが聴かせられる演奏にするには難しいものがあります。
(動画1:26~)
このような曲調のものを子供に弾かせるのは難しいです。なぜかというとメロディーと伴奏のバランスを考えて弾くことが難しいからです。
メロディーを目立たせるには伴奏の方の音量をひかえる必要がありますが、力の入れ具合を変えるのは子供にとっては大変です。
この部分はppとなっていますが、実際に書いていなくても左手がppで右手がpもしくはmpぐらいの感覚で弾きます。
右手にCisが3回出てきますね。ここはcresc.の指示はありませんが、書いてなくても少しcresc.して弾きます。
そして次の小節のDやさらにその次のEに気持ちをつなげていきます。
2段目の2小節めのGisは1拍目になるので通常は強拍となるのですが、ここは解決させる部分になるのでその前のCisを少ししっかり弾き、Gisに向かって自然におりてくるように弾きます。
素敵に弾くにはたった5小節でもこれだけのことをしなくてはなりません。このような細かい積み重ねが必要なのです。
★★★★ 第6番 As dur
譜面上はそれほど難しくないのですが、和音の動きを理解していないといけない曲です。
和音が変わる部分のどこを少ししっかり弾き、どこで解決させるかということがわかっていないと良い演奏にはなりません。
解決させる必要があるのはの部分です。
弾くときのコツはの書いてある始まりの部分に少し重みをかけるように弾き、その後は前の音よりも大きくならないように優しく弾くことです。
このように弾く部分がたくさん出てくる場合、解決する部分を毎回同じように弾かずに変化をつけると、より素敵な演奏になります。
今回の場合、の部分で区切りがつけられるのでそれまではあまり解決し過ぎないようにし、次につながるように演奏していきましょう。そしてで区切りをつけるようにしっかり解決しましょう。
しっかりとした解決ばかりをしていると音楽がブツブツと途切れるような印象になってしまいます。それは避けたいので加減を見つけるようにしましょう。
★★★★★ 第4番 cis moll
右手が16分音符で動くのですが、この音を全て大切に弾いてはいけません。16分音符を全て同じように弾くとせわしない音楽になってしまいます。
上の楽譜を見ると3段になっていますね。
シューベルトが実際に書いた楽譜は下2段の大譜表部分ですが、弾き方としては1番上の段のように上向きになっている音符を強調するように弾くようにすると、聴きやすい演奏になり、すっきりとした素敵な演奏になると思います。
この楽譜はリストが編集したとなっているのですが、この解釈をリストが始めたかどうかはよくわかりません。
このような音型がメロディーになる場合、特に指示がないときはどの部分をメロディーとして浮き上がらせるかというのは弾く人に任されていると思います。
しかし出版された当時から多分だいたいの人が上の段のようにメロディーを浮き上がらせて弾いていたと思います。
その弾き方を目で見てわかるように書き換えたのが上の段の楽譜だと思います。初めは少し弾きにくいかもしれませんが、目立たせて弾けるように頑張ってみて下さい。
シューベルトの作品を勉強するには短くて構成が単純な「楽興の時」から挑戦するのが良いと思います。この難易度を参考にしてシューベルトの作品に是非挑戦してみて下さいね!
まとめ
◆シューベルトの作品番号はDで表す◆D番号は音楽学者のドイチュが全作品を整理し番号をふったもの
◆「楽興の時」はロマン派の先駆けとなった作品の1つ
◆3番が最も有名で難易度は低い
◆最も難易度が高いのは4番
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シューベルト「ピアノ主要作品」の難易度について!の記事一覧
- シューベルトは歌曲だけじゃない!ピアノ主要作品の難易度について! 2017年10月1日
- シューベルトの主要なピアノ作品「楽興の時」難易度順と弾き方のコツ! 2017年10月15日 ←閲覧中の記事
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