ピアノを習ったことのある方ならバイエルの名前を聞いたことがありますよね。

しかし、バイエルのどんな曲を弾いたかはあまり覚えていなのではないのでしょうか?その理由としては、曲として魅力的とは言えず記憶に残るような曲ではないから、ということが挙げられると思います。

初歩教材は難しいと弾けないので、音の動きに制限がかけられています。そのため単調な曲になってしまうのは仕方のないことなのです。

私の母によると、昔はピアノを習うとみんなバイエルを弾かされていたそうです。その頃バイエルと言えば、全音の「赤バイエル」、「黄バイエル」だったそうです。

現在ではたくさんの初歩教材が出版されているので、バイエルの教則本はあまり使われなくなってきていますが、全く使われなくなったわけではありません。

バイエルはランク分けにも使われています。

その曲集がどの程度のレベルで弾けるのかというのを楽譜を見なくてもわかるようにするために「バイエル下巻程度」と表紙や背表紙に書いてあることがあるのです。

他にも「ブルクミュラー程度」や「ソナチネ程度」と書いてあるものもあります。

初級、中級、上級というおおざっぱなランク分けよりも具体的な曲集名が書いてある方が、わかりやすいのでしょうね。

しかし、これはバイエルやブルクミュラー、ソナチネがどのような曲集なのかということが広く知られているからこそできることです。

今回はバイエルという教則本がどうしてここまで広まったのかなどにふれながら、難易度順について書いていきたいと思います。

バイエルってどんな人?


バイエルはドイツの作曲家、ピアニストです。

彼のフルネームはFerdinand Beyerです。「フェルディナント・バイエル」と読めますね。しかし、正しいドイツ語の発音では「バイア―」となるそうです。

バイエルは1806年にクヴェーアフルトに生まれ、1863年にマインツで亡くなりました。

バイエルの資料はとても少なく、あまり多くのことはわかっていません。その理由はブルクミュラーと同じです。

ピアニストとして活躍した時期もあるようですが、この時期にピアニストとして成功するのはなかなか厳しかったと私は思います。活躍した国は違いますが、ショパン(1810~1849)やリスト(1811~1886 )などの一流ピアニストがいましたからね。

作曲家としても彼らには到底かなわなかったでしょうから、ピアノに向き合うのはそれなりの葛藤があったのではないかと思います。

バイエルはその後、ピアノ教師へと活躍の場を移していきます。

彼は一流の作曲家にはなれませんでしたが、弾きやすい編曲にするということにはとても優れていたようで、編曲家として世間に受け入れられ、ショット社の専属の編曲家、作曲家として活躍することができました。

編曲だけでなく、自分の作品も出版していたようですが、教則本以外の楽譜はほとんど残っていないようです。

世間には一定の評価を受けていたバイエルですが、音楽界から評価されることはありませんでした。

バイエルがなぜこんなに日本で使われるようになったのか


明治時代になると欧米の文化がたくさん日本に入ってきました。日本よりも発展している欧米に負けないようにしようと多くのことを吸収していきました。

江戸時代と明治時代では世の中の仕組みや生活様式などがかなり変化したと思います。教育の分野も同じように変化しました。

江戸時代には寺子屋で読み書きなどを学んでいましたよね。寺子屋での教育はそれぞれの藩によって行われていて、地域によってバラつきがあったようです。

明治時代にはそのようなバラつきが出ないようにするため、教育内容を統一させました。そして明治政府は読み書きだけでなく、音楽も取り入れることにしました。

教育の中に音楽を取り入れると決定はしましたが、音楽をどのように教育に取り入れたらよいのか全くわかっていませんでした。

そこで政府は音楽教育の研究のために「音楽取調掛」(おんがくとりしらべがかり)という部署を作りました。その部署の担当となったのが伊澤修二でした。

彼は下級武士の出身でしたが、とても優秀な人で現在の東京大学に進学し、文部省に入りました。

この頃、西洋のあらゆることを吸収するために優秀な若者たちは欧米へ渡っており、伊澤も「音楽取調掛」の担当官になる前に3年間アメリカに留学しました。

伊澤はとても優秀だったのですが、歌うことだけが苦手でした。克服するために彼は音楽教育家のルーサー・ホワイティング・メーソンの元へ通いました。

メーソンに教えてもらう中で、音程がきちんと定まらないところがあることに気づきます。それがなぜなのかということを研究しました。

原因は日本と西洋の音階の違いでした。

西洋の音楽ではドレミファソラシの7音を使いますが、日本ではドレミソラの5音しか使っておらず、2音少なかったのです。

メーソンは伊澤がファとシの音を習得できるように熱心に教えてくれました。そのおかげで伊澤は習得することができました。

その後、伊澤は日本に帰国し「音楽取調掛」の担当官となり、日本の音楽教育をどのようにしていくのが良いのかアドバイスをもらうために恩師であるメーソンを日本へ招聘しました。

日本人が何を苦手としているのかよく理解しているメーソンと伊澤は西洋の民謡などに日本語の歌詞をつけて歌えるようにしました。

唱歌というのはこのようにして誕生し、日本の音楽教育はこうして始まりました。伊澤はのちに東京音楽学校(現在の東京藝術大学)を作るのに尽力し、初代の校長となりました。

何だ…バイエルは関係ないじゃんと思われましたね!

実は伊澤を指導していたメーソンが来日するときに持ち込んだ教材がバイエルだったのです!!

日本の学校での音楽教育もピアノ教育も全てこの2人から始まったんです。

バイエルしか教材がなかったわけではないのですが、同じ頃に入ってきた教材はバイエルのような練習曲ではなく、曲集だったため、とても難しく感じたのだと思います。

知識がない中で学ぶのだったら、マニュアル的な教則本の方が受け入れやすいですよね。知識が少しでもあれば、また少し違った形になっていたのかもしれません。

バイエルの上巻は反復練習です。これは真面目な日本人には合っていたのかもしれません。メーソンは伊澤を教える中で日本人のそんな国民性を見抜いていて、バイエルを持ち込んだのかもしれませんね。

ここまでバイエルが使われるようになったのは、バイエルで学んできたピアノの先生が多いからではないかと言われています。自分が学んできた教則本をまた生徒に使うというくり返しの結果なのではないかと思います。

現在では、バイエルは批判されることも多く、昔ほど使われることはなくなっていますが、それでも現在まで残っているのはそれなりの価値があるからだと私は思います。

私はある理由から上巻は使いませんが、下巻は使用しています。(上巻を使わない理由は後で書きますね。)

右手がメロディーで左手が伴奏になっていて、決まった調しか出て来ないなど、確かに問題点はいくつかありますが、最初からいろんな弾き方を学ぶことはできません。

調号の多くつく曲や、弾き方が1つの曲集の中でかなり異なるものは、勉強にはなりますが、子供たちが難しがらずに取り組んでくれるかどうかは疑問です。

簡単な曲でもいいので、弾けたと思えること、少しずつでも成長していると思えることが初歩のころは重要ではないでしょうか。

バイエルには問題点はありますが、それは他の教材で補うということもできます。他の教材が完璧なのかというとそうでもありません。それぞれ特徴があって、良かったり悪かったりだと私は思います。

バイエルはたくさんの出版社から楽譜が出ている

子供のバイエル(上)

昔はこの全音の「赤バイエル」と「黄バイエル」をみんな使っていたようです。私の母もこれを使ったと言っていました。

新版こどものバイエル(上)

私が習ったときに使っていたのは音楽之友社のこの「こどものバイエル」でした。

標準版 こどものバイエル<下巻> 田丸信明 校訂

私が現在、レッスンで使っているバイエルはこちら、「標準版こどものバイエル」です。

この他にも「全訳バイエル」、「標準バイエル」など他にもミッキーが表紙になっている「こどものバイエルミッキーといっしょ」というのもありますし、大人のためのバイエルもあります。

バイエルと名前のつく楽譜はものすごくたくさんあります。これほど種類があるのはとても珍しいと思います。

少しずつ違いはありますが、どれもバイエルの教則本に基づいており、バイエルの曲だけでなく、他の作曲家の曲を入れたり、予備練習を付け加えたりしているものもあります。

上巻は楽譜を読むことよりも指を動かすことを重視している!?

日本では早い子は3歳でピアノを始めますが、欧米では6歳くらいから始める子が多いそうです。欧米の子供がピアノ始める時期が日本よりも遅いのは、指の器用さにあるようです。

日本の子供は欧米の子供よりも比較的、手先が器用なのか、3歳からでも指を1本ずつ動かすことができるようなのです。

これは私の考えですが、日常的に箸を使うことが手先の器用さと関係あるのではないかと思います。箸は意外と指を使いますよね。

この違いを考えると欧米の初歩教材は6歳くらいを対象としていて、それ以下の年齢を対象とはあまり考えていないのかもしれません。

それを考えるとバイエルの上巻で高いドから始まっていることに納得がいきます。6歳なら何番目の線とか間とかは理解できますから。

6歳から始めるのであれば、音を読むことはやる気さえあればすぐにできるようになります。そのため、あまり音読みの時間を割かなくてもよいことになります。

どんどん音が読めて、リズムも理解できるので3歳から始めた子とは比べものにならないくらい、かなりのスピードでレベルアップしていきます。

指がよく動くようになりさえすれば、いろんな曲が弾けるようになります。指がよく動くようにするためにはバイエルのような指を動かす練習をするというのが重要になってきます。

大人になってからやいろんなことがわかる年齢になってから学ぶのであれば、バイエルはよい教材なのかもしれません。

何か弾きたい曲があってピアノを習っているなど、目標があれば反復練習もこなせるでしょうし、音を読むことにもきっと一生懸命になるでしょう。

バイエルは挫折しやすい教本!?

バイエルを見たことがある人なら、挫折しやすい理由が何となくわかるのではないでしょうか?

挫折しやすい理由は2点あると思います。

まず1点目は面白くないということです。2点目は下巻になるとヘ音記号が出てきて、急に難しくなることです。

同じバイエルでも昔とくらべて今ではかわいいイラストを増やし、興味を持てるように工夫しています。

初歩教材でおもしろいと感じる曲はあまりないので、それは仕方のないことなのですが、単調過ぎるのが問題です。

先ほど、私は上巻を使わないと書きましたが、その理由は上巻は全てト音記号で書かれているからです。

初歩の時に1番大切なことは音を読むことだと私は思っています。

ピアノを弾くには考えることなく文字を読むように楽譜を見ただけで音がわかり、正しい音を鳴らせるようになることが重要です。

初歩の段階では狭い音域でよいのである程度はヘ音記号も読めるようになっている方がいいのではないかと思います。

ト音記号ばかりに慣れていると、ヘ音記号への苦手意識が生まれやすく、読むことを嫌がるようになります。そうなると譜読みをするということが面倒になるのです。

バイエルの上巻は真ん中のドの音からではなく1オクターブ上のドの音から学んでいくようになっています。

小さな子供にとっては何番目の線や間というのを認識するのは難しいことなので、線を書いて○を書く、真ん中のドの方がわかりやすいと思います。

そのような理由から私は、バイエルの上巻は使用せず、真ん中のドから始まる教材を使っています。

バイエルを褒めたり、批判したり、結局どっちなんだよ!と思われているかもしれませんね。

良いところも悪いところもあると私は思っているので、このようなどっちつかずの書き方になってしまいました…

バイエル下巻の難易度順

バイエル上巻の難易度順は番号順でよいと思いますので、下巻の難易度順のみ書いていきます。

先程書きましたが、バイエルはたくさんの楽譜があります。今回は「標準版こどものバイエル下巻」の難易度順について書いていきたいと思います。

標準版 こどものバイエル<下巻> 田丸信明 校訂

それでは難易度順について見ていきましょう。

※「標準版こどものバイエル」は73番から番号が原書とは違います!お持ちの楽譜が「標準版こどものバイエル」ではない方は原書の番号を確認してください!

標準版こどものバイエル     原書    
7374
7476
7573
7675
8586
8687
8789
8990
9091
9193
9285
9392
9697
9796


難易度は「標準版こどものバイエル」の番号で書いていますので、注意して下さいね!簡単な方から4段階で難易度を表しています。

★    44,45,46,47,48,49,50,52,53,54,57,59,63
★★   51,55,58,61,62,64,66,67,68,69,70,71,73,74,76,77,79,86,89,92,93
★★★  56,60,65,72,75,78,80,83,90,91,94,95,96,103
★★★★ 81,82,84,85,
87,88,97,98,99,100,101,102,104,105,106

他の曲集の難易度順は番号通りになっていないものが多いのですが、バイエルの場合はだいたい番号通りになっていると思います。

赤色の文字になっている数字は私がやっておくとよいかなと思う番号です。

それでは赤色の番号の練習のポイントを見ていきましょう。

48番:付点4分音符が出てきます。
右手と左手がずれるので、慣れるまで机の上を両手でたたいて、練習するといいかもしれません。

52番:8分の6拍子に慣れましょう。
4分音符が1拍と習っていると思うので、初めは混乱します。拍子と拍についてここでちゃんと理解していれば2分の2拍子などが出てきてもちゃんと理解できます。

55番:両手で弾くのに苦労するかもしれません。
片手ずつの練習をよくしましょう。合わせるときは、どこでどのように合うのかを理解する必要があります。お子さんが合わせるのを難しがるようだったら、机の上を両手でたたく練習をするとタイミングがつかめるようになると思います。

58番:左手の伴奏形に慣れましょう。
55番で伴奏形をやっているので、そこまで難しくはないと思います。

60番:短調、長調を勉強しましょう。
この辺りから強弱についての指示が出てきます。ただ弾くだけでなく、指示も守れるようになってから次に進むようにした方がいいと思います。

66番:曲の構成を学びましょう。
この辺りから少し曲らしくなっていきます。強弱は特に書いてありませんが、強弱を考えてみるというのもいいかもしれませんね。

67番:6度の練習です。
指と指の間の幅を変えないように横移動させなくてはいけません。いきなり弾くのではなく、右手だけ6度で上がったり、下りたりする予備練習をするといいと思います。

72番:重音の伴奏です。
意外とみんな苦労しています。同時に2つの音を鳴らさないといけないのですが、微妙にずれるんですよね。ずれないように気を付けましょう。

74番(原書76番):右手の3度の練習とレガートで弾く練習。
スラーをよく見て、なめらかに弾きましょう。3度も切れないようにつないで弾いた方が素敵です。

77番:右手と左手が交互に動きます。
右手と同じくらい左手を動かさなくてはいけません。ガタガタにならないようによく練習しましょう。

78番:左手の5の指をのばしながら弾く練習。
途中から伴奏形が変わり、5の指をのばしながら弾かなくてはいけません。初めは5の指が上がってしまうので、左手だけで練習し、右手で左手の5の指を押さえて弾く練習をすると感覚がつかめてくると思います。

80番:装飾音の練習と転調。
装飾音符はどのように入れるのかを学びましょう。右手の音の高さが変わるので、交差が必要です。交差した後はすばやく元に戻さなくてはいけません。調号が変わるのもポイントの1つです。

87番(原書89番):アウフタクト。左手の重音の伴奏。
両手で弾くのは苦労するかもしれません。右手と左手が合うところとずれるところがあるので、苦労すると思います。まずは片手ずつでよく練習しましょう。左手の重音がばらけないように気をつけましょう。

88番:87番(原書89番)の進化版といった感じです。
伴奏形は5の指をのばすようになっています。上げないように気をつけましょう。右手のリズムに苦労するかもしれませんね。このリズムは「雪」の出だしのリズムと同じです。(「雪やこんこ」まで)
弾きにくそうにしていた子たちがこの説明ですぐにマスターしたので、弾きにくいようでしたら試してみて下さい。

90番(原書91番):短調→長調→短調という構成を学びましょう。
リズムや音型は同じでも短調と長調では雰囲気がかなり変わります。それを感じて欲しいと思います。何でもいいので、ストーリーを作っても面白いかもしれませんね。

91番(原書93番):短調の曲です。
一瞬明るくなりますが、寂しい雰囲気の曲です。曲の持つ音の雰囲気をよく理解し、表現できるようにしましょう。

95番:右手は6度の練習、左手は右手の対旋律として弾くようにしましょう。
右手は出来たら5の指を少ししっかり出すとより素敵な演奏になります。左手はただ弾くのではなく、右手を追いかけていっていると捉えるといいかもしれません。伴奏と思って弾かないことです。

96番(原書97番):右手の3度の練習です。
3度は大人でも難しいので、子供には大変だと思います。1拍目にアクセントがついていますので、1拍目は上から少し落とすようにしてアクセントをつけて、残りは指をほんの少しだけ動かしましょう。1つずつしっかり弾かないようにしましょう。

97番(原書96番):両手とも動きます。
左手も右手と同じくらい動きます。途中、左手がメロディーになる部分もあります。右手と同じように粒をそろえて弾けるように、右手をお手本にして練習してみましょう。粒がそろう右手と粒がそろわない左手では手の形や指の動きなどに違いがあると思いますよ。

98番:左手スタッカート。リズムによく乗って弾きましょう。
3拍子の弾き方を学びましょう。1拍目はしっかり弾いて、後は優しく切りましょう。

100番:装飾音符、交差、左手5の指を持っておくなど。
これまでに学んだことが1曲に入っていて、まとめとするのによい曲だと思います。

弾いておいたらよい曲としてたくさんあげましたが、全部やる必要はありません。

同じような練習のものは省いてもいいですし、逆に何か苦手な音型があれば同じような曲のものを足して練習していいですよ。

こうしなければいけないということはありませんので、この難易度順や練習のポイントを参考にして弾いて頂けたらと思います。

まとめ

◆バイエルはドイツの作曲家、ピアニスト、ピアノ教師として活躍した。
◆日本の学校での音楽教育とピアノ教育は伊澤とメーソンから始まった。
◆メーソンがバイエルを日本へ持ち込んだ。
◆バイエルと名前のつく楽譜はとてもたくさんある。
◆昔はバイエルをみんなが学んでいたが、現在はみんなではない。
◆バイエルだけでなく、他の教材も良いところとあまり良くないところがそれぞれある。



「バイエル(ピアノ奏法入門書Op.101)」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1919年にシャーマー社から出版された楽譜です。英語とスペイン語の併記で学習のポイントなどが解説されています。印刷がやや薄いです。
  • IMSLP(楽譜リンク
    1947年にクルチ社から出版された楽譜です。印刷は鮮明ですがイタリア語で書かれています。