現在世界中には様々なオーケストラがありますが、それぞれにその楽団ならではの音色があります。お国柄や地方色のある響きを楽しむのもまたクラシック音楽を聴く楽しさでもありますね。
オーケストラといえば豊かな弦楽器、温かい木管楽器、華やかな金管楽器にリズム感で盛り上げる打楽器で構成されていますが、多くの作曲家達は楽器の使い方に様々な工夫を凝らして、より良い作品を作り上げてきました。
作曲家ごとに特徴のあるオーケストレーション。その中でもブルックナーという作曲家の楽器の使い方は独特です。
代表的な作品は9曲の交響曲です(その他0番や習作もありますが)。オーケストラの編成はワーグナーから影響を受けた大編成であるものの、派手な演奏効果を狙ったものは無く、淡々とした響きに、ほぼ一定の形式で曲は作られています。楽譜を見るとほぼ全音符で埋まっている様な錯覚すら覚えます。
それだけに、どの交響曲も演奏するオーケストラの音色や、アンサンブル力がよくわかるものとなっています。ある意味ごまかしの利かない曲ともいえます。
しかし、しっかりした合奏力のある音で演奏された時、あたかも大ホールで聴くオルガンの響きの様な、重厚な響きとなります。オルガンの様な響き。それがブルックナーの音楽の特徴の一つであり、また彼の人生を象徴するものかもしれません。
■ 目次
アントン・ブルックナーについて
1824年オーストリア。オルガン奏者の息子としてアントン・ブルックナーは生まれました。すでに幼少の頃からオルガンが身近にあり、音楽的才能を発揮していたブルックナーは早くからオンガン奏者として活躍していました。13歳の時、ブルックナーの父親が亡くなり聖フローリアン修道院へ預けられます。そしてこの修道院の聖歌合唱隊へ入ります。この聖フローリアン修道院はブルックナーゆかりの修道院といえます。ここを拠点にブルックナーはオルガン奏者として、また音楽教育者として、そして作曲家として活躍しました。
ここでの長い経験がブルックナーにとって決定的であったことは想像に難くありません。特にブルックナーの音楽の特徴であるコラールを多用したり、オルガンの様な響きを求めたりという点はここでの合唱隊での経験が大きく影響しているといえます。
聖フローリアン修道院。ブルックナーの音楽の基礎はここで育まれた。院内にあるオルガンの真下にブルックナーは眠っている。
音楽の特徴
1楽章の曲の始まりは弦楽器のトレモロやリズムの刻みを伴奏に第1主題が静かに開始され、次第に盛り上がって全合奏で第1主題が奏される、というパターンが9曲の交響曲のほとんどで使用されます。5番や8番は少し違うパターンですが、やはり途中で弦楽器の刻みの上に主題がバーン!!と登場します。これがブルックナーの魅力でもあります。幻想的な霧の中から現れる主題、ブルックナー開始と呼ばれています。
構成は完全に伝統的なソナタ形式です。ただ少し違う点は、スケールがデカいということです。通常のソナタ形式なら主題は2つ、AメロBメロですが、ブルックナーの場合第3主題まであります。しかもフレーズの1つがとても長く正にオルガンの様な曲となっています。
管楽器、特に金管楽器によるコラールの様な主題が多く、息が非常に長いので、金管楽器奏者達にとって正に地獄のコラールです。演奏中吹いている自分が天に召されるかのようです。
さらにそれを支えるように弦楽器や木管楽器はひたすら音を刻みます。演奏中半分以上の人が神に祈ります。早くこのフレーズを終わらせ給えと。
しかし管楽器の響きを弦楽器の響きで調和させる、ということは非常に基本的なことで、これをバランスよく合わせられるということがオーケストラの音の良し悪しを決めるポイントでもあります。モーツアルトのように単純な音形であるからこそ難しいともいえるのです。
2楽章、緩徐楽章は神に祈るような美しい楽章となっており、ブルックナーを聴く醍醐味ともなっています。
3楽章はスケルツォで、比較的親しみやすい粗野なリズムと美しい中間部を経て、また最初に戻って終わるというパターンです。7番のスケルツォは農民の踊りのようですが、天から響いてくるような激しさがあります。
4楽章はソナタ形式ですが、最後に勇壮なコーダで華やかに、感動的に曲を締めくくります。
これがブルックナーの全交響曲の基本的なスタイルとなっています。
交響曲第7番。老年のデビュー
1楽章2楽章
3楽章
4楽章
※動画は全楽章ノヴァーク版です。
この交響曲7番は旋律が非常に綺麗で、第4番交響曲と並んで親しみやすい人気のある曲ですが、4番のようなわかり易い表題はありません。しかしブルックナーにとって、大きな出来事となるいくつかのエピソードがあります。
1楽章の主題はブルックナーが夢の中で聞いた主題を使ったといわれています。(00:09)
2楽章はブルックナー定番のアダージョ。7番のアダージョは全交響曲の中でも特に美しい曲です。中間でのクライマックスがまるでオルガンのような響きですが(11:00~)これがブルックナーの最大の魅力です。
後半部のワーグナーチューバによる四重奏はブルックナーが最も尊敬するワーグナーの死を予感して書き進められました。(2楽章16:29~コントラバスの人がいいね!の表情をしています^^)また同時にブルックナー自身が亡くなって出棺の際もこのアダージョの四重奏部が演奏されました。
1,2楽章がそれぞれ20分近くかかるのに対して、3,4楽章は10分、13分ほどの曲です。しかし内容は晩年のブルックナーの、円熟した傑作となっています。
ワーグナー先生のチューバでなきゃアカン!
ブルックナーはこの7番の2楽章を尊敬するワーグナーの死を予感して作曲しました。できればワーグナーが亡くなった時に捧げる箇所をワーグナーチューバでの4重奏にしたい。できれば4本。しかし当時できたばかりの楽器で数が少なく、調達は難しい楽器だったようです。初演指揮者のニキシュに手紙で「ホルンでは代用はきかへんのです。何とかなりまへんか?軍隊用のチューバでかまいまへんので、何とか手配頼んます」と送っています。しかし演奏会が差し迫っていたニキシュは「もう時間がないで。無理や。4本のホルンで代用するで」と答えています。
その後のやり取りの手紙が現在残っていないので、おそらく初演時ワーグナーチューバは調達できず、ホルンか他の楽器で代用されたものと思われます。
ワーグナーチューバ。写真右。実物は写真よりもっと小さく感じる。
いずれにしても,この7番でブルックナーの交響曲としては初めてワーグナーチューバが編成に加えられました。4本編成のホルンと共に4本のワーグナーチューバが並びます。
ワーグナーチューバはワーグナーが自身の超大作「ニーベルングの指輪」で使用したホルンとチューバ両方の音色を兼ね合わせた楽器です。ワーグナー自身が考案し、楽器工房に通い開発された新楽器で、ホルン奏者が持ち替えて演奏できる様に考案されたものです。
初演は大成功!!
1884年、ブルックナーが60歳の時にこの交響曲第7番は初演されました。指揮は当時もっとも有名だった若きアルトゥール・ニキシュ。オーケストラはシュターツカペレ・ドレスデンとともに非常に歴史の古いオーケストラのひとつライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でした。初演は大成功をおさめ、これをきっかけにブルックナーは著名な交響曲作曲家としてデビューという形になりました。これまで音楽学校の教員やオルガン奏者として地道に活躍してきた努力の成果が、60歳をむかえて花開いたのです。
開運!なんでもブルックナー鑑定団??
初演は大成功を納めましたが、弟子達はより演奏効果を狙った曲にするために、様々な加筆や修正をする事を強くブルックナーに勧めました。人柄の良いブルックナーは他人からの推しに弱く、言われるがままに改訂を施します。これが所謂ブルックナーの版問題です。特に3番と4番、8番が改定箇所が多く、同じ曲なのに何種類かの版が存在することとなっています。7番に関してはそれほど違いがありませんが、特に大きく違いが目立つ所が一箇所あります。
2楽章で最高潮に達した所で初演の際には無かったティンパニ、シンバル、トライアングルが新たに加えられています。(動画15:37)弟子達に推されて、小さな紙に追加の打楽器パートを書き、それをスコアに張り付けたのです。おそらくワーグナーの様な演奏効果を狙ったものだったのでしょう。
しかし問題はその張り付けた紙の打楽器の楽譜の上から鉛筆で「無効やで」と書かれていることです。なんやかんやで最終的に書かれたものの、これがブルックナーの直筆なのかどうなのか?筆跡鑑定が行われましたが、これが未だに謎のままなのです。
2楽章クライマックス部
現在、演奏される版は主にハース版とノヴァーク版が主流となっています。音楽学者のロベルト・ハースとレオポルド・ノヴァークがそれぞれの視点から改定した版が、現在演奏される主流の版となっています。
・ハースは作曲者の意図なのか他人の推しで決めたのかを研究し、あくまで作曲者の意図を第一優先に改定しています。例えば弟子達が削除するように勧めた箇所などはブルックナーの意図を尊重し、復活させています。(弟子達は良かれと思って勧めたのであって、決して悪気があったわけではありません。師匠想いの良き弟子達です)
この7番の2楽章。ハースの鑑定としては、そもそも打楽器の追加は弟子達の意図したものであり、初演時の打楽器無しを採用しています。その他4楽章のテンポの変化なども初版を優先しています。
・ノヴァークは作曲者の意図を優先しながらも、最終的に出版された形のものを優先しています。望む望まないにかかわらず、ブルックナーが許可したものをそのまま採用しています。
ノヴァークの鑑定結果は、2楽章の「無効」とかかれた文字は作曲者の筆跡とは異なるとして「打楽器あり」としました。4楽章のテンポ変化箇所もハース版よりも多いものとなっています。
現在はハース版を採用しながらも2楽章に打楽器を加えたり、またはシンバルとトライアングルは無しでティンパニだけ加える演奏もあります。
その他、目立ちませんが細かい譜割りや楽器指定の違いもあります。CDにハースやノヴァーク版と書いてあっても実際は細かいところで両者を使い分けている盤がほとんどです。打楽器の有無以外の違いは、注意して聴かないと判らないくらい細かいものです。
名盤紹介
私はブルックナーが大好きです!何度聴いても全く飽きが来なく、まるでスルメやゴボウのように噛めば噛むほど味わいが深くなるようです。しかも先に書いたように、演奏するオーケストラの特徴がモロにわかります。そして個人的な意見になりますが7番に関してはハース版が好きです。なぜなら2楽章のクライマックスで打楽器無しでバランスのよい合奏が成されたとき、オルガンのような、いや、それ以上の圧倒的なスケールの音の建築物が築かれるからです。これほどの音を創れるのはブルックナー、それも打楽器無しのハース版以外ないと思うからです。
しかしながら結局は版の違いより、やはり演奏そのものが聴くべきポイントであることは間違いありません。ノヴァーク版にも、ハース版には無い良さがたくさんあります。
というわけで紹介する盤は多数に渡りますのでご了承ください!
2楽章に打楽器の無い純粋なハース版
○ギュンター・ヴァント・北ドイツ放送交響楽団
ギュンター・ヴァントはブルックナーを得意とする指揮者として、晩年は日本でも非常に人気のあった指揮者です。録音、演奏会はほぼ全てハース版を使用しています。本人はノヴァーク版を嫌っていた様です。
速めのテンポに、ライブ録音とは思えない良くまとまったアンサンブルで、金管楽器はがなり立てず、弦楽器もかき消されることはありません。
1楽章で金管が全合奏で演奏する箇所をグッと抑えて動きのあるパートを聞かせる手法はヴァントならではです。各楽器の音が良く聴こえる。これはクラシック音楽とりわけロマン派以降の大オーケストラを聴く上で望ましいです。
北ドイツ放送交響楽団の良い意味で硬い、パワーのある音色はブルックナーはもちろん、他のブラームスやベートーヴェンなどでもいかんなく発揮されています。
数少ない純粋なハース版での演奏ですが、2楽章のクライマックスの音が非常に素晴らしく、本当にオルガンが鳴っているかの様な錯覚を覚えます。その点がこの盤の最も素晴らしい所です。
・ベルリンフィル
晩年にベルリンフィルとのコンビで演奏されたライブ録音です。これが発売された当初は素晴らしい演奏ながらも、ベルリンフィルの音はブルックナーに相応しくないとの意見もありましたが、そんな事は決してありません。北ドイツよりもさらに重厚な音です。ベルリンフィルの純粋なハース版はこれしかありません。
・ケルン放送交響楽団
ヴァントの最初の全集です。荒削りの良さがあります。
○ゲオルグ・ティントナー/ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
あまりメジャーではない指揮者にオーケストラ、かつナクソスレーベルで廉価版で発売されているイメージがありますがとんでもない。ブルックナーに非常にゆかりの深い人物です。
ゲオルグ・ティントナーは10歳のころウィーン少年合唱団でフランツ・シャルクの指揮の下でブルックナーのミサ曲などを歌っています。このシャルクという人物こそ、先程の師匠想いのブルックナーの弟子です。大袈裟にいえばティントナーはブルックナーの孫弟子ということになります。
また彼のブルックナー全集の解説書は全て自分で書いています。
何より演奏が大変素晴らしく、オーケストラもバランスが良いのでウィーンフィルやアメリカのメジャーオケと引けを取らない演奏となっています。この7番も間違いなく数少ないハース版の名盤の1つです。
ティントナー自身は時代の流れに翻弄され、大変苦労した人物でまた、難病を患っていたこともあり惜しくも82歳で自ら命を絶ってしまいました。
○朝比奈隆/大阪フィル
こちらは昔から名盤として名高い盤です。ブルックナーゆかりの地、聖フローリアンでのライブ録音で、2楽章が終わると偶然時刻を知らせる鐘が鳴り、それも録音されています。(非常に小さい音ですが)
またこの演奏会には、使用楽譜はハース版であるものの、先のノヴァーク自身が観客として聴きに来ていたとか。
演奏自体は賛否両論ありますが、オケの技術がどうというより、各楽器がシッカリ音を出して、それが伝わる事が音楽を耳で味わう醍醐味だと思います。この演奏ほど弦楽器や木管楽器もかき消されずハッキリ聴こえる盤は中々ありません。
1楽章の終わりが他の指揮者では見られない表現で、非常に遅く雄大にスケールを広げています。
○ニコラス・アーノンクール/ウィーンフィル
アーノンクールらしい、しかもウィーンフィルらしい演奏です。1楽章の終わりに激しく加速するところが特徴的です。
ティンパニ付ハース版
ハース版に2楽章のクライマックスにティンパニのロールを加えたものですが本来はハース、ノヴァークどちらでも無く、指揮者が加えたものの様です。○ヘルベルト・フォン・カラヤン
・ベルリンフィル
カラヤンの音楽はブルックナーに合わない!と言われる事がありますがそんな事は決して無いと思います。1楽章や2楽章のフレーズの歌わせ方はカラヤンだからこそできる芸当だと思います。長いフレーズにも関わらず自然な歌い方。この点は後のウィーンフィルよりもすばらしく、この盤の聴きどころです。
この素晴らしいフレーズの歌わせ方はこの盤でしか聴くことはできません。
・ウィーンフィル
ハース版ではありますが、2楽章はシンバル、トライアングル、ティンパニがあります。
カラヤンの最後の演奏会の録音として有名な盤です。上のベルリンフィルの演奏より洗練された音ですが、かといって金管楽器が弱いわけで無く、最後の演奏と思えないほど力強い演奏です。
生涯の最後にブルックナー7番でさらにこの演奏。どこまでもカッコいい指揮者です!
○ヘルベルト・ブロムシュテット/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
ハース版を使用しながらも、恐らくノヴァーク版も取り入れている演奏では無いかと思います。特に4楽章でのテンポの移り変わりがノヴァークを採用しているのでは無いでしょうか。(違うかもしれません…)
この録音された時期のシュターツカペレ・ドレスデンのブルックナーはある意味度肝を抜く演奏です。全体を通して重厚な音色です。特に2楽章のワーグナーチューバの葬送の後の、名手ペーター・ダム率いるホルンセクションは目一杯吹いています。
ノヴァーク版
以前、実際にこの7番交響曲を演奏する機会に恵まれたのですが、トロンボーン奏者の人とハース版とノヴァーク版どちらがいいかで議論をした事がありました。その時、トロンボーン奏者は絶対2楽章に打楽器があった方がいい!と主張していましたが、確かに実際演奏会では打楽器が入ると非常に聴き栄えがするのは間違いありません。○オイゲン・ヨッフム
ヨッフムは交響曲全集を2回録音しています。さらにアムステルダムコンセルトヘボウと何曲かと宗教曲を多数録音しており、どれも大変すばらしい演奏となっています。
・オイゲン・ヨッフム/アムステルダムコンセルトヘボウ
私は勝手にオイゲン・ヨッフムを「会長」と呼んでいます。
実際ヨッフムは国際ブルックナー協会の会長でもありました。ヨッフムは非常にオーソドックスな音楽の作り方で、正にドイツ音楽の名指揮者です。質実剛健とはこの事で燃える様な演奏であっても安定感がありブルックナーにピッタリの指揮者だと思います。
アムステルダムコンセルトヘボウは代々オランダ人指揮者が就任することになっていましたが、当時まだ若かったベルナルト・ハイティンクの補佐として、初めてドイツ人指揮者として招かれたのが「会長」だったのです。
こちらの演奏は日本の昭和女子大学人見記念講堂でのライブ録音です。「会長」は国際ブルックナー協会の会長の立場から、ノヴァーク版を使用していますが、この番では何故か2楽章はシンバルがなく、ティンパニとトライアングルだけとなっています。(入り損ねたか!?)
演奏は幅広い音と、雄大さを感じさせる名演となっています。
・ベルリンフィル
ベルリンフィルとの最初の全集録音です。音は分厚く、テンポも2回目の録音よりも安定しています。
・ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
「会長」2度目の全集はドレスデン国立歌劇場管弦楽団との演奏です。その全集の中で7番が異彩を放っています。
とにかく度肝を抜く演奏で、一言で言うなら爆演です。金管楽器は楽器が壊れるのではないかというくらい目いっぱい吹きます。それでいて弦楽器と木管楽器も音量負けしていませんがうるさくありません(私にとっては)。
ブルックナーの交響曲の中でも7番は比較的静かな曲ですが、初めて聴く人にとっては馴染めない演奏かもしれません。というかブルックナー嫌いになりかねない演奏でもあります。しかし不思議と何度も聴いていると病み付きになってくる演奏です。
○カール・ベーム/ウィーンフィル
ベームとウィーンフィルとの演奏は名盤が多く、ブルックナーは3,4,7,8番録音を残しています。
○ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団
ショルティのブルックナーも賛否両論分かれますが、晩年のシカゴ交響楽団で残した全集の録音は大変素晴らしいものばかりです。オーケストラからオルガンのような重層な響きを引き出す、という点では最も優れた、アンサンブルの綺麗な演奏ではないかと思います。
どうしてもショルティ、シカゴ、ブルックナーと聞くと、ショルティ嫌いな方には悪い予感しかしないと思いますが、ぜひ一度聴いてみて欲しい一枚です。ショルティに対するイメージがガラリと変わると思います。
○ロブロ・フォン・マタチッチ/チェコフィル
こちらも名盤として名高い一枚です。マタチッチは日本ではとても馴染みの深い指揮者でNHKとの演奏で活躍したのでご存知の方も多いと思います。
マタチッチは過去に政治的な犯罪者として死刑を宣告されるということがありました。しかし執行当日、ピアノの腕を買われて一命を取りとめますが、長い間指揮活動停止を余儀なくされました。
演奏はチェコフィルの音色が活かされた、深く、素朴な味わいがあります。こちらもカラヤン/ベルリンフィルの演奏を思わせる、自然で綺麗なフレーズの歌わせ方が魅力の一枚です。
弦楽器のトレモロの煌びやかさ、木管の美しさや深い低音楽器の音など、味わいのある木材家具のような魅力がチェコフィルの特徴です。
○カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーンフィル
ジュリー二はこの7番を始め8,9番をウィーンフィルとの演奏で録音を残しています。
晩年のジュリー二の特徴として、1楽章の終結部はテンポが速くなるものの、全体的にテンポが遅く、スケールの大きな演奏となっている所です。それはブラームスの交響曲でも同じですが、遅いテンポだからこそできる隙のない、細部まで味わえる良さがあります。
そして「会長」のように力強い演奏です。同じ遅いテンポを目指したチェリビダッケとはこの点が違います。力強いウィーンフィルを聴きたければこの盤です!
○セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘンフィル
遅いテンポの指揮者といえばチェリビダッケです。好きな人にとってはたまらない、常軌を逸した遅いテンポで演奏することで有名な指揮者です。もちろん私もたまらなく好きです^^
しかしチェリの凄さは、ただ遅さ世界一を目指しているのではありません。遅いテンポであっても決して音楽はダラダラせず、まったく遅さを感じさせません。何より凄いのはミュンヘンフィルがこの遅さにシッカリついてきている所です。しかも歌うことも疎かになっていません。
ジャケットの写真のようにチェリは晩年禅の思想に傾倒し、それが演奏に表れています。
ただミュンヘンフィル以前のベルリンフィルやシュトゥットガルト放送交響楽団との録音ではまったく遅いテンポではありません。
○エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団
インバルのブルックナー全集は発売当時非常に画期的でした。なぜならあまり演奏されることの無い原典版を使用しているからです。特に3,4,8番がハースやノヴァーク版とはまるで違う物になっています。さらには未完成の9番の4楽章も録音しています。
7番も変わった演奏なのかな、とつい思ってしまうのですが、こちらはノヴァーク版を主に使用しながら、2楽章のクライマックスはティンパニのみです。
こちらも素晴らしい演奏で、マーラーの交響曲の様に精緻なアンサンブルがブルックナーでも活かされています。
○カール・シューリヒト/ハーグフィル
シューリヒトを知っている人はおそらく、某評論家が斡旋しておられたウィーンフィルとの8,9番の録音がきっかけだったのではないでしょうか。もちろん私もそうです^^
「透明な音」というのがこの演奏にふさわしい言葉です。もちろんウィーンフィルとの8,9番もそうですが、この様な音はオーケストラ奏者の席で聴こえる音でもあります。
CDや客席では聞き取れない、目立たないパートや改訂版での音が、かなりはっきり聴こえてきます。録音も演奏技術もやや劣るものの、その点で私にとって好きな盤の一つです。
その他
ここでは紹介しきれなかったオススメ盤はまだまだあります。スクロヴァチェフスキー、ワルター、クレンペラ-、マゼール、レーグナー、ハイティンク・・・いずれも特徴のある素晴らしい演奏ばかりです。最後にシンプルな一枚を。
○リノスアンサンブル
クラリネット、ホルン、ハーモニウム、ピアノ、弦楽四重奏、コントラバスという編成の編曲版です。原典版だの蓮だのピンクの英会話ウサギだの、めんどくさい!と思った時はこれで癒されましょう^^
ブルックナーを演奏する。
ブルックナーの交響曲は苦手という人も多いのではないでしょうか。実際嫌いな作曲家はだれ?と質問されると高い確率でブルックナーの名前が出てきます。演奏時間が非常に長く、急に音楽が止まったり、重々しい箇所もあったりと聴くだけでも大変な作曲家ですね。演奏する方も長いフレーズ等体力勝負的な所もあります。
金管楽器が特に大変です。1時間近くコラールを吹いてきて、4楽章の最後で最高潮に盛り上がるのですが、もうその頃にはヘトヘトです…特にこの7番は4楽章の最後で何度も分散和音で上昇する音形を繰り返すのですが、リハーサルで何度も練習出来るものではありません。
本当に天に召されそうです^ ^
木管楽器の人達は「リズム練習」と言われ、弦楽器の人達からは「腕の運動」とまで言われることもあります。
「これは音楽ではない」と主張する世界的な指揮者もいる位です。
なぜこんなに親しまれないかというと、確かに曲が独特すぎるせいもありますが、ブルックナーの音楽は本当にバランスよく楽器が鳴らないと、おかしな金管アンサンブルの曲で終わってしまうからだと思います。
やはりブルックナーの音楽は正に、オーケストラの基本的な実力が試される音楽だと私は思います。それだからこそ様々なオーケストラを聴き比べる楽しみ方を、ブルックナーは暗示してくれているのだと思います。
ブルックナー「交響曲」の記事一覧
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