いきなりですが皆さんはベートーヴェンの音楽を音で表現するとしたら、どんな音のイメージがありますか?

私は、ジャジャーンッ!バーンッッ!!

なイメージがあります。このような事を言うとお叱りを受けるかもしれません´д` ;しかしそれだけではありません。非常に綺麗な旋律もあります。とくにピアノを弾かれる方はよくわかると思いますが、時には郷愁漂うようなシンプルなメロディ、時には空に昇っていくような崇高なメロディ等…ピアノソナタ等によくそれが表れています。

さてベートーヴェンの9曲ある交響曲はどれも激しさ、何かを克服しようとする熱さがあります。オーケストラこそベートーヴェンにとって、やりたい事を最大限に表現できたフィールドだったのではないでしょうか。

そんな9曲の熱い交響曲達の中で唯一、深刻さが全くと言っていいほど無い一曲があります。それが今回紹介する、交響曲4番です!

(この動画ではホルンとトランペットはピストン無しの楽器を使っています。近年、古典派の管弦楽曲を演奏する際、音色を考慮して金管楽器のみ当時の楽器を使用するスタイルが多いです。このことはいつか詳しく取り上げたいと思います。ご期待ください!)

■ 目次

二人の巨人と乙女?

一般に「英雄」と呼ばれる3番交響曲と超メジャー曲の「運命」の間に位置していて、二人の巨人の間にいる乙女と呼ばれてることもあります。先ほど申し上げたベートーヴェンの綺麗なメロディが散りばめられていながらも、しっかりした曲で、躍動感は7番交響曲のようでありながらも深刻さが無い。最後に向かって盛り上がって行って終わるところも素晴らしいです。

しかし4番交響曲は、有名な「英雄」と「運命」に挟まれているだけに、地味な印象を与えるせいか、やや聴かれる機会が少ない曲ですね。でもこれらの2曲に劣る曲では決してありません。演奏される機会が少ないのが残念ですね。

もちろんどんな曲でも生演奏が一番いいですが、とくにこの4番は少し地味な印象になってしまう曲だけに、CD等で聴くよりも、コンサート等で生で聴くことでより魅力が解ると思います。

ファゴットさん!全てはあなたにかかっている!!

この曲をプログラムに載せて、演奏を成功させる為に必要不可欠な事があります。それは
優秀な木管奏者、特にファゴット奏者が必要な事です。木管楽器が活躍する曲ですが、特にファゴットが非常に目立ち、しかも四楽章には速くて難しく、とても重要な箇所があるのです。大袈裟に言ってしまうとファゴットの良し悪しによってこの曲の出来も決まってしまいます。

それにしてもベートーヴェンの交響曲はファゴットとオーボエが目立つ事が多いですね。7番といい5番といい、好きな楽器だったのかもしれません。

白鳥の水面下

あるオーケストラの演奏会でこ曲が演奏された時に、私は乗り番(出番)ではなかったので練習の時から本番まで、木管奏者の人達を観察していました。本番での演奏は非常に素晴らしく、感動するものでしたが、練習中は木管奏者の人達はひたすら四楽章の速いパッセージを練習していました。ファゴットさんもきっとプレッシャーが大きかったと思います。

曲が終わって観客から拍手を受けていた時、ファゴット奏者が一人起立して拍手を受けていたのが印象的でした。いい演奏の裏には水面下の白鳥の足のように、必死の練習があるのですね。その時のファゴットの人は白鳥のように輝いて見えました。スポットライトが少ない髪の頭に反射して、輝いて見えたのです。

それでは前置きはこれくらいにして、私なりのオススメの名盤を紹介したいと思います。

全部の楽器が手に取るように聴こえる!

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー(1962)


この交響曲4番は題名がないシンプルな曲だけに、オーケストラの各楽器の個性や指揮者の表現方法がハッキリわかりやすい曲だと思います。田園とか運命の様な情景はなくて、純粋な音楽だけなのです。

それだけに、この演奏はカラヤンの思惑がよーく分かります。1楽章からコントラバスから木管奏者まで、一つ一つの音がよく聴こえてきて、ワクワクしてくる演奏です。4楽章のスピード感も素晴らしいです。カラヤンは交響曲全集として5回ほど録音していますがこの1962年のが最もカラヤンらしい演奏で、選ぶならこれが一番いいかなと思います。

オケを生き生きとさせる指揮者

カルロス・クライバー/バイエルン国立管弦楽団(1982)


カルロス・クライバーという指揮者はとても変わった指揮者だったようです。自身が作り上げる音楽に非常に強いこだわりがあり、たくさんのリハーサルを重ねたとしても、思うようにいかないと演奏会そのものをキャンセルすることが多かったようです。その為か録音自体は少ない様です。しかしそのどれもが素晴らしい名盤ばかり。

賛否両論ある指揮者ですが、私はバイエルン国立管弦楽団を振って、これほど良い音を出させる指揮者は他にいないと思います。椿姫などは最高の音でしたが、この4番も素晴らしい音です。他の指揮者が振った演奏とは別のオケみたいです。生々しい、土臭いドイツ的な音がします。どうやったらここまで音を変えられのか不思議です。これは是非一度聴いてほしい一枚です。

生き証人

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団(1958)


さて、ワルターの第4である。(これを言ってみたかった〜^ ^)ブルーノ・ワルターと言えばマーラーの弟子として、また後期ロマン派最後の生き証人として演奏スタイルにも定評のある指揮者です。晩年にコロンビア交響楽団で残した数々の録音は、どれも本当に素晴らしいものです。

この4番も録音がとてもよく、60年前の息遣いが伝わってくる録音です。しかし何より特記すべき事は、オケが非常に上手いことです。4楽章のファゴットは今まで聴いた中でダントツに素晴らしい!あの速いパッセージでもしっかりタンギングして、しかも装飾音もハッキリ吹き分けている!

コロンビア交響楽団はアメリカのニューヨークフィルなど、実力のあるオケの奏者も参加していたらしいです。

ピリオドは表現の一つ

ガーディナー/ルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1993)


これもたいへん素晴らしい演奏です。曲全体にわたって、音の粒がハッキリしていて気持ち良い演奏です。この曲ではそんな表現がとても相応しいですね。速いパッセージで、ファゴットのキーの音がカチャカチャ聞こえるのも、逆にリアルで良いです^ ^また、2楽章の伴奏の和音が綺麗です。バロックの宗教歌を得意としたガーディナーらしさが出ています。

演奏が素晴らしいのでつい忘れてしまうのですが、これはピリオド、つまり初演当時の楽器を再現した演奏です。古楽器の音色は、当時はこんな音だったんだろうな〜と感じながら聴くには面白いです。ベートーヴェンが意図した音が再現されるのは面白いですね。

アットホームな音

ヘルベルト・プロムシュテット/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(1979)


やっぱり好きですドレスデン^ ^特に4楽章が面白いです。ティンパニーの存在感が大きくオケが走りすぎない様に見守っている様な感じです。ティンパニーを中心に、ホルンと木管楽器群がとてもバランスの良い音を出します。このオケのファゴット奏者も大変素晴らしいです。

ウィーンフィルの音

レナード・バーンスタイン/ウィーンフィル(1978)


こちらは木管楽器のアンサンブルの良さが際立っている演奏です。第9の様な熱気はもちろんありませんが、ウィーンフィルらしい音が特徴です。この時期のバーンスタインがウィーンフィルを振った演奏は、金管楽器は多少固まった音ですが、木管楽器群は透明感のある音ですね。

ところで交響曲ってなに?

ここで簡単に交響曲の仕組みについて説明したいと思います。クラシック音楽は長くて途中で寝てしまうな、という人も構造が解ると長く感じるどころか寝ていられなくなります^ ^

交響曲は基本的に四つの楽章からなっています。

1楽章はソナタ形式という構成の曲です。作曲者は特にここに力を入れます。2楽章は癒し系の曲、3楽章はメヌエットというちょっと踊れるダンスナンバー、4楽章は最後に盛り上がるような曲で、ソナタ形式かロンドという曲です。

ソナタ形式は、簡単にいうと三つの部分からなっていて

メロディ→中間部→メロディ

となります。これに前奏と締めのコーダが付きます。

メロディは二つあります。提示部と言って、第1主題と第2主題…要するにAメロBメロです!基本的にこれをもう一回繰り返してから中間部に入ります。中間部は展開部と言って、AメロとBメロを様々に展開、変奏します。作曲家の腕の見せ所です。展開部の後にまたAメロBメロが出てきます。改めてメロディーを再現して閉めます。再現部といいます。

A→B→展開部→A→B(提示部→展開部→再現部)

カラオケで歌うAメロ・Bメロ・サビ・Aメロ・Bメロみたいなものです。

再現部のBメロはAメロと同じ調性、コードになります。そうすることによって、終わりに向かってスムーズに曲が進行するのと、曲の主になるコードをしっかり聴き手に印象付けます。よく、交響曲○番○調といいますが、この○調がそれになります。この4番なら変ロ長調となります。西洋音楽ではこの調性が重視されるようです。

このソナタ形式がクラシック音楽では重要な形式で、ピアノソナタ、バイオリンソナタ等はもちろん協奏曲でもこの形式になります。近代曲の難しい曲であってもソナタ形式を基本に書かれています。

ちょっと難しい話になってしまいました^^;どれがAメロでどこがBメロか?これを理解するとベートーヴェンだけでなく、クラシック全体が聴きやすくなります。作曲家それぞれの特徴もわかるようにもなります。

たとえばグスタフ・マーラーの交響曲3番の1楽章は35分位の長い曲ですが、これもソナタ形式を理解していれば長く感じないばかりか、マーラーの作曲技術に感動するでしょう!

交響曲とは作曲家が全力で自らの芸術性を100%発揮するフィールドのようなものなのです。

ベートーヴェンの必殺技!?

ベートーヴェンが今までの作曲家と比べ、ずば抜けている点はこのソナタ形式の使い方にあります。ハイドンやモーツアルト等でも、基本的には形式に従った交響曲を残しています。

ベートーヴェンが今までと違う点の一つは、再現部で最初のメロディーが再び現れるときです。普通ならそのままAメロが来ますが、ベートーベンの場合は力強く全合奏で、バーン!!と再登場します。これがとても強烈な印象を与えます。最初に言いました、ベートーヴェンの音楽のイメージ、「ジャジャーン!」や「バーン!!」がこれなのです。非常に劇的です。

でもすべての交響曲がそうではなく、実は5番「運命」と9番「合唱」、それにこの4番のそれぞれの一楽章だけなのです。他の曲はまた、それぞれ違うユニークな再現部になっています。

またこの4番の4楽章の再現部もユニークで、ファゴット一本の超絶ソロが担当します!!これも先ほど言ったファゴットに全てがかかっている、ということなのです。これを外したらここまでの演奏が台無しになると言っても過言ではありません。なんといっても、主題のメロディーをファゴットがソロでやるので^^;

そうった意味でもこの4番は非常にベートーヴェンらしい革新的な曲なのです。



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