これまでに「バンドネオン」「グラス・ハーモニカ」と一般的にあまり知られていない楽器について書いてきました。今回も一般的にはそれほど知られていないトーンチャイムという楽器について書いていきたいと思います。

「バンドネオン」や「グラス・ハーモニカ」は両方ともヨーロッパで発明された楽器でしたが、今回取り上げるトーンチャイムはなんと日本生まれの楽器です!

しかも30年くらい前にできたという新しい楽器なのです。最近では演奏する方々が増え、トーンチャイム用に編曲された楽譜も増えているようです。

トーンチャイムとはどんな楽器でなぜ生まれたのかなどについて書いていきたいと思います。

■ 目次

トーンチャイムとは

トーンチャイムは㈱鈴木楽器製作所が『だれでも、いつでも、どこでもできる普及型ハンドベル』をコンセプトに作られた楽器です。


トーンチャイムの音域は4オクターブ程になります。
https://www.suzuki-music.co.jp/information/4841/

全ての音域を一括購入するのではなく必要な音域を買い足していけるというのはなかなか良心的だなと思います。そして値段も良心的。



青銅でできているハンドベルはとても高価なのですが、これなら手を出しやすいですよね!

なぜベルという名前にしなかったのか

トーンチャイムという楽器を開発するに至った経緯や楽器の名前をどのように決めたかについては㈱鈴木製作所のホームページには何も書かれていません。

㈱鈴木製作所はトーンチャイム以外にも鍵盤ハーモニカやリコーダー、アコーディオンなどを製作している楽器メーカで教育用や生涯学習用の楽器を多く製作しています。

ハンドベルはトーンチャイムと同じく複数の人と協力して演奏する楽器ですが、楽器の取り扱いには十分に気をつけないといけません。

現在はいろんな素材のものが存在しているようですが、元々は青銅でできている楽器でした。そのため楽器を落とさないことはもちろんなのですが、楽器どうしをぶつけないなどにも注意を払わないといけませんし、油分や水分は楽器にとって良くないので手袋をはめて演奏しなくてはいけません。

手袋もすべらない素材のものを選ぶそうです。ハンドベルは繊細な楽器です。

そのような繊細な楽器はなかなか多くの人に気軽に楽しんでもらうことはできません。そこでそれほど注意を払わなくてもいい楽器として作り出されたのがトーンチャイムだったのだと思います。

ハンドベルはベルの部分が広がっているため演奏する際に楽器を並べるにも場所を取りますし、演奏しないときも楽器の管理が大変なので、トーンチャイムはもっとコンパクトになるよう筒状にし、そして取り扱いがもっと楽にできるようにと楽器の材質などにもこだわられたのだと推測します。

なぜトーンチャイムという名前になったのかはよくわからないのですが、ベルではなくチャイムになった理由は何となくわかります。

それにはベルとチャイムは何が違うのかというのを知ることがまずは必要ではないかと思います。

ベルとは何か?ハンドベルはどのようにしてできたのか

ベル
ベルには①鐘②管楽器の吹き口とは反対側の開いた部分という2つの意味があります。ハンドベルは管楽器ではないので①の方の意味でベルと名付けられています。

ハンドベルは17世紀頃に教会のタワー・ベルを練習するためにイギリスで作られたと言われています。イギリスで作られたため正式名称はイングリッシュ・ハンドベルと言います。

タワー・ベルは近くの人達に時間を知らせたり、警報として鳴らしたりするのが役割だったようです。


当時の人々にとって教会の鐘は生活に密着した重要なものだったはずなので失敗は出来ません。しかし練習もできません。実際に音を鳴らしてしまうとその音を聴いた人達が勘違いしてしまいます。

タワー・ベルでは練習できないのでその代わりなる楽器(ハンドベル)を作り、練習をしていたんだそうです。


タワー・ベルがこのように鳴らされていることを初めて知りましたが、これは確かに練習したくなる。いや、練習しないとできない…。

チャイムとは

チャイム
チャイムというのはチューブラー・ベルのことを指します。教会の鐘の代わりの楽器として開発されました。

教会の鐘の音をコンサートで使うのは不可能なので、似たような音が出るように工夫し、コンパクトにしました。

この楽器はパイプの上の部分をハンマーでたたいて演奏します。足元にペダルがついているので余韻を残すこともできます。(ピアノのペダルとは違い、先に踏んでおかなくてはいけません。)

トーンチャイムがベルではなくチャイムという名前になったのは、ハンドベルのような鐘の形ではなく、チャイム(チューブラー・ベル)の筒状の形だったからではないのかなと思います。

トーンチャイムの「トーン」は音、色調などの意味があり、「チャイム」には調和する、鉄琴などの意味があります。つまり「音が調和する」という意味になるんです。素敵な名前ですよね!

みんなで協力し合わないと演奏できない楽器にふさわしい名前だなと思います。

トーンチャイムとハンドベルの音色の違い

普及型のハンドベルを目指した楽器のトーンチャイムですが、ハンドベルとは音の響きが全く違います。音の違いを比べてみましょう。

◆トーンチャイムver.

◆ハンドベルver.

この曲をトーンチャイムやハンドベルで演奏できるんだということにまず驚くと思うのですが、同じような演奏方法でも楽器の形や材質などによってこれ程音が違うのです。

皆さんは比べてみてどのように感じたでしょうか?

私はハンドベルの方は硬くて鋭く、力強い音がするように感じましたが、トーンチャイムの方は柔らかくて丸く、余韻が残りやすい気がしました。

どちらが良いとか悪いとかではなく、これが楽器の持っている個性です。

教会の鐘から発展して来たハンドベルはやはり力強さがあった方がいいでしょう。一方多くの人に受け入れて欲しいと開発されたトーンチャイムは少し柔らかな音の響きの方が万人受けしやすいというのは多少あったのではないかと思います。

トーンチャイムの良いところ

ハンドベルとの音色の違いについて先ほど書きましたが、トーンチャイムの良いところはまず音色です。あの柔らかい音色は小さなお子さんからお年寄りまで幅広く受け入れられると思います。

実際にトーンチャイムは教育の現場や介護の現場などでも取り入れられています。

私の大学時代の話ですが、ミュージック・セラピーというサークルに入っていました。資格を取っていたわけではないので、音楽療法士さんのようにはもちろん出来ませんし、真似事にすらなっていなかったのかもしれません。

しかしこのサークルの活動を大切に引き継いで下さったたくさんの先輩方のおかげで、いろんな施設の方から信頼されており、私達の代もいろんな施設に行かせて頂くことができました。

施設によって回数などは様々でしたがだいたい月1回くらい訪問させて頂き、音大生の生演奏を聴いて頂きながら施設を利用されている方々や職員さん方とお話をしたり、音楽でコミュニケーションを取ったりととても楽しい時間を過ごさせて頂きました。

演奏を聴いてもらう時間もありましたが、それだけでなくみんなで演奏する時間というものも作りました。この時にコミュニケーションの道具としてよく使っていたのがトーンチャイムです。

タンバリンや太鼓などの叩く楽器ももちろんよく使ったのですが、トーンチャイムは音程があるので叩く楽器よりもより楽しんで頂けた気がします。

メロディーを演奏することもできますし、伴奏部分を演奏することもできます。工夫次第で色々と楽しめました。上手くいけば上手くいったと皆さん嬉しそうにして下さいましたし、失敗したらしたで何か変だったねと笑いがおこることもありました。

これは演奏の仕方が難しい楽器だったらできないことです。そして繊細な楽器だったら楽器をお渡しするのをためらってしまうのでできません。

トーンチャイムは専用のケースに入れて保管するのですが、いつも全ての音が必要なわけではないので、私は必要な音だけをカバンにポイポイ入れてガチャガチャさせながら施設に持ち運んでいました。

そんな風に扱っても全然大丈夫(私が思っているだけ?)な楽器なんです。楽器のことを考えると本当はいけませんよね…。いまさらですが反省しています。

誤って落としてしまったこともありますが、大丈夫でした。これがヴァイオリンなどの繊細な楽器だったら壊れてしまいますよね。

音が素敵ということもありますが、誰にでも気兼ねなく触ってもらえる、そして演奏方法が簡単だということもこの楽器のとても良いところだと私は思います。

演奏する時に難しい点など



トーンチャイムを演奏したこともありますし、トーンチャイム用に編曲をしたこともあるのである程度この楽器の楽しさや難しさは知っているつもりです。

先ほどの動画「情熱大陸」のような曲まで演奏できるようになるにはとんでもない練習量が必要です。あんなに強弱をつけたり連続して音を出したりできるんだなと本当に感心しました。

この楽器を演奏する時にまず大切なのは、自分の担当する音に責任を持ち、他の人達と協力しながら演奏するという気持ちを持つことだと思います。

そしてこの楽器は音を鳴らすということよりも音を止めるタイミングをミスしないことが重要なのではないかなと思います。意外と音が残るんですよね。

次の音と重なってもOKなところならいいのですが、重なると汚い音になる部分だったら上手いぐあいに止めなくてはいけません。

それもパッと止めるのかフワッと止めるのかで印象は変わりますから、止める方が意外と重要なのではないかと思います。

トーンチャイム用に編曲することがあるのですが、難し過ぎると演奏できないので素人さんでも演奏できるようにアレンジしています。私が気をつけていることがきっとトーンチャイムを演奏する上で難しいことだと思いますので、注意している点について書いていきます。

16分音符は基本的に使わない。8分音符まで

速い音型は素人さんには難しいです。元々のメロディーに16分音符が使ってあったとしても重要な音だけ残してあとは削るという作業をします。どうしても音を削れないというものもこれまでにあったのですが、その時はその部分は別の楽器に演奏してもらってトーンチャイムは伴奏に回るという手を使いました。

低すぎる音域は使い過ぎない

低音のトーンチャイムは長くて重いのでこれを何度も演奏するのは辛いと言われたことがあってなるほどと思いました。私としては低い音の響きがあると安定感があっていいなと思ったのですが、確かに演奏する方にとってはしんどいですよね。

強弱をつけるのは難しいので盛り上がる部分に向けて音数を増やす

先ほどの動画のような演奏ができるのなら強弱をつけて盛り上げるということも可能なのでしょうが、素人さんの場合は基本的にはあまりつけられないと考えています。

強弱以外で盛り上がりを表現するには音数を増やすしかない!という結論にたどり着きました。

初めは音数を少なくし、盛り上がりの部分で和音を鳴らすような構成にしたり、ハモリをつけてみたりと1度に鳴らす音数を増やす工夫をしています。そうすることで自然と盛り上がっているように聴こえるのではないかと思います。

その後も盛り上がった感じにしたい場合はその音数をキープしますし、静かにしていきたいのであれば徐々に音を抜いていきます。

音の重なりを入念にチェックする

ピアノを弾く場合、同じ強さで全ての音を弾くということはなく、どこかを目立たせてどこかを控えて弾くという弾き方をしています。そのような演奏の仕方はトーンチャイムではなかなか難しいです。しかもトーンチャイムは余韻がかなり残るのでちゃんと止めるタイミングを休符として書いておかないとにごった音になってしまうのです。

そのため同じ音量で鳴ったとしても変に聴こえないかということと、休符をきちんと書き込む作業を楽譜作成するソフトを使って入力しながら自動演奏させて確認します。

トーンチャイムの音があれば良かったのですが、残念ながらなかったので近い音を流しています。ピアノで弾いた時にはわからなかったことがわかるのでとても便利です。

作曲が専門ではないですし、トーンチャイムについての全てを知っているわけではないのでこれは私なりの方法と考え方です。

トーンチャイム用の楽譜というのは少し前まではあまりなかったと思うのですが、最近では増えてきたと思います。楽器を演奏する人達が増えれば今以上に楽譜が出版されると思います。

これからもっと多くの人に演奏される楽器になりますように!


The picture of handbells By User Oosoom on en.wikipedia [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons.
The picture of chimes By Xylosmygame on en.wikipedia [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons.

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