ショパンのバラードといえば、今では1番が有名になりすぎて、ああ、あのスケートのね、と言われるほどになりましたよね。多くのみなさんが、僕も私も弾いてみたい!と思ったのではないでしょうか。しかし本当にこの曲が好きな人は、切り刻まれてしまった演奏に悶絶したかもしれません。
忘れてはいけないもう1つの名曲中の名曲が、バラード4番です。
これは、初心者にはちょっと手が出ない(1番もなかなかだと思いますが)曲ですし、まだおそらく切り刻まれてはいないのではないでしょうか?
いえいえ、私はまだこんな曲は…
最初から音がたくさん書いてあるし…
なんだか陰鬱な感じでとっつきにくいし…
なんていうそこのあなた。バラードを弾きます、4番ですよもちろん!と胸を張って言えたらなんかかっこよくないですか?
とはいえ、本当に超難曲です。もうこれは、この曲にチャレンジした、というだけでも尊敬の目を向けられるかもしれないレベルです。心の準備はいいですか?もっとこの曲が好きになっちゃうかもしれませんよ?
どんなふうに弾きましょう?
さてさて、この曲、何が難しいのでしょうか?
指がそんなに速くまわらない
パッセージが難解
重音が多い
とにかくフクザツ…
こんなところでしょうか?
たしかに、音(符玉)を並べるだけでも本当に大変です。
でも。まだ熟練していないピアニストだから、テンポ通りに弾く、というので満足ですか?
もちろん練習の時には、片手ずつ、あるいは、右手のうちの上のメロディー、下のメロディーとばらして、メトロノームをかけながら、止まらずに弾けるようになるまで繰り返すことは必須です。
しかし、ある程度仕上げるという段階になったらどうでしょうか?そんなに単調なリズムで刻んで、人様の心を打つ演奏ができるでしょうか?
できませんね。
それでは、練習のはじめから、どのように弾きたいかをまず考えて、それを想像して細かい練習をしてみましょう。そうしないと、とてもとてもこの長い曲を最後まで学習できません。せっかく4番のために楽譜を買ったのに、やっぱり2番にしておきます、とかいうのもなんだか…ですよね(そして2番も3番も難しいです)。
弾きにくい曲は、どんな有名な、あるいは達者なピアニストにとっても弾きにくいものです。そうすると、こういう指使いがいいのではないか、いやいやこっちでしょう、といくつもの版が出てくることになります。
もちろん自分の弾きやすい指使いを自分で見つけられればよいのですが、これには限界があります。レッスンを受けている場合は、早めに先生に相談しましょう。あるいは複数の楽譜を見てみるのもよいと思います。
楽譜にもいろいろな版がありますのでいくつか用意できればよいのですが、そうお安いものでもありませんので、ある程度弾けるようになったら図書館などで指使いをチェックしてもよいかもしれません。ただ、これまたある程度慣れてしまうと、違う指使いに変えるのも大変ですけどね。
今回は、コルトーの楽譜をもとに、内容を見ていきましょう。コルトー版もアマゾンで購入できます。
さて、いよいよです。
冒頭部分。右手でオクターヴのG(ソ)が続きます。ディナーミクはpとなっていますが、イメージ的にはpppくらいでしょうか。鍵盤を半分なでるようにスタートします。
このG、もう何年も何十年も前から続いている景色のようなもの。突然カーテンがすっと開いて、景色が目の前に現れたようなイメージで。急に見えたからといってガツンといかないように、じわじわ音が増えていくように、左手のE、そして右手のCが合流していきます。
8分の6拍子というのは1拍目が1番で、4拍目が2番目のアクセント、と習いませんでしたか?でも、この曲にそれを当てはめてはいけません。
動画のはじめから00:34まで、Gの続く部分とE-D-C-Eという部分が2回ずつありますよね。ちょっと昔を回顧するような雰囲気です。
更に言うと、右手のCは、手が少し鍵盤に触れるくらいでいいのです。ふわっと、GとGの間を埋める絵具のようなものにしてください。
動画00:35~
いよいよ物語のはじまりです。右手のアウフタクトになんとアクセントが付いていますが、これは『強く』ではなく『大切に』です。タイが多用されていますが、これも8分の6の拍子をカウントせず、するするとつなげていってください。
それに対し左手は、ズンチャッチャのリズムになりがちです。バスのF↓-F↑-F↓-F↑と和音が交互にくるので少し手が飛びますね。1音弾いたらさっと次の音の鍵盤の位置まで手を運んでおいて、触れてから鍵盤を沈めてください。決して鍵盤に手が『当たって』はいけません。
3つの音の和音はこれも色合いです。あくまでも右手のメロディーが浮き上がるように。鍵盤は半分くらいにします。
この半分が難しいんですよね。力を抜こうとすると指先がふにゅふにゅになってしまいます。ので、ゆ~っくり、ひたすら何回も、おいでおいでをするように鍵盤をなでる練習をしてみましょう。
右手のメロディーが2回繰り返される場合、2回目をより抑えて弾いてもよいと思います。
動画00:53~
ここから1段上に登ります。少し明るい兆しが見えますが、まだ先は長いので、ほんの少しにしておきます。
動画01:24~
また同じ繰り返しです…と思ったら、少し装飾が増えました。
ここです。音が2倍に増えていますので、その分音量は抑えて弾きます。まだまだ。これからこれから。
動画01:37~
またさらに登ってきましたね。しかしまだですよ!
動画02:03~
左手
ここもずっと抑えて、なでるように進みます。オクターヴのところも、両手で弾いているかのようにつながって聴こえるようにしましょう。その上に右手のメロディーが浮かび上がります。
拍子は8分の6に聞えなくてよいと思います。むしろ小節の最後の音が次の小節の頭の音にかかるくらいに感じましょう。
動画02:28~
このメロディー、私の大好きなところです。切ないですよね~~~!!!
しかも、1回目はCes、そしてもう1回、今度はCにいって、そこからB-G-と続きます。
このあとの右手は2重唱になりますね。右手だけでするする弾けるようになってから両手を合わせましょう(動画02:38~)。トリルが弾きにくい場合は、弾ける指にするなどの工夫も必要かもしれません。なるべく、ここ弾けません!とばれないように。
そして動画03:01~
ここからが、私の大大大好きなところです!(個人的感想を押し付けてすみません!)
ここはますます音の数が増えて弾きにくいところです。が、音量としてはあまり変わらないくらいでよいので、全ての指が独立して動く、そして調節される必要があります。その中で、1人で何役もしていくのです。
このフレーズのおしまいの部分、左手のオクターヴが下降するところ、このDes-C-Bの3つくらいだけちょっと響かせるとぐっと盛り上がった感じになります。ただし右手は音が多いのでまだですよ。
動画03:37~
ここの部分は最初の大難関です。音を正確に拾いましょう。ぶつかったような和音もありますが、それが味になります。♭や♮がたくさんありますので注意してくださいね。
動画03:52~
ここからは新しいテーマです。子守唄でもいいですし、弦楽合奏でもいいので想像してみてください。そんなに重々しく弾く必要はありません。つなぎ、あるいは、少し手の休憩、くらいに思っても気楽にメロディーが流れて行ってよいかもしれません。
2回出てくるこの装飾音は、1番上の音に付いているので、B-Es-A-Gの順で弾きます。
動画04:49~
これまた弾きにくい部分にきました。右手の親指を押さえたまま弾くのと、左手のタイに続いている細かい音、そして下降の右手の重音と単音の連続。速いテンポでばかり練習していると絶対に弾けるようになりません。ゆっくりやってみたり、切ってみたり、上の音だけ弾いたり下だけ弾いたり。
片手分を実際に歌いながら、もう一方の手は弾いてみる、というのも有効です(とても難しいですが)。
動画05:50~
夢の世界にきました。ただしここから新しく始まるわけではありません。右手のH、タイになっていますよね。世界はつながっています。
動画06:16~
少しほっとしたのもつかの間、何か違う世界もちらっと見えて、キラキラしたものが降ってきます。あれはなんだったのでしょう。
あれ、遠くからバッハのフーガのようなメロディーが聞こえてきましたよ。
動画06:25~
ここまで何度も歌ってきたメロディーが、絡まり合いながらつながっていきます。そして
動画06:53~
いつの間にかもとのところに戻ってきました。
動画07:18~
今度は左手がアルペジオになっていますね。荒波でしょうか?しかし右手は、これまで通り、何事もないかのように続けていかねばなりません。
そのためにはやはり左手ですね。鍵盤を見なくても弾けるくらいになる必要があります。どうしましょうか?ポイントは手首でしょうね。手首が固まっていると自由に動けません。指だけ回すわけにはいかないのです。
しかも、どこかの指だけ大きな音が出るのでは美しくありません。全てが同じように。
和音に分けて、少しずつ弾いてみるのもいいですね。
音の数がとても多くなっています。ここは全ての音をコントロールして、大きくなりすぎないようにします。が、それだけだと物足りないので、音階が上るところは少し盛り上げ、下るところは音量を下げていきます。
右手の高い音は少し派手な感じでもいいです。
動画07:44~
次の場面への移行前にキラキラっとしておきましょう。特にこの2小節。
ただしこの後は下降していきます。指で十分にレガートに。ペダルは踏まない方がよいでしょう。音が濁ってしまいますので。そして、また夢の国へ。
動画07:55~
ここから動画で09:02までは、かなり盛り上がっていくものの、まだ最後の段階ではありません。自分で盛り上がりすぎると、飛ばしすぎて音を外してしまいがちです。
もしもそうなってしまっても、次の和音のところで落ち着きを取り戻しましょう。
動画09:05~
和音はとても手が大きい場合ならとどくかもしれませんが、大抵の方には難しいと思われます。左手はばらして弾きます。ただし1つの和音に聞えるように、全ての音を同じレベルに揃えます。
右手の2つ目はF-Gを親指で弾きますよ。
いよいよ終盤の盛り上がり
動画09:25~
さあ、ここから一気におしまいまでいきますよ!!!
ここからも超難関です。右手と左手が別々の動きをします。右手はここでも単音になったり重音になったり、いやらしい3度になったり!これはひたすらゆっくり練習するしかないでしょう。弾けるようになった時、あなたの指はだいぶ鍛えられているはずです。
ここからは、修行に出て、なかなか帰ってこなかった3番目の息子が帰ってきたところです。悲しみ嘆いていた感情と、喜びの入り混じった複雑かつ激しい感情をぶつけましょう。
しつこく何度も同じことを言い直しますね。あまり速くすっとばしてしまいますと、味がなくなります。熱いけれど冷静な自分も保ってください。
この演奏家も善処していますが、私はもっと細かい音符まではっきり弾きたい方です。
大きな音でなくてもクリアな、明快な音で最後まで持っていき、最後の和音はお腹に力を入れて、腕全体でピアノを押すくらいの気持ちで弾きましょう。音色が全てです。
物語の全容は見えてきたでしょうか。
こんなふうに、ストーリー立てて解釈すると、暗譜にも役立ちます。細かい音については手で覚えるしかありませんが。
こういうお話、あるいは景色や色でもいいと思います。何か自分独自のイメージをもって、演奏してみてください。
この曲は暗いだけではなく、非常に情熱的です。内に秘めた想い、あなたにもあるのではないでしょうか?
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