名前はわからなくても聴けば誰でもわかる曲というのがあると思いますが、今回取り上げるパッヘルベルのカノンもそのタイプの曲だと思います。
この曲はいろんなところで使われています。中でも結婚式や卒業式など式で使われることがとても多いです。
今回も前回と同じようにブライダル奏者としての視点も入れながら書いていきたいと思います。
■ 目次
パッヘルベルってどんな人?
パッヘルベルという作曲家について音楽の授業で習いましたか?音楽室の壁にパッヘルベルの絵がはってありましたか?
教科書には載っていないので皆さん記憶にないと思います。カノンは誰でも知っている超有名な曲なのに、作曲者のパッヘルベルについては全く知られていないのです。
パッヘルベルのフルネームはヨハン・パッヘルベルと言います。ドイツ出身の作曲家です。彼はオルガン奏者や教師としても活躍していたようです。
活躍していた時期はバロック時代です。パッヘルベルは1653年に生まれ1706年に亡くなっています。バロック時代で有名な作曲家には同じくドイツ出身のバッハがいますね。
バッハは1685年に生まれ1750年に亡くなっていますからバッハの先輩ということになりますね。バッハはバロック時代の後期の作曲家なので、パッヘルベルはバロック時代の中期に活躍した作曲家だったということになります。
バロック時代の作曲家は宗教曲を多く書いていますが、パッヘルベルは宗教曲以外の曲も書いており、多くの器楽曲を残しています。生前からオルガン奏者としてまた教師、作曲家として成功していたパッヘルベルは多くの弟子がいたようで作品も人気だったようです。バッハもパッヘルベルの作品に影響を受けていると言われています。
これらのことは皆さんが学ばれた音楽の教科書だけではなく、音高や音大で使われている音楽史の教科書にもほぼ載っていません。実は私のように音楽を専門的に学んできた人たちも彼についてはほぼ知らないのです。
カノンって何?
カノンという言葉には「規則」という意味があります。カノンは輪唱と同じと言われることもありますが、少し違います。輪唱は「かえるのうた」のように始まるタイミングを少しずつずらして同じメロディーを歌うことです。
カノンは輪唱と同じではなく、輪唱よりも複雑です。
カノンには単純に同じメロディーを演奏させる「平行カノン」だけでなく
音符の長さを変えてリズムを変更させる「拡大(減少)カノン」
音型が上下逆になっている「反行カノン」
音型の始まりと終わりが逆になる「逆行カノン」などがあります。
カノンはルネサンスやバロックのポリフォニー(多声)音楽が中心だった時代に多く書かれていた様式の1つでした。
パッヘルベルのカノンってどんな曲?
皆さんがよく知っているカノンは曲の1部です。この曲のタイトルは「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ」と言います。
カノンの部分だけがとても有名になっていますが、実はジーグとセットで1曲となっています。
先ほどカノンにはいろんな種類があると書きましたが、このパッヘルベルのカノンは同じメロディーをくり返す平行カノンが用いられています。(同じタイミングで終わっていますので最後は省略されています。)
楽譜を見て頂くとわかると思いますが、4つのパートが書いてありますね。上3つのパートはヴァイオリンで1番下のパートはチェンバロやチェロなどの楽器が担当します。
1番下のパートは3小節目の頭までしか書かれていません。ここで止めるというのではなく、最後までD→A→H→Fis→G→D→G→Aをくり返して演奏しなさいということです。
支えているバスだけ聴くととても単純なのですが、その上に3つのヴァイオリンパートがタイミングをずらしながら同じ旋律を演奏することで単調に聴こえないようにしていています。
音楽のジャンルは違いますが、このバスの動きはJ-POPにも多く使われているようでカノン進行と呼ばれているようです。現在でも使われているなんてすごいですよね!
カノンの難易度は楽譜によって様々
先ほど書いたように、カノンは元々ピアノの曲ではありません。本当は4つあるパートを無理やり1人だけで演奏できるように編曲するわけですから、全てのパートを弾こうと思うと難易度は上級となります。難しい楽譜になればなるほど、3パートのカノンの再現率が高くなると思います。
初級編
http://ja.cantorion.org/music/439/%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3-%EF%BC%88Canon-in-D%EF%BC%89-Easy-piano初級レベルで弾けるように書かれている楽譜はこの楽譜のようにバスと先行するメロディーだけが書かれているものになっていると思います。
この楽譜の編曲では8分音符までしか速い音符が出てきません。
(この部分が出て来ない編曲になっています。)
1番動きがあって華やかな部分がこの楽譜の編曲ではカットされているのでちょっと物足りなさはありますが、初歩の方でも弾ける編曲だと思います。
有料になりますが「ぷりんと楽譜」というサイトでレベルごとの編曲の楽譜を買うことができます。初級編にもいくつかの編曲があり、楽譜のサンプルも見ることができます。
弾いている動画も少し見られるようになっているので思っていたより難しい楽譜だったなどの失敗が防げると思います。
「ぷりんと楽譜」の初級編の楽譜ではこちらがオススメです。
https://www.print-gakufu.com/score/detail/60034/?ref=rsd1_03_pc_69719
先ほどの編曲ではカットされていた部分がちゃんと入っている楽譜になります。動きの速い部分は指使いをちゃんと守ってゆっくりよく練習すれば弾けないことはありません。
中級編
http://ja.cantorion.org/music/4389/%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3-%EF%BC%88Canon-in-D%EF%BC%89-Arr.-Lee-Gallowayこの楽譜の編曲では途中からレベルがグッと上がります。左手がとても動くので弾きにくい部分になります。この後右手も和音を弾く部分が出てきていて初級レベルよりも難しい編曲になっています。
中級レベルで弾けるように書かれている楽譜は先行するメロディーと遅れてくるメロディーをハモリのように入れながら編曲されているものなど、ピアノらしさを取り入れて編曲している場合が増えてきます。
他の楽器では和音は1人で演奏できないですし、ハモって演奏するのも難しいですよね。
ピアノらしさを出した編曲になってくると右手で3度などの音程を連続して弾くことになったり、右手(あるいは左手)で2つのパートを弾きわけたりする必要があると思います。そのようなところが弾きにくい部分となると思います。
3度が弾きにくいのであれば、まずは練習曲で3度の練習をしてみてはいかがでしょうか。
ツェルニー「100番練習曲」の28番、38番や難易度は上がりますが同じくツェルニー「125のパッセージ練習曲」の24番(右手のみ3度)、26番(24番を両手にしたもの)は3度の練習ができます。
ここまで練習をしておけば中級レベルではそれほど長く3度を弾かせ続ける編曲はあまりないと思いますので、余裕を持って弾けると思います。
2つのパートを弾き分けなければいけない部分が上手くいかないのであれば、まずはパートごとの練習をして合わせるという練習をされるといいと思います。
中級レベルの編曲はバッハのインヴェンションが弾けて、シンフォニアが少し弾ける程度であれば無理なく弾けると思います。
「ぷりんと楽譜」での中級編のオススメ楽譜がこちらです。
https://www.print-gakufu.com/score/detail/26748/?ref=rsd1_02_pc_56232
上級編
上級レベルのものは原曲に近い構成の編曲が多いと思います。そして中級レベルのものよりもさらにピアノならではの編曲になっていると思います。和音で弾くところやアルペジオなどが盛り込まれている場合もあると思いますし、ピアノの最大の特徴は幅広い音域ですから音域を広く使って派手な編曲というものもあると思います。
原曲に近い構成になっているということは中級レベルの楽譜よりも複雑になっているということです。パートごとの動きを理解していないときちんと弾き分けることができませんのでそのパートがどのような動きになっているのかをよく確認することが大切です。
バスは左手で弾きますが、残りのパートは右手だけでは各パートをカバーできない部分というのが編曲によっては出てくると思います。右手で弾いていたのに途中から左手で弾いていかなくてはいけない部分というものも出てくるかもしれません。
1人で複数のパートを弾くというのはこのような点がとても難しいです。
これができるようになるにはバッハのシンフォニアや平均律クラヴィーア曲集のフーガを練習するとできるようになると思います。
上級レベルで書かれている楽譜もいろいろあると思いますが、皆さんが1番手に入れやすい楽譜は全音のピースのカノンではないかなと思います。この楽譜の難易度は中級と書いてあります。
一応、間違わずに音を押さえて弾けるくらいになると思いますが、中級で弾きこなせる編曲には私は思えません。
かなり難しいかと言われれば、もっと難しい編曲もあるので完全に上級レベルとも言えませんが、パートごとに弾き分けてきちんと弾くには上級レベルの技術が必要だと思います。
こちらの動画は上級レベルでピアノらしい編曲だなと思います。
カノンは多くの皆さんが知っている超有名曲なので、編曲も多くあります。それぞれのレベルに応じた編曲があると思いますのでカノンは多くの方達が弾くことができると思います。ぜひ挑戦してみて下さい。
連弾の楽譜も出版されています。カノンの構成をより感じたいのであれば連弾に挑戦されるのもいいかもしれませんね。
結婚式などでよく使われるのはなぜなのか
ブライダル奏者についての記事を書いたときに結婚式でよく演奏される曲というものを挙げ、その中にパッヘルベルのカノンも入っているということを書きました。
なぜこの曲がよく使われているのでしょうか?
この曲は先行する旋律はどんどん変わっていきますが、後からまた同じ旋律が追いかけてくるので聴いたことのある部分が必ず聴こえてくるという形になります。次の展開がどうなるのかだいたい予想がつくので安心して聴くことができます。バスもずっと変わらないので、それも安心感を与えてくれます。
どんな展開になるのかワクワクさせる音の響きや音楽の構成はとても惹きつけられますし魅力的ですが、落ち着いた気持ちにはなれません。
結婚式や卒業式など式で使われる音楽というのは変化があまり多くないもので、音楽に集中しすぎなくてすむようなBGM的なものが多く使われているように思います。結婚式や卒業式などで使用される場合、音楽はあくまで演出の1部であってメインとなるのは式の方なのです。
パッヘルベルのカノンはこの条件にはまっていると思います。
ブライダル奏者の視点から言うとこの曲はとてもありがたい曲です。通常、曲は和音がどんどん変わっていき、別の調の和音を借りてきたり、それをきっかけに転調したりしながら進んで行きます。
そのような変化をしている部分で、もし音楽をストップさせないといけないとなると、すぐには止まれない部分というものも出てくるのです。
そこに行かないような工夫をすればすむのですが、通常の曲の場合はどこにどう飛ぶかという演奏順序を考えなくてはいけません。
カノンの場合はどこでも終らせることができるので、そのような演奏順序を考える必要がありません。
カノンになっているということは先行した旋律を後から追いかけてくるということですよね。先行した旋律が展開していって調が変わってしまったら、追いかけてきた旋律と上手く調和できなくなる部分が出てきてしまいます。
先行する旋律はいろいろと変わっているように聴こえますが、バスの進行からはみ出さないようにしながら、しかし退屈にはならないように前とは違う旋律にちゃんと変化させているのです。
この曲のバスの動きは4小節(楽譜によっては2小節のこともあります)で1つの区切りとなっています。この曲の場合、基本的には1小節または2小節ごとで終わらせることができます。
何も変えないで終われる部分もあればメロディーラインを少し変えたり、カデンツを作って終わらせたりする部分もありますが、どこに飛んで終わらせようかと悩まなくてもすむのです。
例えばこの部分では2小節目の頭の左手をD Fis Aの和音にすることで右手のDの音で止まることができます。2小節目から右手をD Cis D(左手は同じくD Fis A)に持っていくことでも終わらせることができます。
和音の進行はずっと一緒でパターンが決まっているので終わりたいところで主和音(D Fis A)に持っていけるように調整するのも簡単なんです。そのためどこでも不自然にならずに止まれるのです。
この曲はピアノだけではなく他にもいろんな楽器の編曲があります。
ギター
箏
フルート
結婚式で演奏する場合は新郎新婦さんや式場さんのご希望でいろんな楽器編成になりますが、どんな編成になったとしても違和感なく聴けると思います。
パッヘルベルのカノンはとても昔に作られた曲ですが、現在の私達が聴いても素敵だなと思える曲だと思います。流行に左右されることもなく、古臭いと感じさせないこのカノンの旋律は本当に素晴らしいなと思います。
何百年も前に作曲された曲が現在でも演奏され、クラシック以外のジャンルの音楽にも影響を与えているなんて本当にすごいことですよね!
この曲の凄さは演奏してみるとよりわかります。先行していた旋律と追いかけてきた旋律が重なっていくのがこの曲のおもしろいところです。
初級や中級での編曲ではあまり感じられないかもしれませんが、上級の編曲や連弾ではそれを感じることができると思いますので、是非挑戦して感じてみて下さいね!
まとめ
◆パッヘルベルはバロック時代の中期に活躍した作曲家◆カノンは輪唱と同じではなく、輪唱よりも複雑
◆カノンは曲の1部
◆バスの動きは最初から最後まで変わらない
◆元々ピアノの曲ではないため、難易度は編曲によって異なる
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