学生オーケストラの合宿で行う「音当てクイズ」。一音聴くだけで簡単に当てられる曲はいくつかあるんですけど、その一つがストラヴィンスキー「春の祭典」なんです。
なぜかと言えば、しょっぱながファゴットの超高音域のソロ。



割と低めの音域で、トボけた音色の地味な楽器なんですけど、滅多にないソロが、最高音域で曲のど頭なんて、とっても奏者泣かせです。

私も学生時分、ファゴットを担当していたので、陰でこのソロをちょっと練習していました。
演奏会では絶対に遠慮したい一曲ですね。演奏会前に緊張で倒れてしまいます。

一体どんなストーリーなの?


「春の祭典」という名前だけ聞くと、華やかそうですよね。
設定は、春の兆しを迎える古代のロシア。太陽や月、自然のものが神として崇められていた時代です。

太陽神とか火の神とか、神話の世界なんかにもありますよね。雨が続くと、太陽の神が怒っているとか、逆に日照りが続くと水の神に祟られているとか。神々のご機嫌とりが、とっても大切だったわけです。

「春の祭典」でも、太陽神の怒りを鎮めるために「祭典」が行われます。大地礼賛から始まり、生贄を供えるという暗いもので、参加するのはお断りしたいお祭りですね。

まず集団で踊らせて、脱落した娘が生贄に選ばれて、息絶えるまで踊る。けっこうエグいストーリーですが、意外にもクラシック音楽の作品には暗めな内容・設定が多いんですよ。

ヴェルディのオペラ「イル・トロヴァトーレ」は、復讐劇で身内同士で処刑させる残酷なものですし、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」のエンディングは、最後に生首にキスする訳ですから、かなり過激です。

それらの作品と比べたら、「春の祭典」は割と軽めですね。

怒号渦巻く初演

クラシックのコンサートって、コホンと咳をするのすら躊躇うぐらい、静かなのが普通ですよね。楽章間では拍手もできないし、堅苦しいことこの上ない。

「春の祭典」の初演は、そんな静けさとは無縁の、クラシック音楽史上でもトップクラスの波乱に満ちたものだったようです。


こちらが、パリで初演された時の批評ですが、“failure”(失敗)とまで書かれています。

観客はブーイングでは飽き足らず、「医者を呼べ!」とか、それに乗じて「歯医者を呼べ!」と叫んだ人がいたとかいなかったとか。実際、失神した人も出たという記述もあるので、医者は呼ばれたかもしれませんね。

劇場支配人が、観客の暴動を沈めるために明かりをつけなければいけなかったぐらいですから、相当荒れた初演となったようですね。不謹慎ですけど、クラシック音楽で滅多にないスキャンダラスな場面、見てみたい気もします。

心を乱す不協和音

この曲は、「ペトルーシュカ」、「火の鳥」に続く、ストラヴィンスキー3大バレエ音楽の一つです。どれも迫力満点で、ソロも多く弾きごたえがあります。

他の2作品は好意的に受け入れられたのに、「春の祭典」はなんで酷評されたんでしょう。

振り付けの斬新さもあったようですけど、一番の問題は、耳障りな不協和音でしょうね。
耳に心地よいメロディーってありますよね。ラウンジとかで流れていて、リラックス効果のありそうな。

「春の祭典」は真逆で、「この音とこの音をぶつけて、人を不快にさせよう」という実験みたいな曲です。

気持ち良い時間を過ごそうとした観客にしてみれば、リラックススパに行ったのに、阿鼻叫喚のジェットコースターに放り込まれたような感覚。期待を裏切られたら、怒りたくもなりますよね。

初演から100年超。今聴くと?



散々不協和音だの不快感だの書きましたが、それはこの作品が発表された100年も前の話。

無音を延々と聞かされるジョン・ケージの『4分33秒』や、もっと過激な不協和音満載の現代曲に慣れている私達には、「春の祭典」はとってもカッコいい20世紀を代表する名作です。

私は何度かコンサートホールでバレエなし、曲のみの演奏を聴きましたが、自分の中の生々しい感情が引き出される感じで、怖いけど見ていたいサスペンス映画のようで、毎回ゾクゾクしました。

機会があれば是非バレエとしての「春の祭典」を見たいですね。

まとめ

ストラヴィンスキーの「春の祭典」は、

1 生贄を神に捧げるエグいストーリー
2 初演で怒号の嵐が起こったスキャンダラスな作品
3 不協和音の連続が観客の心を乱した
4 初演から100年超の今の評価は、20世紀を代表する名作

革新的なものは、最初は取っつきにくいですけど、慣れると病みつきになりますね。私も2度、3度と聴くうちに段々好きになった作品です。CDで聴くのもいいですけど、生演奏で是非お楽しみ下さい。ファゴット奏者に注目ですよ!


Second movie By Rite of Spring Show Highlights from Kansas City Ballet on Vimeo.

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