ドビュッシー作曲「月の光」。
ピアノを弾いた事がない方や、クラシックはあまり知らないという方も曲を聞けば「知ってる!」となるぐらい、ドビュッシーの中でもかなり知名度の高い曲です。
この曲は「ベルガマスク組曲」の中の1曲で、第1曲「プレリュード」、第2曲「メヌエット」、第3曲「月の光」、第4曲「パスピエ」と、4つの曲になっています。
ドビュッシーはこの「ベルガマスク組曲」を完成させるのに約15年かかったというから驚きです。
私が学生時代、プレリュードを弾いた時に師事していた先生から「15年かかって作った曲なんだから、サラッと弾かないで。ありがたがって弾かなきゃダメよ!」と言われた事があります。
全くその通りですよね。
講師になった今、このフレーズよく使わせていただいています。
さて、今回は「月の光」を美しく、繊細に表現するにはどういった弾き方をすればいいか、演奏のポイント等を交えながら解説していきたいと思います。
「月の光」難易度は?
ベルガマスク組曲の中では、1番難易度が低い曲ではないでしょうか。ツェルニー30番程度が弾ける方なら大丈夫かと思います。
ただ、表現の仕方やペダルの踏み方が安易ではありません。音が少ない所ほど、この曲らしい繊細な音色が要求されます。
ですので、私の主観では中上級といった所でしょうか。
もう少し難易度の低いものでドビュッシーの「子供の領分」や「2つのアラベスク」という曲集があります。こちらをまだ弾いた事がないという方は是非、弾いてみて下さいね。
最初に一定のテンポで譜読みをしよう!
まずは冒頭部分をみてみましよう。9/8拍子となっています。○/8拍子は3拍を大きく1拍として感じて演奏するようにとよく言いますが、それは仕上げの段階のお話です。
譜読みの段階では、しっかり8分音符を1拍として、正確に譜読みをしていってくださいね。
「9/8拍子の連符が分からない!」とか「2連符って何?」って、よく生徒から言われるんですが分かってしまえばすごく簡単です。
先ほど8分音符を1拍で正確に、という事を書きましたが、同じ要領です。
2連符は「いち、にぃ、さん」と数えた時の「いち、にぃ、さん」と赤字にした所で入ってください。
要は、2拍目の裏拍で入るという事です。
6連符も同様ですので、難しく考えずに落ち着いて譜読みをして下さいね。
この曲では、小節をまたいでタイがついている部分が多々あります。こういった所では、まずはタイをとってちゃんとつながっているかどうかを、しっかりと聞きながら譜読みをして下さいね。
「後でペダル付けるからいいや」ではなく、音価をしっかり守る事も美しく仕上げコツです。
ペダルと指先の力を上手に使おう!
先ほどの拍子の所の画像をみていただくと、曲の冒頭に「con sordino」と書いてあります。「コン ソルディーノ」と読み、「ソフトペダルを使って」という意味があります。
1番左側にあるペダルで、使用してみると薄い布をかぶせたようなまろやかな音色になります。ただ、アップライトピアノですとグランドピアノほどの効果は期待できません。
ですので、「pp」や「ppp」の部分はペダルに頼るのは最小限にして、指先の微妙な力加減でもソフトな音が出せるといいですね。
思うように音が出せないという方は、ハノンの前半にあるような簡単な曲でいいので、ものすごくゆっくりゆっくり1音ずつ感触を確かめながら、小さい音でしかも音が抜けないように弾くという練習をしてみて下さい。
ソステヌートペダルを使おう!
グランドピアノにある真ん中のペダルの使い方はご存知でしょうか?案外上級者の方でも知らないという方がいらっしゃるので説明したいと思います。まず、譜例Aはペダルを使わないで弾いた時に、耳に聞こえてくる音です。1つ1つの音が独立して聞こえてきますよね。
では、次に一番右側のダンバーペダルを1拍目の「ド」で踏んでみます。
譜例Bのように、弾いた音がだんだん重なって聞こえてくるよく使うペダルです。
それでは、ソステヌートペダルを使った場合、どのように聞こえてくるのか?こちらは「ド」を弾いた後に真ん中のペダルを踏んでみましょう。
譜例Cのように、「ド」だけがペダルを踏んでいる間ずっと鳴り響いていて、その後に弾いた「ミ、ソ」は独立して聞こえます。
ダンバーペダルはハンマーが鍵盤全て上がってしまうので、弾いた音が全部鳴り響くのですが、ソステヌートペダルは弾いた後に踏んだ音だけのハンマーが上がるので、その音だけが鳴り響くという状態になるのです。
「ソステヌート」とは音楽用語で「音の長さを充分に保って」という意味です。
以上の事を踏まえて、上記の楽譜41小節目の「ファ#」を弾いた後に左足で「ソステヌートペダル」を踏み、なおかつ右足で「ダンバーペダル」を踏むと、途中で「ダンバーペダル」を踏み変えても「ファ#」の音は「ソステヌートペダル」を踏んでいる限り鳴り続けますので、とっても綺麗な響きを作り出す事ができます。
残念ながらアップライトピアノの真ん中のペダルは、「消音ペダル」で夜間の練習や防音対策の為の音を消すためのペダルですので、グランドピアノのソステヌートペダルとは全く意味合いが違ってきます。
でも、発表会などで使用するのはだいたいがグランドピアノだと思います。
ですので、そういった場所で発表する時の為に、是非「ソステヌートペダル」の使い方をマスターして下さいね。
表情豊かな演奏をするには?
ページの最初で貼り付けた楽譜の冒頭部分の発想記号に「Andante tres expressif」とあります。これは「ゆっくりと表情豊かに」という意味です。強弱だったり、テンポを揺らして演奏すると表情豊かな演奏になると思います。楽譜にも発想記号として記載されているので、参考にして下さいね。
15小節目・・・tempo rubato 速度を自由に。
19小節目・・・anime やや活き活きと速く。
25小節目・・・dim molto 時間をかけてとても弱く。
27小節目・・・un poco mosso 少し速く。
37小節目・・・en animant 活き活きと速く。
66小節目・・・morendo jusqu’a la fin 終わりまで弱くしながら遅く。
特に守りたい発想記号を取り上げてみました。
後は、いろいろな演奏を聞いて研究をしてみて下さいね。
まとめ
① 拍子を守って正確に譜読みをしよう。② ソフトペダルと指先の力の加減で、繊細な音を出そう。
③ ソステヌートペダルを使って、綺麗な響きを作り出そう。
④ 発想記号、強弱記号を守って表情豊かな演奏を。
ベルガマスク組曲の中の今回取り上げていない他の3曲も、ソステヌートペダルを使うところが多々出てきます。もちろんその他の曲にも応用できる事なのでまだ使ったことがないという方も、使い方を研究してみて下さいね。
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