前回の記事で平成の楽曲を取り上げたから、というわけでもないんですが今回は現在から約70年も前、昭和25年に発表されました「星影の小径」という曲に取り組んでみたいと思います。

■ 目次

「星影の小径」について


「星影の小径」は小畑実という歌手によって前述の通り、昭和25年に発表されたんですが、その後昭和の後半から平成にかけてちあきなおみや香西かおりなど何人かの歌手によってカバーされています。
2003年には昼ドラ「真実一路」の主題歌として使われています。

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この時代(戦中や戦後間もない頃)に作られた楽曲には並木路子と霧島 昇の「リンゴの唄」や岡 晴夫の「憧れのハワイ航路」などがあり、戦争で沈み込んでいた日本人の心を明るくしてくれそうな曲が多数流れていた反面、アメリカ進駐軍がよく演奏していたジャズのテイストを効かせた楽曲も作られたのではないかと思われます。

それを代表する楽曲のひとつがこの「星影の小径」ではないでしょうか?(時代を経験していないので断言できないのが辛いところです^^;)

作曲者の利根一郎(1918-1991)は他にも「ミネソタの卵売り」(昭和26年)などのヒット曲があります。

余談ですが私が子供の頃(昭和40年代)に某食品メーカーの即席ラーメンのCMソングとして替え歌で歌われていたので知っていた次第です^^;
この曲もやはりジャズの匂いが漂うブギウギのリズムで(まぁアメリカの州名がタイトルになってますから 笑)、戦後の日本を明るくしてくれた楽曲のひとつではないでしょうか?


今回は香西かおりが歌ったバージョンをピアノ伴奏用に採譜して演奏しましたので難易度や弾き方など書いてみたいと思います。
 
星影の小径
※ピアノアレンジと演奏は私です。


私がピアノアレンジしたこのバージョンは難しいピアノテクニックらしいものはほとんどありません。したがって難易度としては全音ピアノピースでいうところの「A」でよいかと思います(「A」にはベートーヴェンの「さらばピアノよ」などがあります)。

しかしながら使われているコード(和音)に関していえばクラシックでは見慣れないコードがあちらこちらに散見されますので、ピアノを趣味で弾いておられる方にはちょっと最初だけ難しく感じられるかも知れません。

弾き方、アレンジについての解説


キーはA(イ長調)です。#はドとファとソに三つです。

「星影の小径」(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)ピアノ伴奏・コード楽譜1
イントロと間奏、エンディングに右手メロディー、左手はベースとコードというごく一般的な奏法が入っている程度で、歌中はほとんど右手はコード、左手はベース音を弾いています。

伴奏パターン自体はそれほど難しくないのですが、上に書きましたようにクラシックでは見慣れないコードがあちこちに見受けられます。

それを一部解説していきたいと思います。

まずイントロのコード進行です。

| A B♭m-5 | Bm Cm-5 | A/C# F#m7 Bm7 E7 | A ~

となっています(動画0分05秒~0分18秒)

注目して頂きたいのはベースの音なんですが、A(ラの音)から始まってB♭(シの♭)、B(シの音)、C(ドの音)、C#(ドの#)と半音ずつ上がっています。

「星影の小径」(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)ピアノ伴奏・コード楽譜2
これを「上昇コード」と呼び、作曲のテクニックのひとつとして使われています。

ベース音の上昇とともに見逃せないのがコードの構成音です。
最初のAコードは一般的な「ラ ド# ミ」の和音なんですが次に使われているB♭m-5コードは「シ♭ ド# ミ」(※下記譜例↓)の和音になります。
※-5の部分は「フラットファイブ」と読みます。この場合ですと、B♭(シの♭)から数えて五番目の音、つまりファの音を半音下げてくださいね、という意味です。ファを半音下げた音は白鍵のミの音になります。したがってこのB♭m-5の構成音は「シ♭ ド# ミ」となるわけです。

「星影の小径」(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)ピアノ伴奏・コード楽譜3
そして次の小節ではBm(シ レ ファ#)からCm-5(ド ミ♭ ファ#)※下記譜例↓

「星影の小径」(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)ピアノ伴奏・コード楽譜4
となっています。

これが何を意味しているかといいますと「フレーズが続いているうちは前のコードの構成音のどれかを残しながら次のコードに変わっていく」ということになります。
こういったコードの使い方をすることで「より滑らかなコード進行」を印象づける楽曲が生まれることになります。

ちなみにこのようなちょっと見慣れないコードを使わなくても、たとえばこのイントロでしたら

| A | Bm | A E7 | A |

というような簡単にしたコード進行でも特に違和感は感じられないと思われます。
たしかに「おかしくはない」んですが、音楽は生身の人間が聴くもの(あ、動物や植物も聴きますね)。
やはり情感に響かせるためには拡がり、奥行き、滑らかさ、を感じさせられるコード(進行)の響きを12個の音(半音階含むド~シまで)の中から探ってゆくのも音楽の楽しみ方のひとつではないかと思います。

歌に入ってからももちろんあらゆる効果を狙ったと思われるコードが使われています。

歌い出し二小節目(0分21秒の部分です)ではE7add9(イーセブンスアドナインと読みます)というコードが使われています。
これはE7の基音であるE(ミの音)から数えて9個目の音を文字通り、付け加えてください、という意味です。
例えばドの音から9個目ならドレミファソラシドレ、つまりレの音を加えます。
※それなら2と書いてもいいのではないかと思われるかも知れませんが、2というコードは本来存在せず、公的にはadd9と表記するのが正しいようです。

ですのでこの曲の歌い出し二小節目のE7add9であればファ#が9個目の音になります(E7に含まれるシの音は左手で弾くベース音として指定されているので、この譜例では省いてあります)。※譜例↓

「星影の小径」(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)ピアノ伴奏・コード楽譜5
このコードにはいったいどんな効果があるかといいますと、Cのコード(ドミソ)の場合はレの音が加わることになります。ドとミの間にあるレの音が入るときっちり三度で分けられている「ドとミ」の両方に寄り添っている印象を植え付けます。
「レ」の音はド寄り?ミ寄り?その(良い意味で)どっちつかずの印象が、ただの単純なC コードに「よりいっそうの拡がりと緊張感」を与えていると私は思います。

ご自宅にピアノがある方はぜひ「ドミソ(Cコード)」の和音と「ドレミソ(Cadd9コード)」の和音の違いを感じてみてください。

このまま続けますとどんどん長くなってしまいますので、コードについての解説はこのへんで終わらせていただきますが、こうして書いていると改めて気づいたことがあります。

何のために※テンションコードが存在するのだろう


それは「コード進行とは音の繋がりがすべて!」とまではいいませんが^^;、これはかなり重要なファクターだということです。

極論すれば流行歌などいわゆる歌モノの楽曲は主要三和音(いわゆるスリーコード)でほとんど弾ける(歌える)という説もあります。それはまぁ極端だとしてもあながち外れてはいないかも知れません。時間の芸術である音楽は一小節かあるいは二拍ぐらいならなんとかごまかして(?)突っ走ってしまえばその場はすぐ行き過ぎます。

しかし無理にそれをするのであれば人の心には響かないでしょう。数秒、いや一秒もない一瞬のコードの響きが人の心を癒やすことも切なくさせることもできると思います。

あるいは恐怖心や高揚感など起こさせることも可能なのがコードの美しさ、面白さではないでしょうか?(もちろんスリーコードだけで心に響く楽曲もたくさんありますのでどうか誤解なきように^^;)。


今回はジャズのテイストが取り入れられた名曲「星影の小径(こみち)」について解説させて頂きました。

最後までお読みくださりありがとうございます。

※テンションコードとは明るい、暗いなど性格のはっきりした三和音(例:ドミソ)にもうひとつ以上の音を加えてより緊張感や切なさなどを感じさせたいときに使われるコードのことです。

まとめ

1.戦後間もない歌謡曲【星影の小径(作詞:矢野亮、作曲:利根一郎)】について
2.弾き方、コードについての解説
3.何のためにテンションコードが存在するのだろう



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