中島美嘉の「STARS」は2001年に発表された彼女のデビュー曲です。
当時放映されていたドラマ「傷だらけのラブソング」の主題歌でした。
中島美嘉自身もこのドラマで女優デビューも果たしています。歌手の卵のような役柄でひとりで「アメイジング・グレイス」を歌っているところを主演の高橋克典に見出され、歌手を目指すというストーリー展開でした。



デビュー曲にしてオリコンチャート3位にまで登り詰め、現在もカラオケなどでもよく歌われている人気曲のひとつです。
今回はこの「STARS」のライブバージョンのピアノ伴奏について検証したいと思います。

昭和のレコーディング



今年の4月いっぱいで平成も終わりということで、またひとつ時代が変わりゆく印象を受けたこの年末年始でした。

昭和が終わりを告げたのは私が23歳の時でした(あ、年齢またバレました^^;)。


音楽でいえば平成になる3年ほど前、昭和60年頃から多くの楽曲にいわゆる「※打ち込み音」が入るようになりました。
※実際に演奏する楽器ではなくコンピューターなどの機械に音符や休符のデータを入力してシンセサイザーやリズムマシンに自動演奏させた音のこと。機械が演奏するのでミスはしなくとも、当然ながら本物の楽器のような臨場感は少なくなります。


それまではコンピューター音楽などの例外を除いて、ほとんどの楽曲は人間の手によって演奏されてきました。

昔からある一般的なレコーディングの手順を簡単に説明しますと、まずドラムの人がリズムマシン(通称ドンカマ)の※クリック音を聴きながら譜面どおりに叩いたものを録音します。
もしクリック音を聞かず人間の感覚だけでドラムを叩いていると、どうしてもテンポがわずかながらでも変わってしまいます。
※テンポキープの合図代わりの音。文字にすると「カッ、カッ、カッ、カッ…」という表現が近いと思われます。

昭和までの名称だった「レコード」(現在のCDのこと)とはその名の通り記録に残すためのものでもありましたし、お店で販売されるからにはテンポが変わっていたりしたのでは、きっちりした「商品」になりにくいという点から、テンポキープに関してだけはアナログの時代でも機械に頼っていたということになります。


そのドラムの録音が終わるとベース、ギター、ピアノ、ホーンセクション(トランペットやサックスなど)、ストリングス等必要な楽器類をそれぞれの奏者が譜面を見て、16チャンネルなどのオープンリールテープに順番に被せて多重録音していきます。
16チャンネルとは最大16種類の楽器や歌の録音ができるテープのことをいいます。テープの上を縦に16本の道が通っていると考えて頂けたらと思います。

それを最終的にステレオ(LとRの2チャンネル)の形にまとめます。

そうして完成したいわゆる「カラオケ」というものをヘッドホンで歌手が聴きながらレコーディング(歌入れ)するといった流れです。


もちろんこれはものすごく簡単にざっくりした説明ですのでミックスダウンやエフェクトなど他にもすることはたくさんあるのですがここでは割愛します。

平成になってレコーディングはどう変わった?


平成になってデジタル技術も進化して随分とレコーディング事情も変わってきました。
レコード会社の録音機材が発達していったのは当然としても、さらにいえるのはパソコンの普及により音楽ソフトを使って自宅で音楽の制作、録音が行えるようになったことでしょうか。

なので一番変わったと思えるのはアマチュアがプロ並みの音質で自宅でレコーディングできるようになったことかも知れません。


そしてそれはリアルな音色が入ったデジタルシンセサイザーやシーケンサー(自動演奏機)がアマチュアでも簡単に手に入る時代になり、ドラムを叩く人、ベースを弾く人、バイオリンを弾く人、トランペットやサックスを吹く人がいなくても、そういった機械を使ってアマチュアでも実にリアルな音が再現できるようになったということでもあります。

もちろん大手レコード会社からリリースされているメジャーアーティストのCDにも現在はたくさんの打ち込み音が聴こえてきます。


そういった打ち込み音が多用されたCDを聴いても、昭和の頃の音楽に多大な影響を受けた私にはどうもしっくりこないといいますか、どこか馴染めないんですよね。

今回取り上げました中島美嘉の「STARS」も私にとって、もともとはそんな印象の曲だったんです。

中島美嘉「STARS」(ショートver.)


電子楽器の音ばかりが耳について、ドラムも本物っぽい音はしてますが、この画一的な表情の無いドラムはもしかしたら打ち込みのドラムかなぁ、と思わせます(あくまで私個人のイメージです)。

だけどこれ↑とは別の動画でライブバージョンの「STARS」を聴いて曲に対する印象が変わりました。

ライブバージョンではピアノ主体で静かめのしっとりしたアレンジで歌われていたんです。

そのライブバージョンの動画からデジタルオーディオプレイヤーに録音して耳コピーしたのが下↓の動画です(残念ながらその元の動画は現在は削除されているようです)。

平成のヒット曲、中島美嘉「STARS」(ライブバージョンのピアノ伴奏)でどんなコードが使われているか?

 
※採譜と演奏は私です。


歌詞もさることながら、メロディーもとてもキャッチーで非常に完成度の高い楽曲だなと思うようになりました。

そして調べてみてわかったんですが、なんといっても驚いたのがコード(和音)の複雑さ!

あまりの難しさに耳だけで聴き取るのは困難(つまり技量不足^^;)と思い、ネットのサイトで調べました。



ただしコードがわかってもそこは音源(つまりライブバージョンの音源のことです)をよく聴いて「このコードで本当に合っているのか?」「※ボイシングはどうなっているか?」などはしっかり聴き込んで取り組まないとせっかく採譜しても原曲の雰囲気が出ないことがあります。
※ボイシングとは和音に含まれる音の配列のこと。例えば鍵盤上のドミソとソドミではコードは同じCコードでも「ボイシングが異なる」という表現の仕方をする。

そうして採譜してみると、私がこれまで経験したことのない現象を見つけてしまったんです。

というのは、キーはFメジャー(ヘ長調)なのにこのFコードがまともに使われているのは最後も最後。曲のエンディング部分の最後の音伸ばしの部分だけなんです(6分49秒~)



虚を突かれる、というのはこういうことをいうのでしょうか(ちょっと違うかな 笑)

さらには曲中で使われているコードはベース音指定やテンションコードが目白押し。普通にアルファベット一文字のコードネームなんてまずありませんでした(調べてみますと解釈の仕方によってはコードネームも変わるので、一概にはいえないようなんですがね^^;)。

とはいってもこんなコードの使われ方をされている楽曲は昭和の時代には少なくとも私は知らなかったです。

たとえば歌い出し(いわゆるAメロ)のコードはGonBから始まっているのですが(動画0分20秒)、同じメロディーであるにもかかわらずA’(Aダッシュ)の部分ではGm7onCという先ほどとは全く異質なコードから始まっています(動画0分50秒)。しかしながらもちろん違和感はありません。


この曲はキーはFですので通常の歌モノで使われるコードは以前の記事で説明しましたように

F Gm Am B♭ C Dm C7 F

のコードが中心に使われるはずです。そしてその説明の際には「もちろん例外は除きます」とも書きました。

しかしながらこの曲のコード進行を見ていくと「ほとんど例外のコードばかりが使われている」ことを認めざるを得ません。

趣味でピアノを弾いている人で、ここで使われている「例外のコード」の構成音がすぐわかる人はいいんですが、そうでない人にはこの曲を弾くのは困難かも知れません。

そこでこの例外的なコードについて一部だけお話しさせて頂きます。



Aメロ後半(動画0分36秒)に使われている「Bm7-5」コードは従来の形はBm7(シレファ#ラ)なんですがB(シ)の音から数えて5つ目の音、つまりファ#の音を半音下げてください(つまりマイナスにしてください)、という意味になります。
したがってここでは「シレファ♮ラ」となります。

中島美嘉「STARS」(作詞:秋元康 作曲:川口大輔)ピアノ楽譜・コード:Bm7・Bm7-5
そしてサビ(Cメロ)の歌い出しの部分は「Eaug」(augはオーギュメントと呼びます)が使われています。略して「E+」と表示されることもあります(動画1分19秒)

これはEコード(ミソ#シ)のコードの五番目の音(シの音)を半音上げて「ド」にしてください(つまりプラスにしてください)という意味になります。

中島美嘉「STARS」(作詞:秋元康 作曲:川口大輔)ピアノ楽譜・コード:E・Eaug

つまり先ほど説明しました「-5」とこの「+5」(aug)の和音があるように基音から5番目の音も曲の雰囲気を左右するのにとても大事な役割を担っているというのがおわかりいただければと思います。




上記にアップしました私の動画でもテクニック的に難しいことはほとんどしていないのに(難易度的には全音ピアノピースのB 程度です)押さえるコードがややこしいのでステージで弾くときなどよく間違えます(アカンやん!(・・;))

だけどもやっぱりオリコンチャート3位までヒットしただけあって聴いてる人を癒やしてくれる素晴らしい楽曲であることに変わりはありません。

下にリンクを貼っておきますので、この「STARS」のコードだけでもぜひ弾いてみてください。
平成の音楽史上に残るであろうこの楽曲の美しさを伴奏という側面から実感していただきたいと心から思います。



中島美嘉「STARS」コード譜 
https://music.j-total.net/data/021na/017_nakashima_mika/002.html


今回は昭和と平成の違いをレコーディング背景からの視点を含めてお話しさせて頂きました。

最後までお読みいただきありがとうございました。


まとめ

1.昭和のレコーディング
2.平成になってレコーディングはどう変わった?
3.平成のヒット曲、中島美嘉「STARS」(ライブバージョンのピアノ伴奏)でどんなコードが使われているか?


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