これまで記事で色々書いてきたように私は普段ピアノを教えていますが、土日はブライダル奏者として活動しています。

今回はもう1つの仕事であるブライダル奏者としての記事を書いてみようと思います。

結婚式にもシーズンがあり、涼しくなり過ごしやすくなってくる9月中旬くらいから11月にかけては結婚式が多く執り行われるシーズンで、ブライダル業界は今とても忙しい時期です。

この秋の時期だけではなく、3月下旬くらいから5月にかけての春のシーズンもとても多いです。暑い時期や寒い時期を避けて行う方々が多いです。

このシーズン以外にされる方々も、もちろんいらっしゃいますが、夏だと台風の心配がありますし(9月はまだ台風が来る可能性がありますが…)、冬だと雪の心配をしなくてはいけないかもしれません。

遠方から来られる方々は飛行機や新幹線などの交通状況によっては、参列できないこともあります。そういった心配がほぼないのが春と秋のシーズンなのです。

今回はブライダル奏者がどのようなことをしているのかなどについて書いていきたいと思います。

■ 目次

ブライダル奏者とは?


ブライダル演奏には「結婚式で演奏する」ものと「披露宴で演奏する」ものの2つがあります。私は「結婚式で演奏する」方の仕事をしているのでそのことについて書いていきますね。

結婚式で演奏するというのはどういうことなのかというと、新郎新婦の入場や退場などの際に音楽を演奏して演出するということです。

式の流れは式場によって違いますし、新郎新婦のご希望もありますので毎回同じということはありません。

結婚式には「キリスト教式」、「人前式」、「神前式」があります。

「神前式」は主に神社で執り行われており、音楽は雅楽が使用されると思います。楽器は篳篥や笙などを使って演奏します。これらの楽器を演奏できる人達はあまり多くはないのでCDなどで対応する場合もあると思います。

「キリスト教式」や「人前式」では聖歌隊、オルガン奏者、司式者がセットになっていることがほとんどです。聖歌隊は1人の場合もありますし、2人や3人ということもあります。

編成は聖歌隊とオルガンというタイプが一般的だと思いますが、これに楽器が加わることもあります。楽器はフルート、サックス、トランペット、ヴァイオリン、チェロなど様々です。

式場や新郎新婦のご希望で色んな編成になりますが、共通することは式の進行に合わせて音楽を演奏するということです。

演奏する曲は式場ごとにあらかじめ決められていて、リクエストなどがあればそれに応えるという感じです。

式の流れは様々ですが、「キリスト教式」も「人前式」もだいたいこのように進みます。

新郎入場

新婦入場

誓約

指輪交換

ウエディングキス

結婚証明書署名

結婚宣言

新郎新婦退場


「キリスト教式」の場合は聖書朗読や全員で讃美歌を歌うなどが入ります。「人前式」は形式にとらわれないというのがコンセプトなので本当に色んなパターンがあります。

曲がない場合もありますが、流れごとに曲が決まっていて楽譜も用意されているので、決められたタイミングで演奏し始めて、進行ぐあいを見ながら曲のサイズを計算し、終わるべきタイミングで曲をストップさせます。

この進行ぐあいを見ながら演奏するというのが普段の演奏とは違うところです。普段人前で演奏する場合、最初から最後まで弾いて終わりですが、ブライダル奏者は最後まで弾いたら終わりではいけないのです。

新郎新婦の動きや式の流れに合わせなくてはいけないので、1回弾いてもまだ全然サイズが足りないということはよくあるのです。その場合どうにかしてつながなくてはいけません。

どこに戻るなどは楽器の人や聖歌隊の人達と決めておきますが、それをやっても足りない場合はオルガンのみでつなぐということもあります。

逆に式がスムーズに進んで早めに曲をストップさせなくてはいけない場合もあります。

ミスをしないというのはもちろんのこと、良きタイミングまでつなげない、止まれないというのは許されないのです。

結婚式の流れを妨げることなく、音楽で盛り上げて演出するというのがブライダル奏者の仕事です。

どんな曲が多く使われているのか


式の中で使われることの多い曲をあげていきますね。

「キリスト教式」の場合だとやはりクラシックが多いです。

メンデルスゾーン「結婚行進曲」
ワーグナー「結婚行進曲」
パッヘルベル「カノン」
バッハ「G線上のアリア」
バッハ「主よ人の望みの喜びを」
シューベルト「アヴェマリア」
ヘンデル「オンブラマイフ」
エルガー「愛のあいさつ」
リスト「愛の夢第3番」
シューマン「トロイメライ」etc…

クラシック以外も使われます。

「アメイジンググレイス」
「君の瞳に恋してる」
「虹の彼方に」
「ユーレイズミ―アップ」etc…

他にもディズニーの曲が使われることもあります。

「ホールニューワールド」
「いつか王子様が」
「星に願いを」etc…

他にもたくさんあると思いますがよく使われているのはこれらの曲だと思います。

ピアノとは弾き方がちがう


披露宴会場にはピアノがある場合も多いと思いますが、チャペルでピアノが置いてあるところはないと思います。式場によって楽器は様々でオルガンの場合もあれば、キーボードの場合もあります。

ピアノもそれぞれ個性があって少しずつ違いがありますが、キーボードに比べたら誤差みたいなものです。キーボードは機種によって全く違います。

ピアノのようにタッチがきくものもあれば、全くきかないものもあります。逆にききすぎるものもあったりします。

キーボードではピアノと違って様々な音色を選んで出せますが、音色によって弾き方を少しずつ変えなくてはいけません。ピアノの場合、ペダルを使って音をのばすことができますが、オルガンはペダルがありません。キーボードもペダルがないものもあります。

そうした場合、ピアノの楽譜をそのまま弾いては不自然に聴こえる部分というのが出てきます。その場合はその楽器や音色に合うように編曲しなおさなければなりません。

例えばペダルのないキーボードで弾く場合、バスの音をのばしておきたいけど楽譜通りに弾くと音が跳躍していて切れてしまう部分があるとしましょう。ピアノならペダルでのばせていた部分がのばせなくなった場合、どうするのか。

そうした時には、左手の音を変えてバスをのばしながら弾けるように伴奏形を変えてしまいます。オクターブ以上に音が飛んでしまうとバスを鳴らしながら弾くことは不可能なので、オクターブの範囲以内で弾ける音の動きに変更してしまうのです。

この他にもピアノのようにタッチのきく音色なら大丈夫なのですが、そうではないものに関しては音の厚みにも注意が必要です。

ピアノの場合だと複数の音を同時に弾いたあと単音になってまた複数の音に戻ったりすることがあると思いますが、そのように弾いても変な感じはしませんよね。それはタッチで調整しながら弾いているからです。

しかし、タッチがきかないものやオルガンの音色の場合にそのようにすると大きかった音が急に小さくなって、また急に大きくなってしまうのです。

このような弾き方をするとうねりのようになってしまいます。このようにしないためには急に音の数を増やしたり減らしたりしないことです。

タッチで音量を操作できない場合、クレッシェンドしたい時は音価を徐々に長くするか音数を増やします。デクレッシェンドしたい時はその逆をします。ピアノの弾き方とはちょっと違う弾き方や工夫が必要なのです。

何だか悪いことばかりだなと思われてしまったかもしれませんね。良いことだってあるんですよ!

ピアノは弾いた後そのまま鍵盤を押さえていても音がどんどん衰退していき、そのうち音が消えてしまいますが、オルガンやキーボードの場合押さえておけばずっと鳴りっぱなしにすることができます。(機種や音色によってはできないものもあります。)

ピアノで同じ音を弾く場合はもう1度弾きなおしますが、オルガンやキーボードの場合は弾きなおさなくても押さえておけば鳴ったままにしておけるのです。(場合によって弾きなおすこともあります。)

動きに合わせて音楽のサイズを調整する


だいたいの曲のサイズはあらかじめ決められているのですが、歩く速さは皆さんそれぞれ違いますし、ベールダウンがある場合とない場合でも長さは変わります。

指輪をお子様が運ぶという演出はよくありますが、新郎もしくは新婦の飼っていらっしゃるワンちゃんが指輪を運ぶという演出もあります。その場合なかなか進んでくれないというハプニングがおこったりします。

このようなハプニングが起こった場合でも冷静に対処しなくてはなりません。

いつ音楽をストップさせるのか読めない場合は他の楽器や聖歌隊の人達と一緒に演奏するのは難しいので、決まったサイズまで一緒に演奏した後はオルガンでつなぐことになると思います。

オルガン奏者は曲を一通り弾けるようになっているだけではダメで、どこでも終わらせられるようにしておく必要があります。だいたい2小節ごとぐらい(長くても4小節くらい)で終われるようにしておくと安心です。

終わらせるのが難しい部分も中にはあるのですが、どのような状況になるか読めない場合はそこには行かないように工夫します。止まりにくい部分には進まず、しかし不自然にならないように上手くつなげる部分を見つけておきます。

それプラスその曲に沿ったコードを弾けるようにしておくといつでも終わらせることができます。

メロディーを弾いてしまうとどうしても切りにくくなってしまいますが、コードだとカデンツを作ってすぐに終わらせることができるので、もうそろそろストップさせないといけないなと思ったら良いところでコードに切り替えておくと不自然な感じで終わることはありません。

どうやって途中で終わらせるのか



このような楽譜も売られています。この本はブライダルで使える曲がたくさん載っています。そして演奏順序も書いてあります。サイズ調整をする際の参考になるのでオススメの楽譜です。

終わらせかたは奏者によって様々だとは思いますが、私がどのように曲をストップさせているか書いていきますね。

演奏される機会の多いシューベルトのアヴェマリアを例にしてみます。

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜1
この曲は3番まであります。演奏するテンポにもよりますが全て演奏すると5分弱かかります。そのため、式で演奏される場合は1番だけなど短縮されたものがほとんどだと思います。

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜2
1番が終ったら最後の後奏に進んで終わりというサイズで用意されているパターンが多いのではないかなと思います。まずこれが基本のサイズですね。(ヴァージンロードの長さ、階段のありなし、曲を新婦入場時で使うのか、指輪交換時に使うのかなどによってもサイズは異なるのでこのサイズではないこともあります。)

とてもスムーズに式が進んでいき、基本サイズでストップできる場合もありますが、ほとんどの場合はサイズが足りません。(短くなることもないわけではありません。)

サイズをのばさないといけない場合はたいていの場合、オルガンのみでつなぐことになるので、楽譜通り伴奏だけ弾いていてはいけません。歌が終ってしまうとメロディーが消えてしまうことになるので、メロディー部分もオルガンで弾かなくてはいけません。

楽譜を見て頂くとわかるように両手で伴奏を弾いているので、楽譜の通りに伴奏を弾きながらメロディーもカバーするのは不可能です。そのため弾き方を変更し、右手でメロディー、左手で伴奏を弾く形にして弾きます。

まずはこの弾き方で通して弾けるように練習します。

それができるようになったら、先ほど書いたようにどこでも止まれるように練習します。2小節くらいずつで止まれるようにしておくと良いです。(長くても4小節くらい)

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜3
この楽譜は曲の頭の部分です。「Ave Maria!」までをメロディー弾きして、後奏につなげてストップさせることができます。次の「Jungfrau mild」までをメロディー弾きして、先ほどと同じく後奏につなげばストップさせることができます。

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜4
Mildの後は途中で切ると不自然な感じになるので、we henのところまでは弾きます。we henまで弾いてもうすぐ終わらせなくてはいけない場合はF→Esと音を変化させて後奏前のAve Mariaに持っていくようにしています。Wirから先に進んでしまうとまた切りにくくなるので、長くかかりそうな時だけ進むようにしています。

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜5 (動画4:58~)

この後奏はとても便利です。

後奏部分も途中で止めることができます。1段目の2小節目の2拍まで弾いて和音で弾いてストップさせることができます。

その後は音が上っていくのですぐにはストップできませんが、2段目の3拍目の和音でストップさせることができます。

ここからは音がかなり下がってくるのであまり使いたくはない部分だなと私は思っていますが、ストップさせることもできます。2段目の2小節目の頭の和音でも終われます。

このように終われそうな部分を見つけておいて終わらせています。本当にあともう少しというときにメロディーに戻ってしまうと良いタイミング終れないかもしれないので、そのときは私の場合コードを弾いてつないでいます。

コードはこんな感じです。

シューベルト「アヴェマリア」ピアノ楽譜6
矢印の部分で終わらせることができます。(3小節目はカッコの中の和音に変更します。2回目を弾く場合は4つの音を1度に全部弾かないで少しずつずらして弾いたり、左手を分散にしたり、少しリズムをつけたりと同じにならないように気をつけます。

上手く後奏につなげなかったり、自然に飛べるところが見つけられなかったりする曲も中にはあると思います。その場合はメロディー弾きをしていても途中で止められるようにしておきます。

終わらせかたとしては、メロディーの音を少し変化させて終止に持っていったり、カデンツを作って終わらせたりと不自然に聴こえないようにその場所にあった終わらせかたをしています。

ブライダル奏者に求められること


間違えずに演奏したり、周りの状況をよく見て演奏したりというのはもちろんなのですが、結婚式を音楽で盛り上げる、演出するという気持ちが必要なのではないかなと思います。

ブライダル奏者の仕事はいつも同じということはないので大変なこともありますが、とてもやりがいのある仕事です。

奏者としての応募資格は音大を卒業していないといけないということはありませんが、ある程度の演奏技術が必要になります。ブライダル奏者の募集は調べてみると色々と出てくると思います。興味を持たれたらまずは応募してみてオーディションを受けてみて下さい。

お仕事を始める前にたいていレッスンなど研修を受ける期間を作って頂けると思います。そこでしっかり教えて頂いて勉強すれば大丈夫です。

今回はブライダル奏者について書いて来ましたがいかがだったでしょうか?この記事でブライダル奏者について興味を持って頂けたら嬉しいです。

まとめ

◆式の進行に合わせて演奏する
◆使用される曲はクラシックが多い
◆楽器や音色によって弾き方を少しずつ変える必要がある
◆どこでも止まれるように練習しておく必要がある
◆結婚式を音楽で盛り上げる、演出するというのがブライダル奏者の仕事



シューベルト「アヴェマリア」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。ペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

 ピアノ曲の記事一覧