いつものメンバーで、舞曲をテーマにコンサートをすることになりました。さて、何を弾きましょう?
舞曲といってもいろいろありますよね。すぐ思い浮かぶのは、曲名に「舞曲」と付いているハンガリー舞曲(ブラームス作曲)やスラブ舞曲(ドヴォルザーク作曲)。それから、踊りの形式を表す「ワルツ」や「ガボット」なんかもありますね。
「舞曲について」というキーワードで検索してみましたら、グリーグも「ノルウェー舞曲」というのを書いているようですし、シューベルトも非常に多くの舞曲を書いていることがわかりました。
日本にも盆踊りや花笠音頭といった踊りの曲が多くあるように、本来人間というものは踊ることが好きなのかもしれません。しかしこうして見てみると、盆踊りとハンガリー舞曲ではだいぶ雰囲気が違って、民俗的要素が多分に含まれていることが容易にわかります。それでは、私はヨーロッパの方に行ってみようかな?と思ったときに、テレビから聞こえてきたのがこの曲でした!
この方は、割とすっきりとした演奏をされていますが、みなさん聴いたことのある曲ですよね!? そう、あの、完成した時の「なんということでしょう」で有名な番組のBGMとして採用されていたアレ。
実はこの曲、タイトルが「ルーマニア民族舞曲(Sz.56)」といいます。これを作曲したのが当時はオーストリア=ハンガリー領、現在のルーマニアで生まれたバルトーク・ベーラ(1881~1945年)。
バルトークは、幼い頃に父親を亡くしたため、母の仕事に伴い各地を転々とした後に現在のハンガリーに移り住み、18歳でブダペストの王立音楽院(現、リスト音楽院)に入学。その頃のハンガリーでは民族主義運動が続いていたこともあって、マジャール族の古民謡を1万曲以上も収録し採譜、整理したと言われます。
ルーマニア民族舞曲は、バルトークの民俗音楽による作品の中でも最もよく知られており、6曲からなる小曲集になっています。ピアノ独奏だけでなく小管弦楽版、別の人により編曲されたピアノ伴奏とヴァイオリン版やオーケストラ版もあります。
私の主観ですが、難易度を3段階でわけるとしたら、
★ 第1曲
第4曲
★★ 第3曲(装飾音の入れ方にポイントがあります)
第5曲(手の交差がありますが、第6曲ほど難しくはありません)
★★★ 第2曲(ただし繰り返し後を単音で弾く場合は★くらい。詳細はのちほど!)
第6曲(速く弾ければ大丈夫!これが一番有名でかっこいいです)
という感じです。有名なのに、全音ピアノピースにはなっていないのですよね。技術的にめちゃくちゃ難しい、ということはなくいずれも中級程度の方であれば弾けると思います。
子供さんが多く参加するコンクールの課題曲としてもよく登場していますが、その場合は全曲ではなく、1・2・3・6や1・2・5・6など一部抜粋されたりもしますね。
さてさて、それでは弾いてみようかな。まずは楽譜…
棚をごそごそやってみたら、バルトークと書かれたものがあるじゃないですか。
「バルトーク ピアノ作品集 ドレミ楽譜出版社」
もしかしてこのなかにあの曲があったりして?とワクワクして開くと、ほんとにありました!!!これはもう弾くしかない。わくわく。
解説を見ると、1915年に作曲されています。それぞれのタイトルがこちら。
第1曲 棒踊り(杖踊り)
第2曲 飾り帯(腰帯)踊り
第3曲 足踏み踊り
第4曲 ブチュム人の踊り(角笛の踊り)
第5曲 ルーマニアのポルカ(あ、ポルカもありましたね!)
第6曲 速い踊り(2曲)
実は全部で7曲あったものを6曲にまとめてあるのですって。
■ 目次
組曲をどうやって弾き分けるか
いくつかの曲で1つの曲になっているものは、大抵それぞれの曲に名前が付けられています。盆踊りにもいろいろな曲や踊りがあるように、ルーマニアの踊りにも種類があるのですね。
実際にどんな踊りなのか、衣装はどんななのか、自分なりにいろいろ調べてみたのですが、あまりわかりませんでした。それで、タイトルから勝手にわいてくるイメージと、楽譜の楽曲解説から想像した踊りを踊っているつもりで弾くことにしました。
第1曲「棒踊り(杖踊り)」
第1曲目の棒踊り(杖踊り)は、タイトルのように、杖(棒)を持って踊っています。ステップを踏む合間に地面を棒で打っているかもしれませんし、杖を使って少し遠くにジャンプしているのかもしれません。(動画最初から)
右手はメロディーを奏でていますので、左手がリズムを刻んでいます。ただ、自由なリズムなので、この動画の演奏のように、メトロノームにきちきち合わせていなくても大丈夫です。
むしろ、左手だけでも躍動感が出るように、そして、1小節目の1拍目と2拍目を見るとわかるように、1音と3音の違いがありますが、これらの音量バランスを考えるようにしましょう。つまり2つめが大きくなりすぎないように。丸をつけたところはだいたい同じくらいのバランスになるようにします。
ただし、アウフタクトを含んだ5小節の間にクレッシェンドがあります。後半部分にデクレッシェンドは書かれていませんが、四角い枠で囲った部分の左手、一番上の声部が下降していますので、少しそこで収める(おしまいに向けて少し音量を下げる)感じにするとよいと思います。
そして、同じメロディーが繰り返されますが、2回目は少し音やリズムが変わっていますので、そこを楽しんでみましょう(動画0分22秒くらいまで)。
次からはちょっと悲しいような、ふっと何かが通り過ぎるような雰囲気を感じますね。
でも動画0分32秒あたりから、まあいろいろあるけどなんとかがんばろうよ、と言っているように聞こえます(動画0分40秒くらいまで)。このメロディーもまた繰り返されます。今度は装飾音などもついて、きらびやかな感じすらします。
しかし最後は、強い決意のようなものを、何度も出てくるA(ラ)で表現していますね。
第2曲「飾り帯(腰帯)踊り」
ひといきついたら第2曲。飾り帯(腰帯)踊りです。解説によると、晴着で着飾った農民たちの楽しい踊りだそうです(動画1分04秒~)。この動画の演奏はかなりアップテンポで演奏していますが、楽譜の解説のように、繰り返し部分(動画だと単音で演奏していますが1分14秒~)の右手をオクターヴで演奏するよう指示された楽譜もあります。そうするとちょっと難しくなります。
特に手の小さい方は、左手も跳躍していますので、鍵盤を見ずにオクターヴをなめらかに弾くのはなかなか大変ですね。装飾音も、オクターヴで入れる方もいますが、そうするとかなり難しいので、細かい飾りは上の音だけ入れる、ということでもよいかもしれません。
どうしてもオクターヴが難しい場合は単音で演奏してもよいと思いますが、その場合、1回目と2回目で変化をつけるためにも、2回目の4小節毎(枠で囲った部分のあたり)に、少しテンポを落とすなどしてみるとよいでしょう。
第3曲「足踏み踊り」
第3曲。足踏み踊り。ここまでも短調の曲が続いていたのですが、より一層悲しさを秘めた、単調らしい曲になります(動画1分33秒~)。2曲目との間を、前よりも長めにとるとよいかもしれません。左手から入りますが、決してがつがつ弾かない。そっと鍵盤に触れるようにして、鍵盤を押すようにしてみてください。
右手のメロディーはなんとも不思議な雰囲気。これは半音階を使っているから出る効果なのでしょうね。
この、青丸で囲んだ音あたりがポイントかと思います。強く、とかではないのですが、心で意識して弾いてみてください。
ジプシー音階風の労働歌、と解説にあります。つらい労働をイメージしてみるという手もありますね。
ジプシー感が出るような装飾音というのも研究する価値あり。装飾部分のみが大きくなりすぎると飾りでなく本体になってしまいます。この動画のように演奏できるといいですね!
第4曲「ブチュム人の踊り」
さて次の第4曲、ブチュム人の踊りも左手のみで始まりますが、だいぶ雰囲気が違いますよね。そう。初めての長調です(動画2分40秒~)。3小節目でE-A-Cisの和音が完成します。温かい和音ですよね。しかし次の小節から趣が変わり、5小節目にはまた短調になってしまいます(青丸部分)。その変化を、メロディーはもちろんですが、左手の和音で表現してみましょう。
前にも少し書きましたが、通常音が上向する場合(高い音にのぼっていく場合)はクレッシェンド気味に、下降する場合はディミヌエンド気味に演奏します。
左手の一番上の音が下降していきますし、途中で半音の魅力も出てきますので、そのあたりもじっくり味わいましょう。つまり、左手だけでもうっとりしながら練習する必要があります。
そしてこのメロディーも2回繰り返されます。ここでは淡々と同じように2回弾いてみる、という手もあるかもしれません。
なぜなら、次からのメロディーが、またもや不思議そのもの(動画3分01秒~)。ぶつかった音などがあるためですよね。
そして繰り返す動画3分12秒からは、それがますます変化して、左手はより低音で支えるようになります。
いよいよです!
第5曲「ルーマニアのポルカ」
そして第5曲へ。ルーマニアのポルカです(動画3分24秒~)。ここから一気に最後まで駆け抜けます。まずはこの動画のように、最初の音を思い切り号砲のように鳴らしましょう。変化が出ます。
しかしその先からもどんちゃん弾いてしまうと、とてもうるさくなってしまいます。また、右手は装飾音符がたくさんついていますので、軽やかなダンスにするためにはそれほど大きな音は必要ありません。
そのかわり、4分の2拍子と4分の3拍子の違いをしっかり強調しましょう。
2拍子の2拍目にsf(スフォルツァンド)がついていますね。ここの左手はしっかり弾きます。右手は細かい音符になっているのであまりがんばらなくてよいです。
第6曲「速い踊り」
動画3分53秒からが第6曲、速い踊りです。文字通り速く弾けばかっこいいのですが、それだけだと味気ないので、やはりリズムを感じましょう。
右手は軽やかに、素直に弾けば爽やかさが出ますね。問題はやはり左手です。
シンコペーションのリズムは知っていますか?
この、赤枠で囲ったリズムのことです。
♪♩♪のように、本来、いち、に、とカウントするところを、少しリズムを変えて、違うところに重点を持ってくるようなリズムをシンコペーションと呼びます。
これはなかなか効果的なので、いろいろな曲につかわれているリズムです。
右手が軽快なメロディーを奏でている間に、このシンコペーションを左手で何食わぬ顔で弾けるよう、しかも1小節ごとに普通のリズムが入る変則的な構成ですから、それができるよう片手だけの練習も欠かさないようにしましょう。
小節頭のアクセントを2つ目にずらすとかっこよく聞こえます(楽譜にも、テヌートが付いていて、そこを大切に弾くよう指示されていますね)。
動画4分05秒からはより一層テンポアップします。ここからが本来第7曲だった部分でしょう。この動画のように、焦って突っ込まないように一旦間を取ってから弾き始めます。
この左手に注目!さきほど出てきたシンコペーションのリズムが3小節目に出てきています。かろうじて2小節目と4小節目が同じリズムですが、この激しいリズム変化がまたたまりませんね。
そしてクライマックス(動画4分24秒~)。どんどん突き進んでください!
ただし、ここでもポイントとなるのが左手です。音の数が1つ、2つ、3つと変化しますし、2音の間隔も変化し放題。どの音も同じように弾けるように、しっかりここも片手練習しましょう。
そしておしまい部分の右手は、何度も繰り返されるA-G-Aを楽しんで、左手もAで終了です!
バルトークのルーマニア愛
実は、バルトークにはもう1つ、ルーマニアに関わる曲があります。それがこちら。
「2つのルーマニア舞曲 Op.8a Sz.43」
0分45秒からのところですとか、随所にルーマニア民族舞曲と似たような雰囲気がありますよね。音の進行が上っているか下っているかの違いはあるものの、リズムがよく似ているようです。
やはり舞踊、つまりダンスといえばリズムですよね。
それぞれの踊りをイメージできてきたでしょうか?生活に根差したメロディーとリズムですから、自由に弾いて楽しんでくださいね!
「ルーマニア民族舞曲」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1918年にウニヴェルザール出版社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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