この「愛の夢第3番」は、クラシック音楽に興味のない方も1度は聴いたことがあると思います。
どこで聴いたのか覚えていますか?
先日、現役を引退されたフィギュアスケートの浅田真央さんが2011年~2012年のフリースケーティングプログラムでこの曲を使用されていました。
私は、この曲を聴くと真央さんが滑っているのを思い出します。
曲にあった振付け、衣装、滑らかなスケーティングがとっても素敵でしたね。
この他にもこの曲は、聴く機会があるんですよ。
メロディーがとにかく素敵でタイトルが「愛の夢」となっているので、結婚披露宴で演奏されることが多いんです。
この曲の作曲者は、フランツ・リストです。
「6本、指があるのではないか」と噂されたり、「ピアノの魔術師」と呼ばれたりした、あのリストです。
リスト=超絶技巧のイメージがありますよね。
ですが、この曲を聴くと「あれっ?ガチャガチャした超絶技巧じゃないじゃん!!」と思ったのではないでしょうか。
リストは技巧的な曲をとても多く作曲したのですが、この曲にようにメロディックで素敵な曲もあるんです。
この曲ももちろん好きで弾きますが、私はこの曲の他に、「愛の夢」と同じくらい素敵なメロディーの「ため息」という曲をレパートリーにしています。
リストの曲は弾くのに苦労する部分が必ず出て来て大変です。
でも嫌いには、なれないんですよね。
言葉では言い表せない程の素敵なメロディーが出てくる所があり、そのメロディーが難しい部分を帳消しにしてしまう程、魅力的なので、また挑戦しようと思わせてくれるんです。
リストには様々な挫折があり、それを乗り越えながら努力をしたピアニスト・作曲家でした。
初めから超絶技巧重視だったわけではなく、挫折と時代の流れによって、次第にそのようになって行きました。
今回は、リストの人となりにも触れながら、曲の難易度と弾き方のコツをお教えします。
■ 目次
リストってどんな人?リストのピアノ先生は練習曲で有名なあの人!!
リストは、ハンガリー出身のピアニスト・作曲家です。当時のハンガリーはオーストリアに支配されていたのですが、リスト自身はハンガリーを祖国と呼び、ハンガリー人として生きました。
家庭内ではドイツ語、活動の拠点をパリに移してからはフランス語を話していたようですが、生涯ハンガリー語を習得することはなかったようです。
しかし、この時代そのような人は多かったそうなので、祖国への思いが薄いというわけではありません。
リストは父親の手引きによって音楽を学び、さらに才能を伸ばす為に8歳でウィーンに移住します。
ウィーンでは、練習曲で有名なチェルニー(ツェルニー)にピアノを習い、そして、サリエリに作曲を習いました。
それまで、ほとんど自己流で弾いていたリストに、チェルニーは正しい指使いや和声の知識を熱心に教えました。チェルニーのレッスン料は高額だったようですが、リストに対しては免除していました。
それだけ、才能に期待していたということなのでしょうね。
ウィーンで演奏会を開いた際に、チェルニーの先生であるベートーヴェン(ベートーベン)も聴きに来ていました。
気難しいベートーヴェンでしたが、まだ少年だったリストの演奏を高く評価し、熱い抱擁をしたそうです。
この時代は、すごいですね!!
リストの先生は、チェルニー。チェルニーの先生は、ベートーヴェンですよ!!習ってみたいですよね。
順風満帆ではなかった音楽人生。挫折と影響を受けた3人の女性。
初めての挫折
更なる向上の為に、ウィーンからパリへ移動します。父親とパリ音楽院への入学を目指しました。しかし、フランス人ではないという理不尽な理由で入学を拒否されてしまいます。
これまで順調だった音楽人生ですが、リストにとって、これが初めての挫折となりました。
しかし、良いご縁があり、パエールという名教師に習うことが出来たので、結果的には良かったのかもしれません。
二つ目の挫折
リストが16歳の時でした。彼の良き理解者であった父親が突如、亡くなってしまったのです。
リストは母との生活を支える為、貴族令嬢たちの音楽教師になりました。
16歳で父親を失い、生活を支えるのは相当の苦労があったと思います。
身分違いの恋→超絶技巧の道へ。人気のピアニストを目指す!
リストは弟子のひとり、カロリーネ・ド・サン=クリック伯爵令譲と恋に落ちます。しかし、2人の関係は身分の違いという壁に阻まれてしまいます。
リストの落ち込みようは、相当なものでした。
一時は、全てのことに興味を持てなくなり、修道院に入ろうかと思った程でした。
そんな彼を立ち直らせたのは、ヴァイオリンの巨匠パガニーニでした。
パガニーニの超絶技巧の演奏を聴き、感銘を受け、「ピアノのパガニーニになろう」と決心します。
リストは厳しい練習を自分に課し、超絶技巧の道へと進みます。
当時、自分のテクニックを披露する超絶技巧の演奏が流行っていたので、リストもその波に乗りました。
リストは厳しい練習に集中することで、辛い思いを忘れたかったのではないかと私は思います。
不倫の恋→作曲と演奏活動の充実。
厳しい練習の成果もあり、リストは人気の超絶技巧ピアニストになりました。端正な顔立ちのリストは、女性ファンが多く、失神してしまう人が続出する程のアイドル的存在でもありました。
この頃、マリー・ダグー伯爵夫人と出会います。
伯爵夫人のリストへの思いはとても強く、伯爵との間に子どもがいましたが、全てを捨て、彼のもとへ行きました。そして、2人でスイスやイタリアへ旅行しています。
この時に見た風景などを元にして、リストはピアノ小曲集「巡礼年報」を作曲しました。
この旅行中、リストは演奏活動を休止していました。
その間、別のピアニストが人気となり、「リストの時代は終わった」と言われてしまいます。
リストはその言葉がどうしても許せなかった為、演奏活動を再開します。
そして、見事に人気ピアニストに返り咲きました。
彼の演奏活動は上手く行きましたが、2人の関係は次第に上手く行かなくなりました。
リストが演奏活動をするたび、長い別居生活となったことが原因で、その後2人は別れることになりました。
1番影響を受けた女性→作曲に専念、そして宗教色の強い曲を作曲。
次に恋に落ちた女性はヴィトゲンシュタイン公爵夫人のカロリーネ。またもや人妻でした。リストは彼女の深い教養と控えめな態度に惹かれていきました。
彼女は、リストに演奏活動よりも創作活動に重点を置くことを助言しました。
彼女の助言を受け、リストは作曲活動に専念するようになり、多くの作品を作曲して行きます。
リストは彼女との正式な結婚を望んでいました。
しかし、彼女の離婚が難航し、結果的には上手く行きませんでした。
彼女はこの事に心を痛め、修道院に入ります。
その後、リストも修道院に入りました。修道院入りした後の彼は、司祭服である黒衣とつば広帽子をいつも着用していました。
この頃、作風も一変し、宗教色の強いものになっています。
どんなことがあっても、リストはその経験から学び、必ず次に生かしています。
とてもタフな人ですよね。
現在のリサイタル形式を作ってくれたのは、リストだった!!
当時の演奏会はいろんな楽器奏者と一緒に演奏会を行うジョイントコンサートが主流でした。1人での演奏会ではない為、全員の演奏時間が終わるのが3~4時間後というのが普通だったようです。
現在のリサイタルは、すべてのプログラムを1人で演奏し、時間は約2時間というスタイルですよね。
リストが初めて、このリサイタル形式で演奏会をしたんです。
弾くだけなく、トークを挟みながらだったようです。
1人での演奏なので、お客さんを飽きさせないようにトークもしていたんでしょうね。
リストのプログラム
シューベルト=リスト「セレナード」「アヴェ・マリア」
リスト「ナポリのタランテラ」「半音階的大ギャロップ」 他
これを見るとピアノ曲だけでなく、交響曲や歌曲を編曲して弾いていたというのがわかると思います。
リストは即興に重点を置いていて、ピアノ曲だけでなくオーケストラの曲なども編曲し、ピアノで演奏していました。
彼は初見がとても得意で、どんなに難しい曲でも初見で完璧に弾きこなしたそうです。
羨ましいですね!!
リストは、1つの曲を何度も何度も改訂を重ねたというのが特徴の1つでもあります。
即興演奏を得意としていた人なので、アイディアがたくさん出てしまったのかもしれませんね。
改訂されて簡単になったものもあれば、それまでは演奏不可能だったことがピアノの楽器自体の発展によって、演奏可能になった為、逆に難しく改訂されているものもあります。
リストがピアノやクラシック界に残した功績は色々ありますが、リサイタルの形式を作ったというのが1番だと思います。
「愛の夢」は、もともとはピアノ曲ではなかった!?編曲される前は?
「愛の夢」は3曲からなるピアノ曲として有名ですが、もとはソプラノ用に作られた歌の曲でした。
のちに、ピアノ用に自身で編曲しました。
第3番は、ドイツの詩人フェルディナンド・フライリヒラートの詩「O lieb, so lang du lieben kannst!」(おお、愛しうる限り愛せ)が用いられています。
そう言われてみれば、メロディーが声楽的な感じがしてきませんか?
この曲のメロディーを抜いて弾いてみると、確かに右手と左手に分散された伴奏の形になります。
この曲にはこんな経緯があったんです。この事を少し頭に入れて置きましょう。
ピアノだけで弾くということは「伴奏を弾きながら、歌のパートも弾かなければいけない」ということです。この曲の難しさはここなのです。この曲の難しさが、少しわかって頂けたでしょうか?
1人でピアノと歌のパート!?どれくらい難しいの?難易度は?
前にも説明しましたが、リストの曲が難しいのは、超絶技巧を得意としたピアニストだったことと、即興に重きを置いていたからです。この曲の難易度は、リストの曲の中では初歩です。
こんなの序の口ですよ!!とんでもなく難しいのがゴロゴロあるんですから!!
初歩といってもリスト自体が、難易度が高いので初歩といっても上級レベルです。
実際にどの程度の曲が弾ければこの曲が弾けるようになるかは、答えるのがなかなか難しいのですが…同じ時期のロマン派の作曲家、特にショパンの曲を何曲もこなしていると弾くのはそう難しくないと思います。
ソナタアルバムまで進んでいたら弾けるかと言われれば、時間はかかるけど弾けない事もないと思います。ただ、古典派の弾き方とロマン派の弾き方は違いますし、この曲はちょっと特殊な弾き方をしないといけない部分があるので、それに対応できるかが問題になります。
リストやショパンのように、ロマン派のものはしっかり曲想をつけて歌って弾かないといけません。
ある程度テンポを揺らすことも許されています。
個人的には、この曲はメロディックで大人っぽい曲なので、お子さんが弾かれるのであれば、そのようなことが理解出来る年齢になってから挑戦された方が素敵な演奏が出来るかなと思います。
難しそうだけど…でも挑戦してみたい!!この曲の弾き方のコツとは?
この曲のポイント、それはメロディーがどこにあって、どのよう動いているかをしっかり理解することです。この曲の弾き方のポイントを前半、中間、後半の3つに分けてご説明します。
≪前半≫最初~調号が変わる所まで
前半部分、メロディーはどこにあるかわかりますか?
よく聴いていると、真ん中のドの音が中心に、行ったり来たりしているのがわかると思います。
この部分は、真ん中にメロディーが出てきながら、上に伴奏、下に支えとなるバスがなっているという形になっています。楽譜を見るとよくわかるのですが、メロディーを左手で弾いたり右手で弾いたりしなくてはいけないんです。
ここが難しい所なんです。
左手、右手でメロディーを弾かないといけない。
聴いている人にそれがわからないようにとにかく、つながるようにレガートで!!
[上手く弾けるようになるには]
メロディーだけ抜き出して、レガートで弾く練習をひたすらする。
右手の伴奏の部分は、メロディーに対し、音数が多く、高い音域なので、歌って弾いてしまいがちですが、ここはあくまで伴奏です。
メロディーをよく聴きながら、右手の伴奏は抑えて弾きましょう。
ほとんど指を動かさないように弾き、和音の変化を奏でているだけと捉えると良いと思います。
もう1つ。
この曲は1拍目から始まらない、アウフタクトの曲です。
前の拍(1~5拍まで)をしっかり頭の中でカウントしてから、次の音を誘い出すようなイメージで滑り出すように弾くのを心がけて下さい。
≪中間≫調号が♯5つになった所~TempoⅠの前まで
この部分のメロディーはとてもわかりやすく、右手に出て来ます。
前半部分よりは、メロディーを出しやすいと思いますが、強調して出せるように練習が必要です。
この部分の1番難しいところは、内声が左手も右手も動く所です。
伴奏の分散部分が両手になる。
メロディーより目立たないように、歌いすぎないように。
メロディーの中に伴奏を優しく入れ込むイメージで弾く。
[上手く弾けるようになるには]
指で頑張って弾かない。
指の重みが、かからなにように少し手首を上げて、手首や肘を使って弾く。
この中間部はどんどん変化し、盛り上がって行き、この曲の頂点となる部分です。
オクターブでメロディーが出てくる所の最後までの3ページ弱を息切れせず、勢いをどんどん増しながら弾き切らなくてはいけません。
最初から突っ走り過ぎては、持ちません。
中間部を何度も弾いてご自分の力加減をよく知って、徐々に盛り上がって行けるよう、研究して下さい。
≪後半≫TempoⅠから最後まで
この部分は、最初のように落ち着いた雰囲気に戻ります。
しかし、メロディーの音域が1オクターブ上がり、伴奏が最初とは少し変化しています。
左手の交差。左手がバスを弾いた後、右手を通り越して行き、優しくリズムを刻む。
決して鋭くならないように、よく準備をしてから弾く。
[上手く弾けるようになるには]
バスを弾き終わったら、素早く移動出来るように練習。
交差した後の和音をバスと同じテンションで弾かない。鳥のさえずりのようなイメージで。
さすが、即興好きのリスト!!1度やったことはもうしません。
全く同じにしたって良いところなのですが、変化をつけています。
その違いをきちんと表現しましょう。
この後半部分を私は、「色んな出来事を乗り越えて来たなぁ」と過去を懐かしんでいるような回想部分だと思っています。
最初に戻ったように弾くのではなく、さらに気持ちを込めて、しかし音を大きくするような音量での表現ではないように、しっとりと弾くと良いと思います。
リストの人となりに触れてみると、ただ超絶技巧のピアニスト・作曲家で片づけるのが何だか可哀想になります。
リストは、人格者だったというエピソードがいくつも残っています。
極貧生活に苦しむ音楽家を金銭的に援助したり、その人達の作品の初演をし、世の中に紹介したりと才能があるのに苦しんでいる人達を多く助けました。
生涯で教えた弟子は、400人以上おり、後進の育成にも力を注ぎました。
このようにしたのは、自分の過去の様々な経験からなのだと思います。
弾く時には色んな難しさはありますが、リストの思いを受け止めて素敵に弾けるように努力しましょう。
私はこちらの楽譜で勉強しました。ブダペスト版は評価の高い楽譜です。
表紙があまり良い紙ではないのか、擦れると色が剥げてしまうので表紙をきれいな状態で保つのが難しい楽譜でもあります。透明なフィルムのカバーを被せたり、フィルムを貼ったりするといいかもしれません。
まとめ
◆ハンガリー出身のピアニスト・作曲家◆先生は、チェルニー
◆2つの挫折を経験①パリの音楽院に入れなかった②父親の死
◆3人の女性から影響を受けて、演奏スタイルや作曲スタイルが変化
◆現在のリサイタル形式を作った
◆「愛の夢」は、もとは歌の曲だった
◆難易度は、上級レベル
◆弾き方のコツは、メロディーがどこにあって、どのよう動いているか理解すること
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1917年にコンスタラ社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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