フランツ・リストの名前を聞いて何の曲を思い出しますか?「愛の夢」でしょうか?「ラ・カンパネラ」でしょうか?この2曲の他にも今回取り上げる「ため息」はよく知られている曲だと思います。

リストについてはこれまで「愛の夢」「ラ・カンパネラ」の記事で彼の人柄や苦悩、超絶技巧になったいきさつなど、いろいろと書いてきました。

彼の曲はテクニック的に難しいものがとても多く、弾くには多くの練習が必要で自分のものにするには時間がかかります。

リストの難しさはテクニックだけ、表現だけ、ではダメなところだと思います。彼の作品は他のどの作曲家の作品よりも両方が必要で両立させないといけないのではないかと私は思っています。

どちらかが行き過ぎてもダメで、この2つのバランスが上手くいったときに良い演奏になる気がします。

今回取り上げる「ため息」は特にこのバランスが重要な曲だと思います。それでは「ため息」の曲の背景についてや難易度、弾き方を見ていきましょう。

「ため息」は練習曲??


「ため息」は1曲で出版されているのではなく、「3つの演奏会用練習曲」という曲集の中の1曲です。

「3つの演奏会用練習曲」は1845年~1848年に作曲されています。この曲が書かれた時期のリストはピアニストとしての活動を止め、作曲活動に専念していました。

曲集名に練習曲とありますが、ツェルニーのようないわゆる練習のための練習曲ではありません。

ショパンの「エチュード」も練習曲集ではありますが、1つの曲として通用する曲ですよね。リストも同じで、ショパンの「エチュード」よりもさらに演奏会で弾く曲として選んでも全く問題のない曲にまで発展させました。

私個人としては曲集名に練習曲とつけなくてもよかったのではないかなと思います。

しかし、1曲を通して同じことが繰り返し出て来ており、練習させたいポイントというのがわかる曲の作りになっているので、練習曲と言われれば確かにそうだなとも思います。

ただの練習曲ではないということをわかってもらうために「演奏会用」とつけているのかもしれませんね。

「ため息」はリストがつけたタイトルではない

「ため息」というタイトルは実はリストがつけたものではありません。3曲をセットにして出版した際、彼はタイトルをつけませんでした。

その後、同じ曲集をフランスで出版することになりました。

曲集名は「3つの演奏会用練習曲」ではなく「3つの詩的なカプリース」へ変更して出版しました。曲集名を変更するときに各曲にタイトルをつけました。

そのときにつけたタイトルがそのまま現在も使われています。(曲集名に関しては「3つの詩的なカプリース」ではなく「3つの演奏会用練習曲」と呼ばれています。)

3曲のタイトルは次のようにつけられました。

リスト: 3つの演奏会用練習曲/新リスト全集版/Kaczmarczyk編/ムジカ・ブダペスト社/ピアノ・ソロ
リスト: 3つの演奏会用練習曲/新リスト全集版/Kaczmarczyk編/ムジカ・ブダペスト社/ピアノ・ソロ

「3つの演奏会用練習曲」
1、 悲しみ
2、 軽やかさ
3、 ため息


「ため息」はこの曲集の中の3曲目です。この曲集はどの曲も比較的演奏される機会が多いのですが、中でも「ため息」は最も演奏される機会の多い曲です。

リストは「演奏会用練習曲」という曲集をもう1つ書いています。

リスト: 2つの演奏会用練習曲/新リスト全集版/Sulyok & Gardonyi & Kaczmarczyk編/ムジカ・ブダペスト社/ピアノ・ソロ
リスト: 2つの演奏会用練習曲/新リスト全集版/Sulyok & Gardonyi & Kaczmarczyk編/ムジカ・ブダペスト社/ピアノ・ソロ

「2つの演奏会用練習曲」
1、 森のざわめき
2、 小人の踊り


こちらの「2つの演奏会用練習曲」のタイトル「森のざわめき」と「小人の踊り」はリスト自身がつけたものです。

「2つの演奏会用練習曲」は1862年~1863年に書かれました。この作品が書かれた頃は宗教音楽の作曲に重きをおいている時期でした。

同じ「演奏会用練習曲」という曲集名でも書かれている時期は違います。

「ため息」の難易度はどのぐらいなのか


リストの作品の中で「ため息」はまだまだ簡単な方です。しかし彼の曲は難易度がそもそも高いので、「ため息」の難易度も上級レベルです。

彼の作品を弾いたことのない方は「ため息」に挑戦される前に、この曲よりも簡単な「愛の夢第3番」にまず挑戦されるといいと思います。

どちらの曲もいつも決まった手でメロディーや伴奏を弾くわけではなく、右手で弾いたり、左手で弾いたりしなくてはいけません。弾き方が似ている部分があるので練習になると思います。

ロマン派の曲は同じテンポで弾いては素敵な演奏にはなりません。単純にテンポを速くしたり、遅くしたりするということではなく、心地よい揺らぎのようなものを表現しなくてはいけません。

音楽用語でこのような揺らぎのことをアゴーギクと言います。テンポだけでなく、強弱でも揺らぎを表現します。

このアゴーギクは曲によって、またはその部分に応じておおげさにやることもあれば、控えめにやることもあります。

同じ曲でも演奏する人によって若干違いがありますよね?それはこのアゴーギクが関係しています。演奏する人によって表現の仕方は様々なので、そこで違いが出るのです。

「ため息」をお子さんが弾かれる場合はこのようなことを感じられることができるようになってから弾かれた方がいいと思います。

「ため息」の弾き方のコツ

「ため息」は多くのピアニストが演奏会で弾いたり、CDに収録したりする曲の1つです。

この曲は弾く人によって違いがはっきりと出ます。

力強くバリバリ弾くピアニストもいれば、しっとりと弾くピアニストもいます。テンポも弾く人によって様々で、かなりゆっくりから始めるピアニストもいれば、速いテンポで始めて流れるようにさらっと弾いてしまうピアニストもいます。

弾く人によってどのように違うのか比較してみましょう。
 
●ウィリアム・ウォルフラム


メロディー重視で弾いています。テンポはあまり揺らさずに弾いています。

●ランラン


個性的な弾き方です。テンポもかなり揺らしています。交差して弾くところ(動画0:42~)を片手で弾いてしまうあたりがさすが、テクニックのピアニストだなと思います。

●ホルヘ・ボレット
リスト名演集~ため息 / ボレット
リスト名演集~ため息 / ボレット

ボレットの演奏が私は1番好きです。さらっと弾いているようだけど、ちゃんと迫力もあって、テクニックと表現のバランスがとても良いと思います。ピアノの音がとてもきれいで素敵です!

●フジ子・ヘミング
奇蹟のカンパネラ
奇蹟のカンパネラ

フジ子・ヘミングの演奏は独特です。この演奏は真似しても形にはならないでしょうね。これまで培って来たものが演奏に全て出ているような激しさを感じますが、決して押しつけがましい演奏ではないのが不思議です。

このようにピアニストによって弾き方は様々なのです。最終的にどのような「ため息」にしたいかをイメージすることが大切です。

色んな演奏をたくさん聴いて自分の目標とする「ため息」を見つけることも大事なことです。

それでは実際の弾き方を見ていきましょう。

「ため息」は練習曲ということを先ほど書きましたね!何の練習なのでしょう?


上の楽譜が「ため息」の始めの部分です。図形のようにきれいに音符が上がったり下がったりしていますよね。この動きが曲全体に出てきます。

このように弾くことをアルペジオというのですが、この曲はアルペジオを弾きながら、両手でメロディーを弾いていく練習なのです。

(動画0:09~)

この楽譜は先ほどの楽譜の続きの部分です。3段楽譜になっていますね。ピアノの楽譜は通常、大譜表(2段の楽譜)で書かれますがこの曲は3段楽譜になるところが出てきます。(1番上がメロディー部分。2、3段目のアルペジオが伴奏部分。)

なぜ3段楽譜かというと、メロディーをわかりやすくするためです。大譜表に書いてしまうと見にくくなってしまうので、すぐにわかるように特殊な書き方がしてあります。

右手も左手もずっとアルペジオを弾き続けているのにメロディーをどうやって弾くんだろうと思われませんでしたか?

右手と左手は確かにずっと動かしていなければならないのですが、少し弾いていない時間があるんです。


この部分のアルペジオは左手と右手に分けて弾きます。伴奏部分の弾き方はわかりましたね。

さて1番上の楽譜はどうやって弾くのでしょう?AsとBは右手で弾けそうですが、3つ目のDesは難しそうですよね。

この部分はこのように弾きます。


わかりましたか?左手はヘ音記号部分を弾いた後、右手が弾いている間に右手を飛び越えて次の音の準備をし、1音弾いたらまたもとの位置に戻るというのをくり返しながら弾くのです。

このようにずっとアルペジオ弾きながらメロディーを弾くのは難しいです。この弾き方の難しいところは2つあります。

「交差するのを素早くしないと間に合わない」「メロディーを1音ずつ右手と左手で交互に弾くのでなかなかレガートにならない」という2点です。

慣れるまでは苦労するかもしれません。聴いているときは全然難しそうではなかったと思います。しかし、実際はこんなことになっていたのです。

とにかく交差を素早くして次の準備をすることが重要です。アルペジオの部分は和音が変化する場合やメロディーがないときはクレッシェンド、デクレッシェンドをつけますが、それ以外は弾き過ぎないようにしましょう。

アルペジオは伴奏なので少しくらいおろそかになってもいいです。それよりも交差を素早くしてメロディーをきちんならすようにしましょう。


2回同じメロディーが出てきたあと、和音の変化があり少し盛り上がりますが落ち着きます。そのあと出て来る3回目ではメロディーがオクターブに変化します。

(動画0:47~)

1回目、2回目よりもさらに交差を素早くしなくてはいけません。そして、メロディーはオクターブ上がった音の方を少し小さめにして弾き、エコーのように弾きます。

メロディーがオクターブに変化したのに1回目、2回目と同じように弾いてはいけません。盛り上がりをきちんと表現しましょう。

しかし、ここはまだまだ序盤です。盛り上がりはこれからなので、ここで一生懸命弾かないようにしましょう。

音量的には3回目はその前よりもやや大きくなってもいいと思います。自分が出せる音量をよく考えて最初から大きくなり過ぎないように気をつけましょう。

ここまでは優しく歌うように弾いてきましたが、次の部分で少し激しさが出てきます。

(動画1:13~)

この部分を境に曲が変化していきます。

(動画1:20~)

ずっとト音記号の高さでメロディーがなっていましたが、この部分はヘ音記号の高さになっています。次のメロディーでは同じ音ですが高さがト音記号に戻っています。

(動画1:25~)

同じメロディーで高さを変えてあるということは、何を意味するのでしょう?より強調し伝えたいということなのだと私は思います。

日頃生活する中で皆さんもこれと同じことをしていると思います。

例えば大事なことを人に言うときに2回同じことを言ったりしませんか?2回言うときに2回目の方が感情を込めて言いませんか?それと同じことです。

つまりこの部分を弾くときは高さが上がった分だけ感情的に弾かないといけないということです。

ここの盛り上がりは次につながる大事な部分になっています。

(動画1:34~)

この部分はとても感情的になって弾かなければなりません。何か困難なことに立ち向かっているような強さを感じさせる部分です。この部分は盛り上がりの1つではありますが、ここが最大の盛り上がりではありません。

ここで気持ちを切らしてしまわないようにしましょう。

(動画1:47~)

この曲の中で1番華やかな部分となるのがここです。テクニックの見せ場でもあり、難所の1つでもあります。右手が所々重音(2つの音を弾く)になっています。

この部分を1つずつしっかり指で弾いていては疲れてしまいます。まずは3つをセットにして弾けるように練習し、手首や腕を固くしないようにしましょう。手首や腕を利用して弾けるようになると楽になります。

この部分は左手がメロディーになります。右手の難しさにとらわれ過ぎず、左手をメインにして弾くようにしましょう。

(動画2:01~)

その後に出てくるこの部分は、左手の和音の上の音だけ(の部分)を強調するように弾かなければなりません。指だけで弾くと鋭い音になりにくいので、小指側から親指側に手首をひねるようにして弾くと勢いのついた鋭い音に自然となります。

(動画2:12~)

こういう部分に私はリストらしさを感じます。急速に半音で動き回るのですが、ただ動き回るのではなく、音型の上がり下がりを表現しなくてはいけません。

この部分の音色はとても軽くキラキラした音がふさわしいと思います。ペダルはかなり浅くふむようにして、音がにごらないように工夫して下さい。

ディミヌエンドの部分からはそれまでのせわしない動きが徐々に緩んでいくように指示がしてあります。この部分は何度も練習して自分のスタイルを作るようにしましょう。

この後また場面ががらりと変わります。

(動画2:22~)

私はこの部分が好きです。最初は不安そうな感じですが、徐々に右手と左手の距離が離れていき、光がさしてくるような雰囲気になります。

(動画2:39~)

しかし、また不安は襲ってきます。

(動画2:56~)

不安との戦いが少し続きますが、その後はあれは何だったのだろうというように不安は消えていってしまいます。

(動画3:14~)

ここからはこの曲のまとめのような感じです。

(動画3:24~)

最初に出てきたメロディーがまた出てきます。部分がメロディーです。最初は交差しながらメロディーを弾きましたが、この部分は交差せず、両手の親指でメロディーを弾くことになります。

右手も左手も同時に動きながらメロディーを弾くので、最初よりも難しくなっています。この曲の難所は先ほどの1番華やかな部分とこの部分の2ヵ所です。

この部分のポイントは親指と他の指との音量の差をしっかりつけることです。親指だけで進んでいる感覚を持ち、残りの音は何となく弾くつもりでゆっくり練習しましょう。

しかし、ペラペラの音ではいけないので親指を強調して出す練習とは別に、右手はリズム練習をするようにしましょう。スタッカートで弾く練習と付点のリズムで弾く練習をするとよいと思います。


「ため息」の弾き方について書いてきましたが、いかがだったでしょうか?

「ため息」には2つあると思います。1つはよくないことが起こったときなどの落胆のため息。もう1つは素晴らしいものに触れたときなどにもれる驚嘆のため息。

この曲は間違いなく驚嘆の方でしょう!!素敵に弾けるように自分の中でストーリーを作ってみるのもよいかもしれません。

「ため息」はリストの曲の中ではテクニック的にそれ程難しくないため、最初から最後まで全力でバリバリ弾いてしまおうと思えばそれが可能な曲ですが、それではいけないと私は思います。

「テクニックも披露しながら、表現もする」これがポイントです。盛り上がるところはしっかり盛り上げて、引くところはきちんと引く。

足し算ばかりでなく、引き算を覚えるとメリハリがよりつくようになり、曲がわかりやすく、聴きやすい演奏になります。バランスが大事です。素敵な演奏になるように頑張りましょう!

まとめ

◆「ため息」は「3つの演奏会用練習曲」という曲集の中の1曲
◆タイトルはリストがつけたものではない
◆フランスで楽譜を出版する際にタイトルがつけられた
◆「ため息」の難易度も上級レベル
◆この曲の難所は2ヵ所


「ため息」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1911年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版された楽譜です。「3つの演奏会用練習曲S.144」全3曲が収録されており、第3曲「ため息S.144-3」は18ページからになります。