外はまだまだ寒いけれど、桜が咲くのももう間近に感じられるのが3月です。
介護施設に入居している高齢者も、近づく春を実感し始める頃です。
そんな3月に、私がある介護施設で行った音楽療法のプログラム例とそのときに使用した歌をご紹介します。
セッションの概要
その介護施設へは、音楽療法士として、何度か訪問していました。
午後のレクリエーションの時間に、希望する方が参加する形でセッションを行っていました。
認知症の方や身体に麻痺のある方、視覚障害の方などが30人ほど集まる、大きいグループでのセッションでした。
導入からつまづいたセッション
導入では通常、季節が感じられる、誰もが知っているであろう曲を選びます。そのような曲は、これから始まるセッションに対して不安を感じている方にとっては、自分が知っている曲が流れていることから安心感を得られ、参加意欲に繋がります。
また、セッションを楽しみたいという思いで参加してくれている方にとっては、準備運動のような役割を果たしてくれます。
この導入部からつまずくことはあまりないのですが、このセッションではつまずいてしまいました。
それは、『ちょうちょう』を歌い始めたときでした。
後方から、男性のクライエントが大きな声で怒鳴りはじめてしまったのです。
内容は、子どもじみた歌は歌えないといったような事でした。
すぐに、施設のスタッフが対応してくれたこともあり、その方は落ち着かれたのですが、場の雰囲気自体はかなり、緊張感のあるものになってしまいました。
その後のセッションの流れ
その後のセッションは、何事もなかったかのようにはいかず、少しずつ、緊張がほぐれていくような雰囲気の中で行われました。
そんな中で春に関する童謡である『どこかで春が』『春の小川』を歌唱しました。
そして、卒業の季節でもあることから、高齢者が好む卒業ソングの『高校三年生』(船木一夫)と唱歌の『仰げば尊し』を歌唱しました。
その後、『青い山脈』(藤山一郎)を歌唱するとともに、タンバリンやマラカス、鈴などの楽器を使って演奏していただきました。
最後には恒例の『ふるさと』(唱歌)を歌唱し、プログラムを終えました。
全体の振り返りとして
このセッションでは、導入部でのつまずきがありました。セッション終了後、確認したのですが、大きな声を出したクライエントは、ここ数日、不穏な状態になることが多かったとのことで、セッションへの参加も、スッタフとしては集団の中に入っていっても大丈夫かどうか心配していたとのことでした。
このクライエントは、『ちょうちょう』という曲に対して、子どもが歌う曲だという印象があり、大きな声を出してしまった訳ですが、選曲について失敗だったとは考えませんでした。
集団で音楽療法を行う場合、クライエントにはそれぞれ歩まれてきた歴史があり、その中で聞いてきた音楽も違えば、感じ方も違います。
同じ曲を歌っても、心地よく歌ってもらえる方もいれば、あまりいい思い出がないという方もいるかもしれません。
すべての方に楽しんでもらえるのが一番いいのですが、そうでない場合も、時としてあるものですし、避けられないものだと思います。
ただし、このセッションの場合、一人のクライエントが大声を出し、不快であることをアピールしたことによって、その場の空気が緊張感のあるものになってしまったことに関しては、フォローが必要でした。
そこで私は、他のクライエントに声をかけました。
「びっくりしましたね。でも、スタッフの方が声をかけて下さっているので大丈夫ですよ。」というような内容で、多くのクライエントが感じているあろう気持ちの代弁と、現状の説明を行いました。
その後は、自分自身の動揺が伝わらないように話を切り替え、いつまでもハプニングを引きずらないように努めました。
そうすることで、緊張感は次第に薄れ、最終的にはいつもと変わらない雰囲気で終えることができました。
まとめ
1.介護施設にて、30人という比較的大人数の高齢者に対する音楽療法を行いました。2.導入部でつまずいて、その緊張感をしばらく引きずった内容のセッションでした。
3.春に関する童謡や、卒業をテーマにした曲、合奏のための曲で、次第に場の雰囲気は、いつもと変わない様子に落ち着いていきました。
4.多くの方に人気のある曲でも、苦手だと感じる方がいることもあります。そのすべてを避けることはできないので、いかにフォローしていくのかが鍵になると思います。
音楽療法のみならず、高齢者に対するレクリエーションではハプニングはつきものです。
冷静に対応することで、他のクライエントに安心感を与えることができます。
場数を踏むことも必要ですが、難しい場合は、いろいろな場面を想定してシミュレーションを行っておくと、ハプニングに強くなれますよ。