認知症の方の音楽療法を行う際に、楽器の演奏を取り入れたいが、どのような楽器を、どのように利用すればいいのかわからない、といった声も、よく聞かれます。
今回は、楽器演奏の取り入れ方とその効果についてご紹介します。

■ 目次

認知症の高齢者が演奏しやすい楽器とは?


認知症の高齢者の方が使いやすいものは、楽器に限らず、シンプルでわかりやすいものです。

シンプルでわかりやすいものといえば、打楽器。

特に鈴やマラカスなどの振るだけで音を出すことができる楽器はおすすめです。

タンバリンや鳴子も振ると音が出る楽器ではありますが、振り方によっては音が出なかったり、小さかったりするため、少しだけ、複雑だと考えられます。

脳血管障害が原因で認知症になった方の中には、身体の片側が麻痺していてうまく動かすことができない「片麻痺」の状態である方も多くいます。

片麻痺など、片方の手しか使うことができない方でも、鈴やマラカスは扱うことができますよね。

個人でのセッションや、少人数でのセッションの場合には、サポートすることによって、両手を使って演奏するような楽器でも、演奏可能かもしれません。

しかし、認知症高齢者のセッションの場合、大人数のセッションであることのほうが多いため、サポートをすることができません。

安価で手に入ることも、大人数をカヴァーするという点でいいですね。

また、若い頃演奏したことのある楽器についても、演奏しやすい楽器といえます。

若い頃演奏したことがある楽器については、アセスメントで聞き取りを行なったり、セッション中の会話でも知ることができます。

楽器の種類によっては、みんなで合奏するには不向きな場合があったり、用意するのが難しい場合があったりするでしょう。

そういった場合には、無理に合奏に取り入れようとするのではなく、個人的に演奏していただいてそれを発表できる時間を設けるなどの工夫をしましょう。

「昔取った杵柄」を活かせる場面は、クライエントの活力につながりますよ。

楽器演奏を行いやすい曲とは?

楽器演奏を行う際は、認知症の高齢者が演奏しやすい曲を選びましょう。

認知症の高齢者が演奏しやすい曲とは、馴染みのある曲で、長さは長くなく、リズムの取りやすい曲です。

馴染みのある曲であれば、先を見通すことができ、あれこれ考えずに済むので、演奏に集中しやすくなります。

曲の長さについても、同様です。
1節が長い曲だと、歌詞を口ずさみながら合奏することが難しく、歌詞を見ることに気を取られたりして、集中できなくなることがあります。

ある程度の時間をかけて合奏を楽しみたいのであれば、1節が長い曲ではなく、短い節を何度か繰り返すといいでしょう。

リズムについては、変拍子の曲を避け、4分の4拍子や2分の2拍子などの曲を選んでください。

『青い山脈』や『三百六十五歩のマーチ』、『鉄道唱歌』などが、好まれます。

楽器演奏の効果とは?


認知症の高齢者が楽器演奏を行うことには、いくつかのメリットがあります。

楽器演奏は、脳の活性化を促すことができます。

馴染みの曲を演奏することは、長期記憶を呼び覚まします。

また、楽器を扱ったり、同時に歌ったりすることが、思考や想像力など前頭前野の機能を刺激します。

身体を動かすことで、脳の血流がアップします。

そして、楽器演奏を通じて、自己表現を行うことで、達成感や満足感を得ることができ、精神の安定につながる効果が期待できます。

集団で楽器演奏を行うことで、ほかのクライエントと交流を図ることも可能です。

普段話をしない相手とも、合奏をした一体感から、曲に関する話題や、合奏の感想などに関する会話が生じることがよくありますよ。

クライエント同士の会話が難しいようであれば、セラピストが間に入って会話を促していくといいですね。

まとめ

  1. 認知症の高齢者が演奏しやすい楽器とは、鈴やマラカスなどの、片手で演奏でき、振れば音が出る楽器がいいでしょう。
  2. 楽器演奏を行いやすい曲とは、多くの方がよく知っている曲で、長さは長くなく、リズムの取りやすい曲のことです。
  3. 楽器演奏を行うことで、脳が活性化され、演奏ができたことによる達成感を得ることができます。

楽器演奏は、手や、時には身体全体を使ったり、歌いながら演奏したりと、複雑な動きを伴います。
そのことが、認知症の進行の予防につながったり、精神の安定につながったりといった効果を生むのです。
簡単な楽器演奏から取り入れて、活気のあるセラピーの時間が過ごせるといいですね。


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