重症心身障がい児とは、重度の肢体不自由と重度の知的障がいとが重複した状態にある子どものことをいいます。
そのような状態の子どもたちに対しても、音楽療法は有効なノンバーバルコミュニケーションの手段として活用できます。
重症心身障がい児に対する音楽療法の内容と、その中でも重要な即興演奏でのコミュニケーションについてご紹介します。
重症心身障害児に対する音楽療法のやり方とは?
重度心身障がい児への音楽療法は、個別、または少人数の集団で行うのが理想的です。
なぜなら、個々の反応が少ない場合、その反応を見逃さないようにする必要があるなど、よりきめ細やかな対応をしなければならないからです。
人数が少なければ少ないほど、その時の反応に合わせた展開にできるメリットがあります。
ただし、常に個人で行うセッションが良いというわけではなく、可能であれば個人のセッションと少人数でのセッションを組み合せて行うといいでしょう。
少人数でのセッションには、他のクライエントのことを意識することで生まれる新たな反応も期待できます。
個人や少人数でのセッションの時間は、特に子どもの場合はその集中力や体力の面から考えて30分未満です。
四季を感じさせてくれる既成曲を取り入れることもありますし、様々な楽器を演奏することによってクライエントの興味関心を引き出すこともあります。
また、セラピストが独自に作曲した曲を取り入れることや、即興演奏を行うこともあります。
重症心身障害児とのコミュニケーションに用いられる即興演奏とは?
重症心身障がい児をはじめとする子供に対する音楽療法を行う際に用いられることの多い音楽療法の技法に、即興演奏があります。
音楽療法における即興演奏は、まさにセラピストとクライエントとのノンバーバルコミュニケーションの手段として行われます。
セラピストが奏でる音楽に、クライエントが何らかの反応をし、セラピストはそれに合わせて臨機応変に音楽を作っていくのです。
即興演奏をするために使う楽器に、これといった決まりはありません。
鍵盤楽器や打楽器、時には歌のみということもあります。
また、セラピストが何らかのメロディーを演奏したり、リズムを示したとしても、それに対するクライエントの反応が音楽的なものであるとは限りません。
タンバリンをただ手で触れるだけということもあるでしょう。
表情を少し変えるだけという場合もあるかもしれません。
セラピストはその少しの変化を感じ取り、それに対して音や音楽、リズムや歌で返事をします。
そのやり取りの中で、クライエントはセラピストの存在を受け入れ、音を介してのコミュニケーションに興味を持つようになっていくのです。
即興演奏のメリットとデメリット
即興演奏にはメリットとデメリットがあります。まずはメリット。
メリットは、クライエントの反応次第で、臨機応変に音楽の流れを変え、まるで会話のように利用することができる点です。
そうすることで、クライエントは自分の反応が音楽の中に取り入れられたことを実感でき、自分自身が受け入れられていると感じることができます。
それがセラピストを受け入れることへもつながり、両者の関係性が深まっていきます。
また、言語を使うことなくコミュニケーションが取れることもメリットです。
言葉を使うことが難しい子どもも、非言語的にコミュニケーションをとる手段のひとつとして即興演奏を行うことができます。
即興演奏を通じて、セラピストとコミュニケーションをとることができれば、それが大きな喜びにつながり、さらなるコミュニケーションの意欲につながります。
また、セラピストの反応を見て、その音を聞くことに集中する必要があるため、集中力も身につきますよ。
反対に、即興演奏にはデメリットもあります。
まずは、セッションを受ける集団の人数が多いと行うのが難しいことです。
セラピストが奏でる音に対して、クライエントが反応し、それに対してまたセラピストが演奏を行うのが即興演奏です。
この場合、クライエントの人数が多いと、音と音との会話は成り立たなくなってしまいます。
また、音楽に対する既成の概念があるクライエントに対して行うのが難しいという点もデメリットといえます。
音楽とは、決められたリズムや音程で成り立つものだと思っている方にとっては、即興演奏はハードルの高いものに感じられてしまうことがあります。
そうなると、セッションの時間が苦痛になってしまいかねないのでお勧めできません。
まとめ
- 重症心身障害児に対する音楽療法は、個人または少人数のセッションで、既成曲や即興演奏を用いて行われます。
- 重症心身障害児とのコミュニケーションの手段として、即興演奏が行われます。
- 即興演奏のメリットは、言葉を使わずにコミュニケーションがとれることで、デメリットは、即興演奏に抵抗を感じるクライエントもいるということです。
即興演奏を行うことは、慣れないうちは難しいと感じることもあります。
でも、重症心身障がい児など、子どもに対する音楽療法を行う上では、有効な技法です。
苦手だと思う人は、まずは身近にいる家族や友人などと音遊びを楽しむ感覚で練習してみてはいかがでしょうか?