老人ホームには、施設によって、認知症の方のみが生活するグループ、認知症ではないが、生活をするうえで何らかのケアが必要なグループ、ほとんど手助けを必要としないグループ、などのように、生活の場が分けられている場合があります。

でも、認知症の方も、そうでない方も、一緒に生活をしており、音楽療法にも一緒に参加する場合がありますよね。

ある方は認知症、ある方は脳梗塞の後遺症の片麻痺、ある方は老人性のうつ状態、ある方は健康。
そのような場合、セッションが始まる前やセッション中にできる工夫についてご紹介します。

■ 目次

どの方に楽しんでいただくための曲なのかを考えながら選曲しよう


音楽療法の基本であるプログラム。

音楽療法士は、毎回、様々なことを考えながら、選曲しています。

対象者の年齢や性別などを考慮し、使用する曲を選ぶのはもちろんのこと、健康状態にも注意しながら選曲していきます。

例えば、比較的元気で、音楽好きな、年齢の若いクライエントが参加しているのであれば、歌いごたえのある昭和歌謡を準備することがあります。

『川の流れのように』『津軽海峡冬景色』『きよしのズンドコ節』などは人気のある曲ではありますが、歌うのが難しく、歌える方が多少限られてしまう曲でもあります。

そのような曲を、セッションの中に加えると、メリハリにもでき、歌った際の充実感や達成感につながります。

ただし、そのような、歌える方が限られてくるような曲は、重度の認知症の方や、脳溢血などで言語障害のある方、音楽にあまり親しんでこなかった方などにとっては、参加するのが難しい曲になってしまうこともしばしば。

そんな時は、難しい曲を選んだあとのプログラムに、より分かりやすい、簡単な曲を選んでみるのはいかがでしょうか?

童謡や唱歌でもいいですし、だれもが口ずさめるような歌謡曲でもいいでしょう。

みんなで楽しめる曲を用意することで、難しい曲が楽しめなかったクライエントも、フラストレーションを溜めることなくセッションを終えることができますよ。

ケアスタッフを巻き込んでサポートしてもらおう


音楽療法を行う際に、よく聞かれる悩みの中に、自分一人でセッションを行わなければならず、サポートが行き届かない、というものがあります。

音楽療法は、対象者の人数が多くなれば多くなるほど、音楽療法士のみがセッションを行うのが難しいセラピーになります。

片麻痺など、肢体がが不自由な方に楽器を渡す際には、片手でも演奏できるようなものを渡さなければならないことを考えると、自由に楽器を選んでいただくわけにはいかず、楽器を配る作業が発生します。

また、認知症の方や、耳が聞こえにくい方などに関しては、終始、近くで、今行われていることを説明してもらうなどの助けが必要になることもあります。

そんな時、欠かせないのが、ケアスタッフによるサポートです。

もちろん、流れや内容、意図していることが手に取るようにわかっている音楽療法士が、何人かでセッションの場を作り上げることができるのであれば理想なのですが、音楽療法士が何人もそろってセッションを行うことは難しい場合が多いでしょう。

そんな時は、普段クライエントに関わっており、クライエントのことが良く分かっているケアスタッフさんに、サポートをお願いするのです。

ただし、始めは、ケアスタッフさんがわかっているのは、クライエントのことだけです。

音楽療法のことは何もわからず、何をサポートしていいのかわからない、だからサポートできないと考えてしまう方もいます。

事前に、セッションの簡単な内容と、具体的にサポートしてもらいたいことを伝えておくと、ケアスタッフさんもサポートしやすくなりますよ。

まとめ

  1. どの方に楽しんでいただくための曲なのかを考えながら選曲することで、様々な状態の方が混在するグループに対する音楽療法でも、楽しんでもらうことができるプログラムが作れます。
  2. 具体的にサポートをお願いしたい場面やその内容を伝えておくことで、ケアスタッフさんの手助けを受けやすくなりますよ。

比較的元気な方がいたり、重度の認知症の方がいたりするセッションでは、どちらかに合わせてしまうと、どちらかが置き去りにされてしまったり、満足できないセッションになってしまいます。

一度のセッションで全員をカヴァーすることは、もちろん理想ではありますが、そうできるとも限りません。

定期的にセッションが行えるグループであれば、日によって、元気な方を対象とするプログラムにしてみたり、認知症などの方を対象とするプログラムにしてみたりすることも可能でしょう。

できる工夫をして、多くの方が楽しめるセッションになるといいですよね。


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