「トルコ行進曲」というタイトルを見てまず思い出すのはモーツァルトの方だと思いますが、ベートーヴェンにも同じタイトルの曲があります。

ピアノを習っていたことがある方や習われている方はベートーヴェンの「トルコ行進曲」をご存知だと思います。しかし「トルコ行進曲」は同じベートーヴェンの作品である「エリーゼのために」ほどは、一般に広く知られている曲ではないように思います。

今回は偉大な作曲家であるモーツァルトとベートーヴェンの2人がなぜ同じタイトルの曲を書いているのかなどにふれながら、ベートーヴェンの「トルコ行進曲」について書いていきたいと思います。

■ 目次

2人の作曲家がトルコの曲を書いているのはなぜなのか?


トルコがどうしてそんなに注目されていたのでしょうか。

ヨーロッパ、中東、北アフリカの国々は現在ではそれぞれの国となっていますが、その昔は帝国の勢力が凄まじく、ローマ帝国やオスマン帝国(オスマントルコ)という帝国に支配されていたところも多くありましたよね。

帝国の中でオスマン帝国が最も強い帝国だったのかどうかはよくわかりませんが、オスマン帝国は東ローマ帝国を滅ぼした帝国ですので軍事力が高く、優れた作戦を立てられるとても強い帝国だったのは間違いないのでしょう。

ヨーロッパの国々の軍事力が上がってくるころにはオスマン帝国は徐々に衰退していき、領土もだんだんと減っていきました。しかし帝国自体は帝政が廃止される1922年まで600年以上続きました。

音楽と関係ないと思ったのではないかと思います。しかし関係あるんですよ!

オスマン帝国軍は遠征に出る際、軍楽隊を連れて行きました。これは軍の士気を上げたり敵を怯ませたりする目的があったようです。

遠征の度に軍楽隊を連れていっていたため、その音楽がヨーロッパにも広まって行ったようです。軍楽隊が演奏していた軍楽はメフテル(Mehter)と呼ばれており、主に使われる楽器は管楽器と打楽器でした。


軍楽隊の音楽を直接聴いてはいないのかもしれませんが、モーツァルトやベートーヴェンが活躍していた頃、西欧ではトルコの音楽やファッションなどトルコの文化が受け入れられ、流行っていました。

モーツァルトとベートーヴェンはそのトルコの軍楽隊の音楽を基にして作曲をしました。

西欧とは違った音の響きやリズムはとても新鮮に感じられたでしょうし、彼らはその当時、最先端の音楽を作り出していたわけですから、流行っているものや新しいものを取り入れるなと言う方が無理な話ですよね。

モーツァルトは実はタイトルをつけていない


モーツァルトは「トルコ行進曲」というタイトルをつけていません。

そして有名になっている「トルコ行進曲」の部分というのは曲のほんの1部であって全体ではありません。そもそもはソナタとして書かれているのに、私たちがあの部分だけに注目したり、演奏したりしているだけなのです。

ではなぜ私たちは「トルコ行進曲」と呼んでいるのでしょうか?

下の楽譜を見て下さい。楽譜にAlla Turcaと書いてありますね!これは「トルコ風」という意味です。実はモーツァルトは「トルコ行進曲」とはつけていないのですが、「トルコ」というワードは使っているのです。

モーツァルト「トルコ行進曲」ピアノ楽譜
行進曲とはどこにも書いていないのですが、軍楽隊の音楽を基に作っていますから行進曲と思っても間違いではないのでしょう。

行進曲と呼ばれていることをモーツァルトはどの様に思うのかを知ることはできませんが、トルコの音楽を基にして書いているのを広く知ってもらえて満足しているかもしれませんね。

ベートーヴェンのトルコ行進曲は元はピアノ曲ではない


モーツァルトはピアノソナタとして作曲しましたが、「トルコ行進曲」というタイトルはつけていませんでしたよね。

ベートーヴェンはと言うと…

自らタイトルを「トルコ行進曲」とつけたのですが、実はピアノ曲ではありません。元は「アテネの廃墟」という劇付随音楽の第4曲目にあたります。


この「アテネの廃墟」(1811年作曲)の前に「創作主題よる6つの変奏曲」Op.76(1809年作曲)というピアノ曲が作曲されており、「トルコ行進曲」の主題はこの曲から採られたものです。「創作主題による6つの変奏曲」も現在「トルコ行進曲」と呼ばれることがありますが、それはこの曲の作曲当時にはなかった愛称です。

ベートーヴェン「創作主題による6つの変奏曲Op.76」ピアノ楽譜

変奏曲は広く知られているメロディーを使うことの方が多いのですが、作曲家によるものもあります。この主題はベートーヴェンのオリジナルです。

ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は元々がピアノ曲ではないため、様々な編曲がありますが、アントン・ルービンシュタインによるものが有名です。

難易度が高いのはどちらなのか?

モーツァルトとベートーヴェンの「トルコ行進曲」を比較するとき、ベートーヴェンの方は様々な編曲があるため、すべてを検討するのは難しいです。ここでは有名なルービンシュタインの編曲と比較することにしましょう。

ルービンシュタイン版は手が大きくないと弾けなかったり、コツをつかまないと弾きづらかったりすると思うのでそれなりに難しいと思います。しかし曲自体がとても短く、あまり変化のない曲なので、曲の大きさや曲想をつけるということから考えるとモーツァルトの方が難易度は高いと思います。

ベートーヴェンの方はリズム重視といった感じで力強く進んでいきます。モーツァルトの方は左手はベートーヴェンと同じくリズムをずっと刻んでいますが、右手はベートーヴェンよりもかなりメロディックです。

それぞれの曲で難しさは違うと思いますが、より気を配りながら弾かないといけないのは断然モーツァルトです。

自ら「行進曲」と名付けたベートーヴェンと「風」としたモーツァルト。2人がつけたタイトルの違いからも曲調の違いを感じ取ることができるように思います。

ベートーヴェン「トルコ行進曲」の弾き方のコツ

先ほども書いたように元々はピアノ曲ではありません。そのため様々な編曲が存在します。

有名なルービンシュタインの編曲はオクターブや和音を弾く部分が多く出てくるので手が大きくないと弾くのは難しいです。そして3度で弾く部分も多く出てくるためその部分でも苦労するかもしれません。




発表会などでお子さんが弾かれているのはもっと簡単な楽譜のものだと思います。




このように簡単に弾けるようにしてある楽譜であればバイエル後半やブルグミュラーが弾ける程度で弾くことができます。編曲によってはもっと簡単にしてあるものもあります。

弾き方についてはルービンシュタイン版ではなく、簡単にしてあるものについて書いていこうと思います。

この曲を上手に聴かせるポイントは4つです。

①とにかく1拍目をよく感じて弾く

ベートーヴェン「トルコ行進曲」ピアノ楽譜1
強くというと上から叩きつけるように弾く人がいますが、強ければ何でもいいというものではありません。汚い音ではいけないのです。

そのような誤解を招かないためにも強くというよりは重みをかける感じで弾くと捉えた方が良いのかもしれません。

トルコの軍楽隊から影響を受けた曲です。リズムを重視し勢いよく進んでいる感じをイメージして弾くことがまずは大切です。

②1拍目以外は軽く弾く

ベートーヴェン「トルコ行進曲」ピアノ楽譜2
1拍目を感じて弾くことができたら1拍目以外は自然と軽く弾けているのではないかなとも思いますが、1拍目以外を軽く弾くという意識も持っておいた方が良いでしょう。

アクセントがついているところは強調して弾かなくてはいけませんが、そうでない部分や同じ音が連続する場合は軽く弾くと1拍目がより際立ちますので、どんどん進んで行く感じが表現できます。

1拍目以外を軽く弾かずに1拍目と同じような感覚で弾いていくと、とても重い音になりダラダラ行進している印象になってしまいます。それでは勇ましさが減ってしまいますので、自分の音をよく聴いて気をつけて下さいね。

③装飾音符を鋭く入れる

ベートーヴェン「トルコ行進曲」ピアノ楽譜3
装飾音符の入れ方はフワッと優しく入れるだけではありません。曲によっては鋭く入れた方が良い場合もあります。この曲の場合は鋭く入れるのが正解でしょう。

指を使って頑張って鋭く弾こうと思うよりは指がほぼ同時に鍵盤に触れるくらいの感覚で手首を少し回転させて音が鳴るタイミングを少しずらすようにする弾き方の方が良いと思います。

指だけで鋭く弾こうと思うと必要以上に重みがかかってしまうと思います。力強い音にはなりますが、その弾き方では勢いはあまり感じない音になってしまいます。

手首を使う弾き方は手首を回転させる速さによってすごく鋭くもできますし、逆に柔らかくもできます。それプラス指を使えばもっといろんな音色を出すことが可能になります。

ちょっとのことなのですが手首の使い方、指の使い方で音が変わるんです。音が変わるとその部分の印象も変わります。

④対比をよく弾き分ける

ベートーヴェン「トルコ行進曲」ピアノ楽譜4
楽譜によって強弱のつけ方が違うかもしれませんし、スタッカートとスラーのつけ方も違うかもしれませんが、変化をつけられるように努力しましょう。

この曲はリズムが一定で同じことがくり返される部分が多いので、退屈な印象を与えてしまいがちです。

伴奏形が変わったり、曲調がガラッと変わったりするようなものであれば弾くだけである程度は変化がつくのですが、一定のリズムを刻んで進んでいくような曲の場合、だらだらとそのまま進んでしまうと何の表現もなかったという感じになってしまいます。

このような曲の場合は変化させるぞと思って弾かないとなかなか変わって聴こえません。楽譜によっては急激に強弱を変えるように書いてあるものもあると思います。そういう場合は強弱を変えるように書いてある部分のはじめの音から強く(もしくは弱く)しなくてはいけません。

徐々に変化させる方が演奏する側としては楽というのはよくわかるのですが、急に変えるというところに面白さがあると思うのです。

急激に強弱の変化をしなくてはいけない場合はかなり意識しないと変えることができません。弱くから強くはやりやすいのですが、その逆の強くから弱くはやりにくいです。何度も練習して力のコントロールができるようにしましょう。

ベートーヴェンの「トルコ行進曲」について書いてきましたが、いかがだったでしょうか?

モーツァルトのメロディックでなめらかな「トルコ行進曲」もいいですが、ベートーヴェンのリズムが際立つ力強い「トルコ行進曲」も私は素敵だなと思います。

是非どちらも挑戦してみて下さいね!

まとめ

◆2人がトルコの曲を書いたのは当時トルコの音楽が流行っていたから
◆ベートーヴェンの「トルコ行進曲」はピアノ曲ではない
◆編曲によって難易度は変わる
◆子供が発表会で弾いている編曲はバイエル後半からブルグミュラーが弾ける程度の難易度
◆弾き方のポイントは4つ
①1拍目を感じて弾く
②1拍目以外を軽く弾く
③装飾音符を鋭く弾く
④対比を弾き分ける




「トルコ行進曲」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1890年頃にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたベートーヴェン「創作主題よる6つの変奏曲」の楽譜です。
  • free-scores.com(楽譜リンク
    1900年頃に出版された、易しい難易度に編曲されたベートーヴェン「トルコ行進曲」の楽譜です。
  • IMSLP(楽譜リンク
    1893年頃にシャーマー社から出版されたモーツァルト「ピアノソナタ第11番(トルコ行進曲付き)」の楽譜です。
  • 本記事はこれらの楽譜を用いて作成しました。いずれもパブリックドメインの楽譜です。

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