発表会でよく弾かれる曲というのは「エリーゼのために」や「子犬のワルツ」など一般的に知られている有名な曲の他にも弾き応え、または聴き応えのある曲が選ばれていると思います。

エステンの「人形の夢と目覚め」という曲は一般的に知られているとまではいかないかもしれませんが、発表会で弾かれる機会が多いのでピアノを習っている、または習ったことのある人達にはよく知られている曲だと思います。

今回は弾き応え、聴き応えのある「人形の夢と目覚め」について書いていきたいと思います。


実は1番身近なクラシック?


先ほど一般的にはあまり知られていないと書きましたが、実はこの曲の1部分は多くの人が聴いたことがあるのです。その1部分は日常生活の中で聴くことができます。

そのためこの曲が1番身近なクラシックと言えるかもしれません。最初の部分を聴いてもピンと来ないと思いますので、途中の部分(動画0:38~)を聴いてみて下さい。

どうでしょうか?聞き覚えがある方は割と多いのではないでしょうか?お風呂が沸いたときに流れる音楽ですよね!実は「人形の夢と目覚め」の1部分が使われているんです。

給湯器のメーカーは色々あるようなのですが、「ノーリツ(NORITZ)」、「リンナイ(Rinnai)」の2社がほとんどなんだそうです。お風呂が沸いたときの2社の音楽は同じではありません。「ノーリツ」は「人形の夢と目覚め」で「リンナイ」は「カノン」なんだそうです。

音に聞き覚えのなかった方は「リンナイ」や他のメーカーかもしれません。

我が家は「ノーリツ」なので「人形の夢と目覚め」が流れています。以前「ノーリツ」のCMで「人形の夢と目覚め」が流れていたことがありました。
出演者の高橋ひかるさんが帰り道を歩いていると、小学生のリコーダー、携帯着信音、ピアノ、コーラス・・・と、いろいろなところからこの曲が聞こえてきますが、「この曲なんだっけ?」と思い出せず、家に着いてから給油器の「お風呂が沸きました」でわかるというCMです。

CMにまでこのように使われるということは「ノーリツ」の給湯器を使っている人たちが多いということなのだと思います。

給湯器だけではなく炊飯器や洗濯機をセットするときや固定電話の保留音などでもクラシック曲の1部分が使われていることがあります。

日常生活の中にもクラシック曲は意外と使われているので、探してみると面白いかもしれませんね。

エステンってどんな人?


エステンのフルネームはテオドール・エステン(Theodor Oesten)と言います。ドイツ出身のピアニスト、作曲家、ピアノ教師です。

楽譜によってはエステンではなくオースティンと書かれているものもあります。スペルを見て頂くとわかると思いますが、読み方が英語読みになっているだけで同じ作曲家です。

エステンは1831年に生まれ1870年に亡くなっています。音楽史でいうとどの時代に活躍したかと言うと、後期ロマン派にあたります。同じ時期に活躍したドイツの作曲家はブラームス(1833~1897)です。

王侯貴族中心の時代から市民が中心の時代になると音楽は王侯貴族だけのものではなくなりました。そのためピアノを弾く人口が増えていき、ピアノ教師や初心者、中級者向けの曲を作曲する作曲家も多く出てきました。

現在、皆さんが弾かれている初心者、中級者向けのクラシック曲というのは古典派後期からロマン派の時代にかけて書かれたものがとても多いです。

「人形の夢と目覚め」の難易度


「人形の夢と目覚め」は難しくはありません。しかしピアノを習ってすぐの初級レベルで弾ける作品ではありません。

ブルクミュラー「25の練習曲」の初めの方の曲を数曲弾けるくらいでは弾き切るのは少し難しいと思います。同じ曲集の後半の方が弾けるくらいならあまり無理することなく弾けます。

この曲は場面が変わるところが出てきます。ただ弾くだけではこの曲の良さがなくなってしまうので曲想をつけて弾けるようになった頃に弾く方が私はいいと思っています。

「人形の夢と目覚め」の弾き方

先ほど少し書きましたが、この曲は場面が変わるところでちゃんと弾き分けられているかどうかで上手かそうでないかが決まってしまいます。

この曲は①お人形の子守歌②お人形の夢③お人形の踊りという3つの部分でできています。楽譜によっては子守歌、夢、踊りと書いていないものもありますが、テンポ指示や拍子が変わっているのですぐにわかると思います。

3つを細かく見ていきましょう。

①お人形の子守歌(Cladle Song)

この部分は3拍子で書かれています。この曲は後半になるにつれて盛り上がるようにできています。エステンは構成を色々考えて後半に盛り上がるように作曲したと思います。

せっかくそのように作曲しているのに最初から元気よく弾いてしまうと効果が減ってしまいますし、最後に向けてさらに盛り上げようと頑張ると騒がしい演奏になってしまいます。ここは子守歌のようにゆったりした気持ちで弾きましょう。(最初~)

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜1
最初の部分はとても大切です。右手の3度が切れないようにレガートで弾けると素敵になります。3度をただ切れないようにつなぐだけではなく、重みを次の音につないでいこうという気持ちで弾くとよりレガートになり動きが出てくると思います。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜2
4小節目までスラーがついていますね。最初からここまでを一息で弾いて欲しいという指示です。スラーの終わりの音は強く弾いてはいけません。必ず優しく弾くようにしましょう。

そのように弾くためには直前の音(3小節目の付点2分音符)に少し重みをかけるようにして次の音は力を抜いて弾くと上手くいきます。そこだけ強調すると飛び出たような印象になってしまっておかしいので最初から徐々に付点2分音符の音に向かって流れていっているように弾いていくとさらに良くなります。

この部分の強弱記号はピアノと書いてありますね。ピアノと書いてあるのですが、右手と左手を全く同じ音量で弾くと左手の音が目立ってしまいます。なぜかというと低音は弦が太いので大きくなってしまうのです。

もうひとつ理由があります。上の楽譜を見て下さい。1拍で弾く音の数は重音になっている右手の方が多いですが、のばしていることが多いですよね。左手は常に弾かなくてはいけません。左手の方が弾く回数自体は多いのです。

右手はのばしているので弾いた瞬間から音はだんだん小さくなってしまいます。同じ音量で左手を弾いていくと左手の方が目立ってしまいます。右手のメロディーを目立たせるには左手は右手よりも少し小さめに弾かなくてはバランスが悪く聴こえてしまいます。

大譜表の真ん中に強弱記号が書いてありますが、これは全体の音量のことです。その中で右手と左手のどちらが伴奏でどちらがメロディーなのかなどを考えて、音量のバランスを取っていかなくては素敵な演奏にはなりません。(アクセントがついているなど指示があれば伴奏であっても目立たせる必要があります。)

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜3 (動画0:27~)

この楽譜は子守歌の最後の部分です。楽譜によってはこの部分に「お人形の眠り(Dolly Sleeps)」と書いてあります。そして4小節目からrit.の指示が書いてあるものもあります。

②お人形の夢(Dolly’s Dream)

先ほど給湯器の話をしましたが、この部分が使われています。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜4 (動画0:38~)

子守歌を聴いて眠りについたお人形は夢を見始めます。この部分は3拍子ではなく4拍子に変わっています。

この楽譜ではペダルの指示がしてありますが、楽譜によってはバスの音を指でしっかりのばして重音の部分をスタッカートで弾くようになっているものもあります。

ペダルを使う場合は穏やかな夢といった印象になりますが、スタッカートで弾く場合は元気な夢といった印象になると思います。どちらで弾きたいのか考えてイメージに合った方を選択されると良いと思います。

私は元気な夢の印象の方が好きなのでスタッカートで弾きます。スタッカートとは言ってもすごく短く鋭く切るのではなく、軽くリズムを刻むという感覚のスタッカートです。メロディーは右手なのでそれを邪魔するような弾き方にならないように気をつけましょう。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜5
左手の部分を見ると2つのパートを弾きわけないといけないことがわかると思います。

バスの音は支えとならなくてはいけないのである程度しっかり弾く必要がありますが、重音の方のパートは軽く弾かなくてはいけません。この弾きわけができるように左手だけの練習をよくしましょう。

右手は音の上がり下がりに気をつけて弾きましょう。音が上がれば少しクレッシェンドするように、下がれば少しデクレッシェンドするようにして弾くと素敵になります。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜6 (動画0:58~)

楽譜によってはこのように強弱やクレッシェンド、デクレッシェンドがしっかり書いてあるものもあります。この強弱はただ大きくしたり小さくしたりするという意味ではなく、ニュアンスとしてとらえる方が良いと思います。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜7 (動画1:29~)

上の楽譜は夢の最後の部分です。楽譜によっては「お人形の目覚め(Dolly Awakes)」と書いてあることがあります。同じ和音が2つずつ続いているのがわかると思います。

この部分はフォルティッシモの指示がしてありますが、より盛り上がった感じを出すには1つ目の和音よりも2つ目、2つ目よりも3つ目というように鍵盤を弾くスピードを速くし、そして深く弾くようにすると良いです。

このような和音の場合は瞬間的に弾き、その後は必ず力を抜くようにしましょう。力で押すと重たい音になってしまうので弾くスピードと深さを変えると考えた方が切れのある響く音になると思います。

③お人形の踊り(Dolly Dances)

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜8 (動画1:36~)

この部分は2拍子になっています。速度は他の部分よりも速く弾くように指示されていますね。そしてscherzando(スケルツァンド)と書いてありますね。これは「おどけたように」という意味です。

つまりこの部分はリズムに乗って楽しんで弾いて欲しいということです。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜9 (動画2:27~)

この部分は強弱をすぐに変えなくてはいけません。①と②には急激な強弱の変化はそれ程ありませんでしたが、ここでは多く出てきます。強弱をよく守るというのもおもしろい演奏にするポイントの1つです。

テオドール・エステン「子供の情景」第4曲「人形の夢と目覚め」ハ長調Op.202-4 ピアノ楽譜10 (動画2:37~)

この部分は右手だけに注目しがちですが、左手のもおもしろい部分です。和音ではアクセントをしっかりつけて重みをかけ、重音の部分では力を抜いて軽く弾きましょう。

何度も何度も同じリズムがくり返されています。音もほぼ変わりませんが、音の高さが変わっています。右手も上がったり下がったりが激しい部分になりますので、音の起伏を表現するためにクレシェンド、デクレッシェンドをつけて弾くようにしましょう。

※この辺りは楽譜によって音が多少違ったり、カットされている部分があったりするようです。私の持っている楽譜とは少し違う部分がありました。

3つの部分はそれぞれどんな特徴があるのかということをきちんと理解し、どのように弾いたらその部分に相応しくなるのかを考えて弾くときっと素敵な演奏になると思います。

曲想がある程度つけられるレベルになったからこの曲に挑戦できるのだと思います。曲想のついていない「人形の夢と目覚め」は全くおもしろくありません。是非曲想をつける努力をしてみて下さいね!

まとめ

◆お風呂が沸いた時に流れる音楽は実はこの曲の途中の部分
◆エステンは後期ロマン派に活躍したピアニスト、作曲家、ピアノ教師
◆この曲はブルクミュラー「25の練習曲」の後半が弾けるレベルの難易度
◆この曲は3つの部分からできている


編集者による補足解説

曲の情報

  • 曲名:人形の夢と目覚め(にんぎょうのゆめとめざめ/ドイツ語:Püppchens Träumen und Erwachen/英語:Dolly’s Dreaming and Awakening)
    ※発表時は「人形の夢(ドイツ語:Püppchens Traum/英語:Doll’s Dream)」という曲名だったようです。
  • 作曲者:テオドール・エステン(Theodor Oesten/ドイツ人)
    1813年12月31日-1870年3月16日(56歳没)
    作曲家・ピアニスト・ピアノ講師
    ※英語読みでは、セオドア・オースティンとなります。
  • 曲の種類:ピアノ独奏曲/性格的小品
  • 作品番号:Op.202-4
  • 調:ハ長調
  • 区分:ロマン派
  • 発表年:1862年(作曲者は48歳)
  • 演奏時間:約3分
  • 曲の構成:Andante sostenuto 4分の3拍子 → Andante Moderato 4分の4拍子 → Allegretto Moderato 4分の2拍子
  • 6曲からなる小品集「子供の情景(ドイツ語:Kinderscenen)」Op.202の第4曲
    ※この曲集には「オクターヴに届かなくても弾ける、6つのやさしいピアノ小品(ドイツ語:Sechs leichte Clavierstücke ohne Oktavenspannung)」という別名があります。

「人形の夢と目覚めOp.202-4」の楽譜




「人形の夢と目覚めOp.202-4」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1885年に出版されその後再販されたパブリックドメインの楽譜です。

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