夜11時、私がその四畳半の狭い部屋にある、時代遅れの裸電球に埃を気にしながら灯りをつけると、屋根裏から「カサカサ」っと素早い音が聞こえてきます。ネズミ達が突然の物音に驚いて逃げたのでしょう。そこの廃屋はもう20年近く放置されたままで、古い家具や本などが山積みになっています。

薄暗い部屋、物音一つしない夜。電球の明かりはとても弱く、外は薄明るい月の光・・・

世界には今、自分一人だけしかいなくなってしまった様な孤独感と、夜の闇に吸い込まれそうな不安な気持ちが全身に広がっていきます。

ふと、気付くと後ろに人の気配がします…じっとこちらを見ている様です。鋭い静寂感が強まり、体の底から痺れるような恐怖感に打ち勝つ様に後ろを振り返ると・・・・・・・・背の低い老婆がじっとこちらを見つめています。体が凍りついて身動きが取れなくなった私に老婆は口をゆっくり開きます・・・

張り詰めた空気を通して、そのしわがれた重い声が直接心臓に刺さるように・・・・

「ネズミのウ○コさカビ生えで~、埃と一緒に舞い散っから、ここは空気悪いど~。ここでラッパ練習すんのは暗れえべし、体さも良ぐねえべ。いま焼ぎ芋焼いだがら~あがい(食べなさい)。」

当時高校生だった私は夜も楽器を練習したくて、昔母の一家が住んでいた廃屋を借りて練習しようとしましたが、かなり古い家の埃やカビを心配した祖母が止めに来たのでした。(本当に上の画像のような雰囲気の場所で練習していました!)


どの楽器でも言えることですが、家で練習するのは音量などの関係から中々難しいものです。特に集合住宅では、楽器演奏可の物件でもない限り難しいですね。

トランペットの場合、音量が大きいので練習場所を確保するだけでも、大変です。

そこで今回は、楽器奏者にとって必要不可欠な「練習をする」ための場所や方法、そしてプラクティスミュートでの練習方法を考えてみたいと思います。これから紹介する方法はもちろん私自身が試してみました。

練習場所について

学校など

小中学校から吹奏楽部に所属していた人は、部活で練習する時間と、学校という場所が確保できたと思います。おそらく家では楽器ができない多くの人にとって、唯一気兼ねなく楽器が吹ける場所だと思います。

学校を卒業してアマチュアのバンドやオーケストラに入って楽器を続けるとなると、今までは部活で毎日練習できていたものが、週1日しか練習できない、というのがほとんどではないでしょうか。

練習場所としては、広さ、気兼ねなさという点で学校が最も良い練習場所であることは間違いありません。本格的に音大やプロを目指す人は、吹奏楽部ではなく、部活よりレッスンをするべきなのかもしれませんが、仲間と気兼ねなくアンサンブルができたりする点でもやはり学校が望ましいです。

しかし…私もこれをお読みの多くの方達も、もう部活ができる青春時代は過ぎてしまったのです…(´Д` )

海で!山で!河川敷で!外へ出よう!!

ならば!思い切って外で吹くという手もあります。

かつて練習場所が中々確保できなかった私は、練習ポイントを探すため、自転車で様々な所を行き来しました。ポイントは

・音の迷惑にならない様に民家から離れた場所。
・集中して練習したいため人通りが少ない場所。
・雨風がしのげる場所。

そんな中でこれらの条件を満たした場所とは、ズバリ「やや広めの河川敷の橋の下」です。橋の上は車が通るのでそもそも音で誰かに迷惑をかけることもありません。橋の下ですので雨対策もバッチリです。

しかし!風は防げません。さらに、当たり前ですが冬は寒いです。体を動かしてトランペットを練習するわけでは無いので、さらに寒さ倍増です。これで私は風邪をひきまくりました。

また夜は治安も良く無いのでオススメできません。

ただ、練習場所としては良い場所だと言えます。ごく稀に同じ境遇で練習しに来た人と交流できたり、楽しい事もあります。

海での練習はどうでしょう?これはあまりお薦めできません。海に向かってトランペット!はかっこいいのですが、何せ海からの強い風がツライです。目を細めて吹いているのは黄昏ているのではなく風が強いからです。それに風と波の音で自分の音がよく聞こえず集中して練習するのが難しいです。

山はどうでしょう?私は海派よりヤマハ(山)なので悪くは無いのですが、虫が多くてこれも中々難しいです。

雨が降ったら橋の下へ!

超ピニッシモで練習する。

家でも周りに迷惑にならない様に練習する方法の一つとして、物凄く小さい音で練習するという手段があります。防音があまりよくないアパートなどでは難しいですが、音がうるさくて迷惑ならば音を小さくしてしまえばいいのです。

この練習法の利点は、無駄な力をいれないようにして、わずかな息で唇が反応するのを観察するには良いと思います。

しかしやはり常にppで吹くということは、これまた特殊な状態での吹き方なので、いざキチンと吹こうとすると小さい音しか出せなくなります。

車の中で練習

マイカーを持っている方ができる事ですが、車で人気の無い所へ行き、そこで車の中で練習する方法があります。学校で練習する時のように人目(耳)気にせず練習できます。

これも少々欠点がありまして、大きめの車種なら良いのですが車の中はやはり狭いです。狭い空間の中でトランペットを吹くのですから、やや自分の耳も痛くなって来ます。

もう一つ重大なこととして、夏や冬の時についウッカリしてエンジンを止めたままエアコンをつけてしまって、バッテリーがあがってしまうという事があります。私だけかもしれませんが、人里離れた場所で車が動かなくなるのは本当に不安になります。

ライトやハザードの消し忘れなどもバッテリーがあがる原因になります。エアコンなどを使う場合は、エコではありませんが必ずエンジンはつけたままにしましょう。


カラオケで練習

外で練習する場合もですが、いまいち自分の演奏に自信が持てないと、練習している音を他の人に聞かれるのが恥ずかしいと思うことはないでしょうか?

お金がかかってしまいますがカラオケで練習する方法もあります。最近では1人カラオケなどが珍しくなくなりましたが、昔は良い練習場所とは思いながらも1人でカラオケに入るには勇気が要りました。

今では楽器を練習するためにカラオケを利用する人が増えています。トランペット、サックスやヴァイオリンはもちろん、民族楽器や日本の雅楽の楽器を練習している人もいました。

カラオケで練習する良い点はやはりミュート無しでオープンで練習出来ることです。地域や時間帯にもよりますが1時間300円位でドリンク飲み放題です^ ^気が向いたら歌ってもOK!!

一つ欠点があるとすれば、隣などで大いに盛り上がっている時、人によっては集中できないかもしれません。また、逆に自分の音が他の人にどう聞こえているのか気になって集中できない人もいるでしょう。


貸しスタジオで練習

練習場所として一番最適な場所は圧倒的に音楽スタジオです。完全防音なのはもちろん、録音機器、マイク譜面台等必要なものは揃っています。学校やカラオケ以上に集中して練習する事ができます。

ただ大きな欠点としては、空き時間に予約が必要なことと、カラオケに比べてやや金額が高いことです。毎日練習したい人にとってはコストパフォーマンス的には難しいです。


プラクティスミュートでの練習とは?


様々な練習場所を求めて放浪しましたが、楽器にミュートを付けて音そのものを抑える方法があります。

プラクティスミュートの良い点は、やはり音を小さくできるので夜でも気兼ねなく練習できることです。しかしながらベルから蓋をしてしまう形になるので、非常に抵抗が強くなり、本来の音の出し方ではなくなってしまいます。

止むを得ずこれで練習するしかない環境の人も多いと思いますが、プラクティスミュートのみで長い間練習するとどうなるか?

私は約2年程ミュートのみで練習していた時期がありましたが、やはり音が貧弱な音色になってしまいました。プラクティスミュートでの練習はあくまでも指の練習や、奏法のチェックにとどめた方が良いと思います。

ただ利点として、集中して練習できるため、難しい曲をシッカリさらえたり、唇や口の中の状態を冷静に観察できます。

ミュートなしのオープンで練習すると、自分の音のみに気を取られて、そういった細かい点を見逃してしまいがちです。そういう目的でプラクティスミュートを使った練習も良いのかもしれません。

どのプラクティスミュートが練習に最適か?

現在様々なメーカーからプラクティスミュートが発売されていますし、ネットで探してみると自作のミュートもあったりします。

メーカーそれぞれに形や吹奏感の違うプラクティスミュートが販売されています。音量を小さくすれば抵抗が強くなってしまうし、抵抗感を少なくしようとすると消音性が落ちてしまいます。

さて、皆さんもできれば家で練習したいですね。お金も出したくないし海で、山で、河川敷での練習も難しいです。狭い車も限界がありますし、古民家もこれ以上ネズミのフンのカビを吸う訳にはいきません。オバケも出るかもしれません((((;゚Д゚)))))))

そこで私は出来るだけオープンに近く、消音性もバツグンのプラクティスミュートを探してみました。

シーミュートBremner sssssshhhhhh Mute



個人的に吹奏感、消音性が最も良いと思ったのはこのミュートです。本体も非常に軽く、ミュートを付けた重さを全く感じません。

一見作りがプラスチックで簡単な構造に見えます。自分で材料をホームセンター等で買って作れそうですが、やはり材質や形状などが計算されているためか、同じようなものは作れませんでした。

ウォレスコレクション ミュート スタジオプラクティス



アルミ製のハーマンミュートの様なミュートです。ミュートの先にある小さな円筒状のものを引き出す長さで抵抗感のコントロールができるのが特徴です。シーミュートより若干音は大きく感じますが、よりオープンな感じがします。


ただお値段が結構高いです^ ^私は楽器店で試奏したのみなので、もしかしたらキチンと購入して、長く使うと良さが発見できるのかもしれませんね。

ヤマハサイレントブラス(旧バージョン)



私はこのミュートで長い間練習をしました。消音性はまあまあで、でも抵抗感は上の二つに比べて強い様です。

これはミュートでありながらマイクでもあります。ミュート本体からアンプなどに繋いだり、ヘッドフォンで自分の音を聞く事が出来ます。

現在は新しいバージョンが発売されています。


本当は試すべきなのですが、新しいバージョンのものはまだ試していないのです…

Yuponユポン ミュート プラクティス



ホルンのミュートで有名なメーカーです。ミュートの内部にウレタンの様なものを詰めたミュートで、消音性もまあまあです。抵抗は強めです。

ベストブラス



消音性はかなり強いですが、やはり抵抗もそれに伴って強くなっています。練習用よりはウォーミングアップ用として使用した方が良いと思います。

デニスウィック



こちらも長く使用しました。抵抗をかなり強く感じます。音程も非常に取りにくいのでこちらもウォーミングアップ用としてならオススメです。

プラクティスミュートでの具体的な練習方法

どんな事を言っても結局はミュートなしでの練習が最も好ましいです。あくまでもミュートでの練習は「練習しないよりはマシ」程度、あるいは本番直前にどうしてもウォーミングアップができない状態の時の緊急手段と思っていいです。

プラクティスミュートを使った私なりの練習方法をご紹介したいと思います。

まずは低い音から。

チューニングの一オクターブ下のドから、力を入れずにロングトーンをします。高い音よりは低い音の方が唇の反応を確かめやすいからです。ミュートをつけると必ず抵抗があり、力任せに吹いてしまう癖がつかないようにするためです。

タンギングは控えめに。

タンギングをしようとするとミュートの抵抗でオープンの時よりかなりキツくなります。無理にタンギングをすると抵抗による息の跳ね返りで、口の中の容積が必要以上に広がって、どんどん高い音が出せなくなってきます。この癖がついてしまうと、直すのに苦労します。

無理に吹こうとしない。

ミュート付きでエチュード等を一曲通して吹こうとすると、最後まで口の筋肉のスタミナがもたない事が多いです。ミュート練習はバーベルを持ちながらのマラソンや、重りを付けて水泳をするのと同じ状態なのですが、だからといって耐久力が鍛えられる訳でもありません。

ここで焦って無理に吹こうとすると、無意識に口のポジション、つまりアンブッシュアが変わってしまいます。特に経験の浅い人は下唇が上唇の下にもぐりこんでしまいます。もしこの状態までになったら、これ以上吹かないで直ちに休みましょう。これ以上続けると、吹けなくなるための練習になってしまいます。

ミュートなしで出せない音は…

ミュート練習をしていると、抵抗が強いせいか高い音がより出しにくくなります。しかし、きっとミュート無しなら高い音も出しやすくなるはず、と期待しても案外ミュートを付けても付けなくても、出せる音域はあまり変わらないようです。

先にも書いたように、オープンで吹いていると、つい楽しくなって自分の音や口の形に気を配るのを忘れがちになってしまいます。そんな時にミュートをつけると自分の奏法のチェックにも役に立ちます。意外と気付いていなかった自分の悪い癖がわかってきます。

練習は日々の糧

楽器を演奏する人にとって毎日の練習は、ご飯を食べるのと同じくらい重要なことです。仕事や日々の生活で叶わず、しょうがないことですが、何とか1時間でも自由に気兼ねなく練習したいものです。

高速道路の騒音など、ある音に対して、同じ周波数の音波を出してその音を打ち消してしまう、という技術があると聞いた事があります。これを楽器の消音装置に利用できないものかと期待しています。

それによって自分の音が全く聞こえなくなると困りますが、近所迷惑にならない音量までコントロール出来れば最高ですね。それならば家で、焼き芋を食べながらでも練習出来ます!その日が来ることを期待して待ちましょう!



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