高い窓から差し込む陽の光。日常とは少し違う高揚した雰囲気。厳かに流れてくるパイプオルガンの音の重なり。これから入場してくる新郎新婦の姿を想像して心躍らせながら教会に入場する参列者。こんな光景、記憶にないでしょうか?


バックに流れるのは、そう、J.S.バッハの『主よ、人の望の喜びよ』です。このようなオルガンでの演奏のほか、合唱や独唱、管楽器と弦楽器による合奏、ギター独奏など様々な編成に編曲されています。ピアノ独奏用だけでも複数のアレンジが存在します。

私は妥協したくなかったのでこちらの楽譜を使いました。



でももし、超初心者の方でしたら、こういったものも出ていますので、チャレンジしてみるのもよいですね。弾けるようになったら、もうちょっと上級の編曲を試してみるのもよいでしょう。



どの編曲を選ぶかで難易度が決まる!?

ピアノの編曲として最も有名なのは、マイラ・ヘスによるものです。足も使うオルガンと同じくらいの音数があります。いい曲だから、と弾きたくなるものですが、全音のピアノピースでE(上級)となっています。思いのほか手強いです。
 



この曲の演奏で注意したいのは、メロディーをいかにつなぐか、あるいはつながって聞こえるように演奏するか、です。オルガンは、パイプの中に風を送って演奏する楽器ですので、鍵盤を押さえている限りは音が持続します。それに対し、ピアノは打鍵した後減衰してしまいますので、長い音を保持するのには向きません。

パイプオルガンでの演奏をイメージして弾くのか、ピアノらしくさらりと弾くのか。といった選択肢もあります。上の動画はテンポよくさらさらと弾いていますね。

0:21~1:00~などに出てくるテーマ
♪シードレーレドーシラー
は音を保持していきたいところですが、そこに気を取られるとほかの音にも影響しそうです。

そもそもこの曲は、教会で歌うために、複数編成の楽器で伴奏されるべく作られた、教会カンタータの中の曲。それをそのままピアノで弾くために編曲したわけですから、どんなに手が大きい人でも、室内楽やオルガンと同じようなわけにはいかないのが難点です。ちなみにこちらが歌と室内楽で演奏される譜面。

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜1
和音で弾く練習も必要ですが、この編成でいうところのパート練のようなこともしてみるのもいいですね。

こんなに大勢で作る音楽を1人でこなすには・・・

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜2
これはバウアー編曲のピアノ独奏用楽譜です。左手の和音が3つ目から既に10度あります。たいていの方は、グリッサンドにして弾くことになるでしょう。その場合の指使いは、5-2-1でもいいでしょうし、5-1-2という方法もあります。(下の動画で3:02あたりからを参照)。

いずれにしても、和音をドスドスと鳴らすのではなく、どの音も横のつながりを意識し続けることです。


この方、10度はらくらくつかめるようですが、一部の和音で左手をばらして弾いています。その時にも、ジャジャーンとならないように、ふわりと弾きたいものです。

どんな時にも出したい旋律ははっきりとつながっていますね。テンポが速い方がつながって聞こえる、というわけでもないので、自分でしっくりくるテンポを見つけるとよいでしょう。

バウアー版の場合、メロディーが突然上の方に行ったり1:46~しますが、そこはあわてずに対処しましょう。高音域は響きやすいので強く感じてしまうこともありますが、この演奏ではかなりソフトに演奏されています。

2:07~のところも右手がオクターヴになっています。楽譜でいうとここですね。

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜3
3:50~は左手も高い音域に移動していて低音がありません。このような変化も楽しめるといいですね。
 


同じバウアー版でも、テンポが違うとだいぶ印象が変わります。こちらは少し速い演奏。さらに、テーマの音も、下の矢印の音がミになっているため、印象がずいぶん違います。

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜4
いずれにしても、横の流れに加え、縦の和音の響きも楽しむことができます。例えばここの部分は、ソプラノとテノールの歌手の二重唱のように演奏できます。(1:30~)

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜5
この方は、敢えてこれをずらして弾いていますが、もちろんそろえて弾いてもいいと思います。同じの旋律が2回以上繰り返し出てくる場合は、どちらをメインにするのかを変えることができます。つまり、1回目はソプラノをより大きく、2回目はテノールをより鮮明に弾く、ということです。

聴いている方も、新しい和音を感じることができますし、なにより弾き手にとって、暗譜の助けになるでしょう。さもないと、この曲は繰り返さるメロディーが多いので、永遠ループに陥ってしまう可能性があります。

1つの旋律を右手と左手でバトンタッチしながら弾くところ(0:47〜)は、1本の手で弾いているように自然に。

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜6

難しすぎると思ったら


想像していたのよりも弾きにくい、と思ったら、少し易しい版で練習してみてもいいかもしれません。こちらの楽譜だと、左手は単音ですので右手に集中できます。これで慣れたら、もう少し音の厚い版に挑戦できますよね。

バッハ「カンタータ「心と口と行いと生活で」第10曲「主よ、人の望みの喜びよ」ト長調BWV147-10/ピアノ編曲:ハロルド・バウアー(マイラ・ヘス)」楽譜7
ただしこちらになると、少々物足りなく感じるかもしれません。なんとか練習を重ねて、ヘスやバウアーの編曲を堪能したいものです。



「主よ、人の望みの喜びよ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1932年にシャーマー社から出版されたパブリックドメインのバウアー編曲ピアノ独奏譜です。
  • free-scores.com(楽譜リンク
    簡単に弾けるように編曲されたパブリックドメインのピアノ独奏譜です。
  • IMSLP(楽譜リンク
    1884年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたカンタータ「心と口と行いと生活で」BWV147全10曲のパブリックドメイン楽譜です。第10曲のコラール「主よ、人の望みの喜びよ(イエスは変わらざるわが喜び)」は39ページからです。第6曲のコラール「イエスはわたしのもの」も歌詞は別ですが曲は第10曲と同じです。
  • 本記事は以上の楽譜を用いて作成しました。

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