『猫の事務所』は、宮沢賢治の童話です。

演劇台本って、探してみるとなかなか見つからないもので、目当ての本があっても手に入らず、私もよく苦労をしています。

そんな時は、思い切って朗読劇をやってみるのはいかがでしょうか?
身近にある小説や童話から、気に入ったお話を選んで、演劇に仕立てるのです。

この『猫の事務所』は、文庫本だと、12ページの短いお話です。
地の文章と、セリフの文章とがうまい具合に分かれていますので、朗読パートと演劇パートに分けて、同時に動かしながらお話を進めていけば、20~30分程の素敵な劇に仕上がると思います。

人数も、8~30人程で調整ができそうでしたので、今回取り上げてみました。

今しかできないものを


副題が、……ある小さな官衙に関する幻想……となっている通り、小さな猫たちが、生意気にもお役所仕事をしていまして、そのうち猫どうしで争いが起こり、終いには大きな獅子がやってきて、事務所は解散を命ぜられるというユニークなお話です。

できれば、この大きな獅子は、大人の方にやって欲しいなぁと思います。こんなスケール感は、子供と大人でないと出せないからです。

私の観劇体験をちょっとお話ししますと、たしかまだ幼稚園に通っていた頃、母親に手を引かれて観に行ったのが最初だったと思います。

「猫の劇だよ」と母が言いました。その日の夜はなんと猫がお話をやるんだそうで、いつもなら出てはいけない夜道を、母の手をしっかりと握り、車の赤いランプや、街灯がゆらゆら明るいなかを小さな興奮に包まれながら劇場まで歩きました。

さて、このあとの私の観劇体験は散々なものでした。真っ暗な舞台から這いだしたのは、私の背たけの何倍もあるような、猫の化粧をほどこした恐ろしい大人たちだったからです。

これが一体何の劇だったのか、どうやっても思い出すことはできませんが、猫の役はぜひとも、子供にやってもらいたかったです。

お話の構成


軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところでした。

こんな風に始まります『猫の事務所』は、小さな猫たちが立派な事務所をかまえ、しっかりとした黒服に身をつつみ、ばかに大きな原簿を繰って「三番書記、ベーリング地方有力者の名称を挙げよ。」なんてやっている姿がとても可笑しな物語です。

読み聞かせをする朗読パートが主軸としてあり、途中途中で、実際の猫たちのやりとり(演劇パート)が挿入されるという構成で書かれています。

このお話を、おおまかな展開で①~④に分割し、各パートごとに振り分けますと以下の通りになります。

①導入

最初の語り(朗読パート)
猫の事務所の紹介です。ここで、毛色の違う5名の事務所員のうち、かま猫と呼ばれる猫が、みんなから嫌われていることが語られます。かま猫は、夜かまどの中に入ってねむる癖があるために、いつでもからだが煤(すす)できたないからそう呼ばれているのだそうです。

猫たちの仕事ぶり(演劇パート)
利用者のぜいたく猫が、旅行計画の相談にやってきます。
かま猫は仕事ぶりが良いため、事務長から評価されている様子。
ほかの猫たちは、ますます面白くありません。

②争い

語り(朗読パート)
ここからは、ある日の事務所内でのちょっとした争いについて語られます。
些細なことで争いが起き、決まってかま猫が責められています。

猫たちの争い・その1(演劇パート)
お弁当が床に落ちたことで、争いに。

語り(朗読パート)
事務長の黒猫だけは、かま猫をかばってくれます。

猫たちの争い・その2(演劇パート)
筆が床に落ちたことで、争いに。

③勘違い

語り(朗読パート)
ある日、かま猫は風邪で仕事を休んでしまいます。

事務長の勘違い(演劇パート)
かま猫を心配する事務長でしたが、ほかの猫の言うことを真に受けて、かま猫がどこかの宴会に、事務長である自分を差し置いて招かれて行ったと勘違いをしてしまいます。

語り(朗読パート)
翌日、すっかり体調が良くなったかま猫が出勤してきます。

みんなの無視(演劇パート)
ところが、自分の席にあったはずの大事な原簿がなくなっており、誰も口をきいてはくれません。
仕事もできず、ずっとうつむいたまま過ごすかま猫でしたが、とうとう泣きだしてしまいます。

④獅子登場

語り(朗読パート)
大きな獅子が、不審そうに事務所へ入ってきます。

獅子の命令(演劇パート)
猫たちは、大慌て。
かま猫だけが、泣くのをやめて、まっすぐ立ちました。
獅子が、大きなしっかりとした声で、猫たちに「やめてしまえ。」と解散を命じます。

最後の語り(朗読パート)
語り手の最後の一言。
こうして事務所は廃止になりました。ぼくは半分獅子に同感です。


哀しみのこもったような、ユーモアのようななんとも言えない余韻を残して、このお話は幕をおろします。そのまま朗読しても面白いのですが、せっかくなら少しでも動きのある劇になるように、台本形式へのアレンジや、細かい演出を入れていくことで、作り手みんなが愉しめる劇になると思います。

劇の見どころ


見どころは、なんと言っても朗読パートと演劇パートの切り替えです。
ただ順番に見せるのではなく、語りから演技へすっと移る瞬間というのは、練習すればするほど面白くなります。

最低人数は、朗読も含めて8人ですが、朗読パートを何人かで分けることで、出演人数を増やすことができますし、朗読と朗読をつなぐ愉しみも生まれます。

また、この事務所のまわりには、つよい風が吹いているようなんです。
音響を入れるのもよいのですが、そこにも風の役として何人か登場してもらい、太鼓や木箱などで、(どっどど どどうど どどうど どどうは風の又三郎ですが)、生命力のある音を入れることで、奥行きのある劇になると思います。

朗読や音に合わせて演技をしたり、演技に合わせて音や朗読を入れたり。
みんなの呼吸を合わせていく作業こそが、この朗読劇の魅力です。

演出にあたって

物語的には、かま猫が孤立してしまうお話ですが、たまたまかま猫の背負っているものが争いの火種として際立っていただけで、第六事務所と呼ばれているぐらいですから、きっと流行りの事務所からは程遠く、ほかの猫たちも、自分の地位や才能に対する焦り、出世欲など、様々なものを抱えているのだと思います。

事務所という組織のなかの巡りあわせで、たまたま起きてしまった惨事を、その小さな社会のなかにとどめず、まったく次元の異なる大きな獅子を登場させ、さらにまた、次元の異なる作者がたびたび顔を出します。そこへ、また別次元の大いなる風が吹きつける。

それを、そのままそういう世界の成り立ち、騒がしさ、豊かさとして感じられるような演出ができたらなぁと思います。

実際の詳しい演出につきましては、別の記事にまとめてありますので、そちらをご参照ください。(学芸会におすすめ!宮沢賢治『猫の事務所』の朗読劇・演出のコツ

宮沢賢治のことばを通して、分厚い参考書のむずかしい記述がいつの間にか、いっぺんの詩になってしまうような驚きと喜びをぜひ体験してみてください。


(参考文献)
新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)
新編 風の又三郎 (新潮文庫)


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