一本の舞台に、大体どのくらいの準備期間が必要か知っていますか?

私はこれまで、役者やスタッフとして様々な舞台に関わってきました。
本番予定が3~7日間程であれば、顔合わせから始まり、稽古期間は短くても一ヶ月は必要になるかと思います。

さらに舞台本番では、小屋入り(劇場入り)してからの仕込み(舞台・照明・音響等のセッティング)なども合わせて、一週間は丸一日現場にいなければなりません。

そうなると困るのが、公演以外のお仕事です。アルバイトなどで生計を立てている場合は、稽古や公演日程と折り合いをつけるのがとても大変です。

稽古終わりで、深夜バイトへ。
なんてコースも多いのではないでしょうか。

皆さん一様に苦労なさっている役者のアルバイト事情について、実体験を交えながら、舞台公演一本のスケジュールと合わせてご紹介したいと思います。

公演スケジュール


私の場合ですが、団体やメンバーが変わっても、稽古期間は大体1ヶ月です。

スケジュールとしては、週に3〜4日程。
本番前の数日は、通し稽古や、音響・照明スタッフをお招きしての打ち合わせなどで、丸一日稽古に当てることもありました。

稽古場は、広くて安価な地域センターが主です。
かなり有名な方にも遭遇しましたので、利用している団体は数知れず。

施設の利用時間が決まっていますので、公演までのスケジュールに合わせて、例えば次のような感じでしょうか。

月、水、金曜は18時〜22時
日曜は13時〜17時

稽古時間が20コマ必要だとすれば、このペースだと、1ヶ月で17〜18コマ取れますので、残り2コマは、13時〜22時などの通し稽古で詰めていく感じになると思います。

台本を読み込んだり、セリフを覚えたりするのは当然時間外ですし、宣伝やチラシ配りといった集客についても考えなければなりません。
作品が固まってきたら、小道具や衣装の準備も必要です。

月が変わりまして、仮に劇場を6日(月)~12日(日)の7日間おさえて、10ステージを予定していた場合。

6日(月)仕込み、場あたり 9時~22時
7日(火)場あたり、ゲネプロ 9時~18時、19時~「本番」
8日(水)場あたり 9時~12時 14時~「本番」、19時~「本番」
9日(木)(正午集合)場あたり、稽古 15時~17時 19時~「本番」
10日(金)場あたり 9時~12時 14時~「本番」、19時~「本番」
11日(土)場あたり 9時~12時 14時~「本番」、19時~「本番」
12日(日)10時入り 13時~「本番」、17時~「本番」 バラし

仕込み→舞台のセッティング
場あたり→音響・照明・転換などのきっかけづくり、調整、安全確認
ゲネプロ→本番同様の最終リハーサル
バラし→撤収作業

そのまま朝まで打ち上げとなりますので、13日は出来ればお休みにしたいところ。

年に何回の公演に関わるかにもよりますが、この辺りから逆算して、アルバイトのスケジュールを組んでいきます。人によっては、あえて短い時間の仕事を掛け持ちして、細かく調整する方法もあるようです。

どんな仕事を選ぶか?


舞台の仕事だけで食べていく。

理想ではありますが、テレビや映画に出演している方でも、いつ仕事が無くなるか分からないような世界ですので、アルバイトをしながら地道に頑張っている方は沢山います。

話を聞くと職種は多岐にわたり、出版社、飲食店、喫茶店、レンタルビデオ店、コールセンター、テーマパーク、警備員など挙げればきりがありませんが、共通して苦労しているのは、やはりスケジュール調整のようです。

それから、細かいところでは髪の長さや、色。
男性であればヒゲなど、役としてどうしても必要なスタイルと職場の規定が合わないという大問題も発生してきます。

本番が終わるまで、職場ではマスク着用で長いヒゲを隠し通した方もいました。
時代物をやる際、ちゃんとした付けヒゲは高価なんですって。笑

シフトの融通が利く仕事


他にも、勤務地やお給料など心配事は尽きませんが、やはり「シフトの融通が利く」というのが、仕事選びのポイントとしては大きいです。

職種に限らず、スタッフが少なければ調整は難しくなりますので、前もって相談するか、ある程度長く働いて信頼を得られれば、調整は楽になるかも知れません。

レンタルビデオ店などの小売店やコールセンターでは、私も経験がありますが、スタッフ人数が多いのでシフト調整がしやすく、公演期間にまとまった休みを取ることも出来ました。

特に、映画や音楽を大量に取り扱っているレンタルビデオ店には、土地柄にもよると思いますが、役者や芸人、映画監督、バンドマンといった人達が自然と集まっているようです。

テーマパークなどの実演系は、まさに役者志望の方が多いみたいですね。
役者仲間の一人が、そこで知り合ったメンバー同士で劇団を立ち上げたほどです。

警備員など深夜に働ける職場であれば、お給料も高いですし、スケジュール調整がしやすいという部分では良いと思います。
その代わりに、舞台稽古が終わってからの勤務だったり、本番前日が夜勤だったりと、皆さん苦労もされているご様子。

ただ、舞台公演であれば、普通は劇場をおさえてから、それに合わせて事前に稽古スケジュールを組みますので、調整はしやすいのではないでしょうか。

これが映画撮影となると、撮影スケジュールや出演者の日程調整で、急遽撮影が入ったり、無くなったりすることがあるようで、「他の仕事が入れられない!」と嘆いている方もいました。

力仕事

「体力作りの為に、自動販売機の補充の仕事をしている」という話を、知り合いの映画監督から聞いたこともあります。重たい飲み物を大量に運んでいるだけあって、立派な肉体をお持ちでした。

舞台でも、よっぽど大きな劇団でなければ、役者陣総出で、セットを建てたり、客席を作ったり、照明を吊ったりと、力仕事を急ピッチで進めますので、こちらも体力勝負となります。

毎度、初日の仕込みと、それから最終日の本番後、退出時間までの数時間で撤収作業をして、劇場を元の状態に戻すというハードスケジュールが待っています。
のこぎり、バール、電ドリ、トンカチ(なぐりと呼びます)などなど、なんでも使えるようになりますよ。

スタッフワークをしっかり身につけられれば、制作、舞台監督、照明など、スタッフとして参加して、日給でギャラを貰うことも可能です。また、私はその経験を生かして、店舗の内装や撤収作業のアルバイトをしたこともあります。

地域と関わる仕事


一定の職場で長く働くことは、地域と関わるという点でも価値のあることと思います。

特にサービス業、接客業であれば、お客さんや取引のある業者さんなどとも顔見知りになります。私も長く働いていた職場がありましたので、街を歩いていても、同じ地域で暮らす色々な方から声を掛けて頂けるようになりました。

舞台公演も、一定の地域で行うことが多かったためか、街で全く知らない方から声を掛けて頂く機会も増えました。

そうしますと、あんまりぼんやりと歩いているわけにもいきませんので、心なしか颯爽と歩くような他愛のない役者然とした自意識は育まれます。笑

それが良いかどうかは分かりませんが、大勢の人が働いている中に自分もいて、なんとか世の中が回っているという実感は感慨深いものです。

舞台に繫がる仕事


ここまでをまとめますと、役者ならではの仕事というのはあまり無くて、役者生活に合わせる形で、あちこち移動しながらせわしなくやっているのが実情のようです。

それでも、例えば、自身の体の使い方を追求していく過程で、整体師の仕事を始めた方もいます。治療だけでなく、体を使ったワークショップなどの活動にも繋がり、役者を突き詰めていく一つの道であるかと思います。

私の場合はとても単純な話なのですが、与えられた役の職業が飲食店勤務という全く未経験の分野であった際に、どうしても体の使い方が分からず、知り合いに頼んで喫茶店で働かせて頂いたことがありました。

舞台上では、役ごとに違った職業を演じなければなりませんので、体が追いつかない場合は、経験と想像力で補うという、楽しくも骨の折れる準備が必要になります。

因みに、この喫茶店やBarなどは舞台セットが作りやすく、見栄えもしますし、それぞれ過去を抱えた人達が集まって来るのに丁度良いようで、場面設定として使われることが結構多いです。この空間で動けることはプラスになりますよ!

より良い生活

役者は、24時間365日役者であるべきだし、同時に、生活者として真剣でなければならないと思っています。

役者は表現をする仕事だと言われることがありますが、表現でない仕事などありませんので、どんな仕事に就いても、現場に合った体の使い方と向き合い、敬意を持って働くという当たり前のことがあるだけです。

仕事から得られる何か劇的で、実践的なアプローチがあるとすれば、例えばそれは人間観察というようなものではないような気がします。

もっとこう制服やエプロンに身を包み、いつもと少しだけ違う体や姿勢で扉をくぐり、非日常を体験し、また戻ってくるという毎日誰でもやっているけれど、当たり前過ぎて忘れてしまっているような不思議な瞬間に、耳を澄ますことでしょうか。

本当の自分は舞台上にいて、別な仕事は最小限の力でこなし、つまらない時間に耐え、稽古に全力を注ぎ、本番でのみ光り輝くということは残念ながら起きません。

舞台上でも、普段やっていることしか出来ないからです。
だからこそ、皆さん一生懸命に働くのであり、つくづくその真剣さに心打たれます。