11月ともなれば、秋も深まって、朝晩は冷え込む日がどんどん増えていきます。
施設で生活する高齢者も、季節の移り変わりを実感されていることでしょう。
そんな11月に、私が実際に老人ホームで行った事例についてご紹介します。
セッションの概要
セッションは老人ホームで行いました。18人のグループに対する1時間のセッションです。
脳血管型の認知症の方もいれば、アルツハイマー型の認知症の方もいて、中には何の疾患もなく、元気な方もいらっしゃいました。
私は音楽療法士として定期的にこのグループに対して音楽療法を行っていましたが、ケアワーカーとしてもクライエントの日常の介護に携わっていました。
導入の曲
導入の季節の曲として『もみじ』を選びました。
この曲は発表されたのが明治44年で、現在も歌われているほどポピュラーな曲です。
多くの方が知っているということと、深まる秋を表現している曲だと思えることから選びました。
次に導入部としてもう1曲選んだのは『鐘の鳴る丘』です。
こちらに関しては、世代的に知っているであろう曲だということと、元気さを感じさせてくれる歌詞であることから、次の展開部に向けて盛り上がっていけるような曲をと考え、選びました。
ところがこの曲は、ほとんどのクライエントが知らないことが、演奏してみてはじめて判明しました。
知らないながらも一生懸命歌おうとしてくれる方、ほとんど口を動かさない方、周りのクライエントの様子を窺う方など様々でした。
後日、確認したのですが、この曲が子ども向けのラジオドラマの主題歌として流れていたのが昭和22年。
その頃、子どもだった方ならドラマを聞いていた可能性もありますが、クライエントの年齢からいうと、もう成人していたという方が多く、興味のある内容ではなかったからラジオを聞いていなかった、という理由が一つ。
もう一つの理由として、一人のクライエントが話してくれた内容によると、昭和22年はまだ戦後間もない頃で、生活に余裕のある人は少なく、特に田舎では、ラジオが家になかったり、聞いている暇もないほど働いている家庭がほとんどだった。
ラジオの音も悪く、楽しめるものではなかった。
だから、知らないのではないかということでした。
実際、この曲に関しては、他の地域で同じような世代の方に対して行ったセッションでは、多くの方に歌っていただいた経験もあり、地域による格差は、インターネットやテレビを介してヒットチャートなどの情報が得られる現代とは大きな隔たりがあることを実感したできごとでした。
展開部
展開部では、導入部からの盛り上がりを活かした活動を行う予定でした。
ところが、盛り上がっていないままだったので、ウォーミングアップの意味も込めて、急遽1曲、歌唱の歌を増やすことにしました。
それが『幸せなら手をたたこう』です。
この曲は1964年に誕生した、比較的新しい曲ではあるのですが、国民的歌手の坂本九さんが歌ってヒットしたということもあり、高齢者でも歌える曲でもあります。
そして、この曲を選んだわけはもう一つありました。
それは、セッションを助けてくれるスタッフが知っている曲であったことです。
急に必要になったために歌詞幕など、歌詞のわかるものが用意できていなかったため、歌詞を先読みする必要がありました。
さらに、振り付きで行いたいと思ったのですが、ピアノを弾きながらは行えないため、その場でフォローしてくれているスタッフに、先読みと振りのお手本をお願いしたのです。
これが功を奏し、かなり場の雰囲気は温まりました。
その後は、もともと予定していた曲である『チャンチキおけさ』を歌唱し、楽器演奏を行いました。
さらに『チャンチキおけさ』を歌っていた歌手である三波春夫の持ち歌つながりで、『世界の国からこんにちは』と『船方さん』を歌唱しました。
どちらも有名な曲であり、多くのクライエントが歌ったり、手拍子をしてくれていました。
クールダウン
私がいつもクールダウンに持ってくる『ふるさと』を、この日も歌唱し、最後にクライエント全員と握手をしてセッションを終わりにしました。前半で、選曲に失敗のあるセッションでしたが、途中で挽回することができ、全体的には実りあるセッション内容でした。
まとめ
1.セッションの概要は、18人の集団に対する1時間のセッション。2.導入に使ったのは『もみじ』と『鐘の鳴る丘』。『鐘の鳴る丘』については選曲を誤りました。
3.展開部では、急遽用意した『幸せなら手をたたこう』で場を盛り上げ、その後『チャンチキおけさ』の歌唱・演奏と『世界の国からこんにちは』『船方さん』を歌唱しました。
4.クールダウンでは定番の『ふるさと』を歌唱しセッションを終えました。
音楽療法のセッション中には思いも寄らないハプニングが起こってしまうことがあります。
そんな時には慌ててしまうこともあるでしょう。
でも、一度深呼吸などをして気持ちを落ち着かせて、そのハプニングに対処できるといいですよね。