音楽療法はあまり知られていない分野なだけに、デメリットについての情報も少なく感じます。

効果のあるものならやってみたいけれど、デメリットがあってはいけないし。

そう思っている方に、認知症の高齢者に音楽療法を実践した経験から、デメリットだと感じたことについてご紹介したいと思います。

■ 目次

音楽療法を行うメリット


高齢者に音楽療法を行うメリットは、脳を活性化させて、発語、嚥下、運動機能を高めるなど様々なものがあげられます。

特に認知症の高齢者に関しては、認知症の周辺症状の改善がみられることもあります。

行動面では徘徊、暴力などの問題行動の減少や睡眠障害の改善、心理面では、うつ症状の改善などもみられます。

また、回想法という理論を取り入れ、音楽療法を行うことで、認知症の症状の進行を遅らせることが期待できます。
楽しかった過去の記憶について話をすることで、他者とのコミュニケーションが促され、心理的に安定する効果もあると考えられています。

実はデメリットも


デメリットは特にないと考えられている音楽療法ですが、私はデメリットを感じたことがあります。

とはいえ、音楽療法にデメリットがあったというわけではなく、音楽療法を行ったメンバー構成や、その方の疾患によって生じたデメリットといえる状況でした。

それはある老人ホームで音楽療法のセッションを実践したときのこと。

「音楽を聴かせてもらえるから楽しいですよ。」
「みんなで歌ったり、楽器も演奏させてもらえたりしますよ。」
という風に、施設のスタッフに誘われてセッションに参加してくれた方がいました。

その方=Fさんは、脳血管性の認知症でした。
年齢はセッションに参加されている他のメンバーよりかなり若かったです。

Fさんは、セッション開始直後は音楽を楽しまれているように感じました。
ですが、セッションが盛り上がるのに反比例するようにFさんは不快を感じているかのような表情に変わっていきました。

そして、楽器演奏を行う際には、いよいよ耳を塞ぎ怒りだしてしまったのです。

そこで私は、無理をしてその場に留まっていただかないように、施設のスタッフに声をかけ、結局Fさんは居室へと戻っていかれました。

私はセッション後、Fさんと施設のスタッフにお話を聞かせていただいたきました。

Fさん曰く、自分の知らない曲で楽しむことができなかったのと、それ以上に『キーキー』した音が耳障りだったとおっしゃるのです。

確かに、他のメンバーより若いFさんにはなじみのない曲も歌われていました。
ですが、『キーキー』した音というのは心当たりがありませんでした。

そこで、施設のスタッフにも確認のためお話を伺いました。

Fさんは、脳血管性の認知症があり、感情失禁がみられるため、怒りだすこともよくあるのだということでした。

この施設スタッフのお話とFさんのお話とを総合して考えた結果、Fさんは脳に生じた障害のために、私たちが聞いているようには音が聞こえていないのではないか、と推測しました。

そのせいで何かの音が『キーキー』と聞こえてしまったのです。

そして、Fさんはグループの中でお一人だけ年齢が若かったので、なじみのない曲が多く不快にさせしまったのでした。

良い効果を期待して行うセッションへの参加でかえって不快感を与えてしまうことがあるということは、音楽療法のデメリットです。

認知症の高齢者に限らず、自閉症など脳に疾患のある子どもにもこのような症状は現れることがあります。

そのような場合は無理に音楽療法に参加してもらうのではなく、他のセラピーや余暇活動を提案する必要があります。

音楽療法がデメリットにならないようにするには

音楽療法がデメリットになることはあまりないのですが、私のようにそれを目の当たりにしてしまうこともあります。

しかし、今後はそれを避けることもできると感じています。

まず、アセスメントを行うこと。

ボランティアなどで音楽療法を行う場合は個人情報保護の観点などから、しっかりとしたアセスメントを行うことは難しいのですが、ざっくりとしたメンバーの年齢層や、普段避けている音楽(軍歌など)はないかなどは確認してください。

また、施設のスタッフの方への説明も必要です。
書面でもいいと思いますが、あまりボリュームのない文章で、音楽療法がどういったものか、協力を得たいことがあるのであればその内容を伝えておきましょう。

また、もし音楽があまり好きではない方がいたり、集団で何かをするのを好まない方がいたりする場合には、無理にお誘いするのではなく、ご本人の気持ちに添っていただきたいことなどを事前に説明しておきましょう。

まとめ

1.音楽療法には様々なメリットが期待されており、認知症高齢者にとっても例外ではありません。
2.デメリットはあまりないのですが、その方の持つ疾患や状況などがデメリットを生み出してしまうこともあります。
3.音楽療法がデメリットにならないようにするために、最低限のアセスメントと施設側への説明が大切になってきます。

良かれと思って行ったことで、相手を不快にしてしまったのでは、行った本人も悲しくなってしまいますよね。
そうならないためにも、事前の努力を怠らないようにしたいですよね。


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