夏目漱石『それから』あらすじ・名言・感想~すべてを失った先にあるのは、新たな出発?それとも…
あなたは、友人と同じ人を好きになったことはありますか?
その人を大切に想うがゆえに、「自分なんて…」と、自ら身を引いた経験はないでしょうか。
また、今まさに身を引こうと考えてはいませんか。

お恥ずかしい話ですが、私は身を引くどころか、想いを告げる勇気もないまま、もんもんとした日々を送った1人です。

でも、想いを告げることが正しいのか、相手のことを考えて自ら身を引いた方が正しいのかは、「今」分かることではありません。
全ては行動してみなければ分からないことです。
まさに、『それから』のこと。

今回は、夏目漱石の『それから』をご紹介します。



■ 目次

『それから』のあらすじ

『それから』のあらすじ
この作品は、1909年6月から10月にかけて東京朝日新聞・大阪朝日新聞に連載され、翌年1月に春陽堂より刊行された作品です。
また、同じく夏目漱石作の『三四郎』、『門』の間に当たる作品で、前期三部作の一つに数えられています。





主人公の長井代助は、大学を優秀な成績で卒業しながらも就職はせず、読書をしたり音楽を聴いたりと自由な生活を送っていました。

それというのも、代助の父親は実業家で、今でこそ会社を代助の兄・誠吾に任せていますが代助に家ひとつ持たせるくらいの裕福な家庭だったのです。
もちろん、代助の生活費も実家からの資金援助で成り立っています。

ある時、代助の大学時代からの親友・平岡が大阪から三年ぶりに帰郷してきます。
無職の代助とは異なり、平岡は大学卒業後、銀行に就職していました。
しかし、平岡は、部下の使い込みにより銀行を辞職させられ、借金があると代助にこぼします。

さらに数日後、平岡の妻・三千代が借金の工面の相談に代助の元を訪れます。
三千代は代助と平岡の友人で大学卒業間近にチフスで亡くなった菅沼という男の妹でした。
しかも、そんな彼女も平岡との間に生まれた子どもが亡くなって以来、心臓を病んでいるとのことで、顔色がすぐれません。
そんななか代助は、三年前、結婚祝いとして自分が贈った指輪を三千代が今も大切に指にはめていることに気がつきます。

三千代のため何とか金を用意しようと、事情を話し兄に借金の申し出をした代助でしたがあっけなく申し出を断られてしまいます。
しかし、優しい兄嫁が兄には内緒で金を工面してくれます。

その金を持ち、平岡の家に向かう代助。
幸い家にいたのは、三千代一人でした。
そして代助は、実は平岡の借金は、酒や女につぎ込むため、たちの悪い金を借り始めたことがきっかけだったという衝撃の事実を知ることになるのです。
この頃、平岡の家は困窮を極めていました。

また時同じく、とある令嬢とのお見合いを打診されていた代助。
渋々見合いに応じた代助でしたが、三千代のことが脳裏をかすめどうしても前向きな返事をする気になれません。

その後、三千代のことを心配した代助は、新聞社に就職したという平岡の元を訪ねます。
三千代の身体を心配し平岡に助言した代助でしたが、平岡から返ってきた言葉は、
「家に帰っても面白くない」
といった、とても信じられるものではない言葉でした。

その言葉に、代助は三千代が別れ際に見せた淋しそうな表情を思い出していました。
そしてこの瞬間、代助は平岡に対して激しい憎しみを覚えました。

自分は三千代の幸せを考えて二人の結婚のために奔走したというのに…。
代助は、無職の自分より銀行に就職した平岡のほうが真面目で三千代のことを幸せにすることができると思い、自分から身を引いていたのです。
あれは、間違いだったのだろうか…、と感じ始める代助。

代助は、正式に令嬢との縁談を断るため実家へ向かいます。
そして、「自分には今、好きな人がいる」ということをはっきりと告げました。
代助が、心の奥に仕舞っていた本当の気持ちを出した瞬間でした。

翌日、代助は三千代を自宅に呼び出します。
そして、自分がどれだけ三千代のことを想っているか、思いのたけを三千代に告げます。
最初は代助を責め、泣き崩れていた三千代でしたが、
「私だって、あなたがいなければ生きていけなかったかもしれない」
と覚悟の言葉を口にします。

翌日、父に面会した代助が、縁談を断る旨を伝えると父は激怒し、今後の代助への援助の打ち切りを宣言します。

代助は三千代のもとを訪れ、ことの経緯と、今後の経済的状況について話すと、
「自分は死をも覚悟している」
と三千代は、自分の強い決意の気持ちを口にします。


さらに翌日、代助は平岡宛に「会いたい」という手紙を出しますが、返事が遅いので平岡の家に使いの者をよこします。
そこで、代助は三千代の病状がよくないことを知ります。

ようやくやってきた平岡に、代助はすべての経緯を話し始めます。
そして平岡に対し、「君からは、三千代への愛を感じられない」と指摘するも平岡は、
「三年前、君は、僕と三千代との結婚をあんなに祝福してくれたじゃないか」
と問い詰めます。
「あの時のことは、本当に悪かったと思っている」
と手をついて謝罪する代助。
そして、
「三千代さんを僕にくれないか」
という代助に、
「こうなってしまってはしょうがない」
と、渋々承諾する平岡でしたが、代助との絶交を言い渡し、三千代の病状を見に来ることも禁じます。

しかし、これで終わるはずがありません。
平岡からことの経緯を手紙で知らされた代助の父は兄・誠吾を代助の元へと使いにやります。
そこで、代助が全て真実だと認めたため今後家族の縁を切ると宣言します。

兄が帰ると代助は、この現状を変えるため、まずは仕事を探そうと家を飛び出していきました。

『それから』の名言

友人の奥さんを愛してしまった主人公・代助の心の変化を描いた『それから』。
この物語のなかにも非常に興味深い言葉があります。

自分は今日、自ら進んで、自分の運命の半分を破壊したのも同じ事だと、心のうちにつぶやいた

だから人間の目的は、生まれた本人が、本人自身に作ったものでなければならない


作中で、平岡に三千代を自分にくれるよう頭を下げる際、代助は、「自然に復讐(かたき)を取られた」と独特の言葉を使って謝罪しています。
これは、自分の気持ちを押し殺して平岡と三千代をくっつけてしまった代助の後悔の現れなのではないでしょうか。
自分の方が随分前から、三千代のことを愛していたというのに…。

そんな代助だからこそ、上記のような名言が出てきたのだと思います。
自分の人生は自分で作っていく、代助はようやくそのことに気がついたんですね。
「自分の人生の半分を破壊した」のだとしても、それからの人生がすべて悪い方向に進んでいくというものでもありませんしね。
生きていればいいことだって、必ずあります!

『それから』の感想

『それから』の感想
私は、この物語はそれぞれの「出発」の物語だと感じました。
三千代に自分の想いを告白し、物語の最後には今までの生活を捨て、三千代のために職探しに出掛ける代助。
代助と家族の縁を切るという決断をくだした、父と兄。
代助の告白に心を許し、「死んでもいい」という言葉まで口にして、代助をぞっとさせた三千代。
それぞれの登場人物に何かしらの転機が訪れています。

ちなみに現在でも不倫は決して許されるべきものではありませんが、罪に問われることはありません。
しかし当時は、まだ「姦通罪」という不倫が罪に問われる法律が存在していた時代。
三千代の覚悟も相当のものだったと思います。
それを考えると、三千代はかなり肝の据わった素敵な女性だったのだと思います。
代助が想いをよせていたのも分かるような気がしますね。

代助だけじゃなくそれぞれの登場人物の「それから」が気になるところですね。
新しい門出、出発になることを心から応援したい一冊です。

もしもあなたが今、「出発」の岐路に立っているのならその「出発」が素晴らしいものになりますように。
あなたが、自分に正直な「自然」な行動のなかで生活できることを祈っています。