ソナチネアルバム第1巻の記事でも書いたように、お子さんの場合、第1巻を終えるくらいの時期に残念ながら、ほとんどリタイアしてしまいます。
リタイアせずに続けたいとおっしゃる方たちは、主に「ピアノが好きでたまらない人たち」または「幼稚園の先生など、ピアノを弾く必要がある職業に就きたい人たち」の2タイプだと思います。
このような「踏ん張りどころ」を乗り越えた方たちは、次にどのような曲、または曲集を弾くのでしょう?
それぞれのレベルやピアノを弾く目的によって、曲や教則本選びは違うとは思いますが、次に進む道は3パターンあるのではないかと思います。
●そのままソナチネアルバム第2巻に進む(もう少し基本的な弾き方を引き続き学ぶ)
●ソナタへ進む(ソナチネよりも大規模な形式、曲であるソナタを弾くことでよりレベルアップする)
●ロマン派の曲などに進む(全く違う弾き方を新たに学ぶ)
今回はソナチネアルバム第1巻を弾き終えたけど、もう少し基本的な弾き方を学ぶためにソナチネアルバム第2巻に引き続き進む人を想定して書いていきたいと思います。
※いくつか版がありますが、前回と同じく「全音版」のソナチネアルバム第2巻(標準版)に基づいてご説明します。
第1巻と第2巻の違いとは?
ソナチネアルバムは第1巻、第2巻とありますが、第2巻が第1巻よりも格段に難しいというわけではありません。第2巻の中にも簡単な曲はありますし、逆に第1巻の中にも難しい曲があります。他の教本なども含めて広い目で見れば、第1巻も第2巻も全体的なレベルはそれほど変わらないと思います。
第2巻に入っているソナチネの作曲家は、クーラウ(5曲)、クレメンティー(4曲)、ベートーヴェン(2曲)、ドゥシェク(1曲)、ディアベリ(3曲)です。
第1巻と第2巻の選曲をどのように決めたのかはよくわかりませんが、楽譜を見ていると第2巻の方が第1巻よりも長い曲のものが多く、付点のリズムや3連符が多く使われている曲が選ばれている気がします。
私の個人的な意見ですが、第2巻は弾いていて(または、聴いていて)あまり面白くないです。素敵な曲というよりは、作曲家がこんな練習をさせたいから作ったというような、練習曲的要素が強いような感じを受けます。
私の好きな曲があまりないということもあり、生徒さんたちには15曲あるうちの4曲しか弾かせたことがありません。
第1巻でちゃんとソナチネを勉強していれば、第2巻でそれほど曲数をこなす必要はないと思います。
ソナチネ以外の曲では24番の「うつろな我が心」の主題による変奏曲をよく弾ける生徒さんに発表会の曲として渡すことがあります。
ソナチネアルバム第2巻の難易度順
第1巻同様、全音版には目次のページに練習順序が書いてありますので、参考になさって下さい。全楽章を弾くのが大変だなと思われれば、1楽章、または3楽章だけでも良いと思います。私が第2巻でやっておいた方が良いかなと思っている曲を4曲、難易度順にご紹介します。
★
10番 ベートーヴェン ソナチネ No.5
2楽章の曲です。
第2巻の中で1番簡単な曲で、とても短いです。
スラーがどこまでなのか、フレーズをよく考えながら弾くと素敵な演奏になると思います。
★★
11番 ベートーヴェン ソナチネ No.6
2楽章の曲です。
1楽章:左手の16分音符の伴奏が右手よりも大きくならないように気をつけましょう。強弱もしっかりつけましょう。
2楽章:スタッカートで短く切る部分とレガートでなめらかに歌う部分の差をしっかりつけるとメリハリのある演奏になります。
★★★
13番 ディアベリ ソナチネ Op.151 No.1
3楽章の曲です。この曲はいろんなことがソナタというルールから外れている曲です。
ソナタでは通常1楽章は速いテンポのものがくるのですが、この曲の1楽章はAndantino cantabileの指示がしてあります。
また2楽章には通常テンポが遅く、穏やかな曲調のものがきますが、この曲の2楽章ではAllegroとなっています。
もう1つルールから外れていることがあります。それは1楽章が3部形式で書かれており、ソナタ形式ではないのです。
しかし、ルールから外れているからといって良くない曲というわけではありません。私は素敵な曲だと思います。
ソナタのルールから外れているということを理解した上で弾くのは勉強になると思います。
★★★★
15番 ディアベリ ソナチネ Op.151 No.3
3楽章の曲です。
1楽章が少し長めです。転調が多く、変化音が多いので要注意です。
ソナチネを分析してみよう!!
ソナチネアルバム第1巻の記事でソナタとソナタ形式について書きましたが、基本的には前に書いた通り、第1楽章はソナタ形式で作られています。先ほど少し説明したように例外もあり、ソナタ形式で作られていないものもあるんです。
【1楽章がソナタ形式ではないもの】
ソナチネアルバム第1巻では、17番
ソナチネアルバム第2巻では、10、13、14番
第2巻には3曲もあるのであまり珍しくないように感じるかもしれませんが、このような曲は稀です。
ソナタ形式(ソナチネの場合は小規模バージョンですが…)の勉強をさせたいのなら、なぜ基本的なソナタ形式のものを選ばなかったのか…
この選曲は少し疑問に思います。典型的な形式の方が学ぶ人たちにとってはわかりやすく、理解がしやすいですよね!理解が充分でないのに、例外の話をされても…と思いませんか?
第1巻の記事ではソナタ形式の枠組みしか説明していなかったので、今回は少し詳しくソナタ形式について解説していきたいと思います。
ソナチネアルバム第2巻の曲の中では、ベートーヴェンのソナチネ2曲がよく弾かれると思います。今回は11番のヘ長調のソナチネを分析していきたいと思います。
その前に!!
第2巻に入っているベートーヴェンのソナチネですが、実は…2曲とも彼の作曲したものではないという説があるんです!!
研究者の中にはベートーベンの作品ではないと言い切っている方もいるようです。
真相はよくわかりませんが、ベートーヴェンの曲ではなかったとしても素敵な曲に変わりはありませんし、これからも残っていく曲だと私は思います。
それでは、11番のヘ長調のソナチネがどんな仕組みになっているのか分析していきましょう。
◆11番 ベートーヴェン ソナチネ へ長調 楽曲分析
ソナタ形式について少しおさらいをしましょう。
ソナタ形式というのは、提示部、展開部、再現部の3つの部分が出てくる形式のことでしたね!
提示部、展開部、再現部というのは…
提示部は2つの主題が出てくる
展開部は提示部で出てきた主題を展開させる
再現部は提示部で出てきた主題を再現させる
これをわかりやすく記号で表すと…
提示部 | 展開部 | 再現部 |
A+B | C | A+B |
このような形になります。
この他にもAからBに移り変わるときに移行する部分(移行部)が出てきたり、再現部のBの後に曲の終結部分(コーダ)がつきます。
基本的な形はこのような形ですが、曲によって様々です。
実際に楽譜で見ていきましょう!
【提示部】
提示部の第1主題は曲の初めのこの部分です。
この楽譜の最後の2小節目からは次の第2主題に向かうための移行部です。
同じく提示部です。第1主題とは少し異なったこの部分が第2主題です。
どこまでを第1主題とするかはなかなか難しいのですが、左手の伴奏パターンが全く違うこともありますので、この部分を第2主題としました。
【展開部】
この部分が展開部です。第1主題から始まり、これまでとは全く違うものに変化していきます。
この楽譜の最後3小節目からは再現部に向かうための移行部です。
【再現部】
ここからが再現部です。通常、第1主題も再現されますが、この曲では第1主題は省略されています。
【コーダ】
再現部の後に終結部分がつきます。
※曲の分析は、どこまでをどのように取るのかで形式が変わってしまいます。いろんな考え方がありますので、今回のこの分析が絶対正しいというわけではありません。
これがこの曲構成です。分析するのは難しそうだなと思われていたかもしれませんが、実際にやってみると思ったほど難しいとは感じなかったのではないでしょうか?
旋律や伴奏が同じところや全く違うところが出てきましたよね。そこを見つけるというのが分析の第1歩です。
分析して弾くことに何の役に立つのだろうと思われていませんか?
ちゃんと役に立ちますよ!!全く違う部分をその前と同じように弾いては変化したことがわかりませんよね!
例えば、強弱の指定が変わっているのであれば、強弱でしっかり弾き方を変えると違うというのがよくわかります。
弾いている本人が曲の構成をよくわからないまま弾いていては、聴いている人には絶対伝わりません!!
変化したのなら、変化がわかるように弾く。同じ部分がまた戻ってきたのなら、それがわかるように弾くようにしなくてはいけません。
和声や調性の分析をまでするのは難しいのですが、曲の枠組みを分析するのはこれから上級の曲を弾く上でも重要になりますので、ぜひやってみて下さい!
まとめ
◆第1巻も第2巻も全体的なレベルはそれほど変わりない◆第1巻で勉強していれば、第2巻でそれほど曲数をこなす必要はない
◆第2巻に入っているベートーヴェンのソナチネは彼の作曲したものではないという説がある
◆自分なりに曲の構成を分析することで、曲をより素敵に弾くことができるようになる
「ソナチネアルバム第2巻」の無料楽譜
- IMSLP(ベートーヴェン「2つのソナチネAnh.5」)
Anh.5-1(楽譜リンク)Anh.5-2(楽譜リンク)1890年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。Anh.5-1とAnh.5-2はそれぞれ、ベートーヴェンのソナチネでは5番と6番に、ソナチネアルバムでは10番と11番に対応します。本記事はAnh.5-2の楽譜を用いて作成しました。 - IMSLP(楽譜リンク)
1867年にオーガスト・クランツ社から出版され、後に再版されたディアベリ「ソナチネ『花瓶』Op.151」のパブリックドメイン楽譜です。ソナチネアルバム収録の3曲(Op.151-1、Op.151-2、Op.151-3)と未収録の1曲(Op.151-4)の全4曲が収録されています。Op.151-1、Op.151-2、Op.151-3はそれぞれ、ソナチネアルバムの13番、14番、15番に対応します。
「ソナチネアルバム」の記事一覧
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