ピアノを習うとだいたいバイエル、ブルグミュラー、ソナチネアルバム、ソナタアルバムと進んでいくことが多かったと思います。

これらの曲集以外にも、発表会でよく弾かれる曲である「人形の夢と目覚め」、「エリーゼのために」、「子犬のワルツ」などをはさみながら勉強されたのではないでしょうか。

子供の生徒さんの場合はとくに、楽譜を読む、リズムを正しく読む、指をなめらかに動かすということの訓練のために私は基本的にはバイエル、ブルグミュラー、ソナチネアルバムを使っています。

やはり昔から使われているだけあって、だんだん譜面も難しくなっていきますし、ブルグミュラーからはより細かく曲想をつけるように指示も出てくるので、指導次第で徐々に音楽的に弾かせることができるようになっていると感じます。

最近では大人になってから初めてピアノを習われる方も増えてきています。

そのような方達はクラシックの曲をやらずに好みの映画音楽やポップスの曲を何度かのレッスンで仕上げるというレッスンを希望されることがあります。

また生徒さん(大人、子供関係なく)によっては、好きな曲しかやりたくないなど様々な要望を言われることもあります。

そのため教える側は全ての生徒さんに同じ教本や曲を渡すのではなく、どのようなところのレベルまで弾きたいのかによって、生徒さんにあった教本や曲を昔以上によく見極めて選ぶ必要があると思います。

昔のようにピアノを習っているほとんどの人たちがソナチネアルバムを弾いていないかもしれませんが、現在でも多くの人たちが弾いているであろう、ソナチネアルバム第1巻の難易度順について今回は書いていきますね。

ソナチネアルバムにもいろんな版がたくさんある!!


YAMAHAなどに楽譜を買いに行ったことのある方はご存知だと思いますが、同じ曲集でも様々な出版社から楽譜が出ています。出版社ごとに表紙のデザインや色が違います。

日本の出版社もあれば外国の出版社もあります。

曲は一緒なのだから、どれも同じでしょ!と思っていませんか?もちろん、音とリズム自体は変わりません。変えてしまうと編曲になってしまいますからね。

じゃあ、何が違うのかというと、曲の解釈です。

具体的にいうと、スラーの付け方であったり、指番号のふりかただったり(指づかいによって微妙に音色が変わります)が違います。

作曲家自身が書いたものに関してはそのままにして出版しますが、書いていないものはいろんな解釈を加えて出版するんです。

指使いは出版社によって本当にいろいろで、私がある曲に挑戦していた時、元々持っていた楽譜の指使いがどうも弾きにくくて、別の版を確認して指使いを変更したということが実際にあります。

そのような解釈などを誰が書き加えているかというと、作曲家のことを研究している学者さんやある特定の作曲家の曲をよく研究したピアニストや作曲家の方々です。

どの出版社のものが良いのかというのは一概には言えません。しかし、この作曲家だったらこの版が良いというのはあります。

私の場合、先生から作曲家の出身国の出版社が出している楽譜を買うと良いと言われていたので、今もなるべくそのようにしています。(例外もありますが…)

やはり、その国出身の作曲家だと研究も熱心だし、資料も多いということなんでしょうか?

ソナチネアルバムの話に戻しましょう。

ソナチネアルバムも様々な版が存在します。ミッキーが表紙になっているものもあるんですよ!驚きですね!ブルグミュラーよりも難しい曲集でキャラクターが書いてある楽譜は昔はなかったような気がします。

ソナチネアルバムは日本の版だけでも数多く存在していて、全音版、音楽之友社版、春秋社版、河合版などなど…たくさんあります。

どの出版社も同じ曲が入っているとは限らず、曲順が違うこともあります。

ソナチネアルバムに入っている曲は音大の副科の入学試験曲になっていることも多いのですが、版によって曲が違うこともあるので、作品番号を指定してあったり、版を限定してあったりします。

大多数の方たちが全音版(標準版)を使っていらっしゃると思いますので、今回は全音版で書かせて頂きます。

全音版も実は今井顕さんによる新しいものが出ています。元のものと見分けるためなのでしょうか、「SONATINEN-ALBUM」というタイトルになっています。(標準版のものは「SONATINEN」です)



ソナチネって何?

ソナチネとは「ソナタよりも小規模の曲」のことをいいます。

この説明だとよくわかりませんよね。ソナチネを知るには、ソナタから理解しないといけないんです。

ソナタとは…

◆古典派の時代を代表する形式
◆ソナタ形式で作曲されたものを含んだ多楽章(3楽章または4楽章)の曲
※ソナタはピアノだけの形式でありません(弦楽器やオーケストラなどでも使用されます)


ソナタについて知ると、ソナタ形式が何なのかという疑問が出てきますよね。

ソナタ形式とは…

◆提示部、展開部、再現部という3つの部分が出てくる曲のこと


もう少し詳しく説明すると…
◆提示部…対照的な性格の2つの主題が出てくる
◆展開部…提示部で出てきた主題を展開させる
◆再現部…提示部で出てきた主題を再現する


多楽章と書きましたが、ただ単にソナタ形式を含む曲を3つ4つ書けば良いということではなく、これにも決まりがあります。

それぞれの楽章の形式と特徴…

◆1楽章…ソナタ形式。テンポの速いものが多い。
◆2楽章…3部形式、ロンド形式など。テンポのやや遅い、穏やかな曲が多い。
◆3楽章…複合3部形式など。省略される場合もある。
◆4楽章…ソナタ形式など。テンポが速いものが多い。


以上のいろんなルールをクリアしたものがソナタと呼ばれています。

そのソナタの小規模バージョンがソナチネということです。

ソナタとの違い…

◆曲の長さが短い(楽章は2または3楽章)
◆和声が単純


なぜソナタではなく小規模バージョンのソナチネという曲が生まれ、多くの作曲家がソナチネを書いたかというと、時代の流れが関係しています。

ソナチネが多く作曲された頃というのは、音楽やピアノを弾くということが王侯貴族だけのものではなくなり、次第に市民階級にも広がっていった時代でした。

ピアノ人口の増大に伴って、その人たちにも弾けるようにそれほど難しくない曲や楽しく弾ける曲などが多く出版されました。

それがソナチネだったのです。他にも変奏曲が多く作曲されています。

このような曲だけでなく、弾き方を説明している本も出版されています。

それぞれの作曲家のソナチネをアルバムにまとめた人は誰?

ソナチネアルバムに入っている曲は1人の作曲家が作ったわけではないんです。このソナチネアルバムは複数の作曲家の曲が入っています。

第1巻に入っている曲の作曲家は、クーラウ(6曲)、クレメンティー(6曲)、ハイドン(1曲)、モーツァルト(1曲)、ベートーヴェン(2曲)、ドゥシェク(1曲)です。

この作曲家たちはそれぞれ自身で何曲かをセットにしてまとめて出版しています。

ソナチネアルバムに入っていますが、実はハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人の作曲家はソナチネという名前で作曲していません。

ソナタとして作曲しましたが、それぞれのソナタ曲集の中で比較的簡単な曲だったため、ソナチネアルバムに加えられたんだと思います。

では、誰が複数の作曲家の曲をソナチネアルバムとしてまとめたのでしょう?

それはケーラー(1820-1886)という作曲家です。彼は作曲家としてだけでなく、批評家、教育者としても活躍した人です。

ケーラーは初級のピアノ曲を多く作曲しており、彼の曲は現在でも教材として用いられています。

ケーラーによって、たくさんいる作曲家、数多くあるソナチネから、曲が選別されまとめられたソナチネアルバムですが、現在伝わっているものは、ルートハルト(1849-1934)によって校訂されたものなんだそうです。

ルートハルトも作曲家、ピアニスト、ピアノ講師として活躍した人です。

ソナチネアルバムの初版の年代はよくわかっていないのですが、ケーラーが1886年に亡くなっているので、それまでに出版されているのは間違いありません。

日本にどのように伝わって来たのかもよくわかっていないのですが、明治時代には日本に入って来ていたようです。

ソナチネアルバム第1巻の難易度順は?

実は全音の楽譜には目次ページに練習順序が書いてあります。この順序はとても良いと思います。

しかし、通常ソナチネアルバムを全て弾くことはないと思います。他にもたくさん良い曲がありますし、ソナチネをある程度弾けるようになれば、ソナタに進んだり、ロマン派の曲へ進んでしまいます。

でもソナチネを弾く利点もちゃんとあるんですよ!

●ソナタの小規模バージョンということで短いけど、形式を学ぶことができる。
●ピアノを弾く基本的なテクニックを学ぶことができる

これらの理由から現在でも多くの人がソナチネアルバムを教本にしているのだと思います。

全曲は弾かないのですが、学んでおいた方が良いかなというものを難易度順に紹介していきます。


7番 クレメンティー ソナチネ Op.36 No.1
この曲集の中で1番簡単です。
とても短いので、ソナチネがどのようなものなのかを学ぶために3楽章とも弾くと良いと思います。

ソナチネアルバム第1巻第7番/クレメンティー「ソナチネOp.36No.1」ピアノ楽譜
★★
4番 クーラウ ソナチネ Op.55 No.1
2楽章の曲です。リズムがおもしろく、曲想のつけやすい曲だと思います。
ただ指を動かすのではなく上行していくときにクレッシェンドするようにすると素敵に演奏できます。

★★★
8番 クレメンティー ソナチネ Op.36 No.2
3楽章の曲です。
2楽章はあまりおもしろくない曲なので、1と3楽章だけ弾くと良いと思います。
※多いもので3楽章までありますが、全部弾かなくても大丈夫です。

★★★★
9番 クレメンティー ソナチネ Op.36 No.3
3楽章の曲です。こちらも2楽章は飛ばして良いです。
2楽章は比較的ゆっくりの曲が多く、メロディーを素敵に弾くのはなかなか難しいんです。

★★★★★
10番 クレメンティー ソナチネ Op.36 No.4
1楽章だけ弾いてみて下さい。
左手と右手の掛け合いがおもしろい曲です。

★★★★★★
6番 クーラウ ソナチネ Op.55 No.3
1楽章だけ。
6度や3度で動くところがたくさん出てくるので練習になると思います。

★★★★★★★
12番 クレメンティー ソナチネ Op.36 No.6
こちらも1楽章だけ。ソナチネアルバム第1巻の中では長めの曲です。
音型がころころ変わるので弾きにくいかもしれません。区切ってよく練習しましょう。

他にも曲はありますが、これだけ弾けばもう充分です!

ハイドン、モーツァルト、ベートーベンの曲についてはソナチネアルバムの中でやらなくても、ソナタを弾くときでも良いのでは、と個人的には思いますが一応、この3人の難易度順を書いておきます。

活躍した時期が早いハイドン→モーツァルト→ベートーヴェンの順で学ぶのがおススメです。

ソナチネアルバムにはソナチネ以外の曲も入っています。(18番から)

23番と24番はソナチネよりも難しいのですが、ソナチネがよく弾けるようになった生徒さんに発表会で弾く曲として渡すことがあります。


ソナチネアルバムはブルグミュラーに比べると子供にとってはおもしろくないと感じるようです。

ソナチネというタイトルだけだと何だかよくわからないというのが理由の1つとしてあるのではないかと思います。

対してブルグミュラーは曲のタイトルからいろんな想像ができるのでしょう。割と楽しそうに弾いてくれます。

お子さんの場合、このような曲が弾けるようになる頃、ちょうど受験などと重なってしまうことが多く、ソナチネの途中でリタイアしてしまいます。仕方ないことなのですが、本当に残念に思います。

せっかくここまで弾けるようになったのに…

ここを抜けられるかどうかで上級に進めるかどうかが決まるんですよね。

それぞれのレベルで難関はいろいろありますが、もしかしたらこれが1番の踏ん張りどころかもしれません。

今ソナチネを学んでいらっしゃる方、頑張って下さいね!!

まとめ

◆ソナチネアルバムは出版社によって曲目や順番が違う
◆ソナチネとはソナタの小規模バージョンの曲のこと
◆ソナチネを理解するにはソナタについて理解していないといけない
◆ソナチネアルバムを作った人は、ケーラー。校訂したのはルートハルト。
◆すべての曲を弾く必要はない。
しかし、何曲かはソナチネがどのようなものなのか理解するために全楽章弾いてみた方が良い。



「ソナチネアルバム第1巻」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1897年にペータース社から出版された「ソナチネアルバム第1巻」のパブリックドメインの楽譜です。
  • IMSLP(楽譜リンク
    1904年にシャーマー社から出版されたクレメンティー「6つのソナチネOp.36」のパブリックドメインの楽譜です。本記事はこの楽譜を用いて作成しました。

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