2003年に歌手の平原綾香さんが「ジュピター」として発表したことで有名になったグスターヴ・ホルストによる組曲『惑星』の中の『木星』。有名な主題は聴いたことがある人も多いかもしれません。その神秘的でのびのびとした旋律は長く人々に親しまれています。

聴いているだけで不思議な感動が沸き上がって来るこの名曲。今回はそんなホルストの組曲『木星』について解説していきます。

『木星』はこちらから聴くことが出来ます。


ホルスト『惑星』とは?

『惑星』はグスターヴ・ホルストが1914年から1916年、40歳から42歳の時にかけて作曲された管弦楽作品。海王星・火星・金星・木星・土星・天王星・水星の7つの楽章から成りもともとピアノ曲として作曲されましたが(海王星だけオルガン曲)完成の翌年にオーケストレーションされてオーケストラ曲としても知られるようになりました。

私たちの住む地球は『惑星』に含まれていません。これはここでの『惑星』は天文学としての惑星でなく占星術における惑星のため。この『惑星』は占星術における惑星とローマ神話の関係にインスピレーションを受けて作られた作品なのです。

実はこの組曲『惑星』は発表当時はあまり世の中に評価されませんでした。当時はおどろおどろしく不協和音の鳴り響くダークな楽曲が持て囃されており、惑星のような澄み切った心休まるキャッチーな曲は流行っていなかったからです。つまりホルストの楽曲はある意味「時代遅れ」でイマイチ人気がなかったのですね。

『惑星』がヒットするきっかけとなったのがカラヤンのタクトを振った1961年のウィーンフィルハーモニーの演奏。カラヤンは斬新な発想や構想を好み指揮者やクラシックのイメージを「大袈裟でなんかクールじゃない、取っつきにくい」から「スマートでなんかカッコ良い」に変えた指揮者です。



そんなカラヤンに見出された『惑星』。その心に澄み渡る綺麗な旋律はそれ以来多くの人の心を掴んで離しませんでした。当時としては彗星の如く現れた斬新な音楽だったのかも知れませんね。


グフターヴ・ホルストとは

ここで少しホルストについて見ていきましょう。

グフターヴ・ホルストは1874年にイングランドのグロスターシャー州に生まれました。イギリス南西部に位置してバドミントン発祥の地ともされる観光客に人気のまちです。同年代で活躍した作曲家にドビッシーやストラヴィンスキーがいます。

ロンドンの王立音楽院でトロンボーンを学び卒業後はトロンボーン奏者として生計を立てます。その後だんだんトロンボーンだけでは食べていけなくなり31歳の頃音楽教師になりました。

ホルストが就任したセント・ポール女学院はイギリス屈指の名門校です。学力の高さだけでなく音楽・芸術・スポーツにも力を入れていることで知られています。現代でもホルストが教師を勤めていたことは学校の宣伝材料の一つになっており「あのホルストが教師をしていた学校ですよ!」と人々を惹きつける謳い文句にもなっています。

ホルストはこの学校の管弦楽団のために『セント・ポール組曲』という楽曲も作曲しています。

組曲『惑星』の作曲を始めたのは彼が40歳の頃。それから教師をしながら2年をかけてこの曲を完成させています。

『木星』について


この『木星』はイギリスでは愛国歌・賛美歌として知られています。ダイアナ妃の婚礼時や葬儀の際にこの曲が演奏されたことでも有名で、木星はイギリスでは誰もが知っている国家的メロディーなのです。第二の国歌とも呼ばれるくらいです。

冒頭にも書きましたが2013年に平原綾香が歌詞をつけて発表し日本でも有名になりました。『木星』に歌詞をつけて発表するというアイデアは平原綾香さん本人のものなんだとか。カラヤン同じくその目の付け所が、ヒット作品を生む秘密だったのですね。

組曲『惑星』のなかで一番有名なこの『木星』ですがホルスト自身は『土星』が一番好きだったそうです。『土星』は「老いをもたらすもの」という副題のついた暗く重々しい雰囲気の楽曲。演奏時間も組曲の中で最長の10分程度になっています。

演奏者の気持ち

実は私は昔オーケストラに所属していた頃この『木星』を演奏したことがあります。私がオーケストラに入団して初めて演奏した曲が実はこの『木星』。自分としてもかなり思い入れの深い楽曲なんです。

木星は主に3部構成になっています。主調のハ長調の部分と中間部の変ホ長調。それに終盤のロ長調の部分です。

私はトランペットとして参加。当時私は中学生になったばかりでトランペットもそのとき初めて触りました。音を出すところから初めて音が出てすぐ取り掛かったのがこの曲だったのです。

「ソシドードミレシミファミーレードレドーシーソー」の皆さんもよく知っている主題のメロディーに金管楽器の和音が重なるのですが、その和音がなんとも言えず感動的でした。チューナー(音の高さをはかる機械)と何度も何度も睨めっこしながら練習を繰り返したのを覚えています。

その和音の本当に綺麗なこと……!!(動画4:30)

演奏中に音楽の素晴らしさに胸が震え涙が出てきたこともありました。みなさんもクラシックを聴くときは、ついつい主旋律に耳が行ってしまいがちだと思いますが、木星の場合はこの金管楽器の胸を打つ和音にも耳を傾けてみて下さい。トロンボーン・トランペット・チューバの和音にホルンの神秘的なメロディーが絡み合う箇所は「生きててよかった!!」と思えるくらい綺麗で情緒的です。

さらに3拍子になった時のタンバリン。このタンバリン、なんとなく聴いている人もいるかも知れませんが技術が必要なものだって知っていましたか?(動画2:06)

オケの音合せではタンバリン担当の人が何度も指揮者に止められ、そのタンバリンの指導をされていました。ただタンタン、とタンバリンを叩くのでなく、親指をタンバリンの平に擦り付けるようにして音を出すのです。すると連続したジリジリジリという音が出るのですね。

私たちは素人オケだったのでタンバリン担当の人はとても苦労したようでした。私も少しやらせてもらったことがありましたが、とてもとても音を出すことなんて出来ませんでしたよ!

まとめ

『木星』はイギリス第二の国歌と呼ばれる、イギリス人だけでなく世界中の人々に親しまれている楽曲です。

もと演奏者としては演奏をしている瞬間、ふと宇宙に投げ込まれたような、次元を超えた感動を演奏者に与えてくれる名曲だと思います。きっと急に宇宙に投げ込まれたら、その美しさに言葉もなくただ感動の波がお腹の底から湧き出てきますよね。木星にもそんな風に全てを超越した人の心を動かす力があるのです。

今度木星を聴いてみるときは、メロディーだけでなくメロディーを支えているパートの旋律にも耳を傾けてみて下さい。綺麗な惑星の周りに散りばめられた星の数々のような輝きに出会うことができると思います。

それでは今回はこの辺で。素敵なクラッシックの時間をお過ごし下さいね。


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