理学療法士とは、いわゆるリハビリの先生です。
理学療法士さんが音楽療法に関わってくれるのかどうかは施設ごとの考え方などによって異なります。
関わってくれるとしても、どのような役割を担ってもらえばいいのか疑問に思うこともあるでしょう。
今回は、私がデイサービスのスタッフとして音楽療法を行った際に理学療法士さんにどのような役割をお願いしたのかについてご紹介します。
■ 目次
デイサービスでの私(音楽療法士)の役割
デイサービスでの勤務時、私はフルタイムで働いていました。
すでに音楽療法士の資格は持っており、介護を行いながらレクリエーションの時間に音楽療法のセッションを行っていました。
そのため、クライエントとはセッション以外の時間にも関わりを持つことができる状況でした。
介護をする中で、好きな曲や昔よく見たテレビ番組の話などといったセッションのネタになりそうなことを聞き出すことができました。
また、十分なアセスメントを行うことができる環境でもありました。
その中で私の果たすべき役割は、介護職員として介護を行うことと、音楽療法士としてセッションを行うこと。
また、音楽療法によりレクリエーションを充実させることとクライエントの機能低下を防ぐことでした。
デイサービスでの理学療法士さんの役割
私が働いていた当時、理学療法士さんがデイサービスに常駐していることは珍しいことでした。しかし、そのデイサービスには常勤の理学療法士さんがおり、本格的な機器を用いながらのリハビリテーションがおこなわれていました。
ウォーターベッド型のマッサージ器や低周波治療器、牽引装置などが用いられていました。
対象者はデイサービスに通う方の中からリハビリを希望される方でした。
例えば、ある方は低周波治療器やホットパックを使用した後、理学療法士の指導を受けながら歩行練習や筋力トレーニングを受けていました。
歩行訓練については膝の痛みがあり、気が進まないこともあるようでしたが、理学療法士さんの励ましで続けることができていました。
またある方は、空気圧マッサージ器と理学療法士さんのマッサージで足のむくみが改善され、歩行状態が安定してきました。
歩行が安定することで、デイサービスでの入浴が座ったまま入浴する機械浴から自分で歩いて入浴する必要がある一般浴へ変更することができました。
デイサービスに通う方のほとんどがリハビリを希望し、またどの方もリハビリの時間を楽しみにしていました。
リハビリにより機能回復が期待できることがうれしいということ以上に、理学療法士さんと話をしながらのリハビリが楽しい方がほとんどであるというような、いい関係を築いている理学療法士さんでした。
音楽療法士である私が理学療法士さんにお願いしたこと
この施設では、音楽療法士と理学療法士の間で連携をとるなどの決まりごとがあったわけではありませんでした。
音楽療法がリハビリの一環になるという認識はなく、レクリエーションの一種でしかなかったためです。
そこでまず、理学療法士さんに相談という形で、自分が行いたい音楽療法について伝えました。
自分が行いたい音楽療法として伝えたことは以下の通りです。
- 音楽療法が有効だと思われるクライエントをピックアップし継続したセッションを提供すること
- ピックアップした方一人一人に目標を設定すること
- ピックアップした方のセッションに関する記録とそれ以外の利用時間中の記録をとること
- 一定期間セッションに参加していただいた後、目標に対しての達成度を評価すること
これらのうち、理学療法士さんには
- 有効と思われるクライエントの候補を挙げていただくこと
- 目標設定に関するアドバイスをもらうこと
- セッション以外の時間で対象とするクライエントに変化が見られた際には教えてもらうこと
- 評価後、それに対する意見が欲しいこと
をお願いしました。
理学療法士さんにとっては負担が増える内容でした。
しかし、理学療法士さんはリハビリを行う上で、音楽療法との相乗効果がでる期待感があることと、音楽療法自体が未知数でありその結果に興味があることから引き受けていただけることになりました。
ただし、条件として対象とするクライエントはリハビリを受けている方の中からのみ選んでほしいということでした。
リハビリを受けていない方も一定数いましたが、その方については音楽療法利用時の変化は捉えられないし、評価についても意見ができないとのことでした。
ちなみに、ピックアップした方以外にも音楽療法に参加を希望する方がいれば、セッションに参加していただきました。
目標についても、セッションに参加していただくすべての方についてそれぞれ設けることとし、理学療法士さんからのフィードバックのありなし以外には差が出ないようにしました。
理学療法士さんに関わっていただいた音楽療法の結果
こういった形でスタートした音楽療法は、3ヶ月ごとの評価を行い、その都度新たな目標を立てていきました。もちろん、その期間体調不良などで想定以上にセッションに参加できないクライエントがいたり、すべてのセッションに参加できても思ったような効果がでなかったりすることもありました。
逆に何度目かの評価で、音楽療法が効果的にはたらいたと考えられる事例もありました。
理学療法士さんに関わっていただいた音楽療法の結果例:Aさんの場合
Aさんはアルツハイマー型の認知症の症状が進行している方でした。音楽療法に参加していただくことで精神的な安定が図れるのではないかという狙いがあり参加対象者になっていました。
デイサービスの利用やリハビリに関しても拒否をすることが多かったのですが、家族の希望もあり利用していただきました。
音楽が好きだというご家族からの情報もあり、音楽療法に参加していただくことがデイサービスにくる楽しみにつながり、利用時の様々な活動などへの参加拒否も落ち着くのではないか?と期待していました。
ところが、いざ音楽療法への参加を促してみると拒否をされ、セッションの場には参加していただくことができない状況が続きました。
そういった場合は通常、無理にセッションに誘うことはしません。
そのことがさらなる拒否につながると考えるからです。
雰囲気だけでも知ってもらおう、楽しんでいただきたい場であることを感じていただこうと、セッションには参加しない形でも、様子だけはわかるような場所で過ごしていただきました。
しかしながら、体調を崩したことをきっかけに入院され、その後は施設入所されることが決まってしまい、音楽療法への参加はほとんどない状態のまま終了してしまいました。
理学療法士さんに関わっていただいた音楽療法の結果例:Bさんの場合
Bさんは視覚障がいの方でした。両目の視力は、光を少し感じられる程度でした。
デイサービスの利用年数は長く、リハビリについても積極的に参加されていました。
ただ、理学療法士さんの話によると定期的に気分が落ち込んでしまうことがあり、時には「何もしたくない」と訴えリハビリに参加できなくなるという話でした。
Bさんについても、ご本人の話から音楽が好き、音楽療法にぜひ参加したいということで参加していただくことになりました。
Bさんは音楽療法に参加することを毎回楽しみにしてくれていました。
またセッション内でも積極的に発言をしてくれたり、楽器の演奏にも取り組まれていました。
セッションスタート時には腕の動きにくさを訴えることがあったのですが「楽器の演奏が上手くできないと困るので治したい」と理学療法士さんに相談し、積極的にリハビリに取り組まれ相互にいい状況になっていきました。
気分的に落ち込むこともあまりなくなり、安定してデイサービスの利用を続けていただきました。
理学療法士さんからの全体的な評価
理学療法士さんからの全体的な評価としては- 音楽療法のセッションに参加することで、精神的な安定が得られていると考えられる方がいた
- 音楽のセッションの中で、積極的に体を動かすことができている方がいた
ということでした。
この施設で音楽療法をする際、理学療法士さんには直接音楽療法のセッションに参加してもらうことはありませんでした。
しかしリハビリの視点からのアドバイスを受けることができました。
たとえば、
- Cさんには指先が動かしにくい障がいがあるのでその点を考慮して楽器を選んでもらいたい。
- 多数のクライエントに、リハビリテーションとしても効果があると考えられる動きをセッション中の体操に取り入れたらどうか。
といったものです。
このように、理学療法士さんから評価やアドバイスをいただくことで、よりよいセッションになりました。
まとめ
- デイサービスでの私(音楽療法士)の役割は、介護を行うことと音楽療法でレクリエーションを充実させることでした
- デイサービスでの理学療法士さんの役割は、クライエントそれぞれについての機能訓練をおこなうことでした
- 音楽療法士である私が理学療法士さんにお願いしたことは、理学療法士の視点からの意見をいただくことでした
- 理学療法士さんに関わっていただいた音楽療法の結果は、良い結果が出る方もいれば、思ったような効果が出ない方もいました
- 理学療法士さんから評価をしていただきアドバイスをもらうことにより、よりよいセッションを作ることができました
音楽療法士がどのようにセッションを行うか、また他職種とどのように関わるかは、施設によって異なります。
また、今回のように音楽療法士と理学療法士にそのかかわり方の構築が任されることも多くあります。
どのような場合においても、クライエントのためになるセッションを行えるように連携をとっていけるといいですよね。