ただセッションを行うためだけに施設へ出入りする音楽療法士にとって、クライエントの人となりに関する情報源はクライエント本人とケアに携わる介護福祉士です。
クライエントに認知症の症状があったり、失語などの言葉の症状がある場合、介護福祉士は心強いサポーターになってくれます。
今回は、音楽療法士と介護福祉士がどのように役割分担をするのかという点についてご紹介したいと思います。
■ 目次
まずは音楽療法の説明をおこないましょう
はじめてセッションを行う施設では、まず音楽療法の基本的な説明を行うようにしましょう。
介護福祉士さんは忙しいことも多いので、手短に説明を行うか、簡単に書いたプリントを用意してもいいでしょう。
音楽療法がなんであるかを説明しないままセッションをはじめてしまうと、ただ歌って体操をするレクリエーションだと思われたまま終了してしまいかねません。
音楽療法は理論に基づいたセラピーであること、またそのセラピーには日常的にクライエントのケアに携わる介護福祉士さんの手助けが必要であることを伝えておく必要があるのです。
また、セラピーを行うことのメリットも伝えておくといいでしょう。
クライエントのアセスメントは介護福祉士さんに協力してもらいましょう
音楽療法のセッションを行う際にはアセスメントを行う必要があります。アセスメントとは、クライエントのニーズや可能性を把握するために行う情報収集のことです。
クライエントの生活歴や現在の心身の状態を聞き取ります。
特に生活歴や趣味・嗜好については、日頃からクライエントと密な関わりのある介護福祉士さんは、ケア中に聞き取った細かい情報を持っています。
好きな歌や昔見た映画などをクライエントから聞いたことがないか確認してみてください。
一般に、生活歴など普段の会話の中で聞き取れる内容については介護福祉士さんに聞き取りを行い、身体的・精神的な医療面からの情報については看護師さんに聞き取りを行うと、より詳しくアセスメントをとることができます。
そうすることで、セッションの選曲に役立てたり、会話のきっかけづくりができたり、楽器演奏や体操の内容を考える際に役立てることができます。
アセスメントはクライエント自身から聞き取ることでも行えるのですが、認知症や失語症などが原因で聞き取れないこともあります。
その場合は、クライエントのことを詳しく知っている介護福祉士さんに聞き取りを行うことをおすすめします。
聞き取りを行う際は、一度にたくさんのことを聞き出そうとするのではなく、必要な情報をしぼって聞きだすようにすると介護福祉士さんへの負担を減らすことができますよ。
また、聞きたいことを事前に伝えておき、後日聞き取りを行うという方法をとれば、介護福祉士さんも資料などを見て確認することができるのでスムーズに行えますよ。
セッション終了後の様子を捉えておいてもらいましょう
音楽療法士は、セッションが終われば帰ってしまう立場です。
でも、セッションを受けた後のクライエントの様子も知りたいですよね。
この点についても、介護福祉士さんに協力してもらいましょう。
セッションが終わった後、セラピー中にうまく発散ができて精神的に落ち着いて過ごせるクライエントもいるでしょう。
また、疲れていつもよりも夜間ぐっすりと眠れるという方もいるかもしれません。
一方で、自分の知らない曲ばかりでフラストレーションを感じる方もいるかもしれませんし、興奮しすぎて落ち着きなく過ごす方もいるかもしれません。
それらの変化について記録を残してもらい、後日教えてもらうのです。
そうすることで、以降のプログラムの作成や声のかけ方などを工夫し、よりよいセッションを行うことができます。
介護福祉士さんにセッション後の様子を聞く場合には、
・セッション後、普段と比べて落ち着いて過ごせた。
・セッション後、普段と比べて興奮した様子だった。
・セッションに参加した日はよく眠れた様子だった。
・セッションに不満があった様子だった。
など、想定される様子の変化について書き出しておき、それに当てはまっているかどうかを記録しておいてもらってもいいでしょう。
落ち着いて過ごせたか、興奮していたかなどはクライエントの精神的な状態であり、一見看護師さんに求める情報のように思えます。
ただし、入居型の施設では看護師は日勤帯での仕事が多いことがほとんどです。
夜間の様子については、24時間ケアを行っている介護福祉士さんに確認しましょう。
介護福祉士という資格は、医療面の知識ありきの資格でもありますので、的確な情報を得られると考えていいでしょう。
セッション中はコミュニケーションの仲介役や楽器を配る際の手助けをしてもらいましょう
セッション中は、コミュニケーションの仲介役や楽器を配る際の手助けなどをお願いできるといいでしょう。コミュニケーションの仲介役とは、特に認知症の方や難聴の方に必要になる役割です。
認知症の方の中には、自分に向かって話してもらえれば返答ができるが、不特定多数へ向けての話だと上の空になってしまう方もいます。
また、難聴の方の場合セラピストの声が聞こえないこともあります。
そこで、介護福祉士さんにセラピストとクライエントとの懸け橋になってもらうのです。
介護福祉士さんのなかには、セラピストとクライエントとの会話を邪魔してはいけないと考え、セッション中のクライエントとのコミュニケーションを遠慮してしまう方もいます。
そうではないことを説明し、間に入ってもらえるようにしておくと、上の空になったり、聞こえずに困るクライエントを減らすことができます。
また、楽器演奏の際には楽器配りをお願いしましょう。
クライエントの人数が多ければ多いほど、楽器を配るために多くの時間が必要になってしまいます。
「間」ができることで盛り上がっていた雰囲気が台無しになってしまうこともあります。
それではもったいないので、楽器配りはなるべく分担しながら行えるといいでしょう。
可能な限り、介護福祉士さんには音楽療法の担当者としてセッションに加わってもらうようにしてください。
セッション中は楽器配りやコミュニケーションの補完以外にも、トイレに行きたくなったなどの理由で急に立ち上がる方などに対応してもらう必要があります。
看護師さんにも加わってもらえると助かりますが、看護師さんは緊急時の対応や日常的な医療行為のためにセッションすべてに関わることが難しい場合があります。
セッションが始まる前から、セッション補助として、最低1人以上の担当者をとくに介護福祉士さんにお願いしておきましょう。
まとめ
- 音楽療法の説明をおこない、何をやっているのか、どのような効果が期待できるのかを事前に説明しておきましょう。
- 介護福祉士さんに協力してもらうことで、アセスメントを確実に行いましょう。
- セッション終了後の様子は音楽療法士は知ることができません。介護福祉士さんに記録をお願いしましょう。
- セッション中はコミュニケーションの仲介役や楽器を配る際の手助けをしてもらうことで、セッションをスムーズに行いコミュニケーションを充実させることができます。
音楽療法のセッションを行う上で、日常的にクライエントのケアを行っている介護福祉士さんの手助けは無くてはならないものです。
協力していただけることに感謝をしつつ、クライエントにとってメリットになる時間作りをともに目指すことを意識できれば、よりよいセッションを行えるでしょう。