初めての曲を楽器で演奏したり、歌ったりするときに必ず必要なものと言えば何でしょうか?それは楽譜ですよね!
普段何気なく見ている楽譜ですが、どのようにして出来てきたのか、その成り立ちをご存知ですか?
5本の線に音符を書いて音とリズムを表すというのは現在では当たり前ですが、初めからこのような形だったわけではありません。
私たちがト音記号、ヘ音記号と呼んでいる記号はなぜそのように呼ばれているかわかりますか?
当たり前過ぎて疑問にも思わなかったことかもしれませんね。
今回は楽譜ができた経緯、音部記号の由来や意味について書いていきたいと思います。
楽譜はどうしてできたのか?
楽譜のようなものは紀元前2世紀頃にはすでにあったと言われています。
しかしこれは現在のような5線で表されているものではなく、音の高さが何となくわかるように文字や記号を用いて表したものでした。
これは現存する最古の楽譜で古代ギリシャのものです。私たちが楽譜と言われて想像するのは5線譜だと思いますが、全く違う記譜の仕方だったというのがわかると思います。
これを5線譜に書き換えると下のようになるそうです。
しかし、これが本当に正しいのかどうかはよくわかりません。
このような楽譜ができる前というのはどうしていたのかというのと、口伝えをしていました。人が演奏しているのを聴いて、真似して記憶し、また人に伝えるということを繰り返していました。
伝言ゲームを想像して頂くとわかると思いますが、聞いたことを正しく理解し、正しく次の人に伝えるというのはとても難しいですよね。
その時はちゃんと真似できていたとしても時間が経ってから演奏しようとしたときに正しくできるのかはよくわからないですよね。
初めは単純な旋律だったと思うので伝えることができたかもしれませんが、規模が大きくなっていったり、旋律が複雑になっていったりすると正しく理解し、正しく伝えるということは難しくなってきます。
正しく記憶することが難しくなってくると、書き留めておきたくなりますよね。後から見返してもわかるように、文字や記号を使って書き記していったというのが楽譜の始まりです。
最初は5本線ではなかった
古代ギリシャの楽譜について先ほど書きましたが、現在の楽譜とは全く違いましたよね。古代ギリシャの楽譜は現在の5線譜の記譜法とはあまり関係がありません。
しかし、古代ギリシャに似たような記譜の仕方をしているものが日本にはあるんです。
それは日本の伝統的な楽器である箏や三味線の楽譜です。古代ギリシャと同じように文字や数字、記号を用いて表しています。
これらの日本の伝統的な楽器というのは西洋音楽のように共通の楽譜というわけではなく、それぞれ独自の楽譜で書かれています。
古代ギリシャの記譜法がルーツになっているわけではないと思いますが、音楽を残したいという気持ちは時代や国が違っていても同じなんだなと感じます。
さて、現在の5線譜はどのようにして生まれたのでしょうか?
初めから5本の線があったわけではありません。最初は線がなく、古代ギリシャの楽譜のように記号で表していました。
現在の5線譜のルーツとなっているのは古代ローマ時代の記譜法です。
この時代に記譜法は大きく発展しました。記譜法の他にもローマ帝国の国教として認められたキリスト教もローマ帝国の拡大に伴い、急速に広まっていき、大きな発展を遂げました。
キリスト教では典礼の際などに聖歌を歌います。キリスト教と音楽は切り離せないもので、楽譜や音楽の発展にキリスト教は大きくかかわっています。
9世紀頃には音の上がり、下がりを線で表したネウマという記譜法ができます。このネウマでキリスト教の聖歌は記録されました。
楽譜に記すことで記憶違いをすることなく、みんなが共通して正しく歌えるようになりました。
音の上がり下がりが線で表されたネウマ譜では音の上がり下がりは理解できますが、きちんとした音の高さやリズムを表すことはできませんでした。
この楽譜では旋律を知っている人はネウマ譜を見て歌うことは可能ですが、全く聴いたことのない人は音の高さや音の長さがはっきりとわからないため、正確に歌うことはできなかったのではないかと思います。
もっと正確に音の高さがわかるようにと横線を書くようになりました。最初は1本でしたが次第に本数が増えていき、11世紀頃には4本線になりました。
線が書かれるようになった頃、音部記号も書かれるようになり、音の高さなどを四角で表すようになります。この記譜法で音の高さを示すことが出来るようになりました。
その後、音の長さがわかる定量記譜法という記譜法が出来ました。
この様にリズムまでわかるように楽譜に書きこむことができるようになったのは13世紀後半になった頃でした。
多くの記譜法が試され、改良が繰りかえされて現在のような5線や音符に落ち着いていきます。
すぐに現在のような5線や音符になった訳ではなく、ここにたどり着くまでには様々な試行錯誤があったのです。
楽譜にすることができなかった頃は全て記憶するのが当たり前でしたが、覚えるのにも限界があります。
楽譜にしておくことができるようになったということは曲をたくさん作っても演奏してもらえるということです。このことは聖歌がたくさん作られていくきっかけになったと思います。
キリスト教がもし典礼に音楽を用いていなかったり、伝えていくことに消極的だったりしたとしたら、もしかすると、現在のようなわかりやすい記譜法には行きついていなかったかもしれませんし、西洋音楽はこれほどまでに発展していなかったかもしれません。
音部記号とは音の高さを決めるもの
知っている音部記号を答えて下さいと質問したとすると、多分皆さんはト音記号、ヘ音記号と答えて下さると思います。
もちろん正解です!中にはもう1つハ音記号と答えて下さる方もいると思います。この3種類で正解です。
先ほどネウマ譜などについて書きましたね。音部記号もその頃に出来ました。
まず初めにファの音がわかるようにするために1本線が引かれるようになり、その次にドの音を示す線を書くようになりました。
よりわかりやすくするためにファを示す線には赤、ドを示す線には緑の色をつけていたようです。それが次第にアルファベットでF(ヘ音記号)、C(ハ音記号)と表すようになります。
ト音記号はというと実はこの2つの記号よりも後に出来た記号で、アルファベットではGと表されていました。
このアルファベットのF、C、Gが図案化され、現在の形になりました。
この3種類の記号は音域によって使い分けされており、ト音記号は高音部、ヘ音記号は低音部、ハ音記号は中音部を表すのに適しています。
もうだいたい見当がついていると思いますが、この3種類の記号の前に「ト」とか「ヘ」とか「ハ」とついているのは、その音の位置を決める記号ですよということです。
「ト」はドレミでいうと「ソ」の音のことです。「ヘ」は「ファ」の音で「ハ」は「ド」の音のことです。
音部記号には書き方というのがあって何番目の線から書き始めるというルールがあります。
それぞれの記号はどのように書かれているのか見ていきましょう。
ト音記号は下から2番目の線から書き始めるのですが、そこが「ト」の音、つまり「ソ」の音になりますよということです。
ヘ音記号は上から2番目の線から書き始めて、2つの点は同じく上から2番目の線を挟むようにして書きます。
この上から2番目の線のところが「ヘ」の音、つまり「ファ」の音になりますよということです。
ハ音記号は真ん中の線から書き始めます。この真ん中のところが「ハ」の音、つまり「ド」の音ということです。
現在ではこの3つしか通常使われません。
現在ではほとんど使われることはありませんが、昔はこの3種類の記号の書き始める位置を変えて読み替えをしていました。
●ト音記号を用いる譜表は2つありました。
1番下の線から書き始める小ヴァイオリン記号と下から2番目の線から書き始める高音部記号(ヴァイオリン記号)の2つです。
●ハ音記号を用いる譜表は5つありました。
1番下の線から5番目の線まで書き始める位置をずらして書きました。
第1線→ソプラノ記号
第2線→メゾソプラノ記号
第3線→アルト記号
第4線→テノール記号
第5線→バリトン記号
●ヘ音記号を用いる譜表は3つありました。
下から3番目の線から5番目の線まで書き始める位置をずらして書きました。
第3線→バリトン記号
第4線→バス記号
第5線→低バス記号
現在使われているのは赤字になっている3種類です。
音部記号を書くときには書き始める場所をちゃんとしないと音の読み方が違ってしまいます。適当に書かないように注意して下さいね!
5線譜は初めからあったわけではなく、色々と変化しながら現在の姿になりました。
この記譜法になってから何百年も経ちますが、現在でも変わることなく使われているというのはすごいことだなと思います。
現在の記譜法は完璧だと私は思いますが、これからもし変化が来るとするならばどんな記譜法が出てくるのでしょうか?
これまでにない楽器が発明されたりしたときには、もしかすると新たな記譜法が出てくるのかもしれません。そんな機会に出会うことが出来たらきっと面白いでしょうね。
まとめ
◆楽譜のようなものは紀元前2世紀頃にはすでにあった◆文字や記号を使って書き記していったというのが楽譜の始まり
◆楽譜や音楽の発展にはキリスト教が大きくかかわっている
◆初めから5線譜だったわけではなく徐々に現在の形になる
1.音の上がり下がりを書き表せるようになる
2.音の高さを書き表せるようなる
3.音の長さが書き表せるようになる
◆音部記号には書き方のルールがある
The ancient Greek score By David W. [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons.
5線で四角の音符は何年、何世紀頃から使われる様になったのか教えて下さいませんか‼️ 50年頃前にザルツブルクで購入したのですが❗羊の皮に書いてあります。 宜しくお願い致します ありがとうございます
藤江さん、私の記事を読んで下さりありがとうございます。
そしてコメントまで頂き、とても嬉しいです♪ありがとうございます!!
返信が遅くなってしまい申し訳ありません。
ザルツブルクで楽譜を購入されたのですね!
ザルツブルクはモーツァルトの生まれたところですし、記念になるものとして楽譜を買われたというのはとても素敵ですね♪
ご質問頂いた件について私なりに調べてみましたので、書かせて頂きます。まずは楽譜の記譜の仕方がどのようになっていったのかを書き出してみます。
ネウマ譜 (9世紀)
↓
音高ネウマ譜 (10C)
↓
譜線ネウマ譜 (11C)
↓
計量記譜法 (13C~)
・黒符計量記譜法(13C中頃~15C中頃)
・白符計量記譜法(15C中頃~16C末)
9Cのネウマ譜の頃には譜線を使っておらず、まだ音符のようなものも使っていませんでした。四角で表記し始めたのは11Cの譜線ネウマ譜の頃のようです。
最初は1本線だったようですが、徐々に本数が増え、13C頃には4本になりました。しかし、線の本数はまだ完全に固定された訳ではなかったようで、楽器の音域などによって4本だったり、6本だったりしていたそうです。
バラバラだった線の本数を5本に統一する動きがイタリアのオペラ界から始まり、次第に5本線が定着していったという流れのようです。(5本線に完全に定着したのが17Cだそうです。)
4本線が定着していたとされているのが13Cですので、藤江さんがお持ちの楽譜はそれ以降のものということになりそうですね。
羊皮紙の観点から考えてみると、15C中頃から羊皮紙から紙へと切り替わっていったそうです。このような状況を考えると、お持ちの楽譜は13C中頃~15C中頃までのものなのではないかなと思います。
5線に書かれていて四角の音符で書かれているのであればおそらく計量記譜法で書かれたものなのではないかと思うのですが、計量記譜法は黒符計量記譜法と白符計量記譜法という2種類の記譜の仕方があるようです。
これは使われていた時期に違いがありますので、記譜の違いでもう少し年代がしぼれるかもしれません。
今現在の読みやすい楽譜は先人たちの知恵と改良の結果なんだなと思うと感慨深いですね!楽譜、これからも大切になさって下さいね!!