ギロックという名前を聞いたことがありますか?ピアノを習っている方にとっては聞きなじみのある名前かもしれませんね。
私がギロックの名前と作品を知ったのは大学を卒業し、ピアノを教え始めた頃でした。小さい頃にギロックの作品を弾いたことがあったかもしれませんが、記憶には残っていませんでした。
私がピアノを教え始めた頃、ギロックについての公開講座に行く機会があり、その時に彼の作品を聴きました。
公開講座で教えて下さった先生はギロック本人から色んなことを学ばれた方でした。作曲家に直接会い、曲の解釈や音楽の話を聴く機会というのはなかなかあるものではありません。
間接的ではありますが、ギロックの考えを学んだ先生からお話を聴くことができ私にとってとても勉強になりました。
ギロックの作品はそれほど難しくないのにメロディーや音の響きが素敵で弾くと様になるというのが特徴だと思います。
そのような理由からギロックの作品は発表会で弾かれる機会も多いと思います。曲によってはコンクールの課題曲になっているものもあります。
今回はギロックの「こどものためのアルバム」の難易度順と弾き方について書いていきたいと思います。
■ 目次
ギロックってどんな人?
ギロックは現代の作曲家です。彼は音楽教育にとても力を注いだ人でした。
ウィリアム・ギロックは1917年にアメリカのミズーリ州のラ・ラッセルで生まれました。生まれたのが1917年なので、今年が生誕100年ということになります。それを記念して、楽譜や関連本、CDが出ています。
ギロックには2歳年下の弟ロバートがいました。小さい頃はロバートと2人でよく遊んでいたそうですが、次第にギロックは1人でピアノを弾いて楽しむことが多くなりました。
あまり活発な性格ではなかったみたいですね。
ギロックの家族はみんな音楽が大好きだったようですが、音楽の教育を受けていたわけではなかったので、独学で演奏をしていたそうです。楽譜はあまり読めなかったようです。
ギロックは5歳の頃からピアノのレッスンに通い始めました。その先生のレッスンは少し変わっており、楽譜を読んで弾くというものではなかったようです。
どのようなレッスンだったかというと、先生が弾いてくれた曲をその場で覚え、どうしたら同じように弾けるか考えるというものだったそうです。
理論から学ぶのではなく、同じ音の響きを探っていき、音楽を感覚で捉えるという方法から学んでいったというのは、その後の作曲にかなり影響があったのではないかと思います。
ギロックは高校卒業後、ミズーリ州にある総合大学に進学します。音楽を専攻したかったのですが、楽譜を読むことや理論をほとんど学んでいなかったので、専攻するだけのレベルになっていませんでした。
そのため、美術を専攻することになります。しかし、音楽を諦め切れなかった彼はナニー・ルイーズ・ライト教授に習い、基礎的なことから学んでいきます。
大学を卒業したギロックはニューオーリンズに移り、第二次世界大戦中は航空機の機械製図の仕事をしました。戦争が終わってからはピアノ教師として活躍しました。
ピアノを教えていく中で生徒の音楽教育をするだけでなく、ピアノ教師も学ぶ場があった方がよいと考え、ピアノ講師のための講習会をアメリカ全土で開きました。
ダラスに移ってからのギロックはコンクールの審査員を多く務めました。コンクールの審査では演奏の上手さではなく、演奏する人が音楽をどのように表現しているかということを重視しました。
理論的に考えるよりも感覚的に音楽を捉える傾向が強かったギロックにとって、表現の方を重視するというのは当たり前ことだったのでしょうね。
音楽教育をより良いものにするために力を尽くしましたが、1993年にガンで亡くなりました。
いろんなスタイルの作品を書いている
作曲家は普通同じ作風で曲を書いていくと思うのですが、ギロックの場合はバロック、古典派、ロマン派、近現代、ジャズ風などの様々なスタイルの曲を書いています。
現代の作曲家の場合、いろんな時代の音楽が出そろっているのでそれぞれの時代の作曲スタイルを理解できていれば書けると言われてしまえばそうなのですが、それにしてもすごいと思うのです。
モーツァルトやベートーヴェン、ショパンなど多くの作曲家の作品にはその作曲家らしさというのがあって、たとえ聴いたことのない曲だったとしても作曲家がだいたいわかります。
しかしギロックの場合、いろんなスタイルの作品があるため、当てられる自信が私にはありません。
今回取り上げる「こどものためのアルバム」(全23曲)の中の曲にも同じことが言えます。
【バロック】 コラールプレリュード、聖体行列(クラシックカーニバル)
【古典派】 古典形式によるソナチネ
【ロマン派】 ウィンナーワルツ、ワルツエチュードなど
【近現代】 雨の日の噴水、金魚、ソナチネ
「こどものためのアルバム」にはジャズ風のものはありませんが、次のようなジャズスタイルで書かれた曲集があります。(曲集によってはジャズ風の曲が含まれています。)
【ジャズ風】 ギロック ジャズスタイル・ピアノ曲集
これはギロックが理論からではなく、感覚で音楽を捉えるということから学んだというのが関係しているのかもしれませんね。
「こどものためのアルバム」難易度順
ギロックの作品はそれほど難しくないのに、聴きごたえがある作品が多いので、こどもにはピッタリだと思います。
「こどものためのアルバム」(全23曲)の難易度を見ていきましょう。
この曲集の全体的な難易度はあまり高くありません。ギロック以外の他の曲集で比べてみると「ツェルニー30番」、「ブルグミュラー」、「簡単なソナチネが弾ける」程度で弾けます。
23曲のそれぞれの難易度を見ていきましょう。
★ 3 「舞曲」ホ短調
5 「手品師」変ホ長調
7 「フランス人形」ト長調
9 「タランテラ」ホ短調
★★ 1 「ウインナーワルツ」ハ長調
2 「コラールプレリュード」ト長調
4 「悲しいワルツ」ヘ短調
6 「古い農民歌」ハ長調
8 「カプリッチエット」ハ長調
11 「森の妖精」ハ長調
15 「サラバンド」イ短調
★★★ 10 「森の伝説」変ホ長調
12 「教会の鐘」ハ長調
13 「魔法の木」ニ短調
20 「クラシックカーニバル」(宮廷のコンサート、聖体行列、カーニバルの舞踏会)
22 「古典形式によるソナチネ」(第1楽章、第2楽章、第3楽章)
★★★★ 14 「祭り」ニ短調
18 「雨の日のふんすい」ヘ長調
21 「金魚」ト長調
★★★★★ 16 「エチュード」ホ短調
19 「雪の日のソリのベル」ト長調
23 「ソナチネ」(第1楽章、第2楽章、第3楽章)
★★★★★★ 17 「ワルツエチュード」ト長調
難易度順に★をつけましたが、★1つから3つまではそれ程大きく難易度は変わりません。あまり難易度にこだわらずお好きな曲に挑戦して下さいね。
「こどものためのアルバム」弾き方
「こどものためのアルバム」の中から発表会でよく弾かれている「ウインナーワルツ」と「雨の日のふんすい」の弾き方について少し書いていきます。◆ウインナーワルツ
(1:00まで)
この曲はただのワルツではなくウインナーワルツとなっていますね。これがポイントなんです!
ウィンナーワルツと言えばシュトラウスの「美しく青きドナウ」がとても有名ですよね!
ウインナーワルツは普通のワルツとは少し違った特徴を持っています。このウィンナーワルツというのはウィーンで流行っていたワルツのことですが、3拍子のリズムのとらえ方が少し違い、2拍目が若干短くなります。
均等な3拍子のものよりも軽やかで前に進んでいるような動きのある印象を受けるのではないかと思います。
つまり、この曲は3拍子を正確にきざまず、もっと自由に揺れる感じを出して欲しいということです。
その感じを出すためには左手を注意しなくてはいけません。1拍目は少し重みをかけるようにして弾き2拍目は手首を使って力抜くようにして軽く弾きます。次に出てくる8分休符は必ず休みましょう。
右手の3つの8分音符は音がちゃんと上がっていることを表現するようにほんの少しクレッシェンドをかけて弾きましょう。
この部分は多少の揺らぎは欲しいのですが、あまり急いだ感じになるのは良くないので、テンポを揺らすのはほどほどにしましょう。
譜面は難しくないのですが、素敵に弾こうと思うと意外と難しいです。
◆雨の日のふんすい
この曲は音の響きがとても素敵です。響きをよく聴いて弾きましょう。ペダルの踏みかえをきちんと守って、にごらないようにしましょう。
左手を交差させながらメロディーを弾くことになります。交差した後の音が抜けたり、逆に乱暴になったりしないようによく準備するようにしましょう。
メロディーにかなり高低差があるのでその差を弾きわけられるようにしましょう。具体的には音が上がれば少しクレッシェンドし、音が下がれば少しデクレッシェンドするようにできるとより良い演奏になります!
(動画0:16~)
上の楽譜の○と○の部分(動画0:22~)は同じ音のくり返しですが、高さが変わります。この部分はやまびこになるように弾くと曲が立体的になると思います。
この曲はきれいな音で響きを楽しむことと高低差を意識して弾くことがポイントです。平面的にならないように気をつけましょう。
ギロックの作品は音の響きがきれいです。押さえつけたつぶれた音で弾くのではなく、大きな音でも弾力のあるきれいな音を出せるように心がけると良いかもしれません。
彼はテクニックを重視していた作曲家ではありませんでしたので、きれいに表現したほうが喜んでくれるはずです!!ただ弾くのではなく、素敵な演奏を目指して下さいね!!
まとめ
◆ギロックは現代の作曲家で音楽教育に力を注いだ人◆様々なスタイルの曲を書いている
◆ギロックの作品はそれほど難しくないが聴きごたえのある作品が多い
◆難易度は「ツェルニー30番」、「ブルグミュラー」、「簡単なソナチネが弾ける」程度
編集者による補足解説
曲の情報
- 曲集名:こどものためのアルバム(英語:Album for Children)
- 作曲者:ウィリアム・ギロック(William L. Gillock/アメリカ人)
1917年7月1日-1993年9月7日(76歳没)
音楽教育家・ピアノ曲の作曲家
※美しいメロディーの教育用の曲を数多く作曲したことから「教育音楽作曲界のシューベルト(英語:the Schubert of children’s composers)」とも呼ばれています。
- 曲の種類:ピアノ独奏曲
- 出版社:全音楽譜出版社(英語:Zen-On Music Company Limited)
※ギロックのこども向けの曲を全音社がまとめたもので、世界的に販売されています。 - 演奏時間 総計:約45分
- 編曲:2曲目の「コラールプレリュード」のみ、フランスの作曲家フェリックス・ル・クーペ(Felix Le Couppey/1811-1887)の曲をギロックが編曲したものです。
作曲された順番
作曲された年ごとに曲をまとめてみました。ギロックは40代から作曲活動を本格化させたそうで、このリストからもそのことがわかるのではないかと思います。- 1959年(42歳)
第12曲「教会の鐘(Mission Bells)」約1分10秒
第14曲「祭り(Festive Piece)」約50秒
第22曲「古典形式によるソナチネ(Sonatina in Classic Style)」
・「第1楽章」約1分20秒
・「第2楽章」約2分50秒
・「第3楽章」約1分20秒
- 1960年(43歳)
第18曲「雨の日のふんすい(Fountain in the Rain)」約1分50秒
第20曲「クラシックカーニバル(Classic Carnival)」
・「宮廷のコンサート(Royal Concert)」約1分30秒
・「聖体行列(Religious Procession)」約2分
・「カーニバルの舞踏会(Carnival Ball)」約1分20秒
- 1962年(45歳)
第19曲「雪の日のソリのベル(Sleighbells in the Snow)」約1分30秒
- 1963年(46歳)
第23曲「ソナチネ(Sonatine)」
・「第1楽章」約2分50秒
・「第2楽章」約3分10秒
・「第3楽章」約1分
- 1964年(47歳)
第7曲「フランス人形(French Doll)」約1分
第21曲「金魚(Gold Fish)」約2分10秒
- 1968年(51歳)
第2曲「コラールプレリュード(Choral Prelude)」約1分50秒
- 1969年(52歳)
第1曲「ウインナーワルツ(In Old Vienna)」約50秒
第3曲「舞曲(At the Ballet)」約1分10秒
第4曲「悲しいワルツ(Valse Triste)」約1分40秒
第5曲「手品師(The Juggler)」約50秒
第6曲「古い農民歌(Old Plantation)」約2分
第8曲「カプリッチエット(Capriccietto)」約40秒
第9曲「タランテラ(Tarantella)」約50秒
第15曲「サラバンド(Sarabande)」約2分40秒
- 1970年(53歳)
第10曲「森の伝説(A Woodland Legend)」約2分10秒
第11曲「森の妖精(Ariel (別名:A Forest Sprite))」約1分
第13曲「魔法の木(The Haunted Tree)」約1分10秒
- 1972年(55歳)
第17曲「ワルツエチュード(Valse Etude)」約2分50秒
- 1973年(56歳)
第16曲「エチュード(Etude in E minor)」約1分