弓は毛を張ったただの棒きれにしか見えませんが、ヴァイオリンの音を左右する、とても大事な道具です。値段も数百円から数千万円までの幅があるので、初心者の人はなんでそんなに違うんだろう?と不思議に思いますよね。今回は弓の種類や選び方、毛の張り替えについて簡単に説明します。
■ 目次
弓の種類とメーカー
伝統的なものはフェルナンブコという木材でできています。少し劣るものはフェルナンブコ以外のブラジルウッド材を使っています。最近は安価な割に質の高いカーボン製のものも人気があります。初心者向けの弓の中から、いくつかのよく知られたメーカーをご紹介します。もちろんメーカーさんは他にもいろんな種類や値段の弓を扱っています。私の独断で妥当だと思うものを載せていますが、あとでご説明しますように、ネットではなく店舗に行って吟味して購入することをおすすめします。
杉藤
Sugito Bow 杉藤バイオリン弓 No.300 4/4 ¥25900杉藤楽弓社は1899年の創業で、日本だけではなく海外でも評価されている弓のメーカーです。ヴァイオリンだけでなく、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弓もあつかっています。
ここでご紹介する弓は、価格も手に取りやすく、1番販売実績のある弓です。スティックはフェルナンブコ、フロックは黒檀でできていますので、この材質でこの値段というのはかなり高いコストパフォーマンスと言えるのではないかと思います。
Archet
SA1005 バイオリン弓 ¥110,000アルシェはフレンチボウのノウハウを存分に生かしたボウで知られ、弾きやすさを追求する日本のメーカーです。
この製品は名工「E.サルトリー」スタイルの上級スタンダードモデルです。スティックはフェルナンブコ、フロッグは銀と黒檀を使っています。甘い音色が特徴のSAモデルです。プロの演奏家にも愛用されているので、長く使えるものだと思います。
Coda Bowコーダボウ
Diamond SX ¥108,000アメリカの工房。世界を代表するカーボン弓メーカーです。フェルナンブコ材の弓を基に製作されている弓は、カーボン弓の軽さや扱いやすさとバランス、音のとびの良さを兼ね備え、同価格の木製弓と変わらない安定性を誇ります。
このモデルはプロ向けに製作されており、引っ掛かりのよさやコントロールのよさに定評があります。音や弾き心地が少し硬い、というレビューもあるので好みが分かれるかもしれませんが、試してみる価値がある弓だと思います。
YAMAHA
ヤマハカーボン弓 CBB101 ¥31,800ヤマハは言わずと知れた日本の楽器メーカーです。お店も日本全国ありますし、初心者の人にも取っ掛かりやすいと思います。
このカーボンファイバー製の弓は、木弓としなり感が変わらず、コストパフォーマンスに優れています。同じカーボン弓のコーダボウと比べてバランスや毛の張りが良いという意見と、コーダボウよりバランスが悪いという意見があるので、弾き方や好みによって弾き心地が違うかもしれませんが、とりあえず試してみたい、という人にはぴったりだと思います。
木?それともカーボンファイバー?
純正フェルナンブコの手作りのものは大抵高いので、安いものは木でもどんな素材を使っているか分からない、と思ったほうがいいですね。そういう木材でできた弓は弱く柔軟性にも欠けるのである程度弾けるようになると満足できなくなります。
木材の不足で近年開発が進んだカーボン製のものは、比較的安く品質にむらがないので通販で買いやすいかもしれません。軽く折れにくいのが特徴なので子どもや雑な人には特にもってこいの素材です。オーケストラや外に持ち出して弾く場合も木のように繊細ではないので気が楽ですね。
Fiddlerman のカーボンファイバー製の弓がどれほど強いか見せるためにこんな乱暴なことをしてくれた人がいますよ。子どもがチャンバラごっこしても平気!?
How Strong is a Fiddlerman Carbon Fiber Bow?
弓の選び方
弓は自分の体や楽器に合ったものを選びます。なので、楽器をまだ持っていない人はヴァイオリンを買うのが先ですよ。ヴァイオリンと弓をセットで買った、という人で、そろそろ弓を買い替えたいと思っているなら自分の弾いているヴァイオリンに合った弓を探すことになります。一番大切なこと!
弓を選ぶとき(ヴァイオリンもですが)一番大切なのは、信頼できるいい弦楽器のお店またはディーラーさんを見つけることなんです。
言っている予算以上のものを売りつけようとしたり、楽器のプロがいないお店はダメです。自分で作る人か、最低でも弾ける人がいるお店だと確実です。
オンラインで調べたり知り合いに聞いたりして情報をちゃんと集めてからお店に行きましょうね。
あまりピンとこない、と感じたらしっくりするお店が見つかるまで探したほうが後々後悔しない、いい買い物ができますよ。楽器の調整が必要な時や、後で楽器や弓を買い替えたいと思ったときにも相談しやすいです。
私は九州ですが、東京のアトリエに長年お世話になりました。すばらしいヴァイオリン職人さんとのいい出会いがあったからです。皆さんにもいい出会いがあるといいですね!
実際に弓を選ぶ
お店に自分のヴァイオリンと今使っている弓を持って行きましょう。自分の弓を見せて、もっと良いもので楽器と自分の体に合うものを探している、と伝えます。その他、好みや予算もはっきり伝えてください。お店の人はプロですからちょうどよいものをすぐに5、6本持ってきてくれるはずです。
開放弦でゆっくり音を出して試してみてください。音階を弾いてみてもいいですね。スタッカートや速い移弦を試して弓さばきの違いを感じてみましょう。強い音を出してみると弓のしなり具合が分かります。何本が違うものを弾いているうちに弓の重さのバランスや音の出かた、扱いやすさなどが分かってくるはずです。
弓の重さは60グラム前後のグラム単位での違いです。長さもミリの違いです。弓のバランス、重心の位置などはそれぞれ微妙に違います。体格や腕の長さ、手や指の大きさや形はみんな違いますし、繊細な動作をくりかえして練習しますので、こうしたちょっとした違いが右手には大きな違いとして感じられるんです。
それで、弾きやすいと感じる弓があったり弾きにくいとか重すぎる、軽すぎる、と感じる弓があって、自分にとって一番弾きやすい、と感じるものがいい弓なんですね。同じ楽器なのに今までよりいい音がする、というのも目安です。他の人が弾いたのを聞いてもよく分からないかもしれませんが、自分の耳にははっきり分かるものです。
たくさん試させてもらって、もし気に入ったものがあれば貸出しをお願いして家でもっといろんな曲を弾いてみましょう。買うのは、十分納得するまで試し弾きしてからでいいんですよ。お店との信頼関係にかかわりますからそうやって試させてもらったらちゃんとそのお店で買うのが礼儀です。
弓の値段
弓は楽器の値段の20%くらいから楽器と同じくらいの値段のものを選ぶと大抵は合います。楽器の倍もするような値段の弓を買える予算があるのなら、まずいいヴァイオリンを買ったほうがいいですよ。楽器に対して安すぎる弓は、ヴァイオリンの音や表現力を最大限に引き出すことができなかったり、弾きにくかったりするので不満が出てきてしまいます。バランスが大事です。
面白いのは、ヴァイオリンの場合もそうですが、値段の割にいいものもたまにあって、それがたまたま自分にピッタリくると良さを最大限に発揮できるので、値段以上の価値を持つことになるんですよね。
例えば30万ほどの弓なのに50万の弓に劣らない音とパフォーマンス力があるものに出会えたらラッキーですね。自分の体や楽器に合うものを見つけたらそういうことだって十分あり得るんですよ。もちろん、3千円の弓と300万円の弓を単純に比較するわけにはいきませんが。
弓の毛替えについて
弓の毛は消耗品です。弾いているうちに表面が削れるので弦を滑ってくるようになったり、毛が切れて少なくなったりします。弾かなくても古くなって劣化します。できればそうなる前に替えましょう。あまり弾かないなら最低1年に一度、よく弾くようなら半年に一度の目安で張り替えます。プロに頼んでくださいね。楽器屋さんがやってくれます。
値段は毛の質や産地によって5千円から1万5千円くらいの違いがあります。プロは弓を見ればどの毛がいいか分かるので、特に好みがない限りはお任せすれば安心です。
毛替えから帰ってきた弓の毛には松脂が付いていないので(たまに付けてくれる楽器屋さんもあります)弾く前にたっぷり10から20往復くらい塗ります。そのあとは弾くたびに2、3往復くらいで十分です。
ちなみにこれがプロの仕事です。毛替えの一部始終が分かるビデオ。
普段のお手入れについて
練習した後は必ず柔らかい布やガーゼでスティックに付いた松脂の粉や手の汚れをふき取ります。その時毛には触らないように注意してくださいね。手のひらや指先の汗や脂が毛に付くと良くないからです。ふき終わったら、ネジを回して毛を緩めて休ませておきます。毛がダラーっとなるのは緩めすぎです。毛が何かに引っかかってしまったり汚れが付きやすかったりするのでよくないです。“張っていない”くらいの緩め具合で大丈夫です。
使わないときは必ずヴァイオリンケースの弓を置く場所に置いて固定しておいたほうが安全ですよ。大切な相棒ですから大事に扱ってくださいね。