ホルン吹きの多くが反応する記号「+」、すなわちゲシュトップはホルン吹きを悩ませる曲者です。

最近は中高生もこの難しい技法を使うことが多いようですが、正しく理解して、しっかりとゲシュトップを鳴らすことができている人は少ないように思います。もちろん、大人の奏者にとってもゲシュトップは難しい技法です。

吹奏楽だと見かけることの少ないゲシュトップですが、ホルンの歴史上欠かせない重要な奏法としてクラシックでは大変よく使われますし、なによりフレンチホルンにしか存在しない特別な奏法ですので是非ともマスターしたいものです。

上手に吹きこなせれば上級者の仲間入りとも言えるゲシュトップについて、運指から吹き方のコツまで解説していきたいと思います。

そもそもゲシュトップって何?


ホルンは本来、ナチュラルホルンというただの「管を巻いたもの」だったことは、ご存知の方も多いと思います。ナチュラルホルンの時代は主に唇による倍音の変化と「右手の出し入れや形の変化」によって音を変えていました。

後の時代になって今と同じバルブホルンが開発されると、右手で音程を変える必要がなくなりました。しかし、伝統的な奏法として、またホルンのベルを塞いだ時の独特のサウンドとしてゲシュトップは今も重要な技法として残っています。

現代におけるゲシュトップは曲の中である種の効果音やスパイス的な役割を担っており、ベルを塞ぐことによる「ジ――――――」や「ビ――――――」というような金属音を出すことが求められています。

右手の入れ方と吹き方


まずはゲシュトップの時の吹き方と右手の入れ方について解説します。
この二つが金属音のある良いゲシュトップを響かせるのに重要な要素です。

右手は、とにかくベルを塞ぎます。いつもよりも深くまでベルの中に手を入れて、手の甲や拳でベルを完全に塞ぐイメージで手を入れましょう。上図は指を曲げる前の右手の図ですが、ここから、指を手のひら側に90度ほど曲げると吹きやすくなります。

手の小さい人やベルが太い楽器を使っている人は苦労しますよね。私も太ベルの楽器を使っているので大変です。そんな人は、ベルを膝の上に置いて吹くと楽器を支える必要がなくなり、よりしっかりとベルを塞ぐことができます。


息の入れ方もあまり難しく考えることはありません。とにかく「たくさん吹く」のが大事です。普段の演奏では絶対使わないような強さで息を入れましょう。とにかく吹き込まないとなかなか「ジ――――」という金属音は出てくれません。

ゲシュトップは弱奏部でよく使われる奏法ですので楽譜には「p」、「pp」と書かれることが多いですが、右手を塞いで金属音を出すにはかなりの強さで息を吹き込む必要がありますので注意してください。

ゲシュトップの運指

ゲシュトップは実質的に管の長さが変わるので当然いつもと運指が変わってきます。ゲシュトップの運指の基本は記譜されている音を「F管で半音低く」です。例えば、ゲシュトップでFの音が出てきた時はF管の2番の指で吹く、ということです。

B管でゲシュトップを吹くと3/4音という幅で音程が変わるため、運指では対応できません。そこで、Bシングルホルンの中には「ゲシュトップキー」という便利なバルブがついていることがあります。その場合は、記譜通りの指とそのキーを一緒に押します。

以上がゲシュトップの運指の基本です。しかし、「ゲシュトップはより長い管で吹くと良い音が鳴る」という説もありますし、一番良いのは「自分が一番よく鳴らせる指」で吹くことです。

B管でゲシュトップを吹くのは、運指によって音程を調節することができないのでご法度とされていますが、音域によってはB管の方が鳴りやすいなんてこともあります。手の大きさは人それぞれなので、それぞれの音でその時々に合った指使いを見つけるのがゲシュトップを習得する近道です。

ゲシュトップのコツ


ここまでゲシュトップは難しい重労働のように見えますが、習得するにはコツがいるんです。それは「効率よく響かせるポイントを見つける事」です。

右手の位置や入れ方、息の吹き込み方や唇の振動の具合、そして指使いの三つをいろいろと試して、自分が一番よく響かせられるバランスを見つけるのが非常に重要です。これが出来ればあとは練習するだけです。

決してやみくもに練習するのではなく、金属音がどれだけ響いているか、発音や音色が安定しているかなど、自分の中で基準を設けてツボを開拓してみてください。

まとめ

ここまでをまとめてみましょう。

・ゲシュトップはホルン特有の由緒ある奏法である
・ゲシュトップが上手だと一目置かれる
・現代の演奏現場ではホルンのゲシュトップでしか出せない金属音を求められる
・右手はなるべく塞ぐ、息は強く、
・運指はF管で記譜の半音低く
・効率よく鳴らせるポイントとバランスを見つける

ゲシュトップは難しい職人技的な奏法に思われがちですが、ホルンならではの奏法で奏者の実力が解ってしまう技法です。是非マスターしましょう。


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