ホルンの基礎練習、皆さんは何をやっていますか?
スケール、ロングトーン、タンギングなど人によって様々だと思います。
もちろんそれらの技法も重要ですが、忘れてはいけないのがリップスラーです。
リップスラーは楽器を始めたばかりの初心者には難しい技法ですし、「これが正解」というような感触が掴みにくいので、苦手意識を持たれがちです。
中高生の中にはこの技法で挫折してしまう人もいるのだとか。
特にホルンのリップスラーは非常に難しいです。
しかし、リップスラーはレッスンでは必ず練習するようにと言われる技法ですし、私の周りの上手な方は全員、基礎練習でリップスラーを念入りに練習しています。
彼らも「上手になるにはリップスラーを練習しなさい」とよく言います。
私も同感で、うまくなるための一番の近道はリップスラーを練習することだと考えています。
そして、リップスラーこそがホルンの演奏の重要な土台であり、スケールやメロディーへの応用、音域の拡張や音程の補正といった様々な方面を全般的に上達させる技法だと思います。
何故ホルンのリップスラーは難しいのか、なぜリップスラーを練習すべきなのか、リップスラーを練習するとどんなメリットがあるのか、についてよく理解することも重要なポイントですので、一つ一つ見ていきましょう。
なぜホルンのリップスラーは難しいのか?
この問いはホルンそのものの難しさと直接かかわっています。
まず、よく知られているように、ホルンは管の長さの割にマウスピースが小さいというのが大きな理由の一つです。
唇の振動を楽器に伝えて振動を楽器の倍音として響かせるのが金管楽器の主なメカニズムですが、ホルンはトロンボーンと同じくらいの長さの管を、ホルンよりも管の短いトランペットよりも小さく軽いマウスピースでコントロールしなければいけません。
言い換えると小さいハンドルで大きなものを動かさなければいけないのです
したがって、微妙なずれが大きな影響となって音に現れるため、思い通りにリップスラーを吹くのが難しくなりますし、リップスラーの後にその音を持続させるのも、神経を使う難しい作業となります。
理由の二つ目は音域の広さです。
これはホルンの優れた点でもありますが、奏者にとっては大きな壁です。
音域が広いということはそれだけカバーしなければいけない範囲が広いということです。
また、上記の通りマウスピースも小さいので2オクターブなど広い音域を行き来するリップスラーは上級者でも至難の業と言えます。
理由の三つ目は二つ目と関連しますが、求められる音域と倍音です。
ホルンが最もよく響くオイシイ音域というのは中音域よりも上すなわち、五線の上半分から五線を少し超えたあたりまでです。この音域というのはよく響くと同時に倍音が密集する音域で音がひっくり返りやすい音域でもあります。
この音域のリップスラーを完璧にこなすことは奏者として特にソリストとして重要な課題ですが、やはり世界一難しい金管楽器と言われるだけあって一筋縄ではいきません。
以上のようにホルンのリップスラーは大変難しいものとなっており、その主な要因はマウスピースの小ささに由来するコントロールの難しさだということがお分かりいただけたと思います。
しかし、逆に考えればリップスラーを極めれば演奏上の様々な困難を片付けられるとも言えるでしょう。
次に、リップスラーを練習すべき理由について見ていきましょう。
なぜリップスラーを練習すべきなのか?
ホルンに限らず、どうして金管楽器の奏者はリップスラーを練習すべきなのかは、いろいろと理由があります。まずは、歴史的にバルブやピストンの無い時代の金管楽器は唇を使って倍音をコントロールしていました。楽器が進化しても土台となる技法であるリップスラーの上に補強としてバルブなどのシステムがあるので、歴史的に伝統的にリップスラーは練習しなければいけないのです。
また、スケールを吹くときにも実はリップスラーは使われています。バルブは基本的に倍音と倍音の間をつなぐために管の長さを長くするために作られましたが、結局スケールの中で何度か無意識のうちにリップスラーは使われています。
例えば、五線の下から始まる「ドレミファ」をB♭管のスラーで吹いたとき、「ド」から「レ」に音が変わるときにリップスラーは使われているのです。
「レ」と「ミ」はB♭管の倍音である「ファ」を出どころにして2番管と1番管を使って管を長くすることで作られた音ですが、「ド」はB♭管の倍音をそのまま使った音です。
つまり、「ド」と「レミファ」は別の倍音を使っており、原理的には「ド」から「レ」に移るときに唇は「ド」から「ファ」へのリップスラーを行っていることになります。
結局、スケールに限らず何らかのパッセージを吹くにはリップスラーが必要であり、リップスラーの質が直接そのパッセージに影響するのです。
どんなパッセージもリップスラーを制さねばうまくは吹けないのです
リップスラーを練習するメリットはたくさん
リップスラーを練習すると何が良いのか?何がどううまくなるのか?について見ていきましょう。
まず、唇と音の許容範囲の共通部分が広くなるつまり、唇の具合を変えずに多くの音が吹けるようになり、同じ音をいろんな唇の具合で吹けるようになる、というのが大きな利点です。これによって、音や音程の精度が向上しますし何よりも器用にいろいろなパッセージを吹くことができるようになります。
二つ目はソルフェージュ能力の向上です。リップスラーというとどうしても唇に意識が向かってしまいますが、正しくリップスラーを吹くには音と音との間を正しく歌えることが条件となっています。リップスラーの練習を通して様々な音の幅を練習することになるので、ソルフェージュもうまくいくようになります。
三つ目は音域の拡大が効率よく行えるということです。音域を広げるには使える倍音を広げればよいので、リップスラーを使って倍音を探して音域を広げたほうがスケールを使った時よりも唇と音との感触がつかみやすく効率的に音域を拡張できます。
四つ目は楽器のツボをうまくつかめるということです。これは楽器や個人の癖をなくすことにもつながります。
リップスラーの練習を行う際に均一に音が鳴るよう注意することで、鳴りムラを矯正することができますし、楽器のツボを利用して吹く感触もつかめるようになります。
この他にもリップスラーを練習するメリットは本当にたくさんありますので、是非皆さんリップスラーをよく練習してうまくいくようになった点を見つけてみてください。
効果的な練習法
リップスラーの練習に関しては一つ大きなポイントがあります。速いリップスラーは多くの人が練習していますが、私はロングトーンを絡めた遅いリップスラーもおすすめします。
具体的なやり方は、四度や五度といった広めの幅のリップスラーを高音域から低音域までゆっくり行うというものです。
例えば、ドからファに行ってまた元のドに戻ってくる「ド~ファ~ド」というリップスラーを一つの音につき2拍か4拍ずつ伸ばして行うというものです。後は、シ~ミ~シ、ラ~レ~ラ、などというように、半音ずつ管を長くして音をずらしていけばOKです。ポイントはゆっくり丁寧に行うということと、ピッチではなく響きが均等になるよう注意することです。
倍音は純正律でできているので音によってはピッチが平均律とズレてしまいます。ですので、音程ではなく響きの質を一つの基準にして練習すると良いです。
この練習法はかなり時間がかかりますが、やれば確実に上手になるので騙されたと思って二週間ほど続けてみてください、演奏に関する悩みの多くが改善されるはずです。
また、スケールでロングトーンを行うよりも楽しいので一日の基礎練習の多くを賄える練習方法でもあります。
まとめ
ここまでをまとめてみましょう。・リップスラーは難しいけどホルンがうまくなる近道
・ホルンのリップスラーはマウスピースの構造上難しい
・リップスラーが出来ないと曲でパッセージを吹けない
・リップスラーを練習するとたくさんのメリットがある
・速いリップスラーだけでなく遅いリップスラーも練習
いかがでしたか、リップスラーは精神的にも身体的にも負荷の高い技法ですが、この技法を極めることが演奏の上達に直結するので、めげずに頑張りましょう!