ショパン「ピアノ・ソナタ」難易度順!ソナタは古典派だけの作品ではない!
ピアノ・ソナタと聞くとどの作曲家の作品を思い浮かべますか?

多くの作曲家がピアノ・ソナタを書いていますが、ソナタと言われてまずイメージするのはベートーヴェンやモーツァルト、ハイドンなどの古典派の作曲家ではないかと思います。

ロマン派以降の作曲家もソナタを書いているにも関わらず、なぜそのように思うのでしょうか。

それは古典派の作曲家たちがソナタを多く書いているからだと思います。

ソナタが多く書かれるようになるきっかけを作ったのはハイドンです。彼が交響曲や弦楽四重奏曲というジャンルでソナタというものを確立し、ソナタ形式を定着させました。

つまり、古典派の代表的な形式がソナタ形式であり、古典派の代表的な作品がソナタということになります。そのため他の時代の作曲家よりも古典派の作曲家たちはソナタを多く作曲しています。
(※ソナタやソナタ形式がどのようなものなのかについてはソナチネの記事で書いています。)

そのような理由から多くの人はソナタと聞くと古典派の作曲家の作品をイメージするのだと思います。

しかし、ロマン派の時代になると全く書かれなくなったかと言うとそういうわけではありません。作品数は減りましたが書かれなくなったわけではありません。
(※古典派とロマン派以降の作曲家がどのくらいソナタを書いているのかという作品数の比較についてはベートーヴェンのソナタの記事で書いています。)

今回はロマン派以降の作曲家がどうしてソナタをあまり書かなくなったのかということに触れながら、ショパンのソナタについて書いていきたいと思います。

■ 目次

ロマン派以降の作曲家がなぜソナタを多く書かなくなったのか

ロマン派以降の作曲家がなぜソナタを多く書かなくなったのか
時代によって好まれる曲や作風というものがありますが、それは世の中の動きも大きく影響していると思います。

●バロック(1600年~1750年)
絶対主義時代。宮廷や教会が音楽の中心。特徴的な技法は通奏低音。

●古典派(1750年~1800年代初頭)
啓蒙思想という考えが広がっていき封建制度が崩壊、市民階級が台頭。音楽の中心が宮廷や教会から市民階級へ移行する過渡期。形式を重んじたことからソナタが多く書かれるようになる。ソナタ形式の確立。

●ロマン派(1800年代初頭以降)
音楽の中心が王侯貴族や教会から市民階級へ。古典派の形式を重んじる考えから自由になり、個人的な感情や内面の表現を追求する。形式に縛られない性格的小品が多く書かれるようになる。

ロマン派時代に入るとすぐに形式から解放されたわけではなく、シューベルトなどの初期ロマン派の作曲家は音楽の内容的にはロマン派的要素を持ちながら形式や和声などは古典派というどちらの要素も持っていました。

その後ショパンやシューマンなどの中期ロマン派では形式や和声も自由になっていきました。この頃コンサートやサロンも日常化されるようになり、自分の音楽を発表する場が多くなります。

前の時代の反発もありロマン派では自由主義、感情を重視するようになったと音楽史の本には書いてあります。もちろんそうだと思いますが、宮廷などに属さず自立した音楽家として成功するためには他の作曲家とは違うオリジナリティーを示す必要もあったのではないかと私は思います。

古典派では形式を重んじていたのでソナタが多く作曲されましたが、ロマン派では自由と感情を表現することを重視したので、縛りの多いソナタはふさわしくありませんでした。

しかし全く書かれなくなったというわけではなく、古典派のソナタよりも自由度の高いソナタというものが作曲されるようになりました。

絶対にソナタを書かなくてはいけないというルールはないにも関わらず、それでも自由度の低いソナタをあえて書いたのは完成されたソナタという枠組みをどこまで自分らしく崩せるかという挑戦だったのかもしれませんね。

ショパンのピアノ・ソナタとは?

ショパンのピアノ・ソナタ
ショパンはピアノ・ソナタを3曲書いています。この3曲はどれも短調+4楽章で書かれています。

ピアノ・ソナタ第1番Op.4ハ短調
ピアノ・ソナタ第2番Op.35変ロ短調
ピアノ・ソナタ第3番Op.58ロ短調

作品番号にかなりの開きがありますね。この3曲はどのような時期に書かれた作品なのか見ていきましょう。

●「ピアノ・ソナタ第1番Op.4ハ短調」

第1番は1828年(18歳)に書かれた作品でショパンはワルシャワ音楽院に在学中でした。この作品は先生であるヨゼフ・エルスナーから指導を受けて書いた作品です。

この作品は習作と見なされており、演奏会で弾かれたりCDに収録されたりすることがほぼありません。

●「ピアノ・ソナタ第2番Op.35変ロ短調」(葬送)

第2番は1839年(29歳)に書かれた作品です。リストの紹介でジョルジュ・サンドと出会い、1838年から交際していたようなので、彼女と交際し始めて1年程の頃に書かれた作品ということになります。

同じ時期に書かれている作品は「バラード第2番」や「スケルツォ第3番」などがあります。体調が悪化することもあったようですが、充実した創作期間を過ごしていました。

第3楽章の葬送行進曲は特に有名ですよね。この第3楽章だけは1837年にすでに作曲されていました。

●「ピアノ・ソナタ第3番Op.58ロ短調」

第3番は1844年(34歳)に書かれた作品です。翌年の1845年頃からサンドとの関係が良くない方向へ進み始め1847年には関係を解消します。その少し前に書かれた作品がピアノ・ソナタ第3番です。

第2番、3番はいずれも円熟期に書かれた作品でどちらも傑作と言われていますが、第3番はショパンの規模の大きな作品の中でも最高傑作と評されることがあります。

難易度はどれくらいか

難易度はどれくらいか
ショパンのソナタは4楽章であるということもあり規模が大きく、1つの楽章で1曲が成り立ってしまうような部分があるため全曲を弾き切るには気力と体力がいります。

ショパンのソナタはテクニック的にも表現の面でも難しく、難易度はもちろん上級です。上級とは言っても上級のレベルになったらすぐに弾けるというものではありません。

特に第2番と第3番は円熟期に書かれた傑作でショパンの音楽の全てが詰まっているわけですから、彼の作品にはどんな特徴があるのかということを学んでいく必要があると思います。

そのためにはまずショパンの中で弾きやすいものから順に弾いていき、彼に対しての理解を深めてから挑戦するようにした方が良いでしょう。

ショパンの作品の中で最も弾きやすいのはワルツです。その次にノクターンなどを弾き、指がよく動くようになったらアンプロンプチュ、スケルツォ、バラード、ポロネーズなど上級の有名曲などを弾き、それからソナタに挑戦されるとあまり無理することなく進めるのではないかと思います。

ショパンのソナタはモーツァルトやベートーヴェンのソナタが弾けるようになったから弾いてみようと挑戦する作品ではありません。ショパンについて理解を深め、テクニック的にも表現の面でも無理なく弾けるようになったところで挑戦する作品ではないかと私は思います。

難易度順

3曲の難易度順について書いていきますね。
難易度順は順番通りの第1番→第2番→第3番です。

ピアノ・ソナタ第1番Op.4ハ短調

第1楽章 Allegro maestoso

ソナタ形式。
半音階が多く用いられており、転調することで雰囲気がころころと変わるところが魅力です。

第2楽章 Minuetto:Allegretto
(7:32から再生されます)

3部形式。
リズミカルでおもしろいですね。このソナタの中で私はこの2楽章が好きです。

第3楽章 Larghetto
(12:03から再生されます)

4分の5拍子という珍しい拍子で書かれています。2楽章がリズミカルだったのとは対照的に3楽章は落ち着いた曲調で書かれています。

第4楽章 Finale:Presto
(16:03から再生されます)

ロンド形式。
有名になっている曲や円熟期に書かれたショパンの作品などから比べれば、やや華やかさにかけるかもしれませんが、このソナタのフィナーレにはふさわしい華やかさで力強い曲だと感じます。

これを18歳で作曲してしまうとは…

この第1番の中で難易度順をつけるとしたら易しい方から3楽章→2楽章→1楽章→4楽章でしょうか。


私のおすすめの楽譜はコルトー版です。第1番は遺作集の中に入っています。



コルトー版は細かく解説や練習方法などが書いてあるのでどのように弾いたら良いのかがわかってありがたいですね。

パデレフスキー版もよく使われている楽譜です。



この版は第1番から第3番まで入っています。3つのソナタを弾いてみたい方はこのような全て入っている全集の方がいいのかもしれませんね。

ピアノ・ソナタ第2番Op.35変ロ短調(葬送)

先ほど書いたように3楽章が他の楽章よりも前に書かれています。どの楽章も独立した曲のように感じられます。

第1楽章 Grave:Doppio movimento

ソナタ形式。
序奏から激しさのある第1主題と穏やかな第2主題の対比が素敵です。第2主題はただ穏やかなだけでなく、少しずつ激しさを帯びていき、展開部に向かいます。

第2楽章 Scherzo
(5:28から再生されます)

3部形式。
中間部では穏やかさもありますが、全体的にはかなり激しさのあるスケルツォです。その激しさをどう表現するかが重要です。

第3楽章 Marche Funebre
(11:35から再生されます)

葬送行進曲。3部形式。
重い足どりで葬送行進しているのを連想させますし、曲の解説にはそのように書かれていますが、私はとてつもない恐ろしいものがゆっくりと徐々に自分に忍び寄ってくるような恐怖を感じます。この絶望的な部分とそれとは全く違う優しさに包まれるような部分という対比が絶妙ですね。

弾くのはそれほど難しくはありませんが、気持ちを作ったり、どんな音色がふさわしいのかを探ったりするのが難しいです。

第4楽章 Finale:Presto
(19:09から再生されます)

練習曲のように常にユニゾンで動き回ります。調も形式もあいまいな曲です。3楽章の重々しさをなかったことにするかのように目まぐるしく動きます。軽さはあるものの、終始不気味さが漂っています。

この第2番の難易度順をつけるとしたら易しい方から3楽章→2楽章→1楽章→4楽章でしょうか。


楽譜については、コルトー版では第1番から第3番までが別々の楽譜として出ています。第2番のように番号では書かれていないので作品番号をよく確認してから楽譜を購入して下さいね。第2番はOp.35です。



ピアノ・ソナタ第3番Op.58ロ短調

第1楽章 Allegro maestoso

ソナタ形式。
初めに出てくる第1主題は何度も繰り返され、どんどん転調していきます。この部分がかっこいいですよね。私はこの出だしが大好きです。

ショパン「ピアノ・ソナタ第3番Op.58ロ短調」楽譜
第2楽章 Scherzo:Molto vivace

3部形式。
とても軽やかで軽快なスケルツォです。1楽章とのバランスを取るかのように軽やかです。

第3楽章 Largo

3部形式。
最初は力強く始まるものの、その後は終止穏やかであまり動きがありません。しかしこの楽章があることによって最終楽章が映えますよね。この楽章は譜面上難しくはありませんが、素敵に聴かせるのは難しいと思います。

第4楽章 Finale:Presto non tanto
ロンド形式。
フィナーレにふさわしい力強さのある楽章です。激しい部分もありながら、きらびやかに音が駆け下りる部分もあり、情熱的で技巧的でとにかく華やかです。

第2番は各楽章が独立した1曲のようでしたが、第3番はバランスがよくまとまりのあるソナタと感じられると思います。

この第3番の難易順をつけるとしたら易しい方から3楽章→2楽章→1楽章→4楽章でしょうか。

コルトー版の楽譜はこちらです。第3番の作品番号はOp.58です。




ショパンのソナタについて書いてきましたが、いかがだったでしょうか?

第2番、第3番は大曲なのでなかなか気軽に挑戦できる曲ではないかもしれませんが、時間をかけて少しずつ読み込んでいってみて下さいね。

まとめ

◆ショパンはピアノ・ソナタを3曲書いている
◆第1番は18歳の時に書いた作品で弾かれることはほとんどない
◆ロマン派以降、ソナタがあまり書かれなくなったのは形式よりも自由や感情表現を重視したから
◆ショパンのピアノ・ソナタの難易度は上級
◆第2番、第3番とも傑作と言われている




「ピアノ・ソナタ」の無料楽譜
  • IMSLP
    第1番Op.4(楽譜リンク)第2番Op.35(楽譜リンク)第3番Op.58(楽譜リンク)いずれも1878年から1880年にかけてブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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