モーツァルトのピアノソナタを弾いたことがありますか?ソナチネアルバムソナタアルバムに数曲入っているので弾いたことがある方も多いかもしれませんね。

モーツァルトのピアノソナタで最も有名なのはトルコ行進曲つき(K.331)ですよね。

トルコ行進曲があまりにも有名になってしまって、この部分だけ弾かれることもあるので、ソナタの1部だと知らない方も多いかもしれませんね。

実はこの曲の第1楽章はバリエーションになっていて、ソナタの基本的な形から外れている曲でもあります。

以前にモーツァルトについてソナタ、ソナタ形式については書きましたので、今回は「当時の鍵盤楽器」や「装飾音符」、「ピアノソナタの難易度順」について書いていきたいと思います。

■ 目次

モーツァルトの時代の鍵盤楽器


モーツァルトの時代にはピアノはすでに発明されていましたが、ピアノが主流だったわけではありません。

古典派時代よりも前の時代の鍵盤楽器の主流はチェンバロやクラヴィコードでした。その後だんだんピアノフォルテに変わっていきます。

このことはモーツァルトの作品を弾く上で重要だと私は思います。

モーツァルトがどのような楽器を使って作曲したのかなどについて知っておくと、彼がどのように弾いて欲しかったのかを理解する手助けになると思うからです。

モーツァルトが活躍した古典派の時代になると楽器はだんだんピアノフォルテが主流となりました。

それまでの楽器とピアノフォルテの決定的に違う点は「強弱がつけられること」です。もっと細かく言えば、鍵盤を弾く力加減(タッチ)によって音色を変えることができるので、出す音自体で表現をすることが可能になったということです。

タッチを変えることができるようになると表現の幅が広がります。しかし、この時代の楽器は現在のピアノとは違っていて鍵盤は軽く、音の持続も現在よりも短かったようで、現在のピアノの音というよりはチェンバロの音に近かったようです。

つまりピアノとは言っても現在のピアノと同じと思ってはいけないのです。

ピアノフォルテが主流になる前は音自体で表現するというのは難しかったため、フレージングやアーティキュレーションをとても大事にしていました。そして装飾したり変奏したりして変化をつけていました。

当時の楽器がどのようなものだったのかについて書いてある本も最近はよく見かけます。



バロックやモーツァルトくらいまでの古典派の時代はこのような楽器の問題があるため、当時の弾き方を現在のピアノで再現する弾き方や現在のピアノで弾くのですからピアノらしく弾こうとする弾き方など様々な解釈があります。

装飾音符について

装飾音符の種類には「前打音」「トリル」「ターン」「アルペジオ」があります。

楽譜上に出て来る装飾音符はバロック時代が最も多く、古典派、ロマン派と時代が進むごとに少なくなっていると思います。

これには当時どのような音楽が流行っていたのかということと楽器が関係しているのではないかと思います。

バロック時代に主流だったチェンバロという楽器は弦をはじいて音を出す撥弦(はつげん)楽器で、ペダルがありませんでした。

ペダルがないということは音をのばすことができないということですね。そしてこのチェンバロという楽器は構造上、強弱をつけることができませんでした。

ピアノなら音をペダルでのばしておくことができるところがチェンバロではそれができません。しかし音は欲しいとなると、どうにかして間を埋めるしかありません。

そうなると新たにどんどん音を入れ込んでいくか、音を装飾して派手にしていくしか方法がありません。

この時代の演奏者はいろんな装飾方法を身につけており、即興で装飾したり、変奏したりして演奏していたようです。それが当たり前だったそうです。

ジャズの即興とは違いますが、現在のように楽譜に忠実に弾いていたわけではなく、自分なりのアレンジを加えていたということですね。

時代が進みピアノフォルテが主流になると、それまでよりもできることが増えたためなのか、それとも装飾することに飽きてしまったのか、装飾音符ではなく実音で楽譜に書かれることが多くなり、演奏も装飾や変奏を即興で加えることをだんだんしなくなりました。

モーツァルトはこのようなことのちょうど過渡期にあたる作曲家です。そのためバロック時代のバッハよりは装飾音符は少ないですが、まだまだたくさんの装飾音符があるのです。

装飾音符の入れ方というのは本当に様々でいろんな弾き方があります。

時代によっても弾き方が違ってきますので、当時どのように弾いていたのかを理解しておくことも大切です。

その時代に出版されていた教則本からどのように考えられていたのかということがわかっています。

そのような教則本から推察されて現在の多くの楽譜には装飾音符の入れ方などに注釈がつけられています。勝手に弾くのではなく、どのように弾くのかちゃんと確認してから弾くようにしましょうね。

具体的にどういうことかというと…

例えば前打音はどこの音を左手と合わせるのか、前打音を先に弾いてから合わせるのか、それとも前打音で合わせるのか。トリルは書いてある音から入れるのか、書いてある上の音から弾くのかなどです。

前打音は現在では前に出して弾くことが多いのですが、モーツァルトの時代は前打音と合わせて弾いていました。

モーツァルト「ピアノソナタの装飾音符」ピアノ楽譜1
他にも下のような装飾音符の場合は注意が必要です。

モーツァルト「ピアノソナタの装飾音符」ピアノ楽譜2
これを演奏するときは下のように弾きます。

モーツァルト「ピアノソナタの装飾音符」ピアノ楽譜3
古典派以降はこのような書き方はしません。16分音符で最初から楽譜に書いておけばいいのに…と思いませんか?

なぜわざわざ装飾音符として書いたのでしょう?

モーツァルトの父レオポルトが書いた「ヴァイオリン奏法」の中で「装飾音符として書いておいたらそれ以上に装飾して弾く演奏者はいない。」という内容のことが書いてあるそうです。

先ほども書きましたが、当時は演奏者が好きに装飾してもいいことになっていました。それなのにあえて装飾音符を書くということはそこだけは自由に弾かずに楽譜の指示に従って欲しいと思っていたということなのでしょう。

楽譜はどれを使えばいいのか



私はヘンレ版で学びました。



ウィーン原典版も人気な版です。

私の場合、ツェルニーなどの練習曲は全音版を使うことが多いですが、曲に関しては基本的にまずはヘンレ版などの原典版を買うことが多いです。

2冊目には先生からおすすめされた版や自分で楽譜を実際に見て良さそうだなと感じた解釈版を買うことが多いですね。比較をすることで見えてくるものがあるんですよ。

でもこれをすると楽譜代がとてもかかるし、楽譜が大量になる…。

私の母もピアノの先生なので母が持っている楽譜が私と異なる場合は買わずに済むということもあります。しかし楽譜も改訂されてどんどんリニューアルされて良くなっていくので同じ版の楽譜でも新たに買いなおすということはあります。長年使っているとボロボロになることもありますしね…。

楽譜の比較バッハの「シンフォニア」の記事でも書きましたが、モーツァルトの頃もまだピアノが完全に主流だったわけではありません。

ベートーヴェン以降の作曲家はピアノで弾くことを想定し、ピアノで作曲をしていますのでどの版でもそれほど大きな差は出ないと思います。しかしピアノが主流だったわけではない時代(特にバッハ)の作品に関してはどの版を使うかによってかなり差がでます。

どちらが良くてどちらかが悪いということではありません。

作曲家が何を書いて、何を書かなかったのかを理解しておいた方がいいのではないかと私は思いますので解釈版ではなく、まずは原典版を買うことをおすすめします。

モーツァルトのピアノソナタ難易度順

ピアノソナタは作品によっては第4楽章まであるものもありますが、モーツァルトのピアノソナタは全て3楽章で書かれています。

ベートーヴェンはピアノソナタをとても重要な作品と考えており、大曲を多く書きましたが、モーツァルトの場合、ピアノソナタをあまり重要な作品と捉えておらず、愛好家に向けて書いた曲がほとんどです。

モーツァルトのソナタはきちんと弾こうと思うとベートーヴェンとは違った難しさがありますが、そのような理由からベートーヴェンよりも譜面自体は簡単です。

モーツァルトのピアノソナタは長調がとても多く、短調がとても少ないです。彼は18曲のソナタを書きましたが、短調なのは第9番(K.310)イ短調と第14番(K.457)ハ短調の2曲だけです。

これはモーツァルトの性格によるものなのか、ピアノソナタというジャンルを作品としてあまり重要視していなかったからなのかよくわかりませんが、とにかく短調が少ないのです。

それでは難易度順を見ていきましょう。

※版によって番号はいろいろなので、今回はヘンレ版の番号とケッヘル番号(K.)を使って書くことにします。(Kはドイツ語圏内ではKVと表記されます。)

 第16番(K.545)ハ長調
→第12番(K.332)ヘ長調
→第5番(K.283)ト長調
→第8番(K.311)ニ長調
第6番(K.284)ニ長調
第10番(K.330)ハ長調
第18番(K.576)ニ長調
第9番(K.310)イ短調
第11番(K.331)イ長調「トルコ行進曲付き」
第14番(K.457)ハ短調

このような順番で弾いてみてはいかかでしょうか。弾かれる機会が多い曲をメインにして易しい順に難易度をつけました。赤字は有名な曲です。

これだけ弾けばもう充分だと思いますが、残りの第1番(K.279)ハ長調、第2番(K.280)ヘ長調、第3番(K.281)変ロ長調、第4番(K.282)変ホ長調、第7番(K.309)ハ長調、第13番(K.333)変ロ長調、第15番(K.533)ヘ長調、第17番(K.570)変ロ長調、は先ほど書いた難易度順の第8番(K.311)から第9番(K.310)の間に入るくらいの難易度です。

お好きな曲があれば選んで弾いてみて下さい。

ソナチネアルバムソナタアルバムの記事でも書きましたが、全楽章弾かなくても第1楽章だけや第3楽章だけでも大丈夫です。

ソナチネアルバムやソナタアルバムに入っている曲をまずは弾いてみるというのもいいと思います。

モーツァルトのピアノソナタ18曲に共通して言えることは粒をそろえて弾くということです。

粒をそろえるためにはリズム練習が欠かせませんが、1音1音しっかり弾くのではなく、なめらかに弾けるようにしなくてはいけません。

ただ粒がそろっていればいいわけではなく、機械的ではいけないし、表現をつけ過ぎてもあまり素敵とはいえません。

なかなか難しいですね…。考えすぎてもいけないし、考えなしに弾いてもいけない…。簡単に弾けそうで弾けないのがモーツァルト作品です。

まとめ

◆古典派の時代になると楽器はだんだんピアノフォルテが主流となる
◆当時の演奏者は即興で装飾したり、変奏したりして演奏していた
◆装飾音符の入れ方はたくさんの方法があり、時代によって変わる
◆モーツァルトのピアノソナタは愛好家に向けて書かれたものがほとんど
◆モーツァルトのピアノソナタは全て3楽章
◆短調の曲は18曲中2曲だけ
◆とにかく粒をそろえる




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