皆さんの好きな曲は何ですか?
私は、シューマンの飛翔や、ベートーヴェンの月光の第三楽章。ほかにはギロックの作曲した曲など、わかりやすく華やかで、面白みのある曲が好きです。

では、苦手な曲はありますか?
私は特にありません!――と言いたいところですが、実は、静かな曲が苦手です。
だって、思い切り鍵盤を叩けないし、弾いていて眠くなってしまうんですもの!

ですが、2018年も明けて久しく、4月も過ぎて新年度。新しいことに挑戦するには良い時期のはず。

みなさまの中にも、私と似たような理由で静かな曲がニガテな方がいらっしゃると信じて、今回は、そのニガテを少しでも取り除けるよう、ベートーヴェンの「月光」を題材にして、弾き方を考えていきたいと思います


■ 目次

難易度はどのくらい?


全音のピアノピースでは、「E(上級者)」向けと紹介されています(第三楽章までを含む)。

個人的には、第1楽章を弾くにあたって
・右手、左手ともにオクターブが届くこと
・ソナチネを何曲か弾いたことがある
上記2点がクリアできていれば、(個人差はありますが)弾ききることができると思います。

ですが、この曲の難しいところは、楽譜通りに弾けた後にやってきます。
私が抱いていた、3つのニガテに沿って、次の項目からお話していきますね。

理由その1!メロディラインが歌いにくい

ニガテポイントその1は、ずばりメロディラインの歌いにくさにあります。
たとえば、バイエルの最初の方にやった曲などでしたら、右手がメロディライン、左手が伴奏、とわかりやすく分かれていたことと思います。

ですがこの曲は、なんと右手がメロディラインと伴奏、2つの要素を担っています。それに加えて、左手も伴奏――もといベースラインを担当しています。

つまり、右手が「メロディは歌いつつも、伴奏の音はあまり目立たせてはいけない」という高度な技を強いられます。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第1楽章」ピアノ楽譜1 (動画 0:34~)

それでは、メロディラインは一体どこかと申しますと、5小節目の4拍目から、右手に「ソ♯ーソ♯(6小節目)ソ♯ー」という音が入っていますよね。この音符は右手の「ソ♯ド♯ミ♯」の音符が、下から書かれているのに対して、上から書かれています。

これがこの曲のメロディライン(中間部など、一部違うところがあります)。
「ソ♯ド♯ミソ♯ド♯ミ」は、伴奏です。

恥ずかしながら、習っていた当時は、メロディラインと伴奏の違いがよくわからず、「指使いのややこしい、弾きにくくてつまらない曲」と思っていたのですよね。
なんてもったいない・・・。

指使いはややこしく、楽譜の通りに弾くだけでも一苦労ではありますが、せっかくなので、これを機に右手による伴奏+メロディラインの形をマスターするくらいの気持ちで挑戦していきましょう。

全体の音がつかめてきたら、一度指使いに沿って、メロディラインだけを弾いてみるのもオススメです。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第1楽章」ピアノ楽譜2 (動画 0:16~)

ちなみに、はじめの4小節は、前奏です。メインメロディを歌いだすまでに、「こう弾きたい!」という想像を、しっかりと固めておきましょう♪

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第1楽章」ピアノ楽譜3 (動画 0:31~)

5小節目の左手の音「ド♯」は、前奏の終わりの音でもあり、そして次のフレーズのはじまりの音でもあります。
さあ、いよいよメロディラインの出番です。うっとりするくらい歌ってください♪

理由その2!臨時記号が多くて大変

個人的なニガテポイントその2は、ずばり臨時記号が多いこと、です。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第1楽章」ピアノ楽譜4 (動画 2:29~)

とくに、33小節目から先なんかは、とても苦労しました。
白鍵、黒鍵、入り混じっての上昇・・・。臨時記号には気を付けて、お手本の演奏なども参考にしながら、間違いのないように弾いてみてください。

理由その3!ずーっとpp


個人的なニガテポイントその3は、強弱記号が、基本的にずっとpp(ピアニッシモ)であることです。

はじめにあげた、私の好きな曲(飛翔や、月光の第三楽章)をご存知の方なら、なんとなくわかるかもしれませんが、私、「わかりやすく華やかで、派手な曲」が好きです。

ですが、そろそろ静かな曲や、ゆっくりした曲の魅力も、わかってくる年齢のはず・・・!
子供のころは苦手だった、ワサビやカラシも、今では好んでつけるほどですもの。
きっと昔はわからなかった魅力に気づくはず。きっとそう、そのはず。わかるわ、だって大人だもの。

ピアニッシモは、ある意味でフォルテで鍵盤を叩くよりも、ずっと神経と集中力を使います。

ですが、「弱く」「音をおさえて」弾かなければ。と思ってしまうと、体が固まってしまって、かえって音がキツくなってしまったり、思いもよらないところで大きな音がでてしまいかねません。

リラックス、リラックス。
フォルテが続く曲を弾く時よりも、うんと省エネな体力で弾けると思うと、なんだか得した気分になるかも♪

私と同じように、小さい音が苦手という方、一度「省エネ=お得!」と思ってみてください。思ったより楽に体が動くようになりますよ、きっと・・・!

ヴァイオリンやコントラバス、弦楽器で想像してみる


さて、今回この曲にチャレンジするにあたって、私はメロディラインと、ベースの音を、それぞれヴァイオリンと、コントラバスで演奏していると思って弾いてみることにしました。

なぜそんなことをしたかというと、
ピアノの音は、弾いた瞬間から衰退していくため、メロディラインやベースラインの、いわゆる「横の動き」が、プツプツ途切れて感じられてしまったからです。

「ピアノは打楽器」と言い切ってしまうと語弊がありますが、ピアノの音は、弾いた瞬間から、衰退に向かっています。一方で、弦楽器は弾いている間、ずっと音を持続させることができます。

もし、私と同じように「音が途切れて感じてしまって、歌いにくい」という方がいらしたら、一度弦楽器で演奏したところを想像してみてください♪

「月光」は、ベートーヴェンがつけたタイトルではない!?


それでは最後に、この曲にまつわる小ネタをちょこっとお話しいたします。

月光の曲、として有名なこの曲ですが、実は「月光」というタイトルは、ベートーヴェン自身がつけたものではありません。ベートーヴェン自身が付けたタイトルは、「幻想曲風ソナタ」。

では何故、「月光」というタイトルで親しまれるようになったのかというと、詩人であり音楽評論家のレルシュタープという人が、第一楽章のことを「スイスのルツェルン湖の月光の波にゆらぐ小舟のよう」と評したことから、この名前が広がったのだとか。

私などは、わかりやすい「月光」というタイトルがあることで、曲のイメージがしやすくなったと思うのですが、皆さんはどう思いますか?

まとめ

1. 難易度はE(上級)オクターブ必須。ソナチネ経験があった方が好ましい
2. 右手はメロディラインと伴奏の2つを担当。メロディラインを明確に歌って。
3. 臨時記号に惑わされずに。
4. 弱く弾くのではなく、余裕をもって弾いてみて。
5. 違う楽器で奏でたところを想像してみる。
6. 「月光」という名前は、ベートーヴェンが付けたものではない。

今回は、私の抱える「ニガテ」に沿って弾き方を考えてきましたが、きっと、皆様それぞれ抱えていらっしゃる「ニガテ」は違うはず。

小さい音が苦手。大きい音を出すのが苦手。楽譜を読むのが苦手。人前で弾くのが苦手・・・。
ですが、小さい音が苦手でしたら、大きい音を練習すれば、バッチリ色んな曲が弾けるようになりますし、逆も然りです。

楽譜を読むのが苦手でしたら、音をきいて覚える方法があります。
人前で弾くのが苦手でしたら、たとえば動画などから、人に見てもらうことを始める・・・。なんてこともできるかもしれません。

せっかく持っている皆様のいいところ、「ニガテ」でつぶしてしまわないでください。

私の弾き方、考え方が、何か皆様のニガテを乗り越えるキッカケの1つになれば幸いです。



「月光」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1862年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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