ショパンのワルツ集の後半部に収められている『ワルツ第15番ホ長調遺作』、正直それほど有名な作品というわけではないかもしれませんが、個人的には「これは隠れた名曲だ!」と感じております。

ところでショパンのワルツといえば、『華麗なる大円舞曲(第1番)』や『子犬のワルツ(第6番)』などが有名ですよね。曲集の中では、前半部に収められている曲がわりとよく演奏されているように思います。

ですが、この『ワルツ第15番』というのも、実は上記にあるような有名な作品に匹敵するほどの魅力があるのです。

さらに、それほど難易度は高くないにもかかわらず、思いのほか弾き応えがあって華やかなところもあるので、最初はとっつきやすく、弾けば弾くほど充実感を得られる曲であるとも言えます。

特に「ショパンのワルツはまだ始めたばかりで、何を練習したら良いかわからない」、「華やかで感傷的な雰囲気の曲を弾けるようになりたい」と思っておられる方は必見です。


こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。

だんだんと暖かくなってきましたね。春の足音が近づいているような気がします。
皆様は春になったら何をしたいですか?

私は冬眠中の畑のお友達に早く会いたいです。そして巣穴の中でホームパーティーを開く計画を密かに立てている最中なのです。

ワルツデビューしよう!難易度は低めでとっつきやすい


さて、本題に入りますね。

この曲は冒頭でも触れましたが、難易度はそれほど高くないけれど意外と弾き応えがあります。そのため、ショパンのワルツ集をまだ弾き始めたばかり、あるいはこれから練習したいという方にはぴったりな作品と言えます。

具体的な難易度の指標ですが、ツェルニー30番を練習中であるという方であれば無理なく弾けるといった感じです。またこの曲は、譜面の表記という面においてもわりとシンプルなので、譜読みもしやすいかと思います。

とにかくモチベーションの面で最初の一歩が踏み出しやすい曲と言えますので、これを機にぜひ挑戦してみましょう。

ほとんどが繰り返し!構成をしっかり理解すれば怖くない

 
まずは、以下の動画を聴いてみてください。


この記事では以下のように、一曲を小さく区切って、セクションごとにご説明していきます。

セクションA1(最初~0:25)
セクションB(0:26~0:40)
セクションA2(0:40~0:55)
セクションC(0:55~1:11)
セクションA1′(1:11~1:30)
セクションB′(1:30~1:44)
セクションA2′(1:44~終わり)

※カッコ内の時間は上の動画に沿ったものです。動画をよく視聴して、ピアノに向かう前に全体的な雰囲気や構成を理解しておくと、よりスムーズに練習ができるかと思います。


この曲は動画を聴くとおわかりになるかと思いますが、とにかく繰り返しが多いという構成になっています。つまり、案外マスターすべきことはそれほど多くはないということです。そう考えてみると、練習時の心の重荷も幾分減るような気がします。

また、繰り返しが多いという特徴があるので、「ここはさっき出てきた旋律と同じ!」というような発見を、ピアノに向かう前の段階で予め読み取ることができればベストだと言えます。

ただ、もちろん弾いてみなければわからない発見もたくさんありますので、そのあたりはあくまで気楽に捉える程度で大丈夫です。一番大事なのは、とにかく鍵盤に触れてその曲を楽しむことです。

それでは、さっそく練習に入っていきましょう!

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションA1 ~音をしっかり揃える~

このセクションA1は後々も繰り返し出てきます。最初にしっかりと練習して自分のものにしていきましょう。このセクションをマスターできれば、曲の半分はほぼ弾けたようなものと言っても過言ではないと私は思います。

※『Tempo di Valse.』の意味は『ワルツに適した速さで』

冒頭からさっそく印象的な旋律が出てきます。そしてその後に全体の顔となるようなフレーズへとつながります。

この箇所の右手と左手は、音の高さは違いますが同じ音を鳴らします。そのため、ここに関しては、一見とても簡単そうな印象を持たれるという方もおられるかもしれません。

しかしこの箇所は、ちょっと気を抜いてしまうと、ついつい両手の音が不揃いになってしまいます。
そのため、なるべく最初のうちは「ちょっと遅すぎるな」と感じるくらいのテンポで、とにかく両手の音を揃えることに焦点を当てて練習をしていきましょう。

また、この箇所は弾いていると何だか三拍子であることを忘れてしまうような部分でもあります。
そのため、まず曲に入る前にしっかりと三拍子の感覚を踏まえた上で弾いていきましょう。

拍子の感覚が無いままこの箇所を弾き始めてしまうと、何だかこの箇所だけ曲に溶け込めていないかのような何とも言えない違和感が生じてしまうのです。

これはこの曲全体にも言えることですが、旋律を違和感なく自然な感じに進めていくためには、常に三拍子の感覚を自分の中で刻んでいくことが重要です。


この右手は、棒が上を向いている音が主旋律だと捉えて、その間にある棒が下向きになった和音はなるべく音量を控えめに弾くことが大事です。(0:08~)
そして左手についても同じことが言えます、

同じ片手でも、主役になる音と脇役になる音というのがそれぞれあります。
そのため、譜読みの段階でどの音を引き立たせるべきなのかをしっかり把握しておくと、その後の練習もスムーズに進めることができるかと思います。


この箇所の右手は、音の響きをよく聴き、和音を構成する音一つ一つがしっかり鳴るように気をつけましょう。(0:10~)

そして左手は、一拍目にアクセントを入れることが重要ですが、だからといってアクセントがあまりにも大げさにならないように注意しましょう。

また、左手の部分には二分音符と四分音符が隣り合っているような表記がありますが、これは音を二つ鳴らすという意味ではなく、単純に考えると「ミ」の一音を二拍分伸ばしつつ他の和音を鳴らすという意味の表記です。

では、なぜ『二分音符&四分音符』というような紛らわしい表記なのかと言いますと、あくまで個人的な解釈ですが、おそらく本来別々のところで活躍するはずだった同じ音が、たまたま同じタイミングで出てくる必要があったため、このような表記になったのではないかと私は考えております。

具体的に音符を見ていくと、二分音符は主役の音(実際に音を鳴らし、二拍分伸ばす役割の音)で、四分音符は脇役の音(あくまで譜面の表記上において、小節上の一拍目を意味するだけの音)を意味しているように感じられます。

したがって上記の通り、ここでは実際に鳴らすべき音が二分音符であるということなので二分音符はそのまま鳴らし、譜面上の表記としての四分音符は鳴らさないということなのです。


この箇所の右手の和音を見ると、やはり主役になる音と脇役になる音が顕著に組み込まれているように思います。(0:16~)

ここでは「ラ」の音が脇役となり、上に位置する音符が上昇していくのを引き立てています。徐々に変化していく響きを楽しみましょう。

☆セクションB ~あまり難しく考えない~

セクションBでは、今までの雰囲気とは打って変わって感傷的な印象になります。(0:26~)

ここでは小節の数という点ではそれほどボリュームは多くはないのですが、少し技巧的な部分もちらほら出てきます。「何だか難しそうで不安」という方もおられるかもしれませんが、ゆっくりと焦らず練習していけば何とかなります。頑張っていきましょう。


この部分の右手のオクターブになっている和音は、先ほどお話しした『主役と脇役』という視点よりも、どちらかというと両方とも主役だと捉えたほうが、何となく望ましい気がします。

つまり、セクションBはセクションA1と違い、片手に主役と脇役が共存するのではなく、単純に『左手が脇役で右手が主役』というような解釈のほうが私はしっくりくるように思っています。

ですので、この左手はなるべく控えめに、そして右手のオクターブの和音を一つ一つ均等な音量で響かせることに集中しましょう。


そして、この箇所が難点だと感じる方も多いかもしれません。(0:29~)
私も練習をし始めた頃は、この箇所にさしかかると途端に指がすくむというか、こわばるような感覚になっておりました。

特にこの右手のトリル、なぜだか失敗してしまいテンションがガクッと下がるのです。しかし実際弾いてみるとわかるのですが、技巧的であるだけあって、やはりここはこの曲の見せ場でもあるのです。

そんな見せ場にさしかかると、なぜだか無意識に難しく考えてしまいやすくなるものですが、そんなときこそ一つ一つを単純に考えてみることが大事だと私は思います。

例えばこの右手のトリル、実は弾く人によっては解釈が大幅に異なってきます。では具体的にその違いとは何なのか、それはトリルと一口に言っても弾く人によっては一つの箇所にトリルを入れる回数が異なるということなのです。

ですので、練習する前には上記で挙げた音源だけでなく、ぜひいろいろな音源を聴いてみることをおすすめします。おそらく人によってはトリルの数が全然違っている場合もあるかと思います。

そして音源をたくさん聴いてみて「このトリルの弾き方は素敵だ」と思う音源をお手本に練習してみましょう。その素敵な弾き方は、トリルを多く盛り込んだ華やかな弾き方かもしれませんし、逆に少ないトリルでシンプルに表現する弾き方かもしれません。どちらが正解、不正解というわけではありません。

結局何が言いたいのかと申しますと、トリルの弾き方一つ取っても厳格な決まりは無く、「失敗した」と思うのは失敗ではなく、単に思い通りに弾けないときに「失敗した」ように認識してしまっただけなのです。

このように、これといって厳格な決まりの存在しないトリルや装飾音というのは、思い通りに弾けないときは「今回は指がこういう解釈で弾きたがっていただけなのだな」と軽く捉える程度で大丈夫なのです。

とにかく、必要以上に難しく考えすぎてモチベーションを落としてしまう時間はもったいないです。小さなことで行き詰ってしまったと思うときは、どうしてもその弾き方にこだわるべきなのかを、一度自分自身に問うことも必要だと私は思います。案外、聴く人によってはその弾き方でも充分魅力的だと感じる人もいるかもしれないのです。

☆セクションA2 ~次のセクションに向けての架け橋~

セクションA2はセクションA1の繰り返しとなるので、もうマスターできたようなものですね。(0:40~)

ただ、このセクションA2は次のセクションCへ向かうための大事な架け橋となる部分です。

セクションA1とセクションA2は、確かに音符の構成上は同じように見えますが、曲全体の骨格という面ではまったく立場というか役割が異なってくるように私は感じております。

そのため、なぜここにもう一度同じようなフレーズが再現したのか、その意味を自分なりによく分析してみることも重要であると思います。

具体的な弾き方のコツとしては、次のセクションの気配をちらつかせるかのように、ほんの少しさりげなく抑揚をつけることです。あまりにも抑揚を大げさにつけすぎると、全体的に重くなるので気をつけましょう。

☆セクションC ~音の跳躍に注目~

セクションCもまた曲調の変化が見られますね。(0:55~)
このセクションCは曲の中では最も盛り上がる部分ですので、楽しく体全体でリズムを捉えて弾いていきましょう。


この箇所の譜面はそれほど複雑ではありませんが、案外つまずきやすいところです。

というのも、この右手は臨時記号がある上、実際に弾いてみると指の運びという面でも正直弾きづらいのです。ここは指番号に従って弾くほうが無難といえば無難ですが、もし「自分はこうしたほうが弾きやすい」と思うところがあれば無理に譜面の指番号に縛られる必要はありません。

そして左手は譜面をご覧の通り、上昇したり下降したりと音がだいぶ跳躍しています。練習していた当時の私は、この箇所に来ると右手に気を取られて左手の音をつい外してしまうのが悩みでした。

この箇所はとにかく地道に遅めのテンポで、両手の一音一音を確認しながら練習するのが上達の近道と言えます。遅めのテンポで練習していると、どうしても退屈になってしまうこともあるかもしれませんが、ここはグッとこらえて頑張りましょう。


ここもなかなかに見せ場と言えます。ここでセクションCの明るい雰囲気が最高潮に達します。(1:06~)

この箇所に出てくる『ナチュラル』と『シャープ(♯)』が一緒になった記号の意味は、その前の小節に出てきた「ファ」の『ダブルシャープ(意味:音を半音×2上げる)』を打ち消して、調号通り「ファ♯」を弾くということです。
何だか紛らわしいですが、つまりは「ファ♯を弾く」と単純に捉えて良いということです。

☆セクションA1′、セクションB′、セクションA2′ ~終盤に向かってのびのびと~

譜面をご覧の通り、セクションA1′(1:11~)、セクションB′(1:30~)、セクションA2′(1:44~)は、先ほどのセクションA1セクションBセクションA2の繰り返しです。

セクションCまでマスターできたのであれば、この曲はもう全部マスターできたも同然です。

しかし、当然終わりまできちんと締めくくることによって初めて一つの作品として成立するわけですので、いくら繰り返しとはいえ気を抜かずに、心を込めて弾いていきましょう。

曲を締めくくるときの心の持ち方は人それぞれですが、心穏やかにのびのびと一音一音の響きを味わうように弾けたならば、聴く側にとっても弾く側にとっても、きっと印象深い演奏になるのだろうと私は思います。

おさらいしよう!全体的な弾き方のコツのまとめ


さて、ここまでショパンの『ワルツ第15番ホ長調遺作』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたでしょうか?

ここで、以下に全体的な弾き方のコツをまとめました。
  1. 両手の音をしっかり揃える(特にセクションA1セクションA1′
  2. 主役となる音、脇役となる音をしっかり読み取る(特にセクションA1セクションBセクションA2セクションA1′セクションB′セクションA2′
  3. トリルや装飾音などはあまり難しく考えず、一つの弾き方だけに囚われない(特にセクションBセクションB′
  4. 音が跳躍する部分は遅めのテンポからゆっくりと音を確認しながら練習する(特にセクションC
  5. 指番号やペダルの指示記号については、無理にその通りにしなければならないという厳格な決まりは無いので、自分なりの方法があればそのように弾いてもよい(全体的に)
以上の五つのコツを念頭に練習をしてみてくださいね。

本当にこの曲は、弾き方次第ではとても技巧的かつ華やかな印象を聴く側に強く与えることができる曲です。

しかし、華やかさだけで満足してしまうのではなく「今度はこういうふうに弾いてみたらどうなるのだろう?」と自分なりに試行錯誤をして、型にはまらずに何度も曲に向き合うことも大切です。それこそが自分の持っている個性を表現するための道です。

そしてショパンのワルツ集というのは、より多くの曲が弾けるようになればなるほど、個性的で多種多様な魅力がひしひしと伝わってくる、そんな素晴らしい曲集です。その魅力の一つ一つをぜひともじっくりと味わって頂きたいと私は思っております。

それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中から声を大にして応援しております。

byピアノ弾きのもぐら


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