音楽療法でよく使用される楽器の一つがタンバリンです。
小さい子どもから、高齢者に至るまで、あらゆる場面で使われます。
では、具体的に、どのような方法で使用できるのでしょうか?
その方法と効果についてご紹介します。

■ 目次

あいさつの際に使う~コミュニケーションのツールとして


認知症の高齢者にとって、新しいことを記憶するのは難しいことというのは、ご存知の方も多いと思います。

顔を合わせるたびに、本当は初めましてではないにも関わらず「はじめまして」とあいさつされる方もいます。

はじめましてという雰囲気に毎回なってしまうというのであれば、セッションのたびにお一人お一人にあいさつをすることをプログラムに加えてもいいでしょう。

その際に、音楽療法らしく、楽器を使ってみてはいかがでしょうか?

楽器は何でもよく、タンバリンのほかにも、太鼓なども使用することは可能です。

ここでは、それほど高額ではない、扱いやすいタンバリンでその方法をご紹介します。

まずは、普通にあいさつをしましょう。

そして、タンバリンを差し出しながら、セラピストが叩きます。

さらに、そのタンバリンをクライエントの手の近くに持っていきます。

クライエントに叩いていただければ、それであいさつは終わり。

次のクライエントの元へ行きます。

クライエントが叩くそぶりがない場合は、もう一度セラピストが叩いてみたり、叩いた後、顔の近くへもっていったり、手を添えて叩いてもらったりします。

あいさつにタンバリンを用いることの効果は、コミュニケーションを図ることとと、セッションの始まりを意識していただくことにあります。

あいさつは、ごく基本的なコミュニケーションの一つです。

しかしながら、認知症の症状が進んでいると、その基本的なコミュニケーションですらとるのが難しくなってしまう方もいます。

そんな方とは、『言葉を介さずにとれるコミュニケーション』=『ノンバーバルコミュニケーション』を図ります。
今回の場合、セラピストがタンバリンを叩き、クライエントが叩き返してあいさつに応える一連の動作が、ノンバーバルコミュニケーションです。

もちろん、セラピストが「こんにちは」と言えば、「こんにちは」と言葉で返してくれる方もいます。

そういった方の場合は、言葉を介してのコミュニケーション=バーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションの両方を行っていることになります。

そして、タンバリンを使ったあいさつをすることで、いつものように自分をケアしてくれる人があいさつをしてくれるのとは少し違うな、これから何か始まるんだな、と意識していただくことができるのです。

こちらも、言葉で「音楽療法をはじめましょう」などと説明するよりは、効果的に伝わりますよ。

ただし、注意していただきたいのが、大人数のグループの場合には、この方法でのあいさつはデメリットも生じてしまいます。

それは、たくさんの人に一人ずつあいさつをしているうちに、始めのほうであいさつをした方が置き去りにされてしまうことです。

せっかく、あいさつをして、セッションの始まりを意識してもらったのに、他の方にあいさつをしている間に自分の世界に戻ってしまったのでは本末転倒です。

私自身は、十数人ほどのセッションで、この方法でのあいさつを行ったことがあります。

ですが、クライエントの認知症の度合いなども違う中で、一概に何人以内などとは決められません。

さまざまな条件を考慮しつつ、可能な人数を見極めてくださいね。

集団での演奏に使う


基本の使い方として、思い浮かぶのがこの方法です。

合奏の際に、他の楽器と一緒に、タンバリンもいくつか用意します。

鈴や太鼓、鳴子などと一緒に用意できるといいでしょう。

クライエントの人数が多く、数が必要な場合は、皮のないタイプや、皮の部分もプラスティックでできているようなものなら、百円均一ショップでも手に入れることができます。


それらと一緒に、教育楽器として使われるような皮のあるタンバリンもあわせて用意できるといいですね。

タンバリンは、音の鳴らし方にあまり迷うことなく、鳴らしてもらうことができる楽器のうちの一つです。

片方の手でタンバリンを持ち、もう片方の手で、皮の部分を叩くのが一般的な奏法です。

それにこだわらず、皮の部分を膝やいすの手すりに打ち付けて音を出すクライエントもいますし、全体を振るなどして、シンバルの部分で音を出すクライエントもいます。

いずれにしても、クライエントはタンバリンを使った合奏を楽しむことができます。

このように、タンバリンには、簡単に音を出せるという点で、クライエントが合奏に参加しやすくなるというメリットがあります。

また、片麻痺の方でも、健側のみで音を出してもらうことができるのもメリットとして考えられます。

集団としては、多くの方が参加できる合奏が作り上げられるため、セッション全体を盛り上げてくれるという効果がえられます。

そして、個人としては、楽器演奏ができたという達成感を味わえるという効果が期待できます。

回想法のアイテムとして使う

タンバリンは、教育楽器としても用いられることが多い楽器です。

学校の教科書には「タンブリン」という名称で紹介されていたかもしれません。

ハーモニカやリコーダーのように、個人が購入し、一つずつ持っていたような楽器ではないですが、学校で、合奏の際に演奏したり、見たことがあるという方は少なくありません。

また、ご自身が演奏した記憶だけではなく、お子さんやお孫さんが発表会などで演奏した姿を思い出すということもあるでしょう。

タンバリンを見たり、叩いたりすることでそれらのことを思い出すことができれば、脳の活性化を促すことができるという効果が生まれます。

これには、認知症の方に対して行うと効果的だとされる回想法という心理療法の理論が利用されています。

過去を思い出すことで脳を活性化させる、その手助けをタンバリンが行っているのです。

まとめ

1. あいさつの際にタンバリンを使うことで、ノンバーバルコミュニケーションをとることができ、同時にセッションの始まりを意識していただくことができます。
2. 音を鳴らすことが簡単にできるタンバリンは、セッションの盛り上げ役として活躍してくれ、達成感を味あわせてくれます。
3. クライエントご自身の小学生時代や、子や孫世代がタンバリンを演奏している姿を思い出すことで、脳の活性化を促してくれます。

多くの方に親しまれるタンバリンは、セラピスト側としても、安価で手に入れられることができ、それでいて、様々な場面で役立ってくれるという、メリットの大きい楽器です。

まずは一つ、タンバリンを用意して、少しずつセッションに取り入れていただけるといいですね。


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