フィンランド大公国。それは1809年から1917年まで現在のフィンランドにあったロシア帝国に支配されていた小さな国家。ロシア帝国の支配下にありながらも、フィンランド人の中には強い愛国心が燃えたぎっていました。

フィンランド人たちの強いナショナリズムが燃え上がる、そんな時代に作られたのが今回解説するシベリウスによる『フィンランディア』です。

シベリウスはフィンランド出身の作曲家。1899年に『フィンランディア』を作曲しました。『フィンランディア』は当初『フィンランドは目覚める』という題名で発表されたものの「フィンランド人の愛国心を湧き起こす」という理由でロシア帝国政府に演奏禁止処分を下された歴史を持つ曲です。

今回は元オーケストラ団員でトランペット奏者の私がシベリウスの『フィンランディア』について解説していきます。
 
シベリウス フィンランディア


フィンランドの歴史から作曲背景を知ろう

現在のフィンランド共和国は北ヨーロッパに位置する共和制国家。北欧諸国の一つでありスウェーデン、ノルウェー、ロシアと国境を接しています。

フィンランド人は自然との心理的距離が近い民族です。フィンランド人にとって森や山、湖などの自然はいつも近くにあるもので、自然との強い絆を持ちながら暮らしています。現代の忙しい生活から離れて森の中を歩いたり、何もせずに川の音を聞いたりといった時間を大切にしています。

またフィンランドには古くから伝わる森の妖精「トントゥ」がいます。トントゥは家の溜まった埃を掃除してくれたり、消し忘れたロウソクの火を消してくれたり、クリスマスにはサンタクロースの手伝いをしてくれたりと、人間の生活を手助けしてくれる頼もしい妖精です。

この森の妖精トントゥの伝説からもフィンランド人がいかに自然に敬意を払い感謝をするマインドを持った素朴な民族なのかをがうかがい知ることができると思います。

フィンランド人はシャイで恥ずかしがり屋。フィンランドには「社交的でないフィンランド人は自分の靴を見ながら相手と話す。社交的なフィンランド人は相手の靴を見ながら相手と話す」というジョークもあるぐらいです。

さて、時は1700年。フィンランドは当時スウェーデン王国の一部でした。1700年にスウェーデンとロシアを中心とした反スウェーデン同盟がスウェーデンの覇権を争った大北方戦争が勃発。ロシアは1714年から1721年までフィンランドを占領します。同戦争でスウェーデンは1721年に大敗。フィンランド東部の一部などの統治領をロシアに割譲しました。


さらに1808年にはスウェーデンとロシアの間でフィンランド戦争が勃発します。スウェーデンは再びロシアに敗北。その戦争によって1809年9月に両国の間で結ばれた「フレデリクスハムンの和約」によってフィンランド全土をロシアに割譲し、ロシアはロシア皇帝がフィンランド大公を兼ねる形でフィンランド大公国を建国しました。

ロシアはフィンランド人の宗教的自由を許したり、法律や不動産において特権をフィンランド人に保障したりとフィンランド人の反発を抑える努力をしましたが、民族の精神に目覚めはじめたフィンランド人のロシア政府への反発は日に日に増すばかりでした。

そんな中1899年にフィンランドとロシアの関係を大きく変える転換期を迎えます。1871年に誕生したドイツ帝国の勢いに動揺したロシア帝国は大幅な中央集権化を進めようと1899年に「フィンランドの自治権廃止宣言」を発効します。

これによりフィンランドの自治は完全に剥奪され、フィンランド人はロシア語を強制されフィンランド語で話すことさえ禁止させられました。

フィンランド人のロシア帝国への反発心、フィンランドへの愛国心が増していったのは想像に難くはないでしょう。シベリウスが「フィンランドは目覚める」という題名でフィンランディアを作曲したのはまさにこの1899年なのです。

シベリウス『フィンランディア』

金管楽器による重々しい序奏で始まる『フィンランディア』。雷鳴のように鳴り響くティンパニがその重々しさを後押し。木管楽器と弦楽器の悲しげな旋律が重苦しく続きます。

中間部はティンパニのトレモロ(2つの音を小刻みに連続して演奏する演奏法)と金管楽器の緊迫した旋律が特徴です。

終盤にはのちに「フィンランディア賛歌」とされる美しいメロディーが。最後はフィンランドの勝利を表すかのように力強く曲は幕を閉じます。

「フィンランディア賛歌」


フィンランディア賛歌とはフィンランディアのメロディーにフィンランド人詩人であるコスケンニエミが詩をつけた楽曲です。歌詞にはロシア帝国に屈しない強い意志が記されており、現在においても「フィンランド第2の国歌」としてフィンランドで歌い継がれています。

その歌詞は

Oi, Suomi, katso, sinun päiväs’ koittaa,
Yön uhka karkoitettu on jo pois,
Ja aamun kiuru kirkkaudessa soittaa,
Kuin itse taivahan kansi sois’.
Yön vallat aamun valkeus jo voittaa,
Sun päiväs’ koittaa, oi synnyinmaa.

という歌詞で、日本語訳すると

「おお、我らがフィンランド人よ
汝の夜は明けるであろう
暗闇の恐怖はいつか消え
輝く朝にヒバリが歌う
それはまさに天国の歌のよう
朝の力は夜の力よりも強く
汝は夜明けを迎えるであろう ああ祖国よ」

といった内容です。ここでは「汝」というのはフィンランド国家そのものを指しており「暗闇の恐怖」というのはロシア帝国による弾圧のことです。この歌詞からも分かるようにフィンランディア賛歌では「いつかロシア帝国の支配から解放されて我々の国に明るい朝がやってくるだろう」という希望が歌われているのですね。


フィンランディア賛歌は合唱曲としても世界的に人気で、日本でも多くの合唱団がこの曲を取り上げ歌っています。

私の『フィンランディア』演奏体験

ここでは私の『フィンランディア』演奏の思い出を書きたいと思います。ぜひ冒頭の動画を観ながら読んでくださいね。

曲はホルンとトロンボーンの重々しいメロディーから始まります。オーケストラというのは普段の練習では全体練習をする前にパート練習をするのですが、このホルンとトロンボーンのパートは金管楽器のパート練習の時に音程の確認練習をよくしていました。

本番ではトランペット奏者の私はホルンとトロンボーンの間に座っているので、この背筋がゾクッとするようなメロディーを恐々と聴いていました。さらに私が演奏した時はトランペットの後ろにはティンパニがいますのでトランペットは自分は演奏しないけれど、恐怖のハーモニーを一番間近で聞くことのできる特等席に座っていたと言えるでしょう。(2度目の主題からはトランペットも参加します)

同じ主題のメロディーを今度は弦楽器が奏でます(3:00〜)。間に挟まれる金管楽器もカッコ良いので聞きどころです。

個人的に好きだったのは3:22〜のチューバ。チューバは縁の下の力持ちであまり主旋律を吹くという機会は少ないのですが、ここでは力強くメロディーを奏でています。

フィンランディアのスコアではチューバは1本なのでチューバ奏者にとってはフィンランディアはブレス(息を吸う)箇所にも気を配って、聴かせどころは思いっきり吹いて・・・となかなか大変かもしれませんね。

5:08〜はフィンランディア賛歌の部分です。動画では実際にフィンランディア賛歌が歌われています。歌詞はフィンランド語ですが字幕は英語字幕なのでぜひ字幕にも注目して見てください。管弦楽だけでも素晴らしいですが、合唱が入るとより感動が高まりますね。

私が演奏した時はとにかく金管楽器の「タッタ タタタタタタッタタ」の箇所が大好きでした。素人のトランペット奏者なのでとにかく自分のパートが目立つパートが好きだったのです。この箇所は音符が細かく自分で演奏するのも他の金管楽器と合わせるのも大変だったのですが、吹いていてとても気分が上がる箇所でした。

最後に

今回の記事を書く際に「フィンランディア賛歌はフィンランドの第2の国歌」と書いたら「じゃあ第1の国歌はどんなものなのだろう」と気になり調べてみました。

題名は「我らの地」


故郷の地、愛すべき祖国の地のことを歌っており、やはりフィンランド人の心にはかつて領土を他国に奪われてしまったことへの悲しみがあるのかもしれないな、と感じました。

現在のフィンランドと言えば世界幸福度ランキングで毎年上位に上がってくる幸福度の高い国です。教育水準が高いことでも知られていて国の福祉もしっかりしています。

かつてシベリウスはフィンランドがこのような国になることを想像できたのでしょうか?フィンランド人は無口な国民性と言いますので、シベリウスももしかしたら無口だったのかもしれません。それでも、現在のフィンランドを見てシベリウスがどんな風に感じるのかぜひ聞いてみたいものです。

最後までお読みいただきありがとうございます。