シューベルトの『即興曲第3番op.90-3』は、穏やかな旋律が特徴的な珠玉の名曲です。そして、その穏やかさの中には静かな情熱も感じられます。

しかしこの曲、「弾きたいなぁ」と思って譜面を見ると、急に弾ける気がしなくなるという方もおられるかもしれません。
というのも、この曲はページ数という面でももちろんですが、全体的な曲の内容という面でもかなりボリュームがあるからです。

しかし、これをポジティブに考えれば「ボリュームがある=学べることがぎっしり詰まっている」ということでもあります。
とにかく、弾こうかどうかで迷っているのであれば、とりあえず練習を始めてしまいましょう。きっと得られるものがたくさんあるはずです。


こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。

そういえば去るクリスマス、今年こそ畑の巣穴にプレゼントを届けてくださるようにとサンタクロースさんに心の内でお願いしていたのですが、残念ながら今年も願いが届きませんでした。

皆様はクリスマス、いかがお過ごしでしたか?
私は相変わらず、今年も巣穴の中でのんびりとしておりました。

本当はかえるさんやねずみさんなど、畑の仲間たちを誘ってクリスマスパーティーでも開きたかったのですが、この時期はみんな冬眠中です。
畑の冬ほど寂しいものはありませんが、そんなときこそピアノを弾いて元気に楽しく過ごしていきたいものです。

難易度は高いけれど諦めないで!


さて、本題に入ります。

この曲は単刀直入に申しますが、けっこう難しいです。ツェルニー40番を練習中という方であれば弾ける程度かとは思いますが、とにかくつまずきやすいポイントがたくさんあるため「これはちょっときついなぁ」と感じる方もおられるかもしれません。

しかし、ゆっくり焦らず長い目で練習をしていけば、決して手の届かない曲というわけではありません。
ちなみに最初に申しますが、この曲を練習する際は両手練習よりも片手練習に時間をたくさん割くという方法のほうが効果的かと思います。

早く両手で合わせたくなって、イライラしてしまうこともあるかもしれませんが、そこをグッとこらえて地道に片手練習をすることで、結果的には練習効率もアップします。


雰囲気の変化に富んだ構成!

まずは、以下の動画を聴いてみてください。



この曲には、様々な変化を見せながら場面が展開していくといった特徴があります。場面ごとの絶妙な変化を楽しめるところも、この曲を弾く上での醍醐味かと思います。

しかしその変化についていくというのは、最初はちょっと大変かもしれません。とにかくこの曲を弾くときには、次にどのような変化が待っているのかを予め頭に置いておくことが大事になってきます。

ここでは場面の変化を意識した上で、曲を以下のようにいくつかのセクションに小分けにしてお話ししていきます。

セクションA1(最初~1:40)
セクションB(1:40~2:41)
セクションC(2:41~3:41)
セクションA2(3:41~4:39)
セクションD(4:39~終わり)

※カッコ内の時間は動画に沿ったものです。動画をよく視聴して曲の構成を予め把握しておくと、よりスムーズに練習ができるかと思います。

それでは、さっそく練習していきましょう。

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションA1 ~6連符に注目~

セクションA1では、さっそく冒頭から難解な譜面が出てきます。

譜面をパッと見て「どうしよう、全然弾ける気がしないよ」と不安に駆られる方もおられるかもしれません。私も練習していた当時は、冒頭からさっそくモチベーションがガタ落ちしたような思い出があります。

ですがそんなときこそ冷静に、焦らず一つ一つの音を丁寧に見ていきましょう。

※『Andante』の意味は『歩くような速さで』

この最初に指示されている拍子記号ですが、「これ、初めて見たよ」という方もおられるかもしれません。これはシューベルト先生独自の表記だそうで、その意味は『2分の4拍子』ということになります。何だかちょっとややこしいですね。

ですが、特別難しく考える必要はありません。とりあえず『4拍子』ということだけ把握しておけば大丈夫です。
この拍子記号については、あまり深く考えなくても練習に支障は無いかと思いますので、知識として頭の片隅に入れておく程度で十分です。

どうでもいいお話ですが、私はこの拍子記号を見ると、串団子が二つ並んでいる様子を連想してしまいます。そのため「串団子が二つなら2分の4拍子」という覚え方をしています。お団子も良いですが、焼き鳥とかつくねとか……挙げればきりが無いですね。

この曲で最も大変なのは、ひたすら6連符で進行していく右手のフレーズです。この6連符はこのセクションだけでなく、始終鳴り続けます。しかも、右手の主旋律を弾きつつ6連符のフレーズも同時に弾かなければなりません。

そのため、弾いていて余裕が出るまで、特に右手は何度も片手練習を行いましょう。

また片手練習の際、右手についてはいきなり完璧に弾こうとせずに、まずは主旋律となる一番上の旋律と、6連符で進行するフレーズに分けて、それぞれを練習していくというような練習方法が効果的かと思います。

そして余裕が出てきたら、今度はそれぞれを合わせて右手の響きを形にしていきましょう。


また、この部分に限ったお話ではありませんが、この曲はまるで合唱のようにも感じられます。(0:53~)

この曲では全体的に、右手の一番上の旋律と左手の旋律がきっちり揃うことで、初めて主旋律が成り立ちます。そのため、右手の一番上の旋律と左手の旋律がばらけてしまわないように気をつけましょう。

ちなみに先ほどお話しした右手の6連符というのは、伴奏のようなものだと私は捉えています。ですので、6連符はなるべく音量を控えめに、さりげなく弾けるようにしていくことも重要です。

※『cresc.』は『crescend』の略で意味は『だんだん音を大きく』

この部分は左手にトリルが出てきます。(1:16~)
「右手のトリルは得意だけど、左手はちょっと苦手だなぁ」という方もおられるかもしれません。しかもこの箇所というのは、うっかり左手のトリルばかりに気を取られていると、今度は右手が疎かになりやすくなるところです。

ここで右手が疎かになってしまうと、今まで保ってきたテンポも崩れやすくなり、結果的にそこで曲の流れがスムーズに進行しなくなってしまいます。
ですので、ここは特に両手練習の際、メトロノームを使って練習することをおすすめします。

☆セクションB ~哀愁漂う雰囲気を表現しよう~

セクションBでは、一転して哀愁漂う雰囲気に変化します。(1:40~)
ここではしっかりと今までのテンポをキープしつつ、その中で情緒豊かに自分の個性を出して弾いていくことが大切です。

※『decresc.』は『decrescend』の略で意味は『音をだんだん小さく』

この部分は、アクセント(意味:音を強調する)やfz(フォルツァンド)(意味:強くアクセントをつける)など、音を強調させるといった意味の表記が多くあります。

ここでは表記を忠実に守って弾くことで、より一層旋律が際立ちます。そして表記の無い音については、なるべく控えめに弾くことを心がけましょう。

このように、ある音を強調させつつ他の音を控えめに弾くという、まったく正反対のことをここではやっていかなければなりません。そういった意味で、この曲は難しいように思います。

そしてここでも、片手練習をしっかりと行いましょう。


ここでは、pp(ピアニッシモ)(意味:音をとても弱く)の表記があります。(2:04~)
しかし、この部分で音を抑えつつ綺麗に弾くというのは、なかなかに難しいと言えます。

というのも、ここでは今度は左手にオクターブの和音が出てくるからです。その和音を右手の主旋律と合わせていくわけなのですが、慣れないうちはどうしても左手の和音の音量が大きくなってしまったり、一方で音を弱くすることに気を取られると、今度は右手と左手の旋律がばらけてしまったりという、何とも弾きづらい部分なのです。

ここはとにかくゆっくりとしたテンポで無理なく練習をしましょう。テンポは多少遅めでも良いので、丁寧に弾くことが大切です。


この箇所は、左手の音の微妙な変化を察知していきましょう。(2:22~)
そして、左手の一番低い旋律については、途中で16分音符が出てくる箇所があります。練習していた当時、私はこの16分音符の弾き方に随分と手こずりました。

というのも、左手の16分音符を右手の6連符に合わせなければならないからです。

しかし当然きっちりとは合いません。そして「16分音符をしっかり弾かなければ」と思うあまり、気がつくと左手の音量がものすごく大きくなってしまい、ごちゃごちゃした響きになって途方に暮れたという苦い思い出があります。

ここはいろいろと悩みましたが、結局はあまり神経質にならず、さりげなく弾くくらいで大丈夫だという答えに行き着きました。どちらかというとここは左手よりも、右手の6連符を注意して弾くべきだと私は解釈しています。

☆セクションC ~音のバランスを意識しよう~

セクションCは、セクションBの雰囲気を受け継ぎつつ、響きが少しずつ変化していきます。(2:41~)

ここでは右手と左手の音量のバランスが適切にとれているかが重要になってきます。特に片手練習の段階では、同時に両手練習を頭の中でシミュレーションしながら弾けるようになるまで、粘り強く練習することが必要です。


この右手の6連符と左手の3連符が重なる箇所は、音がばらけないように気をつけましょう。

また、ここにもアクセントが所々ありますが、だからといってやみくもに音を強く鳴らせばいいというわけではありません。
ここでアクセントをつけるときの注意点は、アクセントのついた音を個別に考えるのではなく、曲全体の音量のバランスや雰囲気を踏まえつつ、その音の弾き方を考えることです。

例えば、音量の指示がピアニッシモ(意味:音をとても弱く)だったとしましょう。そこにもしアクセントがついていた場合、ピアニッシモを考慮せずにただ強く弾いてしまうと、随分と不自然な響きになってしまいます。

つまり、アクセントにも場面ごとにぴったり合う音量があるということです。曲の空気をしっかりと読まないでアクセントをつけてしまうと、違和感が生じてしまいますので気をつけましょう。

ちなみに上の譜面の指示は『フォルテ』(意味:音を大きく)になっています。ですので、ここでのアクセントはわりと強めにつけても問題は無いかと思います。

そして、実際に弾いていく中で「ここはもうちょっと大げさにアクセントをつけよう」とか「ここはアクセントがあるけれど、それほど強調する必要はないな」など、いろいろ考察できることも増えてくるかと思いますので、自分なりにいろいろ研究してみましょう。


ここで少し雰囲気が変わります。(3:12~)
臨時記号がいくつか外れる部分もありますので、見落としてしまわないようにしっかりと譜読みの段階で、音を細部まで把握しておきましょう。

そして特にこの部分は、雰囲気が高揚する部分でもあります。しかし、あくまで静かに、そして穏やかさを保って弾きましょう。

ちなみに私は、この部分には「内なる喜び」というようなものを感じます。そのため、この部分はそれを表現するために、右手の主旋律の豊かさを思い切り前面に出して弾くように心がけています。

※『rit』は『ritardando』の略で意味は『だんだん遅く』

ここは次のセクションに向かう大事な部分です。(3:32~)
特に抑揚については、やや大げさにつけるくらいが丁度良いかと思います。

また、ここではフェルマータ(意味:音の長さを倍くらい伸ばす)が表記されています。このフェルマータはあまり堅苦しく考えず、自分の納得のいく長さに伸ばしても大丈夫です。

ただ、だからといってあまりにも長く伸ばしすぎるというのは、曲の流れが停滞してしまう原因になりますので、注意しましょう。

☆セクションA2 ~スタミナ切れに注意~

セクションA2はセクションA1の再来ですので、ほとんど繰り返しです。(3:41~)
初心に戻って、気持ちをしっかりと切り替えて弾いていきましょう。

また、ちょうどこのセクションA2は、右手がだんだんと疲れてきてスタミナ切れの状態になりやすい箇所です。スタミナ切れというのは、手に余計な力が入ったまま無理をして弾き続けてしまうことで起こりやすくなるものです。

スタミナ切れにならないためには、常に右手の力の入れ方に注意することが重要です。そして手首や腕ではなく、指先に力を集中させるようなイメージで弾いていくことが大切です。

☆セクションD ~無音の状態に導く~

セクションDは曲の終盤です。(4:39~)
ここでも至って静かに、そして穏やかに曲を進行させていきましょう。そして、曲の終わりはだんだんと音色をフェードアウトするようなイメージで、音のある状態から少しずつ無音の状態に導くように弾いていきましょう。

音の鳴らし方を工夫するのももちろん大切ですが、ここではどちらかというと音というよりも静寂を意識して弾くほうが重要になってくるかと思います。


右手の3連符が出てくる箇所は音が跳躍するので、ついつい右手の旋律ばかりに注目してしまうかもしれませんが、ここでは左手の旋律も疎かにならないように気をつけましょう。(5:07~)

そして、両手の旋律をしっかりと揃えることを意識して練習を重ねましょう。


今度は左手に和音が出てきます。(5:27~)
この部分は両手練習に入ったとき、まずはどんなに遅くても良いので、とにかく無理のないテンポで練習することが重要です。

そして、左手の音はあくまで静かに、あまり主張させないように弾いたほうがすっきりとした印象になります。

☆ペダルの踏み方について ~音が濁らないように~

最後に、曲全体のペダルの踏み方についてのお話になります。

この曲におけるペダルの踏み方には、一つ一つのペダルをわりと長い間隔で踏み続けるといった特徴が見受けられます。つまり、小刻みにペダルを踏み変える必要というのはそれほど無いということです。

この曲においてペダルを踏むコツとしては、全体的な響きの変化を見逃さないことです。つまりペダルの踏み変えのタイミングというのは、響きが変わる境目であるということですので、それを意識しながら練習をしましょう。

ペダルを適切に踏むことにより、濁りの無い澄んだ響きとなり、曲全体の印象もとても美しいものになります。

コツを振り返ろう!全体的なまとめ


ここまでシューベルトの『即興曲第3番op.90-3』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?

ここで、以下に全体的な弾き方のコツをまとめました。

1. とにかくまずは片手練習をしっかりと行う(全体的に)
2. ペダルは音が濁らないように、響きをよく聴きながら適切に踏む(全体的に)
3. 右手の主旋律と左手の旋律は音をしっかりと揃えて弾く(全体的に)
4. 6連符はひたすら静かに控えめに弾く(全体的に)
5. 左手のトリルなど変化がある部分こそ右手が疎かにならないように気をつける(特にセクションA1セクションBセクションA2
6. アクセントの音量は、曲全体の雰囲気や強弱表記などを踏まえた上で考える(特にセクションC
7. 後半は右手のスタミナ切れに気をつける(特にセクションA2
8. 曲の終盤は静寂を意識しながら弾く(特にセクションD


以上の8つのコツを念頭に練習してみてくださいね。

この曲は譜面をご覧になるとおわかりになるかと思いますが、同じ場面の繰り返しというのはほんの一部分しかありません。とにかく、少しずつですが次々と場面が展開していくため、譜面をめくる度に新しいことを学ばなければなりません。

しかしそんなときこそ前向きに、そして気長に粘り強く練習をしていきましょう。
時間はかかっても、一度身につけたことや学んだことというのは、後になって自分自身にとっての大きな財産になると言っても過言ではないからです。

そして練習を重ねていくことで、自分の中でだんだんとその曲への愛着や思い入れが強くなってくるかと思います。曲に対して愛着が生まれることで、弾き方もより一層自分らしいものになってくるでしょう。

それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中から毎日盛大に応援しております。

by ピアノ弾きのもぐら