飲めや歌え

なにげなくラジオをつけてみると、マーラーの交響曲第6番の演奏が流れています。ほかの事をしながらBGMとして聞いていると、これが非常に良い音!

重厚過ぎず、かといってアッサリし過ぎない。明瞭で完璧なチカラ強い金管楽器のアンサンブル、それに負けない弦楽器。これほどの難曲でもブレないテンポ感!きっと世界トップレベルのオーケストラに違いない。

どこのオーケストラだろう?ベルリンフィル?音の太さがちょっと違う。ニューヨークフィルなどのアメリカオーケストラほどギンギンではない。アメリカでもヨーロッパでもない。オーケストラ全体のバランス自体も欧米とは違うし、音に独特の芯がある。これは・・・・

曲が終わり、ナレーションを聞いてビックリ!

「シャルル・デュトワ指揮者、NHK交響楽団」

お叱りをうけるかもしれませんが、N響がこのような音で演奏できるとは思いもしませんでした。これまで聴いてきたN響の音とは思えない素晴らしい演奏だったのです。

どちらかと言うとドイツ音楽と言えるマーラー。フランスやロシア音楽を主なレパートリーとしているデュトワが、マーラーの演奏をするとは全く想像もしませんでした。しかも超難曲の6番をこれほど素晴らし演奏で!

指揮者が変わるとこうも音が変わるのか、と改めて驚くとともにシャルル・デュトワの実力に改めて感動したのです。きっとかつてのモントリオール交響楽団も同じように激変したのでしょう。

音の魔術師シャルル・デュトワ

デュトワ・フレンチ・コンサ-ト
デュトワ・フレンチ・コンサ-ト

スイス出身の世界的指揮者、シャルル・デュトワは近年N響アワーなどで頻繁にテレビで姿を見かけるようになりました。大の日本びいきでもあり、ある年のお正月のコンサートで袴姿でN響を振った姿が印象的でした。

かつて技術的に危機の状態にあったカナダのモントリオール交響楽団を世界的なオーケストラに育て上げ、数多くの録音を残した事でも非常に有名ですね。音の魔術師とも呼ばれた超有名指揮者。「指揮者は棒を振っているだけじゃない」ということを気づかせてくれた、私の最も尊敬する指揮者の一人です。

モントリオール交響楽団は、アメリカのオーケストラも凌駕するほどの完璧なアンサンブルに加えて、とても真似できそうにない、旋律の絶妙な歌わせ方が素晴らしいです。「フランス以上にフランス的なオケ」といわれるのも頷けます。

シャルル・デュトワ

私も学生時代はモントリオール響の素晴らしいトランペットの音を真似しようとしました。しかしそう上手くはいかず「同じ音が出せないンスよー」とボヤいたものです。

さて、今回はデュトワ指揮の、フランス風味たっぷりのすばらしいCDから、小曲ながらも素晴らしいシャブリエの曲、2曲を、今回もオーケストラのトランペット席からご紹介したいと思います。

脱サラ作曲家エマニュエル・シャブリエ

エマニュエル・シャブリエ
(1841年~1894年ちなみにドヴォルザーク、伊藤博文と同い年)

多くの作曲家や音楽家は、その道に進もうと決意した時、大抵周りの人達に「音楽ではなく安定した職に就きなさい」と諭されるのは古今東西、いつの時代も同じことです。(その反対を押し切って成功した音楽家はほんの一握りですが…)

幼いころからピアノの才能を見せていたシャブリエも音楽家への道に進むつもりでしたが、父の強い勧めで法学へ進み、公務員として勤務します。

しかし公務員として働く傍、独学で作曲を学び、当時の代表的な作曲家フォーレやダンディらと親交を深めました。また著名な画家のモネやセザンヌとも親交がありました。

そして39歳の時に退職、残りの人生を作曲に捧げたのです。英断ですね!

シャブリエは53歳の若さで亡くなるまで、作曲家としてはわずか14年の短い期間でした。しかしその作風は自由でユーモアあふれる作品ばかりです。そしてオーケストラの楽器の聴かせ方やリズム感も、同時代のフランスの作曲家とは一線を画していると思います。後のドビュッシーやラヴェルの作風にも大いに影響を与えた、といえます。

もし一生涯を作曲家として過ごし、長生きしていたら、きっともっとたくさんの名曲を残していたのではないでしょうか。

飲めや歌え!「楽しい行進曲」



シャブリエはどちらかというとピアノ曲が有名な作曲家として知られています。ラヴェルのピアノ作品に「シャブリエ風に」という曲があります。それほどシャブリエのピアノ作品は特徴的だといえます。

そのシャブリエのピアノ小曲に「フランス行進曲」という曲があります。作曲者自ら管弦楽用に編曲し、題名をそのものズバリ「楽しい行進曲」と名付けました。

内容は、楽しい仲間たちと徹夜で飲めや歌え、で盛大に盛り上がり、そして朝帰りする、というものです。まさに!酒好きにとって最高に楽しすぎる行進曲ですね!例えるなら、2、3件ハシゴして、カラオケ行って、終電逃して朝帰り、そして奥様の雷が落ちるという、古き良き時代のサラリーマンといったところでしょうか。


曲は3分ほどの小曲で、典型的な三部形式。行進曲は大抵、行進曲→中間部(トリオといいます)→行進曲というABAの三つの部分から成っています。

出だしから明るく楽しい行進曲が始まります。今回ご紹介しているこのCDの第1曲目にふさわしい曲です。ワーグナーも顔負けのホルンの咆哮(0:19~)

中間部(トリオ)は伸びやかな朗々とした旋律です(1:30辺りから)。ファゴットからトランペットへ、そして弦楽器へと旋律が引き継がれ、さらにトランペットとトロンボーンによって力強く演奏されます。

のびのびと歌える気持ちいい旋律です。

再び行進曲が始まり(2:25~)最後まで明るく家路に着きます。


この「楽しい行進曲」、コンサートの開始の曲に本当にピッタリの曲です。

オーケストラは楽し!狂詩曲「スペイン」

歌えや踊れ

もう一つのシャブリエの代表作、「狂詩曲スペイン」。「楽しい行進曲」同様明るく親しみやすい曲です。聴く方も演奏するのも楽しく、また演奏される機会も多い名曲です。



次々と現れる楽しいアンサンブル。スペイン風の陽気な雰囲気や情熱的なリズムが聴く人の心を太陽の様に明るくしてくれます。

また、フランスの作曲家がスペインを題材にした曲としては先駆的な作品で、後のラヴェルもスペインを題材にした曲を残しています。「スペイン狂詩曲」や「ボレロ」などがそうですね。

この狂詩曲スペイン、7分ほどの小曲ですが内容は濃く、色彩的なオーケストレーションが魅力です。意外と編成も大きくフルオーケストラにハープが二台、タンバリンなどのパーカッション小物も必要です。またファゴットは4本必要だったりします。

弦楽器によるピチカート、3/8拍子のリズムから始まります。リズムが次第にハッキリしたところでミュートをつけたトランペットとファゴットの、スペイン風の陽気な旋律が現れます(0:20~)。この旋律を中心に曲は展開していきます。


そして全合奏でスペイン風旋律(0:43~)。なぜか私にはこの全合奏の所の、3/8拍子の旋律の部分だけが2拍子のリズムに聞こえてしまいます。なかなか上手くオーケストラに合わせられませんでした…裏拍って意外と難しいのです。

そして、スペインの太陽を思わせる伸びやかな旋律(1:00~)。その後もスペインのカスタネットを思わせるリズムや旋律が音の絵巻のように次々と繰り広げられます(1:06~)

(1:53~)からも伸びやかな明るい旋律です。

曇りがさすように雰囲気は一転、トロンボーンアンサンブルと最初のスペイン風旋律との対話(2:30~)。そして闘牛士が登場するかの様なトランペットのファンファーレ!!(3:08~)

このファンファーレは3/8拍子の上にトランペット、ホルン、コルネットパートだけ2/4拍子で演奏します。ちょっと複雑ですが、ここは難しい事を考えず、ノリと勢いで突っ切りましょう!

(他のパートは3/8拍子。遅れないように、ノリで。)

ファンファーレで盛り上がった所で、最初の伸びやかな旋律などが再び回想されます。

そして(4:50~)ここから終結部が始まります。タンバリンのリズムに導かれ、トロンボーンとスペイン風旋律の対話がここでも現れます(4:54~)

そして曲が落ち着いたところで、静かに弦楽器と木管楽器がざわめく中、遠くから聞こえてくるようなトランペットのファンファーレ(5:32~)。ここでも3/8拍子に2/4拍子のリズムに注意です。

(スタッカートのところのリズムに注意。さらに一番低い音の音程が下がり過ぎないように。)


そして全合奏でだんだん情熱的に盛り上がり、最後は軽やかで鮮やかな6連符を伴ってビシッと曲を決めます。オレー!!(ブラボー)


この狂詩曲スペインは吹奏楽用にも編曲されていて、こちらも人気があり演奏される機会も多いです。もしかすると吹奏楽経験者の方も演奏した事がある人も多いのではないでしょうか。

トランペットパートはオーケストラ版とほとんど変わりはなく、所々にある難しいリズムもそのままなので、リズム感を鍛えるのにもうってつけの曲だと思います。



ドビュッシーやラヴェルの印象派の様に前衛的な音楽ではなく、オーケストラの全ての楽器に聞かせどころがある。それがこのシャブリエの音楽の魅力といえます。

フランス音楽は、ノリが大切

ベートーヴェンやブラームスなどのドイツ音楽ように、形式などにとらわれない自由な曲想がフランス音楽の特長です。時には和音やリズムを曖昧にして、雰囲気で聴かせる。難しい事は考えず曲のムードで合わせていく。このなんとも言えない味わいをエスプリというのでしょう。日本でいう「粋」といったところでしょうか。

今回ご紹介したシャルル・デュトワのアルバムは、演奏も収録曲もフランス風味たっぷりのオススメCDです。また近々この中の曲をご紹介したいと思います。乞うご期待!

これからクリスマスやら忘年会やらで、楽しいパーティや飲み会が増えてくる季節です。楽しく飲みすぎて朝帰り、そしてスペイン風の情熱的な奥様に怒られるッ!!なんて事にならない様に飲みすぎと終電に気をつけて、楽しく過ごしましょう。


The picture of Charles Dutoit By Erling Mandelmann / photo©ErlingMandelmann.ch, via Wikimedia Commons.