ショパンの『ワルツ第9番op.69-1』は『別れのワルツ』または『告別』とも呼ばれています。この曲はとにかく聴く側も弾く側も、両方を酔わせるほどの魅力溢れる珠玉の名曲と言えます。
特に「ゆったりとしたロマンティックな曲のレパートリーを増やしたい!」、「エレガントでお洒落な曲を弾いてみたい!」という方々は必見です。


こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。
秋もだいぶ深まってきましたね。

ところで皆様は紅葉を見に行かれますか?あるいはもう見に行ってこられたという方はおられますか?
この季節になると、一生に一度でいいからどこか高い山の上から紅葉の絶景を思いっきり堪能したいという願望が湧いてきます。でも何しろもぐらですので、結局毎年諦めています。

何とかして地中から山の頂上へ登る方法を、もうかれこれ数年考え続けております。

難易度は決して高くはない!


さて、本題に入りましょう。

この曲の難易度については、ショパンのワルツ集の中でもわりと簡単なほうかと思います。そしてツェルニー30番を練習しているという方であれば充分弾けるくらいですので、まあまあとっつきやすい曲であるかと思います。

ただ、所々こだわって弾くべき箇所があったり、また譜面に少しだけ難解な部分があったりもしますので、気を抜かずにしっかり練習していきましょう。

表情豊かで変化に富んだ構成!

まずは以下の動画を聴いてみてくださいね。



この曲の構成というのは楽譜をパッとご覧になればすぐにおわかりになるかと思いますが、主に表情豊かな三つの場面で構成されています。この記事では、譜面上の節目と概ね一致しますが、以下の通り一つ一つのセクションに区切ってお話ししていきます。

セクションA(最初~1:00)
セクションB(1:00~2:45)
セクションC(2:45~終わり)

※カッコ内の時間は動画に沿った時間です。動画をよく視聴して曲のおおまかな流れや雰囲気を予めつかんでおくと、練習もスムーズにできるかと思います。


☆素敵な恋のお話!もぐらが語るコラム☆

弾き方のご説明に入る前に、どうしても語っておきたいことがあります。それは冒頭で触れた『別れのワルツ』または『告別』という呼称の由来と、この曲が作曲された背景についてです。

この曲はショパン先生の若かりし頃の作品であると言われています。
当時、まだお若いショパン先生には愛する一人の女性がいたのだそうです。その女性はマリアさんといって、ドイツの伯爵家のご令嬢だったそうです。その出会いとは、ショパン先生が昔なじみの伯爵のお宅に出向いたときのことだったそうです。(※1)ロマンティックですね。

そしてマリアさんとショパン先生はどうやら相思相愛のご関係で、お二人は心底惹かれ合っていたようです。

しかし、どのような理由があったのかはっきりとはわかりませんが(※2)、お二人の恋愛は1ケ月ほどで終わってしまったのだそうです。(※3)

1835年、ショパン先生はマリアさんとお別れする際に、彼女のためにこの曲を書いて贈ったという経緯があり、一説では『別れのワルツ』という呼称はマリアさんによって付けられたと言われています。(※4)

この曲は若き日のお二人の大切な思い出がぎっしりと詰まった、まるで一つの恋愛小説のような印象の曲だと私は思っています。そして、お二人の恋愛模様が曲の随所に垣間見えるように仕上がっているようにも思います。いろいろな想像を巡らせながら譜読みを行うと、奥深い発見がたくさん出てくるかと思います。


尚、上記のお話は信用性の高い文献に書かれていた内容を元に、もぐら的にわかりやすくまとめたエピソードでしたが、この曲の背景については他にも上記と異なる説が存在します。

そこで以下にて、文中に出てきたいくつかの注釈について触れつつ、他の有力な説についてもお話ししてまいります。長くなりますが、どうかお付き合いください。


(※1)お二人の馴れ初めについて
様々な文献によると、ショパン先生は幼い頃のマリアさんを以前からご存知だったらしいです。つまりこの説によれば正確には「出会い」ではなく「再会」ということなのだそうです。

(※2)お二人がお別れした理由について
マリアさんとショパン先生は婚約を交わしていたという説もあり、マリアさんのご両親が後にそれを反対して婚約破棄になったことがお二人のお別れの決定的な理由であるという説が有力だと言われています。

ちなみにこの曲が作曲されたのはマリアさんと交際中の1835年、そして婚約破棄になってしまったのは1837年の出来事なのだそうです。

(※3)「1ケ月」の正確な意味について
「1ケ月」というのは、正確には「再会して1ケ月」という意味ではなく「お二人の恋愛が続いた期間が1ケ月」という意味の説が有力だと言われています。

そして1ケ月の情熱的な恋愛が終わった後も、1837年の婚約破棄に至るまで、お二人はお手紙でのやりとりをしていたという説があります。その証拠として、実際にお二人がやりとりしたお手紙の束なども見つかっているそうです。

(※4)呼称は誰が付けたのか?
『別れのワルツ』という呼称を名付けたのはマリアさんではなく、後世になってからまったくの別人が名付けたという説もあります。

また、音源をお聴きになるとおわかりになるかと思いますが、この曲には『別れ』というよりもどちらかというと『甘美な恋』を表現しているかのような雰囲気があります。

上記の(※2)でも触れましたが、この曲が作曲されたのは、マリアさんとの交際中の1835年と言われています。その辺りを踏まえ、上記の(※3)で述べた「その後もお手紙のやりとりが続いていた説」を加えて考えてみますと、『別れ』という呼称を1835年の時点でマリアさんが付けたという説には、少々無理があるようにも思えます。

また、この曲の呼称の意味というのは「1835年の甘美な恋の1ケ月が終わった」というような意味ではなく、その後の「1837年の婚約破棄によって、完全にお二人の恋が断たれてしまった悲しみ」というような意味のほうが有力だと考えられます。

上記のように考えてみると、呼称は他の人が名付けたという説のほうが、どちらかというとつじつまが合う気もします。

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションAの弾き方 ~気だるく甘美な旋律を楽しもう~


セクションAには、気だるさややるせなさの中に甘美で情緒的な雰囲気が漂っていますね。譜面を見ながら、例えば「恋はロマンがある一方で悩みもつきもの」など、いろいろな解釈ができるところも醍醐味の一つです。

※『Lento.』の意味は『遅く』
※『con espressione』の意味は『表情豊かに』

そもそもこの曲は音源を聴いてみるとおわかりになるかと思いますが、ワルツというよりもどちらかと言うとバラードのような雰囲気が漂っています。ワルツというものには「踊る」という目的もあります。しかしこの曲はワルツではありますが、どうにも踊ろうという気分にはなりにくい気がします。

そして、この部分は左手の1拍目に注意しましょう。かくいう私もよく見逃しがちなことなのですが、左手の1拍目は符点2分音符になっています。つまり、この曲の拍子は4分の3拍子ですので『3拍分の間、音を持続させなければならない』という意味合いになります。

もう少しわかりやすく申しますと、1拍目で鍵盤を押さえてそれを離さずに2拍目と3拍目を鳴らすという弾き方です。

これはあくまで想像ですが、この1拍目がもし4分音符であったら、おそらくこの曲の雰囲気は随分と変わっていたことでしょう。ですが、ご覧の通り実際は符点2分音符です。

1拍目の音を持続させることによって、この曲の特徴とも言える気だるさがより一層色濃く表現できるように思います。ですので、左手の1拍目は特に注意して丁寧に鳴らすように心がけましょう。


この部分の右手で『5連符+3連符』のフレーズが出てきました。(0:20~)
このフレーズはあまり強調させないほうが無難かと思います。そしてこのフレーズは、ほとんど装飾音と同じような感覚で弾くことで、次の『ソ♭』がより一層際立ちます。

ちなみに私個人としては、この連符の部分はそれほど無理に速く弾く必要は無いかと思います。ですが、速く弾くことも解釈の一つですし弾き手の好みもありますので「速く弾いたほうがしっくりくるよ」という方も当然おられるかと思います。

この辺りはそれぞれの個性が表れる箇所であると思いますので、いろいろな弾き方を試してみるのも楽しいかと思います。


そしてこの13連符ですが、これは先ほどの『5連符+3連符』の変奏ですので、音の鳴らし方は先ほどと同様に考えて大丈夫だと思います。(0:49~)
あくまでさりげなく繊細に、そしてなるべく強調し過ぎないように弾きましょう。

そして、この部分にはペダルの指示もあります。ここで指示があるからと言って、あまりにもペダルを深く踏みすぎてしまうと音がたちまち濁ってしまい、せっかくの繊細な13連符も何だかモヤモヤとした響きになってしまいます。

そのため、この部分のペダルは浅めに踏むのがおすすめです。そして場合によっては、まったくペダルを入れないという選択肢もあって良いと私は解釈しています。

☆セクションBの弾き方 ~情熱的でリズミカル~

セクションBでは曲の動きが大きく変わります。(1:00~)
まったく新しいフレーズが登場するからです。そして特にセクションBについては、できれば練習前にいろいろな音源をよく聴いてみることをおすすめします。

※『con anima』の意味は『いきいきと速く』

実はこのセクションBは未だに私自身、謎が多いと思える部分です。上の楽譜が今でも不可解に思えてなりません。いや、正確には楽譜というよりも音源における実際の弾き方がどうも謎なのです。

というのもいろいろな音源を聴いてみると、何だかこの部分だけちょっと浮いているような印象を持ってしまうのです。

具体的には、どう聴いてもこの部分が4分の3拍子に聴こえてこないのです。「これも一つの抑揚の付けかたなのかな?テンポが変化したから?」とも考えたことはありましたが、それにしても腑に落ちません。本当にここは今でも悩みに悩んでいます。

「じゃあ結局どう弾けばいいのか?」という答えとしては、すごく極端というか無責任なお話かもしれませんが、とにかくいろいろな音源を聴いてみて「あ、この弾き方いいな!」という憧れを糧に弾いてみましょう。

つまり、露骨な言い方をしてしまえば最初の一歩は「真似」ということです。

「なんだよもぐら!いい加減なこと言って!」と言いたくなりますよね、ごめんなさい。でも、最初は真似から始まっても、そこから発展して自分のカラーというか個性を付けていくことができれば、真似をするというのも有意義なことだと思うのです。

ちなみに当時この曲を初めて練習する際私は、ピアニストで指揮者のウラディーミル・アシュケナージさんの演奏が大好きだったので、聴きながら「こういう表現もあるのか!こんなふうに弾いてみたい!」と憧れて、何度も音源を聴いていました。

ショパン:ワルツ集(全曲)
ショパン:ワルツ集(全曲)

お気に入りの演奏を聴きながら曲についての理解を深めるという時間は、最高に楽しい時間だと思います。そのような意味でも、真似というのは立派な練習方法の一つだと私は思っています。


この部分は先ほどのフレーズに少し変化がついたものですね。(1:13~)

先ほどの譜面とこの部分を見比べてみると、特に右手にはスタッカーティシモ(意味:スタッカートよりさらに短く音を切る)がついていたり16分休符が入っていたりと、より一層リズミカルで躍動感を感じられるような印象になっています。

ちなみにこの左手については、先ほどのフレーズにも同じことが言えますが、やはり最初の1拍目(符点2分音符の和音)はセクションAの左手と同様に、しっかりと音を持続させましょう。

また、左手の符点2分音符のすぐそばに符点4分音符がありますが、これは符点2分音符の和音と同時に弾くという意味です。つまり、1拍目は三和音を鳴らすということです。

☆セクションCの弾き方 ~さらに場面が展開していく~

セクションCも、やはりセクションABとはまた違った展開が見受けられます。(2:45~)
これは私の勝手な解釈ですが、セクションCではショパン先生とマリアさんの恋の駆け引きをイメージさせるような印象です。

※『a tempo』の意味は『元の速さに戻す』
※『dolce』の意味は『やさしく』
※『ten.』は『テヌート』の略で意味は『音の長さを保つ』

この部分の譜面は少しややこしいように思われる方もおられるかもしれません。私は特に、2小節目の2拍目にある『レ♭』の音を、左手で弾くべきかそれとも右手で弾くべきかと悩むことが多いです。

ちなみに私はこの『レ♭』の音は左手で弾いています。どちらの手で弾くべきか悩んだときには、音符についている棒の向きに注目しましょう。

私個人としてはここは左手のほうが適切かと思っておりますが、もちろん右手で弾いたほうが弾きやすいという場合もあるかと思います。ですので、その辺りにはこれといって制限などは無いため、どちらで弾くかはあまりこだわらなくても大丈夫です。

※『poco a poco cresc.』の意味は『だんだん音を大きく』

この部分は譜面をご覧になればおわかりになるかと思いますが、全体的に2拍目に重きを置くという弾き方になります。アクセントもついていますね。(3:05~)

ここは次第に盛り上げていく部分です。そして譜面には特に指示はありませんが、私としてはだんだんと盛り上がるにつれて速度を上げていくと、より一層表情豊かになるかと思っています。

これはあくまで私個人の解釈ですが、何だかこの部分はショパン先生とマリアさんの、恋のときめきとか鼓動の高まりなどが表れているようにも感じられます。
そしてこの部分には自由さや高揚感も感じられます。遊び心を持って楽しく弾きたいところですね。


そして先ほどのフレーズはこの部分で一区切りつきます。(3:11~)

これも指示は特にありませんが、この部分の2小節目で急にあえて速度を遅くするという弾き方というのも面白いのではないかと私は解釈しています。ですが、もちろん表現は十人十色ですので、実際に弾いてみて一番しっくりくる方法で表現するのが望ましいかと思います。

フェルマータ(意味:音や休符を倍くらいに伸ばす)もついていますが、このフェルマータについてもその意味にガチガチにとらわれる必要は無いと私は思っています。弾いていて自分が納得のいく長さで大丈夫です。

しっかり確認!全体的なまとめ


さて、ここまでショパンの『ワルツ第9番op.69-1』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたでしょうか?

ここで、全体的な弾き方のコツを以下にまとめました。

1. 場面の移り変わりを意識して表現する(全体的に)
2. 左手は音符の長さに注目し、音を持続すべき部分はしっかり持続させる(特にセクションAセクションB
3. ペダルは踏み方をよく考えて、適切に加減する(全体的に)
4. 連符は装飾音のような感覚でさりげなく繊細に弾く(全体的に)
5. 最初は真似から入るというのもOK(特にセクションB
6. 譜面の指示だけでなく、自分のイメージに沿った表現も大切にする(特にセクションC

以上の6つのコツを念頭に練習してみてくださいね。

この曲はショパンのワルツ集の中でも特に表情豊かな作品だと思います。そして上記の通り、難易度もそれほど高くはありませんし場面ごとの変化もとてもわかりやすいため、ショパンのワルツを練習し始めたばかりという方々には特におすすめです。

そして上記の通り、この曲には様々な想像の余地があります。
ですので、技術面である程度余裕が出てきたら、次は演奏を通じて何らかのメッセージやストーリー性を、まるで本の読み聞かせをするかのように聴く側に発信するということも意識してみましょう。

それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中から毎日応援しています。

by ピアノ弾きのもぐら


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